俺、今、女子リア充

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俺、今、女子リア重

今、俺、女子待ち合わせ中

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 喜多見美亜あいつと俺は地元駅前で人が来るのを待っていた。別にもったいぶる必要もないので、っさりとその待ち人の名を言うけれど、それは、待ち人は、女帝——生田緑だった。今、喜多見美亜あいつの体のにいれかわっているクラスのリア充の頂点。その彼女にも、この後生田家に行ってもらおうと思っているのだった。
 というか、ついてくると言い出したのだった。
 まあ行くのは生田緑の本人の家なんだから、そのご本人様が行って何が悪いのか? といえば悪くはない。体が入れ替わっていたって帰りたければ帰れば良い。
 まあ、でも、ちなみに、俺は体がいれからってしまってからはあんまり自分のうちに戻りたいと思ったことは正直ないな。
 ネット環境が整っていると、別にどこに住んでいてもあまり変わりないのではないか? それが、俺の体入れ替わり生活数カ月にして到達した結論だ。
 最初は、部屋に残してきたいろいろなものが気にならないでもなかった。
 なけなしの小遣いを費やして買ったマンガや円盤。撮りためたアニメ放送や雑誌。食玩やフィギュア。大量のラノベや、それに比べると少数の一般書籍。
 まあ、他にもあれやこれや。オタク生活の中で溜め込んだ様々なお宝たち。
 他の人から見たら取るに足らない、くだらない、そんなジャンク同様のものに見えるかもしれないが、俺にとっては、自らの分身にして自分の生きた証。誰がなんと言おうが、誇るべき我が人生。そんな様々なものたちから俺は離れられない。俺はこいつらと一生を共にする。
 そんな風に思っていたのだった。
 しかし……。
 離れてみたら、別になんとかなるもんだ。
 マンガにしたって、アニメにしたって、ラノベにしたって……一度読んだら二回見たり読んだりするか?
 いや、したのもないわけじゃないけど——ほとんどないな実は。
 二度目の鑑賞は、また違うより深い楽しみがあるかもしれないということは否定しないが、自分はそういうタイプじゃないな。
 新しいものが見たい、読みたい。
 同じような話でも、違った可能性を見せてくれる物語を知りたい。
 そんな風に思ってしまう性分なのだった。
 ということが喜多見美亜あいつ身体入れ替わって、自分のお宝から引き離されて出た結論だった。
 え、家に帰る理由はそれだけじゃないだろって?
 それはそうだな。
 わかるよ。家族に会いたくないかとか、住み慣れた自分の家の方が落ち着かないかとか言うんだろ。
 まあ、そういうのもまるでないと言わないが、そもそも社畜の共働きの両親は仕事でほとんど家にいないし、一人っ子の俺は兄弟もいないし、住み慣れた家といっても喜多見美亜あいつの部屋に慣れたらそれはそれで住みやすいからな。
 ——って、今は俺は生田緑なんだっけ。あいつに入れ替わっている時間が長いからか、どうもじぶんがあいつ・・・であるかのような気がなんかしてしまうんだよな。
 そして、なんかそれが心地良いような、胸の奥が痛いような、なんとも微妙なモヤっとした気持ちしてくるのだけれど……。

 ——ともかく。

 なんだか自分でもよくわからないそんな感情のことを考えている暇はなくて。
 今、考えなきゃいけないのはこれから向かう生田緑の家のこと。
 渋沢家の御曹司との縁談をなんとかしないと、このまま一生俺はあの家の子だ。
 うん。生田家は流石にないな。なんの因果か、ここ数ヶ月でいろんな女性の人生を体験することになったけど、生田緑の役割は俺には無理だな。
 それは耐え難い。
 俺という人間の許容限度を超えている。
 というか、俺が思う人間というのの定義からはずれている。女帝——生田緑の人生って。
 人間って弱くのんべんだらりと生きるべきだ。もちろんそればっかりではと思うが、少なくともそんなダメさを持って、いろいろ後悔しつつ、なんかいつの間にか前に進んでいる。そういうのか人の生だって俺は思っている。
 でも人の上に立つことを宿命付けられた、そんな家に生まれてしまった彼女にはそんな甘えは許されない。
 尊敬すべき人たちだと思うよ。政治家っていったらなんか悪徳っぽいなくらいしか思ってなかった俺のイメージを覆す、他人に厳しいがそれ以上に自分を律すること大なじいさんと孫娘。俺みたいなやつでなく、こういう人たちこそが人を統べる人なんだろうなって思う。
 うん、人を統べるには、人の上に立つ、人よりも上にいくわけなんだから、俺みたいな凡人からみたらそれはもう人じゃないんだろうな。
 俺にはとてもつとまらないな。

 ——なんて思っていたら……。
 
「ごめんなさい。待った?」
 その統べる者たる生田緑の到着だった。
 俺よりちょっと先に女帝に気づいた喜多見美亜あいつが先にこたえる。
「そんなに……私たちもすぐ近くにいて——今ついたところよ」
 俺たちは待ち合わせの直前まで駅近くの喫茶店にいて、待ち合わせ時間の五分前くらいを目指して移動したのだった。でも、気が焦ってるのか、なんか早足になってしまい、着いたのはのは十分くらい前と少し早めであったが、女帝がついたのも待ち時間ちょうどなので別に待ったと言うほどは、遅れていないが、
「なんか良い雰囲気だったのでこえかけるのためらっちゃったわ」

「「はあ!」」

 どうも先に着いた俺たちをじっと観察していたらしかった。
「なんか変な感じね、こうして自分を他人の目から見るのは。そのうえ……向ヶ丘くんと仲良くしている……いえ、向ヶ丘くんの中身が美亜なのは知ってるけど……知ってるからなおさらだけど」
 女帝は、一度言葉を切ると、なんだかものすごく今日深そうな目で俺たちを交互にじろじろと見つめたあと、
「……なるほどそういうことね」
 喜多見美亜あいつ、つまり俺の顔をじっと見つめて言った。
 すると、あいつ、というか俺の顔がカーッと赤くなって、
「ふふ、これならもしかしたら成功するかもしれないわね。今日の作戦」
 と面白そうな表情で言うのだった。
 朝に、体は小さいのに迫力がシロクマ級の怪物に何事も嘘は見逃さんとじっと睨まれた俺からすれば、こんな嘘っぱちの恋愛関係でそのじいさんを騙そうという今日の俺らの企みに、喜多見美亜あいつといい女帝といい、なんで成功の可能性をあるとふんでいるのかさっぱりわからないが……。

 ——もうここまできたら、

「ともかく、さっさと移動しよう」

 やるしかないと思って俺は言うのだった。
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