俺、今、女子リア充

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俺、今、女子リア重

俺、今、ビル好き女子

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 そして、新宿西口で他の連中と別れ、そこから続く高層ビル街。その摩天楼の下を歩きながら、俺は初めてこの街に来たときのことを思い出す。
 それは、物心がついたかつかないかの頃のこと。
 確か家族で出かけた新宿南口のデパートで買い物の後、
『高層ビル街でも見に行くか?』
 となんだか自慢げな顔で言う父親の言葉に頷いて、てくてくと歩いて四角いビルの続くビル街をただ無為に歩き、
『勇ちゃんすこごかったよね? ビル高かったね? 面白かった?』
 とか母親に言われて微妙な気持ちで頷いたのを覚えている。

 でも、正直、ただビル見せられただけで多白いわけないよね。

 でも、その頃は愛想の良い子供だった俺は、
『おっきい! おっきい!』
 とか妙に喜んでみせて親をニッコリとさせたのを覚えている。
 ——ああ、やな子供!
 親を機嫌よくさせれば、その後なんか買ってもらえそうなのわかってたからね俺。幼いながらも、策略を持って……まあそんな当時ゲットできるなんて帰りのアイスクリームくらいだけど。
 まあ、いいや。
 そんな天使のふりをすればなんでももらえる幼年時代もいつのまにか終わる。
 天使のふりをするのにも無理があるひねくれた小学生に成長した俺は、会社で中途半端な役がついて社畜に磨きがかかり、休みの日でもさっぱり家にいなくなってくた両親にそもそもなにかねだる機会もなくなったまま、そのまま立派な孤高の男に成長したと言うわけだ。
 しかし、ね、そういうこだわりひねくれ高校生になった俺は逆に、今度はこの高層ビル街を歩くのが本気で興味深く思えるようになっていた。
 昨日、今日新宿の高層ビル街に行くから、そもそも高層ビルってなんなの? 高いビルのこと言うのは間違いないんだろうけど、何階から高層ビルなの?
 とか、とか。色々気になったのだった。
 ならば、当然、あっさりスマホに頼って検索して、いろいろ知識を溜め込んでからあるく高層ビル街は——なんか違って見えて楽しくなくもない?
 いや、いやかなり興味深い摩天楼……って。
 あ、そもそも、摩天楼ってどんな意味か知ってるかい?
 元々はアメリカの高層ビルを表現したスカイスクレーパー。つまり空(スカイ)を削る(スクレーパー)ようなビルの日本語訳って言われてるみたいだね。
 天をさする楼。
 楼は「複数階の建物」「高い建物」とか言う意味なので、空をこすって削るような高い建物って意味のようだ。本当に直訳だね。
 ただね。今このビル街歩いて空を見上げても、空を摩るってほど高いってインパクトはないよね。
 多摩川の向こうになる地元でも、そりゃこんなに密集してないけど、同じような高さのマンションとか結構あるしね。このくらいのは見慣れているのかあんまりびっくりはしない。
 都庁とかはなんかさすがに異様な感じで存在感あるけど、それでも天にそびえるって感じはしない。
 幼年時代の俺は、きっと同じように思ってたんだろうね。親が『大きいね』とか言うから話し合わせたけど、実際その頃には四、五十階のビルとか結構見てたし、横浜行った時に見たランドマークタワーの方が高いしね……。

 で、まあ、というわけで高さ的には今となっては特筆すべきところのないこの西新宿のビル群だけど、地震国日本で高層ビルを実現するために様々な努力を重ねたその結果——技術革新の最前線となった場所であったらしい。
 とはいえ、日本の高層ビルの最初は新宿ではなく、官庁街の霞ヶ関、そこに建てられた霞が関ビルディングとのことだ。このビルがちょうど東京オリンピックのころ建てられて、初めて高さ百メートルを超えた。これが超高層ビルの初めてとなっているらしい。
 その前の日本では、百尺規制という、百尺(約三十メートル)の建物の高さ規制があってそれを超える建物は法律上、建てられなかったそうだ。それは、あんまり高いビル建てられて日陰ばかりの街になると困るとか、昔の建築技術の耐震限界とかもろもろの要因から決められてた規制だったんだけど、日照は他の規制方法で確保して、また技術の向上で地震国日本でも高いビルが建てられるようになってきた。
 高度成長期で人も物も増えてた日本は、超高層ビルという入れ物をつくってそれを収容する必要があったということのようだ。
 そして、空へ向かって伸びる都市の最前線として選ばれたのが新宿。ここが、丸の内から霞ヶ関あたりの都心への都市機能の集中を緩和するため、副都心として開発されることになったのだった。
 駅のすぐそばに浄水場があったのを移転することにできた東京としては広大な土地に、百尺規制がなくなり高さ二百メートル級のビルが建てられていくことになる。それが日本の摩天楼の始まり。
 一度、関東大震災による被害などにより途絶えた都市の空への発展がはじあったのであった。

「へえ、そうなの。生田さんは物知りなのね。お姉さんずっと新宿で働いているけどそんな歴史しらなかったわ」
「いえ……」
 で、新宿西口から歩き出した俺は、高層ビルのことを考えながら歩いていたらいつの間にかついていた今日の目的地。会食という名のお見合いの場所。ある外資系高級ホテルまで到着していた。
 そしてそのホテルの中にあるヘアサロンでメイクをされている途中であった。
 美容師のお姉さんは、ホテルの中の敷居のたかそうな店に珍しく女子高生がやってきたというので、その素性に興味を持っていろいろと話しかけてくるのだった。

 ——今日ホテルで結婚式やってる家の人?
 ——違う?
 ——夜の財界のパーティに参加……のわけないか。
 ——あ? 親族で食事?
 ——ああ……そうだよね。それか。
 ——やっぱりね。
 ——もう少し年齢上だったら、お見合いかな? とか思っちゃうけど。
 (ギクッ)
 ——はは、そうだよね。女子高生でお見合いはないよね。
 (汗)
 ——あれ、なんか表情がこわばってますね。少しフェイスマッサージ……
 ——え、西新宿で働いていたら高層ビルは興味があるかって?

 というわけで、微妙に核心に達してしまいそうな美容師のお姉さんから話をそらすためにし始めた高層ビルのウンチクが妙に興味を持たれてしまって、その後ずっと話続け……、

「はい。終了です。もっと高層ビルの話が聞きたいところだけど。お疲れさまでした……」

 俺は目の前の鏡の中の超美人の姿にびっくりしながら、その肩口後ろにうつる店の入り口に、生田緑のじいさんの秘書が現れたのを見る。
 ……ああ、そろそろ見合いの時間だ。
 ぎりまで、そのことを深く考えないようにしていたけど、来るものは来る。
 俺は、なんの因果か、ついに男と見合いまでしなければならなくなった我が身の不遇を嘆きながら、大きな嘆息のあと、

 ——やるしかないか。

 心の中で諦念の心でそう呟くのであった。
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