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俺、今、女子リア重
俺、今、女子見合い中
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さて、ついに見合い本番である。ヘアサロンからでた俺は、ロビーで俺が今回入れ替わった相手である生田緑のじいさんと合流する。そして、そのまま階をあがってホテルの日本料理屋の個室に入る。
生田家の方が今日の会食のホストであるということで、先に入った俺たちは、相手の家族が来るのを高級そうな日本茶を飲みながら待っているのだった。
それは、退屈だが緊張感漂う不思議な時間だった。じいさんと俺は、特に会話もないままただお茶をちびりちびり。部屋の中はピリピリした空気で緊張感漂うが、待つ以外に他に何もすることのなければ暇でしょうがなくついついあくびが出そうになり……・
——うわっ。
俺があくびを抑えようと息を飲み込もうとする瞬間にじいさんギロリと睨まれれば一瞬で眠気も吹き飛ぶ。
でも、そんな感じで無言の空間に退屈すると……・
「は、はい——ねてません。大丈夫です」
「…………! しっかりせい!」
今日も朝早くから起こされて修行だったので、この時間でも正直かなり眠気があって、気づけば首がカクッとなってしまうが、じいさんがそんなたるんだことを許すわけもなく、暇つぶしでスマホとか見るのももちろんダメそうだし……。
なんとも辛く長い時間を俺はじいさんに睨まれながら過ごすことになるのだった。
しかし、個室の引き戸が少し開けられて、じいさんの秘書が顔を出すと目でなにやら合図してさっと消える。
ああ、これって、多分今日の見合い相手の家族がついたとかじゃないかな。
「……お客さまが参りました」
と思ったら、もう一度すっと開けられた引き戸の向こう側から現れたのは、高価そうなスーツを来た中年の夫婦と、なんだかいかにもサラブレットといった雰囲気を醸し出している若いイケメン男子。
この人が生田緑の今日の見合い相手?
「生田さん、遅れまして大変申し訳ない! こんなギリギリの到着になりまして」
「いえ、まだ約束の時間にはなっておりませんですぞ」
夕方の五時からの会食だったが今は……四時五十九分三十秒を回ってるな。確かにギリギリだが、別に時間に間に合ったのだから良いのでは思うが、
「いえいえ、ずいぶんお待ちになたのでは」
「そんなことはありません。私も孫もついたのはついさっきでして」
本当は三十分以上前からひかえていたじいさんだが、そんなことはおくびにも出さずに、気にするなという感じで微笑しても、随分恐縮してそうな会食相手のお父さんである。
「お待たせしてしましてもうしわけありません……」
くどいくらいに謝罪を繰り返す。
こりゃ、この二人の関係は圧倒的に生田緑のじいさんのほうが上だな。議員を引退してもう二十年くらいはたつとはいえ、長年、政界で築き上げた実績や人脈は今でも無視できないものをもっているらしいし、——なによりその風格。
魑魅魍魎の集う政治の世界で、さまざまな修羅場くぐって来たなと思わせる老人の纏う凄みに、この押しの強そうな現役政治家のおじさんでも圧倒されているように見える。
とはいえ、おじさんの風格も相当なもので、もし自分の父親がこの人だったら、俺はきっと何にも反抗できず言われたままにしたがうだろうなと思わせる迫力を持つのだが、そんな人でも、じいさんの目がぎらりと光る度、その眉間に少しうっすらと汗を浮かべながら、息を飲み込んでいるのがわかる。
「まあ、渋沢さんは、この引退した老いぼれとは違いまして現役で日本のために粉骨砕身なされておりますゆえ……時間ぎりぎりになることなど気になさらずに……」
「……ありがとうございます」
じいさんに肩をポンと叩かれてやっとひといきついた感じのおじさん。渋沢なんとかとかいう現役の国会議員だとのことだが、じいさんの前ではまったく形無しである。
で、最後に二人が相互に首肯しあって、なんとなく場も落ち着いたことから会食が始まる。店の人たちはさすがプロ。個室の雰囲気を外から感じ取っていたかのようなちょうど良いタイミングで、料理が運び込まれる。
前菜……日本料理だから先付けっていうのかな? 綺麗な朱色で柄の書かれた細長い角皿が目の前に置かれて、野菜の煮物、魚卵の佃煮みたいなの、鴨肉のハムみたいなのがちょこんと乗っている。
そして、全員の前に皿が置かれたら、飲み物を何にするかを聞かれて、大人たちはビールを頼み、俺と、相手の御曹司は烏龍茶をたのみ、間髪おかずにすぐにやって来たところで乾杯。
「本日は、生田様と親交を深めますこんな機会をいただきまことにありがとうございました」
ビールをぐいとのみ緊張もすこしとけて落ち着いた感じになった渋沢さんは次に家族の紹介を始める。
「それではあらためまして……本日参りましたには家内の智恵と息子の敬一です」
ちなみにおじさんは清志とかいうらしいが、もちろんじいさんとは旧知の中なのであえて名乗りはしない。
「こちらも——娘の緑です」
紹介されて俺は軽く会釈をする。
「やはり、紗さんに似ていますね……」
「うむ」
紗というのは生田緑の母親。彼女が小さい頃、父親の一郎と一緒に交通事故で亡くなったのだが、
「同じようにとてもお美しい……」
生田緑に似た和風クールビューティであったようだ。
そして、今日、ちゃんとプロのメイクで磨き上げた女帝は、母親に負けず劣らずの、とびきりの美人に仕上がっていたのだろう。おじさんは、懐かしさと感嘆がいりまじったような、うっとりとした目つきになっていた。
——確かに今日の女帝はすごい美人であった。
もちろんいつもの学校でも、彼女は学年の美少女ランクのトップグループとはみんなに思われているだろうが、派手目の顔の喜多見美亜とか、あるいは愛嬌がある和泉珠琴なんかと一緒にいると、おとなし目の顔の彼女は、どちらかというと印象の薄い感じは否めない。
しかし、ちょっと化粧をするだけで、
「あら、敬一見惚れちゃってるのかしら?」
「母さん……!」
とてもモテそうな感じのイケメンおぼっちゃまも思わずガン見してしまう超美人の誕生であった。
それは、単に化粧映え化粧映えする顔だからということではない。
いや、もちろん生田緑は、化粧映えする端正な顔なのだが、化粧に負けない地顔の強さ、彼女の今までの人生で培って来た意思の強さ、歴史のようなものも感じられる。
化粧で自分を覆い隠すのではなく、化粧を自らの個性の中に飲み込んで、自分が自分でありながら、さらに進化を遂げた生田緑となる。
もし今日のルックスで生田緑が学校に行ったなら、学校中の男が騒然となるだろう。そんな風に俺には思えた。
でも、
「いやいや、緑さんとはよっぽどの漢じゃなきゃつりあいませんな」
なぜか俺の脳内では「おとこ」という言葉は「漢」と変換されていたが、生田緑と釣り合うというのは、つまりそういうことなのだろうと思ったのだった。
正直、俺ら高校生の若造ではさっぱりつりあうことはないだろう。
単にルックスの良い男なら釣り合うというものではなく、彼女の運命というか業と立ち向かえるような男、いや漢でなくてはその横に立つことはできない。
そんな覚悟が求められる女。
それが生田緑なのだった。
「いえ、愚孫をあまり調子に乗らせないでくだされば……」
と言う爺さんの口元は少しほころんでいた。そりゃ孫娘が褒められてうれしくないわけはないのだろうし、毎日の朝業では厳しいことを言っていても彼女のことを認めているのだろう。
「……それよりも、敬一殿もなかなかの青年のようですな」
今の関心は、そんな孫に釣り合う男を渋沢家の人たちが連れて来たかどうかと言うことのようだ。
じいさんは、さっき渋沢家のお父さんをビビらせた、やたらと迫力のある目で息子をギロリと睨みながら言う。
「そんな、私みたいな若輩者……」
しかし、このイケメンは、アフリカゾウともにらめっこできそうなじいさんの眼光をあっさりと受け止めると、まったく焦らずに自然な感じで言葉を返す。
俺は、ほほう、こいつ単なるおぼっちゃまってだけじゃなさそうだなと少し関心してイケメンを見る。
すると、ちょうど顔を戻したイケメンと目があって、フッとやさしく微笑む彼。
——ぽっ。
あれ? 男相手に少し顔を赤らめてしまう俺。
恥ずかしくて顔を伏せる俺。れはいくら女の体に入れ替わっているとはいえ、男の笑顔にドキッとしてしまった自分が恥ずかしくなってしまったからであるが、渋沢家母からは明らかに「あらあら」みたいな視線を感じる。
……いや、そうじゃないんだから。
と言うわけにもいかず、
「敬一殿のことは、いろいろお聞きしてますよ」
じいさんの言う渋沢家息子、今日の見合い相手の人となりをじっと下を向いたまま聞く羽目になる。
曰く。都内有名私立を幼稚舎からずっとトップで今にいたる。
曰く。スポーツ万能。特に今打ち込んでいるボートは下手したらオリンピックが狙えるかも。
曰く。子供の頃から正義感が強く、いじめられている級友を庇う為、小学校低学年で上級生あいてに大げんかをした。
曰く。男女の付き合いは清く正しくをもっとうに、付き合う人とは一生添い遂げると思っている為、こんなイケメンなのに彼女なし。
曰く。小さい頃から習っているビオラもプロ級。実は、いろんなオーケストラから誘いを受けている。
曰く。男友達からの評判も上々。先輩よりは頼られ、後輩よりは信頼される漢である。
……。
また「漢」という文字で脳内変換しちゃったよ。
というか……。
なんだ……。
——もうこの人でいいんじゃない?
俺は、じいさんが秘書に調べさせたのだろうこのイケメンの完璧超人ぶりを聞きながら、そんなことを思っていたのだった。
女帝——生田緑に釣り合うこんな男はそうそうはいないだろうから、彼女はこの敬一さんと組んで彼女が政界に進出して美人すぎる議員とかなんとか言われてテレビとかにで話題になればいいのでは。
そんな未来を思いながら、この場をぶち壊すなんているもったいないことは生田緑のためにやっちゃいけないだろと思い、次々に出される高級和食の皿をどんどん平らげながら、締めの和菓子を食べて、終始にこやかに進行した会食を終えるのだった。
生田家の方が今日の会食のホストであるということで、先に入った俺たちは、相手の家族が来るのを高級そうな日本茶を飲みながら待っているのだった。
それは、退屈だが緊張感漂う不思議な時間だった。じいさんと俺は、特に会話もないままただお茶をちびりちびり。部屋の中はピリピリした空気で緊張感漂うが、待つ以外に他に何もすることのなければ暇でしょうがなくついついあくびが出そうになり……・
——うわっ。
俺があくびを抑えようと息を飲み込もうとする瞬間にじいさんギロリと睨まれれば一瞬で眠気も吹き飛ぶ。
でも、そんな感じで無言の空間に退屈すると……・
「は、はい——ねてません。大丈夫です」
「…………! しっかりせい!」
今日も朝早くから起こされて修行だったので、この時間でも正直かなり眠気があって、気づけば首がカクッとなってしまうが、じいさんがそんなたるんだことを許すわけもなく、暇つぶしでスマホとか見るのももちろんダメそうだし……。
なんとも辛く長い時間を俺はじいさんに睨まれながら過ごすことになるのだった。
しかし、個室の引き戸が少し開けられて、じいさんの秘書が顔を出すと目でなにやら合図してさっと消える。
ああ、これって、多分今日の見合い相手の家族がついたとかじゃないかな。
「……お客さまが参りました」
と思ったら、もう一度すっと開けられた引き戸の向こう側から現れたのは、高価そうなスーツを来た中年の夫婦と、なんだかいかにもサラブレットといった雰囲気を醸し出している若いイケメン男子。
この人が生田緑の今日の見合い相手?
「生田さん、遅れまして大変申し訳ない! こんなギリギリの到着になりまして」
「いえ、まだ約束の時間にはなっておりませんですぞ」
夕方の五時からの会食だったが今は……四時五十九分三十秒を回ってるな。確かにギリギリだが、別に時間に間に合ったのだから良いのでは思うが、
「いえいえ、ずいぶんお待ちになたのでは」
「そんなことはありません。私も孫もついたのはついさっきでして」
本当は三十分以上前からひかえていたじいさんだが、そんなことはおくびにも出さずに、気にするなという感じで微笑しても、随分恐縮してそうな会食相手のお父さんである。
「お待たせしてしましてもうしわけありません……」
くどいくらいに謝罪を繰り返す。
こりゃ、この二人の関係は圧倒的に生田緑のじいさんのほうが上だな。議員を引退してもう二十年くらいはたつとはいえ、長年、政界で築き上げた実績や人脈は今でも無視できないものをもっているらしいし、——なによりその風格。
魑魅魍魎の集う政治の世界で、さまざまな修羅場くぐって来たなと思わせる老人の纏う凄みに、この押しの強そうな現役政治家のおじさんでも圧倒されているように見える。
とはいえ、おじさんの風格も相当なもので、もし自分の父親がこの人だったら、俺はきっと何にも反抗できず言われたままにしたがうだろうなと思わせる迫力を持つのだが、そんな人でも、じいさんの目がぎらりと光る度、その眉間に少しうっすらと汗を浮かべながら、息を飲み込んでいるのがわかる。
「まあ、渋沢さんは、この引退した老いぼれとは違いまして現役で日本のために粉骨砕身なされておりますゆえ……時間ぎりぎりになることなど気になさらずに……」
「……ありがとうございます」
じいさんに肩をポンと叩かれてやっとひといきついた感じのおじさん。渋沢なんとかとかいう現役の国会議員だとのことだが、じいさんの前ではまったく形無しである。
で、最後に二人が相互に首肯しあって、なんとなく場も落ち着いたことから会食が始まる。店の人たちはさすがプロ。個室の雰囲気を外から感じ取っていたかのようなちょうど良いタイミングで、料理が運び込まれる。
前菜……日本料理だから先付けっていうのかな? 綺麗な朱色で柄の書かれた細長い角皿が目の前に置かれて、野菜の煮物、魚卵の佃煮みたいなの、鴨肉のハムみたいなのがちょこんと乗っている。
そして、全員の前に皿が置かれたら、飲み物を何にするかを聞かれて、大人たちはビールを頼み、俺と、相手の御曹司は烏龍茶をたのみ、間髪おかずにすぐにやって来たところで乾杯。
「本日は、生田様と親交を深めますこんな機会をいただきまことにありがとうございました」
ビールをぐいとのみ緊張もすこしとけて落ち着いた感じになった渋沢さんは次に家族の紹介を始める。
「それではあらためまして……本日参りましたには家内の智恵と息子の敬一です」
ちなみにおじさんは清志とかいうらしいが、もちろんじいさんとは旧知の中なのであえて名乗りはしない。
「こちらも——娘の緑です」
紹介されて俺は軽く会釈をする。
「やはり、紗さんに似ていますね……」
「うむ」
紗というのは生田緑の母親。彼女が小さい頃、父親の一郎と一緒に交通事故で亡くなったのだが、
「同じようにとてもお美しい……」
生田緑に似た和風クールビューティであったようだ。
そして、今日、ちゃんとプロのメイクで磨き上げた女帝は、母親に負けず劣らずの、とびきりの美人に仕上がっていたのだろう。おじさんは、懐かしさと感嘆がいりまじったような、うっとりとした目つきになっていた。
——確かに今日の女帝はすごい美人であった。
もちろんいつもの学校でも、彼女は学年の美少女ランクのトップグループとはみんなに思われているだろうが、派手目の顔の喜多見美亜とか、あるいは愛嬌がある和泉珠琴なんかと一緒にいると、おとなし目の顔の彼女は、どちらかというと印象の薄い感じは否めない。
しかし、ちょっと化粧をするだけで、
「あら、敬一見惚れちゃってるのかしら?」
「母さん……!」
とてもモテそうな感じのイケメンおぼっちゃまも思わずガン見してしまう超美人の誕生であった。
それは、単に化粧映え化粧映えする顔だからということではない。
いや、もちろん生田緑は、化粧映えする端正な顔なのだが、化粧に負けない地顔の強さ、彼女の今までの人生で培って来た意思の強さ、歴史のようなものも感じられる。
化粧で自分を覆い隠すのではなく、化粧を自らの個性の中に飲み込んで、自分が自分でありながら、さらに進化を遂げた生田緑となる。
もし今日のルックスで生田緑が学校に行ったなら、学校中の男が騒然となるだろう。そんな風に俺には思えた。
でも、
「いやいや、緑さんとはよっぽどの漢じゃなきゃつりあいませんな」
なぜか俺の脳内では「おとこ」という言葉は「漢」と変換されていたが、生田緑と釣り合うというのは、つまりそういうことなのだろうと思ったのだった。
正直、俺ら高校生の若造ではさっぱりつりあうことはないだろう。
単にルックスの良い男なら釣り合うというものではなく、彼女の運命というか業と立ち向かえるような男、いや漢でなくてはその横に立つことはできない。
そんな覚悟が求められる女。
それが生田緑なのだった。
「いえ、愚孫をあまり調子に乗らせないでくだされば……」
と言う爺さんの口元は少しほころんでいた。そりゃ孫娘が褒められてうれしくないわけはないのだろうし、毎日の朝業では厳しいことを言っていても彼女のことを認めているのだろう。
「……それよりも、敬一殿もなかなかの青年のようですな」
今の関心は、そんな孫に釣り合う男を渋沢家の人たちが連れて来たかどうかと言うことのようだ。
じいさんは、さっき渋沢家のお父さんをビビらせた、やたらと迫力のある目で息子をギロリと睨みながら言う。
「そんな、私みたいな若輩者……」
しかし、このイケメンは、アフリカゾウともにらめっこできそうなじいさんの眼光をあっさりと受け止めると、まったく焦らずに自然な感じで言葉を返す。
俺は、ほほう、こいつ単なるおぼっちゃまってだけじゃなさそうだなと少し関心してイケメンを見る。
すると、ちょうど顔を戻したイケメンと目があって、フッとやさしく微笑む彼。
——ぽっ。
あれ? 男相手に少し顔を赤らめてしまう俺。
恥ずかしくて顔を伏せる俺。れはいくら女の体に入れ替わっているとはいえ、男の笑顔にドキッとしてしまった自分が恥ずかしくなってしまったからであるが、渋沢家母からは明らかに「あらあら」みたいな視線を感じる。
……いや、そうじゃないんだから。
と言うわけにもいかず、
「敬一殿のことは、いろいろお聞きしてますよ」
じいさんの言う渋沢家息子、今日の見合い相手の人となりをじっと下を向いたまま聞く羽目になる。
曰く。都内有名私立を幼稚舎からずっとトップで今にいたる。
曰く。スポーツ万能。特に今打ち込んでいるボートは下手したらオリンピックが狙えるかも。
曰く。子供の頃から正義感が強く、いじめられている級友を庇う為、小学校低学年で上級生あいてに大げんかをした。
曰く。男女の付き合いは清く正しくをもっとうに、付き合う人とは一生添い遂げると思っている為、こんなイケメンなのに彼女なし。
曰く。小さい頃から習っているビオラもプロ級。実は、いろんなオーケストラから誘いを受けている。
曰く。男友達からの評判も上々。先輩よりは頼られ、後輩よりは信頼される漢である。
……。
また「漢」という文字で脳内変換しちゃったよ。
というか……。
なんだ……。
——もうこの人でいいんじゃない?
俺は、じいさんが秘書に調べさせたのだろうこのイケメンの完璧超人ぶりを聞きながら、そんなことを思っていたのだった。
女帝——生田緑に釣り合うこんな男はそうそうはいないだろうから、彼女はこの敬一さんと組んで彼女が政界に進出して美人すぎる議員とかなんとか言われてテレビとかにで話題になればいいのでは。
そんな未来を思いながら、この場をぶち壊すなんているもったいないことは生田緑のためにやっちゃいけないだろと思い、次々に出される高級和食の皿をどんどん平らげながら、締めの和菓子を食べて、終始にこやかに進行した会食を終えるのだった。
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