俺、今、女子リア充

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俺、今、女子パリポ

俺、今、女子徹夜明け

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 いつものどおりの、朝の多摩川であった。河川敷、そこにいるのは中に喜多見美亜あいつのいる俺——向ヶ丘勇の体。と、その中に経堂萌夏がいる喜多見美亜の体だった。
 それは、まあ、見慣れた光景であった。俺と喜多見美亜あいつは、もともと接点のないはずのオタクとリア充であったのえ、会うときは人目を避ける必要があったので、その会合の場所として、早朝の河川敷をよく使っていたのだった。最近はいろんな事件通してなんか二人は少し交友があるのかなくらいにはみんなに思われているだろうが、実は毎日みたいにあってるとバレるのはまずい——。
 と言うことで、秘密で会える場所が必要。そのうちのよく使う一つが、あんまりクラスメートはやってこないだろう学校から離れた山の上の神社。もう一つが、早朝ジョギングのついでに多摩川の河川敷で落ち合うと言うものだった。
 でも、そんな日々の会合に俺は今日は別の人物としてやってきて、
「うわ! 女子高生として朝にジョギングする? 私にはそんな時代なかったから新鮮だわ。結構気持ち良いものね。心地よい疲れ。体も気持ち良いけど、心もスッキリして。早起きって三文の得ってほんとね! お姉さん新しい世界開けちゃった」
 で、そんな朝の川べりに喜多見美亜としてやって来たのは経堂萌夏パリポ——まんざらでもなさそうな様子だった。
 俺が喜多見美亜あいつと入れ替わったあと、運動もろくにしないオタク生活を自分の体でやられて体型をくずされちゃかなわないと、強制的にやらされることになった早朝ジョギング。もちろん、喜多見美亜の中身が経堂萌香になってもそれはやらされるわけだったが、
「ああ、爽やか! こう言う健康的な生活も良いものね!」
 結構はまっている能天気お姉さんパリポだった。
 いや、あんたと入れ替わった俺の方は、二日酔い押し付けられるわ、徹夜明けで頭がぼうっとしているわ、不健康極まりないけどな。——と思えば、ちょっとムッとしながら、
「じゃあ、萌さんは、もう入れ替わりたくなったんですか? このまましばらく女子高生でいたいって昨日の夜は言ってましたよね」
 こうやって話していても眠りそうなのを必死にこらえながら、俺は、随分楽しそうな萌さんにむかって皮肉っぽく言う。
 しかし、
「アタシが? ああ、昨日はちょっとそんなことも思ったけど……」
 萌さんは、少し困ったような顔をすると、
「うん。自分の高校生活なんて勉強と弱いわりに練習厳しいハンドボール部の中途半端な部活ばっかりで……、ぱっとしなかったので、こんな美人リア充さんとしてJKをもう一度やれるなんてすごい魅力的だし、特にキミらみたいなありえないくらい面白いシチュエーション——得難いものだと思うけど……」
 一度言葉を切って、そしてすごい良い笑顔を浮かべながら言う。

「アタシ、パーティないと生きていけないんだ」 

 それは嘘や、作為のまるで感じられない、まっすぐな言葉だった。
 一晩、一度寝て起きて、そしてジョギング終わったすっきりした頭で萌さんが出した結論がそれであった。
 女子高生に戻って、どうやらあんまりぱっとしなかった自分のその時代をやり直す的なことに魅力を感じないわけではない。昨晩はそんなことをしてみたいと思っていた様子であった。
 だが、彼女は、やはりもともとの生活、パーティーピーポーとしての日常に戻りたいと思っているようだった。なにしろ、
「キミも一晩踊ってみて、そう思わなかった?」
「それは……」
 俺は少し口ごもりながら、昨夜のことを思い返していた。
 正直、夜の体験——パーティも悪くなかったのは事実だ。
 俺は、世間一般に流布するイメージそのままに、パーティーピーポーなんて、騒がしく下衆で、結局最後はエロいことしたくて集まっているだけの連中だろうって思っていたけ。
 ——けれど、昨日は、ちょっと考えていたのとは違ったのだった。
 もちろん、そこは、品行方正な人たちばかり集まっていた上品な所というわけではないけれど、……なんと言うか、音楽と踊りを楽しみにしている人たちの集まりという感じがしたのだった。それが好ましかった。なんか純粋な感じがして、居心地が良かった。
 それに、また思ったのと違ったことは、クラブの中にいた人たちも意外に地味だったってことだ。主催者のお姉さんの派手な服装と半ケツは今でも目を瞑ればまぶたに映るくらいに衝撃的ではあったし、どこでそんな服買うんだというようなキラキラのドレス着てるひととか、派手という次元を超えたドラァグクイーン(?)の人とかもいたが、大半の人はシンプルな服装。中には正直オタクからみてもダサいんじゃないとわかる格好の人とかいた。年齢も、若くてイケイケそうなひとだけじゃなくて、おじさんやおばさんもけっこういたし、なんとも雑多な様子の店内だった。
 しかし、そんなカオスな店の中、来ていた人たちの目的は一つ。この場を楽しむこと。みんな、この場を楽しむことを第一にしているように見えた。音楽に踊り。熱狂する。それがなんともいえない楽しい雰囲気を作り出す。
 とは言え、その様々な人の中には、単にお酒を飲みたいだけに見える人とか、ナンパばかりしている人とか、ちょっと怖そうな人がまじってたりとかもあったけど、全体的には気持ちは一つ。音と人と場所が混じったそのパーティを楽しみたくてその場に来ている。そんな、中に入り、その一部となるのは悪い体験じゃなかった。
 正直、面白かった。
 ——一晩の経験としては。
 でも、俺が、そんな人たちの中に入って、ずっとパリポとして生きていけるかと言うと? 俺はそうい人種ではないかな——もっと地味に落ち着いて生きていたいよ——と思う。そんな断絶も感じた一夜であった。
 だから、俺は萌さんの、パリポとして生きたい。それでないと生きていけないというような発言を聞き、ほっとして、
「じゃあ、戻るんですよね。萌さんは」
 俺は、ぐっと一歩前に出ながら言うのだった。
 しかし、
「うわ、この子怖い。というか自分の体なのにこわい」
「…………?」
 本気で引かれた? なぜ?
「だって、いきなりキスしようとしたでしょ。それじゃ相手が自分でも驚くよ」
 確かに、俺は足を踏み出すとともに、ぐっと顔を突き出した。あきらかにそれを狙っているように見えただろう。と言うか、俺は、たぶん、本当にキスをしようとしてた。
 だって、毎日のように喜多見美亜あいつと、キスで入れ替わった体ならばそれで元に戻らないかと、キスをしてたのだから、もう自然な流れと言うか、無意識の動きでそうしてしまっていたのだった。
 だから、
「あ、すみません。でも、多分キスしないと元にもどらないから……」
 俺は一歩後ろにもどって、少し頭を下げながら言う。
 それで、萌さんは、ちょっとこわばっていた喜多見美亜の顔の表情を和らげるが、
「そうよね。キスで入れかわったんだからキスすれば元に戻るのかもだけど……」
 と言いながら俺とあいつを交互にちらっと見て言う。
「——元に戻るの、ちょっと待ってみようかなって思ったんだ」

 はい?

 だって、パーティなしじゃ生きていけないんでしょ?
 女子高生のままじゃ行けないじゃん。そういうとこ。昨日のクラブも身分証明書で運転免許出ささせられたし。未成年じゃパリポできないじゃない?
「と言うのも、こっちの方に頼まれて……」
 と、言いながら、喜多見美亜=俺の体を見る萌さん。
 すると喜多見美亜あいつは言う。
「うん。私が頼んで見たの。せっかくのチャンスじゃない? こうして頼もしいパリポのお姉さんの助力を得られることになったし……これをつぶすのはもったいないわよ」
 ——? どうするつもりだ喜多見美亜こいつは。
「高校生でも入れるパーティがないのか聞いたら、それなりにあるようなのよ。ならせっかくの機会だから、ここでそう言うののデビューも良いかなって……」
 ああ、話聞いてるうちにパリポもやってみたくなったってわけ? このリア充は。
 でも、
「良いかなって……別に俺はそんなのはやっぱり遠慮……」
 俺はそんなの付き合いきれなと思うのだが、
「ハードディスク!」
「うっ……」
 俺は——ハードディスク——魔法の呪文に凍りつく。
 体が入れ替わった直後、ショックでどうすれば良いのか分からなかった俺とは対照的に、あっという間に俺のパソコンのハードディスクのバックアップをとって、言うことを聞かないとその中身を流出させると脅してきた、抜け目のない喜多見美亜こいつ。この頃はあまり言わなくなったなと油断していたら、ここぞと言うところで出してくる。
「そういや、私、へんなフォルダ見つけたのよね。’嫁’とか名前ついてたけど、これは『読め』の変換間違い? じゃあ読んでもいいのかしらね? それとも見るものかしら?」
 一気に冷や汗をかく俺。それは、かなりまずいフォルダだ。基本は毎クールのアニメの嫁の画像をコレクションしているものだが、それだけではなく二次創作系の……肌色が……ううん……これは……、
「それで、俺はどうすればいいんだ……」
 あっさりと脅しに屈する俺であった。
「ん? あ、即答ね。まあ。わかれば良いのよ。わかれば」
「……? なんだかよく分からないけど話はまとまったのかな?」
 そして、意味の不明のやりとりに戸惑っている様子の萌さん。
「はい。向ヶ丘様にも快く同意いただきました」
 それに、満面の笑みでこたえるあいつ。
 くそ。今に見ておれ。ハードディスク。ハードディスクさえなければ。と俺は今更どうしようもならないことを苦悶の表情で考え続けるが、
「そう? どっちにしても、私の顔そんな歪ませて、シワつくって欲しくないのだけど」
「あ、これはすみませんでした。ほれ、君、ハードディスク。ハードディスク」
「……す、すみませんでした(ニコ)」
 おれは喉元まででかかった文句をぐっと飲み込みながら、無理やりの笑顔をつくる。
「……なんかよくわからないけど。もう話はいいのかな?」
 顔を能面のように引きつらせたまま首肯する俺。
「……? まあ、いいか。ともかく、女子高生としてパーティに参加するなんてアタシとしてもありえないチャンスなので、乗ることにしたのよ。夜のパーティとかしばらく行けなくなるのは残念だけど、失った青春取り戻す的な……」
「だから、いろいろ紹介してもらって連れて行ってもらえることになったのよ。高校生でも入れるようなパーティをね——基本昼になってしまうみたいだけど——最後には野外イベントの泊まりも企画してるから期待してね」
 と笑顔ながら有無を言わせぬ迫力を顔に浮かべながら言う喜多見美亜あいつ
 俺は、はあ、嘆息しながらかるく首肯する。
 ああ、もう諦めたよ。もう予定をバッチリくんでいるのなら、喜多見美亜こいつはもうテコでも動かんな。こいつはそういうやつだ。と、観念すると、
「で、最初はどこに行こうっていうんだ?」
 まずは、せめて心構えをしようと予定を確認する。
 まあ、一回クラブの体験を済ましているので、こいつよりも今のところ慣れていると言っても良いかもと少し心に余裕を持って次にくる言葉を待つが、
「それはね、実は今日の夕方からなんだけど、都内のあるとこで面白ろそうなのやってて」
 喜多見美亜あいつの選択はいつもおれの予想の上を行く。あいつは、うっとりとした顔で言うのだった。

「プールでDJだって。そうよ今日はナイトプールに行きましょう!」
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