俺、今、女子リア充

acolorofsugar

文字の大きさ
98 / 99
俺、今、女子リア重

私、今、男子中座中

しおりを挟む
 私、喜多見美亜は、その瞬間背筋をさあっとよく無い感覚が走るのに気づいた。

「あら? 私は構わないわよ」

 緑がそんな言葉を言った瞬間。
 ——え、それどういう意味?
 心が凍った。
 緑が言っている「構わない」とは、向ヶ丘勇と婚約——結婚までいのもの構わない。
 そういう意味にしか聞こえない
 そういう意味なの?
 ……とか思うと、胸がドキドキして、苦しくて。
 これは……。
 わかってるわよ——そういうことよ。
 隠さないわ、私は。少なくとも自分の心を自分の心には。
 でもまさか、緑もそんな……。
 ——わけはないわよね?
 クラスの女帝がオタクぼっち男と……?
 まあ、今その中にいるのは私だけど、あの言葉はそういう意味じゃない。
 「構わない」のは向ヶ丘勇というもの。そのもの。
 そういう風に聞こえた。
 中身が元にもどっても、それでも構わない。
 そんな風なニュアンスに聞こえた。
 ならば、
「俺なら扱いやすいだろうからな」
 え?
「あらわかった?」
「当たり前だ。俺くらい人間的に位が高くなると、そんなあからさまなひっかけトークに一喜一憂することもないからな。……渋沢家の御曹司なら、婚約してしまったら、もう破談にするのは両家ともにありえないが、俺となら『別れた』といえばみんな喜んでそれで終わりだからな。ていの良い見合いよけにはぴったりだな。よく考えたら」
「まあ、そういうことだけど? いや……まあそんな扱いで彼氏だって言われてもいやでしょうね」
「そりゃそうだ……」
 緑と向ヶ丘勇あいつの会話。
 つまり「構わない」は、向ヶ丘勇と彼氏になることを、おじいさんがもってくる縁談を断るための盾に使おうってこと?
 いえ、今日、今の縁談を断るために、そうしようって言い出したのはわたしだけど、
「良い案だとは思うけど。……想定外に、なぜかおじいさんがあなたのことをきにいってそうだったのでそういうのもありかなって……」
「『良い案』って……そっちにとってだろ。まあ、そんな俺になんのメリットもない案になぜ俺がのらなきゃいけないのかってところはおいといて——気に入ってるのは、中に喜多見美亜が入った向ヶ丘勇だろう? 俺が、元に戻ったらあっさり嫌われるさ」
「あら? もどるあてがあるの? 春から戻ろうとしてずっと失敗続きだったんでしょ?」
「あて……はないが。戻るさ、絶対戻る。お前だっていやだろ、俺の体の中にいていけてない男子高校生の生活をつづけるのは」
「は、はい?」
 突然話を振られてどぎまぎとしてしまう私。
「な、いやだよな」
「そ、そうね……も、もちろんにょ!」
「『にょ』?」
「いいから! 絶対にいやよ! 早く変わってしまいたいわ!」
「ほら……そうだろ」
 なんだか必死になって焦って言ってしまったし、——そう答えるしかないけれど、実は向ヶ丘勇としての生活、慣れてきたらいやでもないというか、むしろ……。
 あれ?
 緑が幾分薄笑いのような。
 笑っているのは彼女が今入っている私の顔だけど。私ってこういう顔するんだ? なんか困ったような、面白がっているような……。
 これは気づかれているよね。それ・・に。
 「嫌でもない」というほうじゃなくて、私が冷や汗をかいた方の意味に。
 その証拠に、私が目線送ると、ニヤリと。
 はい。いいから。その通りだから黙ってて欲しいから。
 って、力いっぱい目で訴えかけたら、「あらあら」みたいな表情を浮かべて……。
 わかったから。後で何でも話したげるから。

 何でなのか?
 どこがなのか?
 いつからなのか?
 だから今は、黙ってて!

「まあ、じゃあ今後はともかく、今は目の前の案件をなんとか片付けることにしましょうか。あなたのいうように渋沢家の御曹司と違って向ヶ丘勇楢葉いつでも、別れたといえばそれですんてしまうわけだし」
「そういうわけだな、じゃあまあ、気に入られ過ぎてしまうかもとか心配せずに、今日は全力で仲良しアピールをするとして、……このあとどうしたら良いかな? 同級の友達同士でご歓談続けるだけで帰ってもあれだし」
「それは……」
「ちょっと待って!」
 私は、二人の会話がそれ以上続く前に割って入る。
 なぜなら、
「なんだよ」
「何?」
 それは、
「トイレ……はどこかしら」
 なんか緊張がとけたら、無性にそこに行きたくなってきたのだった。

 *

 生田家のトイレは家の奥の客間からほど近い場所にあった。
 廊下に出て、半分くらい開いた引き戸の奥にぎっしり本の詰まった棚が並べのが見える,、書斎のような部屋の前を通り、茶室のような畳敷きの部屋の先。突き当りにそれはあった。
 私は、首の周りにかいた粘着く汗を出て拭いながらトイレに入れば、——いつもどおり。そこで記憶が飛んだ。
 体入れ替わりのあとに適用されている謎の倫理規定。
 トイレとかお風呂とか相手が見られたら嫌だろうなと思うような、——入れ替わった相手に見られたらちょっとエッチかなって思うような事態の時には、記憶が飛んで、無意識ですべてがこなされる。
 まあちょっと、時にははみ出して、……あれがあれしたり、今日も朝とか起きた時に、なんだか男にはしょうがない(らしい)生理現象をパジャマ越しにガン見してしまったりもするのだけど、——大体は清く正しい倫理に従って私は記憶をなくして……。

 気づけば私はトイレから出た瞬間に我に返る。
「こんにちわ」
 そこには、あのとても怖い緑のおじいさんが立っていた。
「緑は……あんな性格の孫ですが、仲良くして上げてください。自分がが望むのは、あの子には普通の幸せを得て欲しいだけなのですが、……どうも頑張り過ぎてしまうところがあって」
 え? なんか話違うくない?
「この家のことなど、あの子の幸せにくらべたら小さいことなのに、……どうにも勘違いしてしまって、……自分はもこんな性格でうまく言えなくて」
 私は、その時、私らの作戦が、何か根本的な勘違いをもとに始めてしまったらしい。そのことに気づいたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...