俺、今、女子リア充

acolorofsugar

文字の大きさ
60 / 99
俺、今、女子パリポ

俺、今、女子ナイトプール中

しおりを挟む
 さて、ここに俺達を送り込んだパリポ、萌さん経堂萌夏の指示が全く期待できない中で、プールサイドのパーティに参加することとなった俺たちであった。萌さんが暑いの苦手とか言ってさっさと日陰の椅子で休み始めたので、俺たちは見知らぬ人たちの集まる場所にただポツンと取り残されてしまい……。これからどうすりゃいいの? 俺は、無責任な今日の保護者を横目で睨みながら途方にくれてしまうのであったが、
「俺たちもとりあえず休んで良いですよね」
 と喜多見美亜あいつが言う。今日は和泉珠琴も一緒なので、俺——向ヶ丘勇の中にいるあいつは男言葉だ。
「ええ、構わないわ」
 それに適当に根拠なく答える俺は、萌さんの中にいるから女言葉である。最初は気恥ずかしかったこんなやりとりも何ヶ月も女子やってればもう自然体でどうにはいったもの。でも、少しどうに入りすぎで、体が元に戻った時に気持ちが戻れるのか、うっかり女言葉で喋ってしまわないかと心配になるが、まあ今気に病んでもしょうがない。
 とりあえず、萌さんんから何も指示がないし、本人も休んでいるんだから良いのだろうと、プールサイドの椅子の空いている一角に向かって歩き出す、俺らであった。

 でも、本当に休んでいて良いのだろうか? と、歩きながら俺は思った。
 今日は俺たちはパーティを盛り上げるために呼ばれた。だから、ただで入れてもらった。——その話からいえば、今のこの状態でのうのうとしているのはよくないのかもしれない。なぜなら、正直、パーティはまだそんなに盛り上がっているとはいえなかった。
 プールの横に建てられた大きなテントの下にDJがいて、その周りのスピーカーからは昨日の夜に聞いたようなダンスミュージックが結構な音量で流されているけれど、まだほとんど踊る人もいない。
 踊っているのは、このプールのシチュエーションに似合わないヒョロヒョロで真っ白いメガネ男子と、こちらも場にそぐあわなさそうな感じの真面目そうな雰囲気のポーニーテールの小柄な女の人だけ。二人にはスタッフの名札ぶら下げた人が声かけたりしているから知り合いかなんかなのかな?
 他の人たちはだいたい、まだだらだらプールサイドを歩いていたり、椅子に座っていたり。まだまだ、パーティの本番は始まっていないといった雰囲気であった。人の数も多くない、と言うか、むしろさっきより減ってる感じさえする。
 そりゃ今日は、学生は夏休みだが、平日だもんな。社会人はまだ会社終わってないだろうし、さっきまで昼からプールにいた、たまたま仕事が休みだったのか毎日だらだらしてられる恵まれた身分の人たちなのか——どっちかはわからないが——そんな人たちが昼の部は終わりとばかりに消えてしまえば、残っているのは俺たちの他には今日のスタッフとその知り合いだけかな? っていった感じのこの場であった。
 なら、やっぱり、まだあんまり盛り上げるとかしないで休んでいても良いのじゃないかな? 俺はそう思いながらプールとその周りを見渡す。
 すると、
「あらためて……今日はこんな良いところに誘っていただいてありがとうございます」
 偶然目があった和泉珠琴がニッコリと笑いながら話しかけてくる。
「いえ……」
 俺は、いつもどおりの、こいつの明け透けに媚びた様子に、ちょっとうんざりしながらも笑顔を返す。
 ああ、この女的には、萌さんと知り合ったのは嬉しんだろうな。かっこいい年上のリア充と知り合って自分のステイタスが一歩上がったラッキーみたいな感じ。私は周りの高校生と違うのよ的な。
 しかしなあ、この人萌さんそんな良いもんじゃないぞ。和泉珠琴的には、きっと、派手なパーティ生活の中で輝いている萌さんを妄想して、憧れて、そんな人と知り合ったのを喜んでいると思うが……もっと病的なものを俺はこの人に感じるぞ。
 パーティ中毒と言うか、そのため全てを投げ打って、過剰にのめり込む。エピュキュリアン——快楽主義者と訳されるこの言葉は、単にのんべんだらりと安楽に気持ちよく過ごすような人をさすのでなく、スポーツとか芸術とか楽しみための全身全霊で打ち込んで過剰に努力していくような人々のことをさすらしいが、萌さんはまさにそれ。
 つまり、手段じゃないんだよな。と俺は思う。パーティは他の何かを得るための手段ではなく、それそのものがちゃんと萌さんにとって目的になっている。
 逆に、この和泉珠琴が想像しているのは手段なんだろうなと思うんだよね。大人なパーティに行ってる他と違う高校生みたいなステイタスが自分について、自分が周りよりさらに差別化して見せるための手段。
 まあ、でも、俺ら高校生としては、まだそんな風に目的でなく手段を求めてしまうのは仕方ない時期なのだとは思う。勉強だってスポーツだって、他の趣味だって、まだまだそれで何か為すと言うよりは、自分が何者か探るためのあがきみたいなものに思える。
 勉強が得意なら自分は何になれるのか? スポーツが得意なら何になれるのか? そんな将来の自分を作っていくための手段として日々の生活が過ぎ去っていく。
 そんな中、俺は、体——自分というものが入れ替わってしまうと言う、ちょっとどうすれば良いのかわからないような極限状況に置かれているわけだが、
「どうかしましたか?」
「ああ……ごめんねちょっとぼうっとしちゃって——寝不足で」
 俺は、色々考えているうちに、少し厳しい顔つきになってしまっていただろう。それを、空気を読むのにだけはクラス一番と言っても良いくらいにさといこの女が気づかないはずもない。
「ごめんなさい。なら、まだあんまり話しかけないほうが……少し休んでいたほうが……」
 さっと申し訳なさそうな表情に変えて気遣いの言葉を吐く、フォローの迅速さはさすがだが、
「ねえ、萌夏もえかさん。今日の主催者の人たちってどんな知り合いなのかな?」
「向ヶ丘くん! 何、萌夏さんは疲れているって行ってるのに!」
 そんな流れは無視をして話しかけてくる俺の体の中に入った喜多見美亜あいつ
「ああ、構わないから。疲れてっていっても、もう一回寝ちゃうほどじゃないから。ただぼんやりしてるよりこうやって話しているほうがむしろ良いから」
「そうですか? それじゃあ……」
 自分の気遣いが空振りに終わって、一瞬だけ少し残念そうな様子の和泉珠琴であったが、萌さんといろいろ話したいとは思っていただろうから、そのあとはすぐに気持ちを切り替えて、矢継ぎ早にいろいろな質問をして来る。
 それに俺は朝にあらかじめ聞いておいた知識を元に答えていくのだが、
「へえ! すごいですね!」
 キラキラ目の和泉珠琴。
 あれ萌さん、海外DJとかも何人も知り合いって言ってたっけ? まあ、いいかDJの知り合いも多そうだし。和泉珠琴がそんなDJと話すこともないだろうし。
「憧れます」
 ウルウル目の和泉珠琴。
 ん? 夜遊びにくる業界人とも仲が良いって? なんだろ業界人って? どこの業界のこと? でもまあ遊びに来る人とは仲良いだろうから、どっかの業界の人とは仲良いよなきっと。
「素敵です!」
 グルグル目の和泉珠琴。
 はい? モデルとかも知り合い多い? そうなのかな? 本人もモデルスカウトされた? そんな話は聞いてないが、そういうこともあるかもな? 萌さんは、美人だし、確かに、その上モデルっぽい個性的なかなり目立った容姿してるからな。
「もう、師匠と呼ばせてください!」
 なんだが俺が適当に答えて出来上がってしまった、萌さんの虚像にゾッコンの和泉珠琴であった。
 ああ、この女、こういうのにころっと騙されんだなって、俺はこのッキョロ充の今後が少々心配になるが……まあ、騙されても気にしない。というか気づかないで、そのままポジティブに生きていきそうなところがこの女のおそろしいとろではある。
 でも、
「そろそろ、踊りに行きましょうか」
 これ以上適当に対応しているとボロがでそうなので、俺は立ち上がり質問責めから逃げるようにプールサイドを歩き出す。

 ——が、

「あ! あれ……」
「——!」
「あんた——じゃなくて萌夏さんいきなり止まってどうしたんですか……」
 歩き出したのについて来た二人が、俺が行きなり立ち止まったので後ろでぶつかってびっくりしてしまったようだった。
「どうかしたんですか」
 立ちすくむ、そんな俺を不思議そうに見つめる和泉珠琴。
「いえ……なんでも……」
「あ! あれ……」
 そして俺に続いてそれに気づく喜多見美亜あいつ
「? やっぱり、何かあったんですか?」

「「いえ……なんでも……」」

 目配せをしながら、ユニゾンで答える俺とあいつ。 
 オタク化が進んでいるらしき、あいつもやはり「それ」を知っていたのかと改めて思う。声に出さなくともお互いが何が言いたいか分かっているその言葉。
 俺らはお互いに顔を見合わせながら、

 ——声優にナイトプール流行っていると言うのは本当だったんだ!
 
 目の前を歩く女性二人組を見ながらそう心の中で呟くのであった。

   *

 そんなこんなで、いつのまにか日もくれて、やっと本当にナイトプールとなった今日のパーティであった。人もだいぶ増えてきて、あちこちで盛り上がってる人も増えて来て、俺らもなんだか良い気分で踊ったり、プールに飛び込んだり思い思いにこの場所を楽しんでいた。
 夜のプール。なんとなく日の下で泳ぐイメージがあるこの場所に、夜にいることで生まれる非現実的な感覚。人工的な照明に照らされて浮かび上がる水辺の風景。水面がいろんな色に照らされて揺らめく。歩く人々もどことなく人工物めいた感じ。
 目の前でしなやかな肢体をくねらせて踊る見ず知らずのお姉さんはなんかアンドロイドっぽく思えて来るというか、今、自分も現実から離れて仮想の世界の中で踊っているというか……・
 集まった人たちも思い思いに楽しくこの場を過ごしているようだった。
 ナイトプールって聞くともっと猥雑でナンパ目的の男女が騒ぎまくっているようなイメージがあったが、少なくても今日のこの場所はもっとパーティをこの場所を楽しもうといういう人たちが集まっているように見えた。
 盛り上げ要員としてタダで入れてもらった俺たちが、変に何にかしなくても、十分にこの場は盛り上がっていた。俺たちは、むしろその良い雰囲気を邪魔しないように、自分たちなりに精一杯この場所を楽しんだ。
 するとあっという間に時間は過ぎて行った。
 気づけば、もうすぐに九時。終了時間も間近であった。
 昨日、一晩踊ったのからくらべるとあっと言う間に終わってしまった感があるが、なんか何倍も一気に楽しんだ感じがして、これはこれでなんか充実した感じがしながら、最後一人プールから離れて、喉が渇いたのでドリンクでも買おうかなって思ってバーの方に歩いていくのだったが……、

「萌!」

 俺は、後ろから声をかけられて振り向く。
 そこには、いかにもパリポって感じの、金髪で派手めな外見で、ちょっと怖そうなお兄さんが立っていた。
「…………」 
 誰この人? 俺はどうすれば良いのかわからずにその場に固まるが、

「俺、お前のこと諦めてないから!」

 そのお兄さんはそれだけ言うとさっと立ち去って行く?
 そして、
「……気にしなくて良いから。無視して」
 また振り返れば、俺の前には、いつのにか喜多見美亜=萌さんが立っていて、彼女は悲しそうな表情で、能天気パリポにはなんだかとても似合わない、冷たい顔で冷たい言葉を吐き出すのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...