俺、今、女子リア充

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俺、今、女子パリポ

俺、今、(まだ)デイプール中

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 気づけば、あっという間に夕方であった。
 まるでタイムマシンにでても乗っていたかのようであった。
 そりゃ……寝ていたんだから途中の記憶ないのは当たり前だが、寝ていてもなんか寝てるなりに感じる時間の経過ってあるじゃない? 半覚醒状態なのか、夢の中の時間経過をそう思うのかわからないけど、ああ俺って今まで寝てたんだなって感じるそう言う感覚があるじゃない? 寝てるなりに、俺はこの高校一年の人生を過ごしたんだって言う実感というか……。
 そんなのが全く無い。
 バタンと倒れるように寝て、起きたら時間が経ってました。まるで時間旅行でした。本気でそんな感じ。
 タイムワープ。一瞬で時間を飛び越えたとみたいな感覚。
 つまり、朝の多摩川から、萌さんのマンションに帰って、ベットに倒れこむように寝て、気づけばもう四時近くになっていたと言うこと。
 でも、俺は、時計の文字盤の四時と言う文字は見えていたけれど、その意味が最初よくわからなくて、目が開いたあとも、呆然とそのままベットで寝てしまっている。だって、自分的には、ここに帰ってきて一瞬しかたっていないんだから、見た時計の意味がわらからなくて、頭がフリーズしてしまう。
 でも、
「やべ。もう四時だよ」
 ちょっとして、俺は今の自分のおかれている状況に思い至ると、慌てて飛び起きるのだった。
 朝の多摩川で言われた今日の夕方の集合時間は五時。もう一時間ちょっとしかない。
 移動にかかる時間逆算すると、十数分で萌さんのマンションからてなくてはダメで……シャワー浴びてる暇はないな。いや、それはどうせプールに入るからいいか? 女性はそういうものじゃないのかもしれないけど、まあどっちにしろ時間が無いから省略。顔だけ洗って、髪とかして、後は今日の持ち物。化粧道具とか財布とかは昨日のでかけた時のポーチそのままでいいけれど……。
 ああ、水着だな。プールだから当たり前だが。他にタオルだとか着替えだとか。確か、クローゼットにビニールのバックが入ってるからそれ使ってくれと朝の多摩川で言われたな、水着は下から一段目の引き出し……
「ぶっ!」
 俺は、開けかけた引き出しを慌てて戻す。
 水着は確かにあった。しかし、引き出しには他のものも満載なのであった。
 ——下着が満載なのだった。
 俺は思わず息をのむ。
 確かにその中に水着だけぽつんと入っているとか不自然だし、引き出し一杯が水着なんてのも普通ありえないのだろうけど……。
 お姉さまの下着が満載の中に水着それがあるのである。俺はそれを前にして理性を保つことができるのだろうか? 水着と下着て大して違わないじゃない? 馬鹿なことを言ってもらってはこまる。見せるためのものと隠すためのもの。そこには大きな差がある。具体的には俺の心拍数で五十は違うと思ってほしい。
 でも、勘違いしないでほしい。
 この俺、向ヶ丘勇を舐めてもらっては困る。さかりのついた犬みたいな他の高校生男子と俺を一緒にしてもらっては困る。俺は自制できる男だぜ。この後、下着の山を見ながら理性を保つという困難なミッションもきっと俺ならできるだろう。
 ——ただし一瞬ならね!
 そりゃそうだ。この若い男子が、そんなことに、長時間耐えるのは俺ほどのものでも非常に難しい。今もすんでのところで、超人的な理性の力で引き出しを元に戻したばかりだ。並の高校生では耐えられなかっただろう。俺は。まさしく超高校生級の理性と呼ばれても良いのではないか?
 いや、呼んでくれても、呼ばれなくてもどっちでも良いが、——ともかく俺が耐えられるのは一瞬だ。
 その事実は変わらない。俺は全身全霊でこの難事に取り組まなければならない。
 精神を集中し、引き出しを開けて、水着を取り出してすぐしめる。
 ——ただそれだけのことと言うなよ!
 ——ならお前も女子大生の体といれかわった高校生男子となって見ろよ!
 ——俺みたいに理性が保てるのか!
 ——どうなんだ!
 なんだか、いったい誰相手に戦ってるんだか、異常に喧嘩腰になっている俺であったが、
「よし。行くぞ。スー、ハー……はっ!」
 気合い一閃。腕に力を込めて引き出しを一気に引っ張って——。

 その瞬間意識が飛んだのであった。

   *

 意識がなくなる。考えて見れば当然。と言うのも、喜多見美亜あいつの下着を着替えようとするときとか、いつも意識が飛んでいるのだった。
 風呂とかトイレとかの時もそうだが、——この体入れ替わりにはラッキースケベ的な事項にたいしてのなんらかの倫理規定があるらしく、少なくとも乙女の秘密に関わるようなことをしなければならない時は、俺の意識が飛んで無意識のうちにそれらは行われるようになるのだった。
 だから、あいつの部屋のクローゼットに手をかけたくらいからいつも記憶がない。気がつけば着替えてしまっている。
 でも、まあ、その方が良い。もしこの倫理規定のようなものが存在しなくて、俺があいつの恥ずかしいところ全部見れたとしたら? そう考えると空恐ろしい。一体、あいつは俺にどんな枷をはめようとしてくるだろうか。
 入れ替わったのが自分の体でなければ、目をつぶすとかやりかねないのではと思う。目隠しして、鼻に栓をして着替えをしろと言いかねない。
 風呂なんてどうすりゃいいのか? いつか俺が元の体に戻った時、ラッキースケベの記憶ごと俺は抹殺されるのでは。そんな風に思うのだった。
 なら——今回もそうなっても良いはずだった。クローゼットを開けたときにそのまま意識が飛んでも良いはずだった。
 だが、どうも、この体入れ替わり倫理規定は時々ゆるくなることがある。
 風呂で下着に手をかけるくらいまで意識が飛ばなかったことも何回かあるし、もっと微妙なことも……。喜多見美亜あいつはあいつの方で、基本はおとこの秘密に関しては意識が飛ぶようなのだが、なんだか一度、朝に起きる下腹部の生理現象を認識してたようなこと言ってたし、どうにも倫理規定は、時に、その網の目がゆるくなることがあるようだ。
 今回の、萌さんの下着いっぱいの引き出しを開けてしまったのも、そう言う規定の気まぐれで起きたのかもしれないが、
「どうも単なる偶然とも思えないんだよな」
 俺はこのような規定の緩みにもなんか法則のような、意思のようなものがあるような気がしてならないのだった。
 具体的に浮かんだイメージとしては、童貞高校生に下着の山をみせてキョドッているのを喜んで見ている萌さん。そんな意思——このくらいしてみてもよいか的な思いを今回の規定の緩みから感じるのだった。喜多見美亜あいつの時も規定が緩んだ時には何らかの意思……こっちはなんだかまだ自分の考えがモヤモヤしてはっきりとこれといえないけど——理由わけを感じるのだった。
 とは言え、今はそんなことをいつまでも考えていてもしょうがない。体入れ替わりの理由もまったくわからないまま、その倫理規定の緩みの謎だけ解こうにも限界がある。それよりも今は、
「あぶね……」
 電車の乗り換えにミスらないでしっかりと約束の時間まで今日のパーティの場所に着くことが大事。
 新宿で山手線で乗り換えて渋谷で東横線。学芸大で降りる。
 電車をミスらないようにと、俺は余計なことを考えずに、ただ電車の窓の外の景色を見る、降りた街の道順をただひたすらに考えることだけをしながら、たどり着いたのは少し古びた外観のホテルなのであった。

 そして、ホテルのフロント前のロビー。そこにはすでに喜多見美亜あいつをはじめとした今日のメンバーの姿があった。
「ぎりぎりだね……でも間に合ったか。まあ合格。合格」
 今は四時五十九分五十秒。確かにギリギリだった。
「でもアタシも今ついたばかりだけどね」
 と言うのは萌さん。喜多見美亜あいつの顔をとぼけた表情にさせてパリポお姉さんは飄々とした調子で言った。
 すると、
「そうよね。美亜ついたのほんの一分前だったわよ。あなたにしては珍しいわね。なんかあったの?」
 横の和泉珠琴いずみたまきは、少し訝しげな表情で喜多見美亜=萌さんの顔を見つめる。確かに喜多見美亜こいつは時間とかそう言うのには以上にきっちりしていて、遅刻なんかもってのほか。集合時間に五分前より後に来たことなんて見たことないが、
「……へえそういう子なんだ。もっとゆるい子かと思ってたけど……猫かぶっている?」
 萌さんは、自分の体=俺に向かって小声で呟き、
「猫かぶる? なにそれ?」
 その言葉を聞きつけた和泉珠琴がさらに顔を疑わしげに歪める。
 うん。確かに喜多見美亜あいつは猫をかぶっている。クラスのリア充トップチームの中でうまくやるために、本当はもっと奔放で強めの性格を抑えている。まあ、それはあいつの選択した処世術なので、それ自体に文句を言う気はないが、体入れ替わりのせいで、そのちょと息苦しい感じのリア充生活を強いられている俺はえらい迷惑である。
「——それよりみんな。さっさと移動しない? もうイベント始まってる見たいよ」
 今日も、俺は、あいつの体の中にいないのに疑われないように気配りの連続である。
「そ、そうね。な、夏は短いのよね……今日という時を私たちは全力で生きないといけないのよ!」
 と、夏に焦るキョロ充ゲスカワ系女——和泉珠琴をうまく別の思いに誘導する。
 と言うのも、彼女は時間に敏感だ。と言うかこの高校一年の夏と言う時間が過ぎ去ることに過敏に焦っている。
 それを俺は利用する。
 中学からの彼氏持ち女子はもちろんのこと、高校に入って、新しい環境となって彼氏のてきた女子も多い。なのにトップグループ然としてクラスで偉そうにしている自分に彼氏がいない?
『偉そうにリア充の頂点に君臨してる割にあの人彼氏もいないんだって。ププー』
 和泉珠琴は、そんな風に周りから思われていないか、気が気でないようだ。
 クラスのトップカーストに入り込んだものの、彼氏と言う結果がついてこない現状を気をもむ、その思いを利用して、話題を変える。
 とは言え、もちろん、和泉珠琴は彼氏のできないような女かと言えばそれは違う。なんだかんだ言っても、容姿は良いし、ゲスなところも可愛さに変えていくようなあざとさと言うか「うまさ」がある。その気になれば彼氏なんて簡単に見つかることだろうと思う。
 ただし「そこそこ」で妥協できるのならば……だ。
 この女は自分で自分のハードル上げすぎて、それを飛び越せる彼氏を見つけることができなくなっているのだった。
 これが彼女がつるんでいる他の二人、喜多見美亜あいつほどの抜きん出た容姿なら、なかなか釣り合う彼氏いないだろうなとみんな納得するだろうし、女帝生田緑ならそもそもみんな怖くてそんなことを誰も考えもしないだろうが、リア充グループの中で微妙なポジションである和泉珠樹は、そんな状況に追い込まれてしまっていたのだった。
 ——まあ、自業自得なので、それは自分で解決するべきことなのでおれは同情もしないし、ましてや金も助けもしないが、リア充ってやはりめんどくさいもんだよね。
「さ、さあ! みんな行くわよ!」
 と俺は妙なテンションでプールに向かう和泉珠琴を見ながら少々哀れみの情を感じてしまいながらその後について行くのだが……。
 ん?
「あれ、これで全員で良いのかな?」
 俺は違和感を感じて歩きはじめたみんなを呼び止めて言う。
「全員……ですけど……あっ美亜から連絡行ってませんでした? 前に行ってた人数から、今日は一人急用で来れなくなりました」
 そうだよな。今、ここにいるのは、経堂萌夏=俺、喜多見美亜=経堂萌香、向ヶ丘勇=喜多見美亜そして和泉珠琴。足りない。このメンバーならばいつもいる、女帝——生田緑がその場にいないのだった。
 俺はそのことに、なぜか、なんだか妙な胸騒ぎのようなものを感じるのだが、その時はまだそれは俺の生活には直接関わってくることもなく、まあそう言うこともあるのかなってくらいに思って無視をしたのだった。
 あとでそれが重要な意味を持つことになるとはまだこの時は知らずに……。


 ともかく、
「うわ。夏だ」
 俺たちはロビーから移動して、水着に着替えると、まだまだ明るい太陽の降り注ぐプールサイドに出る。
 キラキラと輝く水面。その中には入っている人はあんまりおらず、隣接した建物のひさしの下の寝椅子に身を委ねた女性がカクテル飲みながら読書をしていたり、マッチョな男の人がバーのサービスの人とにこやかに話をしていたり。妙齢の女性と中年男性の怪しげなカップルが腕を絡めながら歩いていたり。
 俺の行くような公営プールとは随分と違う大人な光景が広がっていた。
「うわ、こんなところにタダで入れて萌夏さん。本当にありがとうございます」
 そんな様子を見て、感激した様子の和泉珠琴が経堂萌香——中に俺——に向かって話しかけてくる。
「いえいえ、そのかわり今日は会場をしっかり盛り上げてね!」
 俺は、そのキラキラした目のキョロ充に向かってそうこたえる。
「はい。DJイベント盛り上げれば良いんですよね。まかせてください!」
 今日は萌さんの口利きでここにタダで入れているのだった。
 と言うのも、流行りにのってナイトプール興行をやってみたこのホテルだが、知名度がいまいちなのかどうも人の集まりが悪いということのテコ入れで、今日のDJイベントが企画され——そのスタッフの知り合いだった萌さんに盛り上がりそうな可愛い子つれてくるようにサクラあつめが頼まれていたのだった。
 それに乗っかった俺たちは、そのおかげでここにタダで入れたと言うわけだが、
「なら、私も女装してきた方がよかったかしら……」
 俺の耳元で小声で囁く喜多見美亜あいつ
「それだけはやめてくれ」
 即答する。
 こいつが化粧の腕とか落とさないため俺の体で女装したり、その姿で踊って見たのアイドルになってたりするのは——まあ諦めたが、女装して水着で出てこられると、そこはやはり超えてはいけない一線というか……さすがにそれは分かるだろ。男だって。
「でも、それっぽい人たちももういるじゃない?」
「ああ……」
 すでに始まっているDJタイムでスピーカーの側で踊ってる人たちの中に明らかにそっち系の人たちもいるが……俺を勝手にその中に入れないでくれ。
「でも、別に男の参加でもスタッフの人喜んでくれたたわよ。よかったわねあんた。イケメンに私がしたおかげでいろいろお特になったでしょ」
 それ以上に俺の人生をいろいろめちゃくちゃにお前はしてくれたけどな——まあそれはここでは置いといて、曖昧に首肯した俺は、
「それよりも……萌さん」
 喜多見美亜の体の中にいる今回の首謀者——萌さんに話しかける。
「俺たちこれからどうしたら——こういうところ慣れてなくて……」
 彼女にこの後の指示をもらおうとしたのだが、
「え……そうね。暑いね。やっぱり昼は……」
 なんだか太陽の下溶けたような表情でぼんやりとしている能天気パリポは、俺たちに指示をだすどころか、
「ああ——ビール飲みて……」
 ロクでもないことしか考えていないようなのであった。
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