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紙の束
乱暴な手口
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「勅使様方が見える前に、一遍通し稽古をします。そいつを若様にご覧いただいて……それでもし妙なところがあれば、仰ってください。すぐに直しますから」
マイヨールは頭を深々と下げて見せた。そして、ブライトとクレールが何か言いかける前に、
「ああ忙しい、大変だ、慌ただしい」
わざとらしく大声で叫びながら踵を返し、ばたばたと元来た方へ駆けだした。
「あの野郎、すっかり俺たちを『味方』に付けたと思いこんでいやがるな」
ぼそりと言うブライトに、エルが訊ねる。
「と、仰いますと?」
「規制が緩くて、袖の下の効果が絶大な田舎ばかり回ってきたもンだから、連中、感覚が麻痺していやがる。
どこまでやったら不味いのか、テメェじゃわからない。で、ものを見る目のが真っ当で、なおかつテメェらの肩を持ってくれる『外の人間』に意見して貰おうってのさ」
「あなたの審美眼が見込まれたのですね。あの方、どうやらあなたのことを気に入っているようですから。
でなければ、あれほど痛い目に会わされたというのに、あなたへの態度を変えないでいられるわけがない」
クレールはクスリと笑った。ブライトは苦虫を噛み潰したような顔つきで、
「お前さんのご身分に目を付けたんだ。呑み屋での騒ぎで、お前さんが勅使連中よりも立場が上だと見たんだ。で、こっちがあの勅使殿に口利きしてくれると踏んだんだろうよ。
その上で、いざとなったら『こちらの若様がお墨付きをくれました』てな具合に、こっちに責任を押しつけて逃げる腹積もりさ」
「あなたがお嫌いな帝都の役人に味方しないだろうと言うことも、どうやら織り込み済みのようですし」
「そこまで頭が回るかね?」
訝しむブライトの顔を、クレールは
「似たもの同士のご様子ですから」
莞爾として見つめた。
「どこが!」
一瞬、声を荒げたブライトだったが、クレールの掌が鼻先に突き出されると、
「よく見てやがる」
妙におとなしくなった。
彼はクレールのたおやかな掌の上に、己の拳を突き出した。
「あの阿呆、俺にアレを渡すって時に、素早く丸めて袂ンなかに仕舞い込みやがった。
ヒトサマが隠したがるものは、見てみたくなるのが人情ってもンだ」
「だからといって、あれほど乱暴なやり方をすることはなかったと思うのですけれども」
ブライトがマイヨールを殴り倒し、踏みつけにし、乱暴に襟をつかんで見せたのは、虫の居所が悪かったためばかりではないのを、クレールはしっかりと見通していた。
あのような「狼藉《ろうぜき》」を働いている間に、マイヨールがしまい込んだ「証拠の品」を奪い取る方が、彼の真の目的であったのだ。
「あれでは掏摸ではなく強盗ですよ」
クレールは持っている物を早く出すよう、差し出した手を軽く上下させて促す。
マイヨールは頭を深々と下げて見せた。そして、ブライトとクレールが何か言いかける前に、
「ああ忙しい、大変だ、慌ただしい」
わざとらしく大声で叫びながら踵を返し、ばたばたと元来た方へ駆けだした。
「あの野郎、すっかり俺たちを『味方』に付けたと思いこんでいやがるな」
ぼそりと言うブライトに、エルが訊ねる。
「と、仰いますと?」
「規制が緩くて、袖の下の効果が絶大な田舎ばかり回ってきたもンだから、連中、感覚が麻痺していやがる。
どこまでやったら不味いのか、テメェじゃわからない。で、ものを見る目のが真っ当で、なおかつテメェらの肩を持ってくれる『外の人間』に意見して貰おうってのさ」
「あなたの審美眼が見込まれたのですね。あの方、どうやらあなたのことを気に入っているようですから。
でなければ、あれほど痛い目に会わされたというのに、あなたへの態度を変えないでいられるわけがない」
クレールはクスリと笑った。ブライトは苦虫を噛み潰したような顔つきで、
「お前さんのご身分に目を付けたんだ。呑み屋での騒ぎで、お前さんが勅使連中よりも立場が上だと見たんだ。で、こっちがあの勅使殿に口利きしてくれると踏んだんだろうよ。
その上で、いざとなったら『こちらの若様がお墨付きをくれました』てな具合に、こっちに責任を押しつけて逃げる腹積もりさ」
「あなたがお嫌いな帝都の役人に味方しないだろうと言うことも、どうやら織り込み済みのようですし」
「そこまで頭が回るかね?」
訝しむブライトの顔を、クレールは
「似たもの同士のご様子ですから」
莞爾として見つめた。
「どこが!」
一瞬、声を荒げたブライトだったが、クレールの掌が鼻先に突き出されると、
「よく見てやがる」
妙におとなしくなった。
彼はクレールのたおやかな掌の上に、己の拳を突き出した。
「あの阿呆、俺にアレを渡すって時に、素早く丸めて袂ンなかに仕舞い込みやがった。
ヒトサマが隠したがるものは、見てみたくなるのが人情ってもンだ」
「だからといって、あれほど乱暴なやり方をすることはなかったと思うのですけれども」
ブライトがマイヨールを殴り倒し、踏みつけにし、乱暴に襟をつかんで見せたのは、虫の居所が悪かったためばかりではないのを、クレールはしっかりと見通していた。
あのような「狼藉《ろうぜき》」を働いている間に、マイヨールがしまい込んだ「証拠の品」を奪い取る方が、彼の真の目的であったのだ。
「あれでは掏摸ではなく強盗ですよ」
クレールは持っている物を早く出すよう、差し出した手を軽く上下させて促す。
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