俺、今、女子リア充

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俺、今、女子オタ充

俺、今女子司会中

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「みなさーん! こんにちわ!」

 ——ウォオオオオオオオ!

 と俺が言うと、瞬時に会場から上がる大歓声。
 俺は、前に多摩川の河原のオフ会でやったように、「踊って見た」の司会をする。
 もちろん今日の「踊り」の主役は喜多見美亜あいつが中に入っている女装した俺だが、——でも声があれである。女装しても、声は男の声である。
 だから司会は俺である(下北沢花奈がこの大観衆のまえで司会できるわけもないので、消去法で俺である)。
 まあ、女装それ自体は、あいつのリア充女として磨いた化粧やしぐさなどもあり、なんだかネットで人気出ちゃったのもそうかもなって言う完成度なのだが……
 とは言っても、——あいつが男の野太い声で話したら、観客も一気に現実に引きも出されてしまうだろう。
 ——だから司会は俺なのであった。
 いや、挨拶で一言喋るくらいなら、ピリッとしたスパイス、その日のオチ担当ぐらいで笑って済ましてもらえると思うが、イベントの間じゅう、ずっと男の声で話していたら観客も興ざめになってしまうに違いない。
 女装男子ということがもう公言されているあいつ(と言うか女装した俺の体)だが、——そうは言っても、踊っている間は夢、男とも女とも、どちらかなんて気にしないで観客はいたいのだと思う。
 その夢を、少なくとも踊る前には、その幻想を壊さないように……。
 女の子に入れ替わった俺が喋るのである。
 MCは俺なのである。
 そして、その「俺」は今は下北沢花奈であるので、
「初めまして! ハナチンでーす!」
 適当な愛称を作って司会を始めるのであった。
 で、

 ——ウォオオオオオオオ!

 観客の反応は良い。
 と言うか、やたらと良い。
 同じ状況じゃないから厳密には比較できないが、俺が喜多見美亜あいつの中に入って多摩川の河原でオフイベントやった時よりも受けている感じがする。
 熱気がすごいと言うか、その質が違うような気がする。
 これって、たぶん、下北沢花奈の方が「みんな」に好かれている?
 ……と俺は感じるのだった。
 もちろん喜多見美亜は、モデルやってたっておかしくないような美少女で、二人並べてどっちが「美人」かって比べさせたら?
 それは喜多見美亜あいつと言わざるをえないと俺は思うし、たいていの人もそう答えるだろう。
 でも、どっちが「受けるか」って聞かれたら?

 ——ウォオオオオオオオ! ハナチン可愛いいいいいいい!

 ——ウォオオオオオオオ! オ! オ! オ! オ! オ!

 この反応が答えなのだろう。
 と言うか、下北沢花奈の方がオタク受けするのだろう。
 美人と言うよりは可愛い。凛としていると言うよりは親しみやすい。
 それは、単純に割り切れるような、二律背反で判定するような話じゃないけれど……。
 男子は美人女優よりも身近にいるちょっと可愛い子的なアイドルを好む傾向があると思うのだが、——その好みにジャストミートしているのが今日の下北沢花奈なのであった。
 さすがに普段の地味女子の外見のままステージに上がったら、場違いな感じもしただろうが、喜多見美亜の化粧テクニックで磨かれて、可愛らしい衣装を着せされた下北沢花奈である。クラスのみんながこの姿を見たならば、驚き、——しかし納得するだろう。
 ああ、確かに……。この子、こう言う子だったかも……。
 ——と。
 下北沢花奈は、彼女本来のポテンシャルが引き出されているんだ。
 大観衆を熱狂させるほどの自然な彼女本来の魅力が。
 ……
 しかし!
 今日はそれだけで終わらないぞ。と俺は思った。
 俺は下北沢花奈として一週間を過ごし、——実は彼女のさらなるポテンシャルに気づいていたのだった。
 それは……。

   *

「みなさん、今日は、こんなたくさんの人の前で立つなんて、緊張でブルブルですが、頑張るのでよろしくお願いします! それでは私たち『チェンジズ』のメンバー紹介です!」
 俺たちはこのユニットを組むに当たってチーム名を『チェンジズ』にした。それはもちろん、体入れ替わりが起きている俺たちの状況にちなんでいるのもあるが、
「まずは、今日のMCは改めまして、私、ハナチンでーす!」
 この子、下北沢花奈の『チェンジズ』をしなけければならない。そのためのチームという意味もある。
「そして、サポートダンサーとして私の他に、アミたんも踊ってくれますよ!」

 ——アミたーん! きれい!
 ——痺れる! 憧れる!

 喜多見美亜あいつも大きな声援も受けるが、その声は女の方が多いような。
 何しろ、女の子としてはこうなりたい、こう見られたいというような状況の理想形を目指して、リア充に磨きかけてた奴だからな。女の人気も高くなるのだろう。
 男に媚びるような様子でもなく、もう目的と手段が混同して、理念としてのリア充をストイックに探求しているようにさえ見えるあいつだ。
 その透徹な佇まいは同性からの憧憬を受けるに値するのかもしれない。
 でも、——そんな視線が恥ずかしくてか、思わず下を向いてしまう喜多見美亜=下北沢花奈である……。
 まあ、今日は喜多見美亜に目立ってもらわなくてもよいのでこれで構わない。
 俺は、そう思うと、無意識に首肯して、目線をステージの真ん中に移しながら言う。

「もちろん、メインダンサーは——ゆうゆう!」

 あいつは野太い男の声で言う。

「みんな! 愛してる!」

 すると……。

 ——ははは! きもーい!
 ——いや可愛いぞ!
 ——男でもいいぞ!

 太い男声の挨拶に、観客はいい「オチ」をもらったと、ウケている様子。
 うん。これが俺が狙った最適の配分。カッコつけすぎない、狙いすぎて下卑にならない。
 観客の気分がちょうど良い塩梅に盛りがったところで踊りを始められる。
 ここまでは打ち合わせ通り。事前の計画通りの流れだった。
 だが……。
 ——さっき、俺は誓ったのだ。
 今日は下北沢花奈を主役にする。
 それは、今日の司会をしてちょっと目立つなんてことじゃなく……。
 ——彼女はまだド級の変身を残している。
 俺は、その衝撃を、この後、「みんな」に届けようとしているのだった。
「では、始めます。曲は、『あなたにトレイスルート』!」
 ボカロ人気曲のイントロが始まり、ポーズをとる俺たち。だが、喜多見美亜あいつが、左に並んだ俺に向かって振り向き、「あれ?」って言う表情を向ける。
 うんうん。さすが気づいたな。曲がちょっと変わっていることに。
 下北沢花奈を今日の主役にして変わらチェンジせる。そう考えついた俺は出番がもう直ぐに迫っていた俺たちの演出をちょっとだけ変えるように、イベントの演出にむりやり掛け合ってきたのだった。
 といってもそれはちょとだけの変更。曲は今週散々練習した『あなたにトレイスルート』。それはそのままだ。
 しかし、そのイントロで聞こえて来るはずのボカロのスキャットが聴こえて来ないのであれば、曲は音響の人に渡したCDに入った、同じ曲だが違う曲、——『あなたにトレイスルート』のカラオケバージョンであったのだった。
 ——ならば、
「ラララ、ララララ——」
 俺を見てニッコリと微笑む、俺の顔——喜多見美亜あいつ
 スキャットを始めたのは俺——つまり下北沢花奈の体。
「えっ——」
 それを聴いて、マイクが拾うくらい声をたててびっくりしてしまった喜多見美亜の中の下北沢花奈。

 ——ウォオオオオオオオ! ハナチン? 歌うの?

 観客の問いに、ニッコリと頷きながら、口角をあげ……、

「この子の歌を聴けー!」

 と俺は心の中で叫ぶのであった。
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