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俺、今、女子オタ充
俺、今、女子ドキドキ中
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月曜日に喜多見美亜が倒れた。
もちろん、それは今中にいる下北沢花奈が、学園カーストトップのリア充どもの心理戦に耐えられなかったから、——なのだった。
でも、そんな話をできるわけもないし、したところで誰も信じるわけもない。
だから、喜多見美亜が倒れたのは、たまたま先週から夏風邪気味で具合悪いところに、無理して夜更かしして、貧血か何か起こしただけ。そんな風に、みんなにはごまかした。
——ついでに、この状況利用して今週は具合い悪いからって事にして、昼も一人で教室の隅で休んでいて、授業が終わればすぐに帰る。
これが今週の喜多見美亜=下北沢花奈の生活だった。
夏休み前の最終週である今週は、休み中の喜多見美亜との約束を取り付けようと言う、リア充セカンドチームからの彼女へのアピールもずいぶんなものだったけど、——ちょっと失礼なくらい強引に下北沢花奈には教室から逃げてもらうことにした。
特に顔色とか悪いわけでもなく、普通そうに見えるのに、具合が悪いとか言って、みんなから逃げ回っている喜多見美亜は、なんだか不審そうな目で見られていた。けれど、リア充トップグループの、その中でも一番みんなから親しまれ、憧れられている喜多見美亜が、数日間くらい様子がおかしいくらいで、陰口を叩いたり、その原因を詮索して来る者がいるはずもなかった。それほど、普段からリア充どもの憧れ、象徴となっているこいつなのだった。
でも、そんな憧れを一身に受ける、それはずいぶんなプレッシャーでもあるわけで、地味女子として目立たず騒がず安楽な生活を享受していた下北沢花奈がそんな緊張に耐えられるわけもない。彼女は喜多見美亜のリア充生活させられると倒れてしまうのだから、仮病もしょうがない。それに、これは、病気になる状態を未然に防いでいるとも言えるのだから、仮病と言い切って捨てるには少し情状酌量の余地があると思わないか? 俺は思うね。
未病——未ダ病__ヤマイ__#ニアラズ——症状は出なくても病気を孕んでいる状態。症状は出なくても、病に移行するような体や精神の状態、それを改善していく必要があると言うこの概念。中国医学などで使われる考え方であるが、慢性の生活習慣病などが問題になっている現代において、病気になる前に予防するというこの概念は非常に大事であり……
「なにぼうっとしてるのよ! もうすぐステージ始まるのよ!」
「ああ、わ、わりい……」
まあ、特に意味もなく小難しいことを考えている時の俺は、目の前の現実から逃避しているのだった。つまり今日もそうなのだった。
「で、下北沢さんの方はどうかしら?」
「は、はい。ぼ、僕はだいじょう……きゃっ」
言っている途中でつまずいて転びそうになる喜多見美亜=下北沢花奈であった。
全然大丈夫じゃなさそうである。
「二人とも——練習の通りにやれば良いんだからね。今日は二人ともデビューなんだからみんなも多めに見てくれるって。気楽にいこう!」
「「………………はい」」
爽やかな良い先輩風に俺たちを励ましているあいつであったが、別に励まされてもな……と言うのが俺の本心であった。と言うか、そんな話など聞いてる余裕もなく、俺も、何でこんなことに……とか言ってここで倒れてしまいそうな心理状態であった。
と言うのも、
「なんだか、随分大きな歓声が聞こえるな」
「そりゃそうよ、今日はただのオフ会じゃないんだからね。こんな会場借り切ってやるんだから、これはもう祭りよ。祭り。夏祭りよ!」
俺と、下北沢花は、あいつの(俺の体に入ってからの)趣味の「女装して踊ってみた」で参加する、大イベントに一緒にサポートの踊り手として出演ことになってしまっていたのだった。
夏祭り。あいつの言うように、今日のイベントは、あいつがよく動画を投稿しているサイトが主催の、多数の踊り手とか歌い手とかが集まって行うもので、あいつのためだけに、俺たちが袖から見つめるステージの前の数千人が集まったわけではないが……。
「……こんな大勢の人の前に出たことなんてなくてな。正直、柄にもなく緊張してるんだが」
「大勢の? まるで少人数の前になら出たことがあるような口ぶりね」
「そりゃ、無いわけでも無いわけでも無いと言うか……あるような無いようであると言うか……」
「なにそれ、幼稚園のお遊戯会とかそんなののこと?」
ギクっ!
あまりの図星に、息を飲み込む俺だったが、あいつはまるで俺の幼少期を隠れて監視してたかのように、——さらなる図星を続ける。
「ともかくどうせ、小学校の学芸会の演劇でも通行人Aどころか立木の役ぐらいしかやったことない——と言うか積極的にそれを選んでそうなあんたが大観衆の前でビビるのは仕方ないと言うかもともと期待してないけれど、……あんたは、まあ何とかなるでしょ?」
でも、喜多見美亜は、俺のことは正直なんとかなるのではと思っているようだった。
まあ確かに、今日の主役はあいつなのだから、俺はサポートで後ろで、踊っていれば良いだけだった。それに、踊りなんて初心者の俺と下北沢花奈のために、ふりつけはだいぶ簡単なものに代えてもらっていた。と言うか、基本的には揺れながら突っ立っていて、あいつが決めのポーズをするときにあわせて同じ動きをすれば良い。それだけの楽なお仕事。それが今日の俺(と下北沢花奈)の役目なのだった。
これなら、——いままで喜多見美亜を演じなければならないはめになって、やってきたことに比べれば、正直、何だか随分と楽な感じさえするのだった。
それに、
「まあ、あんたはなんとかすると思ってるから」
何と言うか、喜多見美亜に大丈夫と言われたら……なんだかできそうな気がしてくるのだった。
まあ、この二ヶ月、苦楽(と言うか苦は主に俺の方だが)を共にして——こいつのことを俺は信頼し始めている? そんな気がするのだった。だから、俺は、あいつが(と言ってもそれは俺の顔だが)にっこりと笑いながら、俺を信頼して言った言葉を聞くと、心が軽くなって、——この後のちょっとした困難なんて、もっと軽い気持ちで立ち向かおうなんて思えてくるのだった。なんだか、喜多見美亜なんていけ好かないリア充だとしか思ってなかった昔の自分から考えれば、随分と意外な心持ちだが……
でも、
「でもね……」
問題は俺じゃなくて……
「あわわわわ……僕、人前なんかで踊るなんてできないよ」
ひどいパニックとなっている下北沢花奈だった。
「落ち着いて、下北沢さん」
「これが、落ち着いていられるわけがないわけないのだ……いや……ないないないないない……?」
なんだか、随分混乱してそうな下北沢花奈だった。
「下北沢さん、そんな焦らなくても大丈夫よ」
「焦んなと言われても……僕にはどうしようもないよ。僕なんて、地味で、内気で、マンガ描くくらいしか取り柄なくて、こんな舞台に立てるような女じゃないんだよ」
なんだか、自分を卑下し始めた下北沢花奈であった。
でも、
「大丈夫よ、向ケ丘勇なんて、ただ怠惰に生きるのが得意くらいしか取り柄ないのに、不思議にくじけずに生きて来たんだから。大人気のマンガ描ける下北沢さんは何も自信失うことないのよ……」
「と言われましても……あわわわ……僕なんて、僕なんて……」
俺を比較に出して持ち上げようにも、今のこの子にそんなこと言ってもなんの効果も無いだろ。って俺は思うのだった。オタクぼっちの俺と比べて引き上げても、そりゃ、こんな大舞台に立つことのできるレベルまでリア充度が上がるわけもない。
いま、この子に言ってやらないといけない言葉は、
「——今は絶世の美少女だろ」
なのだった。
「「……………………」」
しかし、下北沢花奈どころか喜多見美亜まで無言になる。
「何言ってんのよ! あなたは。良くもそんな言葉をさらっと。恥ずかしげもなく言えるもんね!」
顔を真っ赤にして、怒る、と言うよりもキョドッているあいつであった。
あれ、こいつ、こう言うの言われ慣れてると思ったが?
「ああ、まて、お前がそんなに反応されてもこまるのだが」
「困るってなによ! その恥ずかしい口以上に困るものあるって言うの!」
予想外の、こいつの反応に俺はちょっと戸惑うが、正直、今はこいつにかまってるよりも、
「……まあ、お前がなぜそんなに過剰反応するのは置いといて……下北沢花奈!」
「は、はい?」
「君は、今、誰だ?」
「僕は、僕じゃなくて……今は美亜さんです」
「君は、今、喜多見美亜だ。喜多見美亜とはなんだ?」
「美亜さんは……リア充です」
「リア充? 喜多見未亜はリア充か?」
「はい! もちろん……いえ……」
「いえ? なんだ? ただのリア充か?」
「いえ、ただのリア充ではありません。リア充の中のリア充です」
「そんなリア充に、今、お前はなっている!」
「でも中身は、オタク地味女子です」
「それがどうした! そんなのいっこうに構わん!」
「向ケ丘さんが構わなくても、僕は気になります。無理です。僕に美亜さんの役なんて無理です……」
「いや、大丈夫」
「大丈夫って、何を根拠に言ってるんですか? 僕みたいな地味な女……」
「地味? 誰が?」
「誰って、僕に決まってるじゃないですか」
「これを見てもそう思うか?」
俺は今の自分自身、つまり下北沢花奈の顔を指差しながら言う。
「はい? 僕の……顔を? 見て?」
「そうだ」
正直、下北沢花奈は本人が言うように地味な女だ。地味で、目立たなくて、——こっそりと隠れて生きている小動物のように、目立ちも、悪目立ちもしないようにして、クラスの中で毎日を過ごしている。
顔もまあ、地味だ。メガネとったら美少女なんて言う、いつの時代のラブコメマンガだってお約束もあるわけはない。メガネとったら、メガネがむしろ顔の唯一の個性だったねってくらい、さらに印象に残らない顔になる——しかし!
元の顔の作りは悪くない、綺麗な輪郭とか、均整のとれた目鼻立ちとか、つるつるした肌とか……そして表情も自然でつくってなくて……
「君の顔って化粧映えするんだな」
「はい?」
「確かにそうよね……なんと言うか、少しまゆとか唇作っただけでキリッと閉まると言うか——元の顔と別人っていうわけじゃなんだけど、受ける印象は思いっきり変わったわよね」
あいつも、下北沢花奈の化粧映えの素晴らしさに同意のようであった。
「と言うか、元が過剰に地味に目立たないようにしすぎなんだよな。多分ちょっと快活にわらうだけでもだいぶ違うぞ……」
俺は下北沢花奈の口角をあげてニヤッと笑って見せた。
「確かに。下北沢さん、ずっと無表情にしてるから、普段目立たない感じだけど、快活な表情になっただけでもかなり可愛くなるわね」
「そうだろ……」
「ぼ、僕をほめて……ど、どうしようって言うんですか。な、何を企んでいるんですか」
「何もたくらんでいな……いや企んでるかな? というか、今、企んだ。——思いついた」
「な、何を……ですか……」
「今日は、俺——じゃなくて……君が、下北沢花奈が主役な!」
もちろん、それは今中にいる下北沢花奈が、学園カーストトップのリア充どもの心理戦に耐えられなかったから、——なのだった。
でも、そんな話をできるわけもないし、したところで誰も信じるわけもない。
だから、喜多見美亜が倒れたのは、たまたま先週から夏風邪気味で具合悪いところに、無理して夜更かしして、貧血か何か起こしただけ。そんな風に、みんなにはごまかした。
——ついでに、この状況利用して今週は具合い悪いからって事にして、昼も一人で教室の隅で休んでいて、授業が終わればすぐに帰る。
これが今週の喜多見美亜=下北沢花奈の生活だった。
夏休み前の最終週である今週は、休み中の喜多見美亜との約束を取り付けようと言う、リア充セカンドチームからの彼女へのアピールもずいぶんなものだったけど、——ちょっと失礼なくらい強引に下北沢花奈には教室から逃げてもらうことにした。
特に顔色とか悪いわけでもなく、普通そうに見えるのに、具合が悪いとか言って、みんなから逃げ回っている喜多見美亜は、なんだか不審そうな目で見られていた。けれど、リア充トップグループの、その中でも一番みんなから親しまれ、憧れられている喜多見美亜が、数日間くらい様子がおかしいくらいで、陰口を叩いたり、その原因を詮索して来る者がいるはずもなかった。それほど、普段からリア充どもの憧れ、象徴となっているこいつなのだった。
でも、そんな憧れを一身に受ける、それはずいぶんなプレッシャーでもあるわけで、地味女子として目立たず騒がず安楽な生活を享受していた下北沢花奈がそんな緊張に耐えられるわけもない。彼女は喜多見美亜のリア充生活させられると倒れてしまうのだから、仮病もしょうがない。それに、これは、病気になる状態を未然に防いでいるとも言えるのだから、仮病と言い切って捨てるには少し情状酌量の余地があると思わないか? 俺は思うね。
未病——未ダ病__ヤマイ__#ニアラズ——症状は出なくても病気を孕んでいる状態。症状は出なくても、病に移行するような体や精神の状態、それを改善していく必要があると言うこの概念。中国医学などで使われる考え方であるが、慢性の生活習慣病などが問題になっている現代において、病気になる前に予防するというこの概念は非常に大事であり……
「なにぼうっとしてるのよ! もうすぐステージ始まるのよ!」
「ああ、わ、わりい……」
まあ、特に意味もなく小難しいことを考えている時の俺は、目の前の現実から逃避しているのだった。つまり今日もそうなのだった。
「で、下北沢さんの方はどうかしら?」
「は、はい。ぼ、僕はだいじょう……きゃっ」
言っている途中でつまずいて転びそうになる喜多見美亜=下北沢花奈であった。
全然大丈夫じゃなさそうである。
「二人とも——練習の通りにやれば良いんだからね。今日は二人ともデビューなんだからみんなも多めに見てくれるって。気楽にいこう!」
「「………………はい」」
爽やかな良い先輩風に俺たちを励ましているあいつであったが、別に励まされてもな……と言うのが俺の本心であった。と言うか、そんな話など聞いてる余裕もなく、俺も、何でこんなことに……とか言ってここで倒れてしまいそうな心理状態であった。
と言うのも、
「なんだか、随分大きな歓声が聞こえるな」
「そりゃそうよ、今日はただのオフ会じゃないんだからね。こんな会場借り切ってやるんだから、これはもう祭りよ。祭り。夏祭りよ!」
俺と、下北沢花は、あいつの(俺の体に入ってからの)趣味の「女装して踊ってみた」で参加する、大イベントに一緒にサポートの踊り手として出演ことになってしまっていたのだった。
夏祭り。あいつの言うように、今日のイベントは、あいつがよく動画を投稿しているサイトが主催の、多数の踊り手とか歌い手とかが集まって行うもので、あいつのためだけに、俺たちが袖から見つめるステージの前の数千人が集まったわけではないが……。
「……こんな大勢の人の前に出たことなんてなくてな。正直、柄にもなく緊張してるんだが」
「大勢の? まるで少人数の前になら出たことがあるような口ぶりね」
「そりゃ、無いわけでも無いわけでも無いと言うか……あるような無いようであると言うか……」
「なにそれ、幼稚園のお遊戯会とかそんなののこと?」
ギクっ!
あまりの図星に、息を飲み込む俺だったが、あいつはまるで俺の幼少期を隠れて監視してたかのように、——さらなる図星を続ける。
「ともかくどうせ、小学校の学芸会の演劇でも通行人Aどころか立木の役ぐらいしかやったことない——と言うか積極的にそれを選んでそうなあんたが大観衆の前でビビるのは仕方ないと言うかもともと期待してないけれど、……あんたは、まあ何とかなるでしょ?」
でも、喜多見美亜は、俺のことは正直なんとかなるのではと思っているようだった。
まあ確かに、今日の主役はあいつなのだから、俺はサポートで後ろで、踊っていれば良いだけだった。それに、踊りなんて初心者の俺と下北沢花奈のために、ふりつけはだいぶ簡単なものに代えてもらっていた。と言うか、基本的には揺れながら突っ立っていて、あいつが決めのポーズをするときにあわせて同じ動きをすれば良い。それだけの楽なお仕事。それが今日の俺(と下北沢花奈)の役目なのだった。
これなら、——いままで喜多見美亜を演じなければならないはめになって、やってきたことに比べれば、正直、何だか随分と楽な感じさえするのだった。
それに、
「まあ、あんたはなんとかすると思ってるから」
何と言うか、喜多見美亜に大丈夫と言われたら……なんだかできそうな気がしてくるのだった。
まあ、この二ヶ月、苦楽(と言うか苦は主に俺の方だが)を共にして——こいつのことを俺は信頼し始めている? そんな気がするのだった。だから、俺は、あいつが(と言ってもそれは俺の顔だが)にっこりと笑いながら、俺を信頼して言った言葉を聞くと、心が軽くなって、——この後のちょっとした困難なんて、もっと軽い気持ちで立ち向かおうなんて思えてくるのだった。なんだか、喜多見美亜なんていけ好かないリア充だとしか思ってなかった昔の自分から考えれば、随分と意外な心持ちだが……
でも、
「でもね……」
問題は俺じゃなくて……
「あわわわわ……僕、人前なんかで踊るなんてできないよ」
ひどいパニックとなっている下北沢花奈だった。
「落ち着いて、下北沢さん」
「これが、落ち着いていられるわけがないわけないのだ……いや……ないないないないない……?」
なんだか、随分混乱してそうな下北沢花奈だった。
「下北沢さん、そんな焦らなくても大丈夫よ」
「焦んなと言われても……僕にはどうしようもないよ。僕なんて、地味で、内気で、マンガ描くくらいしか取り柄なくて、こんな舞台に立てるような女じゃないんだよ」
なんだか、自分を卑下し始めた下北沢花奈であった。
でも、
「大丈夫よ、向ケ丘勇なんて、ただ怠惰に生きるのが得意くらいしか取り柄ないのに、不思議にくじけずに生きて来たんだから。大人気のマンガ描ける下北沢さんは何も自信失うことないのよ……」
「と言われましても……あわわわ……僕なんて、僕なんて……」
俺を比較に出して持ち上げようにも、今のこの子にそんなこと言ってもなんの効果も無いだろ。って俺は思うのだった。オタクぼっちの俺と比べて引き上げても、そりゃ、こんな大舞台に立つことのできるレベルまでリア充度が上がるわけもない。
いま、この子に言ってやらないといけない言葉は、
「——今は絶世の美少女だろ」
なのだった。
「「……………………」」
しかし、下北沢花奈どころか喜多見美亜まで無言になる。
「何言ってんのよ! あなたは。良くもそんな言葉をさらっと。恥ずかしげもなく言えるもんね!」
顔を真っ赤にして、怒る、と言うよりもキョドッているあいつであった。
あれ、こいつ、こう言うの言われ慣れてると思ったが?
「ああ、まて、お前がそんなに反応されてもこまるのだが」
「困るってなによ! その恥ずかしい口以上に困るものあるって言うの!」
予想外の、こいつの反応に俺はちょっと戸惑うが、正直、今はこいつにかまってるよりも、
「……まあ、お前がなぜそんなに過剰反応するのは置いといて……下北沢花奈!」
「は、はい?」
「君は、今、誰だ?」
「僕は、僕じゃなくて……今は美亜さんです」
「君は、今、喜多見美亜だ。喜多見美亜とはなんだ?」
「美亜さんは……リア充です」
「リア充? 喜多見未亜はリア充か?」
「はい! もちろん……いえ……」
「いえ? なんだ? ただのリア充か?」
「いえ、ただのリア充ではありません。リア充の中のリア充です」
「そんなリア充に、今、お前はなっている!」
「でも中身は、オタク地味女子です」
「それがどうした! そんなのいっこうに構わん!」
「向ケ丘さんが構わなくても、僕は気になります。無理です。僕に美亜さんの役なんて無理です……」
「いや、大丈夫」
「大丈夫って、何を根拠に言ってるんですか? 僕みたいな地味な女……」
「地味? 誰が?」
「誰って、僕に決まってるじゃないですか」
「これを見てもそう思うか?」
俺は今の自分自身、つまり下北沢花奈の顔を指差しながら言う。
「はい? 僕の……顔を? 見て?」
「そうだ」
正直、下北沢花奈は本人が言うように地味な女だ。地味で、目立たなくて、——こっそりと隠れて生きている小動物のように、目立ちも、悪目立ちもしないようにして、クラスの中で毎日を過ごしている。
顔もまあ、地味だ。メガネとったら美少女なんて言う、いつの時代のラブコメマンガだってお約束もあるわけはない。メガネとったら、メガネがむしろ顔の唯一の個性だったねってくらい、さらに印象に残らない顔になる——しかし!
元の顔の作りは悪くない、綺麗な輪郭とか、均整のとれた目鼻立ちとか、つるつるした肌とか……そして表情も自然でつくってなくて……
「君の顔って化粧映えするんだな」
「はい?」
「確かにそうよね……なんと言うか、少しまゆとか唇作っただけでキリッと閉まると言うか——元の顔と別人っていうわけじゃなんだけど、受ける印象は思いっきり変わったわよね」
あいつも、下北沢花奈の化粧映えの素晴らしさに同意のようであった。
「と言うか、元が過剰に地味に目立たないようにしすぎなんだよな。多分ちょっと快活にわらうだけでもだいぶ違うぞ……」
俺は下北沢花奈の口角をあげてニヤッと笑って見せた。
「確かに。下北沢さん、ずっと無表情にしてるから、普段目立たない感じだけど、快活な表情になっただけでもかなり可愛くなるわね」
「そうだろ……」
「ぼ、僕をほめて……ど、どうしようって言うんですか。な、何を企んでいるんですか」
「何もたくらんでいな……いや企んでるかな? というか、今、企んだ。——思いついた」
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