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秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず
覆い隠された美
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シルヴィーにこの男の歪んだ独占欲などに気付くことができるはずもない。押さえ込んだ声の問いに一層震え上がった。
「目が……」
歯の根の合わない口が、一言だけ吐き出した。
「目?」
ブライトと、クレールが、異口同音に言った。シルヴィーはまだ震えていたが、
「私は……マカム族の出なんです」
先ほどよりははっきりと聞き取れる一言を返すことができた。
ブライトが眉頭を寄せた。
「マカム族たぁ南方系の放牧民族だな。
近頃は定住政策とやらいう帝国式のお節介の所為で、元いただだっ広い草原から追ん出されて、居住区なんていう勝手な線引きの内側に、一族か部族の単位で押し込めらちまっている筈だが」
彼は頭の隅で大陸の地図を広げた。
ギュネイ帝国では帰順させた「少数民族」たちに対して家族単位で幾ばくかの土地を「与え」ている。
団結という力を得た彼らが反逆せぬように、細かく切り離し、さらには身動のとれぬように封じ込めるのが目的だ。
シルヴィーは口を引き結んで頷いた。一つ深呼吸をし、彼女はゆっくりと話す。
「マカムの女達は人前に肌を晒すことを禁じられております。脚も手も、顔も、どうにか目だけが外から見えるベールで覆うのが決まりごとです」
言い終わらぬうちに、クレールが懐かしげに声を上げた。
「ええ、あれはとても優美な姿ですね」
ブライトはちらりとクレールを見た。
懐かしげに微笑している。
切り刻まれた血族たちは、大陸全土の「居住区」に散らされ、生きている。その小さなコミュニティが、
『ミッドの中にもあった、な』
そうであれば、ブライトにも合点が行く。
クレールの故郷ミッド公国は「御位を失った前皇帝への捨て扶持」として、二十余年前に建てられた国だ。その地に元々住んでいた……というよりは、大公一家よりも先に押し込められていた……人々の中に、マカム族も含まれる。
彼ら閉じこめられた同士が争うことなく暮らせたのは、新たにやってきた領主が前朝の皇帝であるジオ三世だったからに他ならない。
マカム族を初めとするいわゆる少数民族の多くは、前王朝のハーン帝国に好意的であった。
皇帝であった頃のジオ三世がマイノリティを厚遇していたというのではない。むしろ彼らに朝貢を強いたし、文明化と称して強引にハーンの言葉や風習を強制的に学ばせることもあった。
ただ、生来温厚で争いごとを好まないラストエンペラーは、彼らをどこかに押し込めたり、彼らの習慣や信仰を野蛮と切り捨て、それを禁ずるような、性急な政策を採用することがなかった。
今の世と比べればあの頃は良かった……比較論であり、郷愁の類でもある。それでも人々はハーン皇帝に親近感を抱いた。
ミッドに移ってからの大公が、異民族政策を変えなかったのも、マカムの民を喜ばせた。この土地にいる限り、自分たちが迫害されないことを知ったからだ。
彼の政は画期的な善政とはいえぬが、悪政ではない。
マカムの民は、マカムの神々を信仰しつつハーンの皇帝に仕えていることに矛盾を感じなかった。
「目が……」
歯の根の合わない口が、一言だけ吐き出した。
「目?」
ブライトと、クレールが、異口同音に言った。シルヴィーはまだ震えていたが、
「私は……マカム族の出なんです」
先ほどよりははっきりと聞き取れる一言を返すことができた。
ブライトが眉頭を寄せた。
「マカム族たぁ南方系の放牧民族だな。
近頃は定住政策とやらいう帝国式のお節介の所為で、元いただだっ広い草原から追ん出されて、居住区なんていう勝手な線引きの内側に、一族か部族の単位で押し込めらちまっている筈だが」
彼は頭の隅で大陸の地図を広げた。
ギュネイ帝国では帰順させた「少数民族」たちに対して家族単位で幾ばくかの土地を「与え」ている。
団結という力を得た彼らが反逆せぬように、細かく切り離し、さらには身動のとれぬように封じ込めるのが目的だ。
シルヴィーは口を引き結んで頷いた。一つ深呼吸をし、彼女はゆっくりと話す。
「マカムの女達は人前に肌を晒すことを禁じられております。脚も手も、顔も、どうにか目だけが外から見えるベールで覆うのが決まりごとです」
言い終わらぬうちに、クレールが懐かしげに声を上げた。
「ええ、あれはとても優美な姿ですね」
ブライトはちらりとクレールを見た。
懐かしげに微笑している。
切り刻まれた血族たちは、大陸全土の「居住区」に散らされ、生きている。その小さなコミュニティが、
『ミッドの中にもあった、な』
そうであれば、ブライトにも合点が行く。
クレールの故郷ミッド公国は「御位を失った前皇帝への捨て扶持」として、二十余年前に建てられた国だ。その地に元々住んでいた……というよりは、大公一家よりも先に押し込められていた……人々の中に、マカム族も含まれる。
彼ら閉じこめられた同士が争うことなく暮らせたのは、新たにやってきた領主が前朝の皇帝であるジオ三世だったからに他ならない。
マカム族を初めとするいわゆる少数民族の多くは、前王朝のハーン帝国に好意的であった。
皇帝であった頃のジオ三世がマイノリティを厚遇していたというのではない。むしろ彼らに朝貢を強いたし、文明化と称して強引にハーンの言葉や風習を強制的に学ばせることもあった。
ただ、生来温厚で争いごとを好まないラストエンペラーは、彼らをどこかに押し込めたり、彼らの習慣や信仰を野蛮と切り捨て、それを禁ずるような、性急な政策を採用することがなかった。
今の世と比べればあの頃は良かった……比較論であり、郷愁の類でもある。それでも人々はハーン皇帝に親近感を抱いた。
ミッドに移ってからの大公が、異民族政策を変えなかったのも、マカムの民を喜ばせた。この土地にいる限り、自分たちが迫害されないことを知ったからだ。
彼の政は画期的な善政とはいえぬが、悪政ではない。
マカムの民は、マカムの神々を信仰しつつハーンの皇帝に仕えていることに矛盾を感じなかった。
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