俺、今、女子リア充

acolorofsugar

文字の大きさ
35 / 99
俺、今、女子オタ充

俺、今、女子(また)キス中

しおりを挟む
 予想外のクラスメート、それも男の登場に少し騒然となった俺が拉致されているアパート内であった。あの下北沢花奈しもきたざわはなに友達が、それも男が? もしかして彼氏? みたいなびっくりした雰囲気ありありのお姉様方二人——代々木公子よよぎきみこ赤坂律あかさかりつ——は、ともかく男が来たのに下着姿で対応もないだろうから、部屋の隅に転がっていたジャージを着込み、その後に、慌てて玄関のドアの横のインターフォンに戻るであった。
「その、あらためて、何のご用でしょうか?」
 言ったのは代々木公子の方だった。彼女は、かなり警戒した様子で言う。
 そりゃ騎士ナイトだなんてマジで言ってくる相手は警戒して当然と俺も思うよ。
 でも、
「はい。花奈さんにクラスの連絡で漏れたものがあって……電話を何度かかけたんですが出てくれなくて」
 とまあ順当な理屈を言われると、お姉様方は振り返り、こっちを向いて、「そうあなの?」と言った顔。おっと、俺は首肯をしながら、膝の前あたりに置いてたスマホを手探りで操作して電源を落としておく。辻褄を合わせておかないとね。
 でも、一応納得はしているようだが、
「はあ? そんな緊急の用事です?」
 まだ警戒してる様子で、今度は赤坂律が言う。
 すると、
「ええ、月曜日に数学の課題提出があるのですが、花奈さんがその問題の紙を教室に忘れてしまったようで、最後までクラスに残っていた俺が、届けるようにって担任に言われて……花奈さんの家に電話したら今日は泊まりって言われて……明日の夕方に渡したんじゃやりきれない量の課題なのでどうしてもこの土曜のうちにって思いまして……」
 なるほど。俺は、なんの淀みもなくスラスラと嘘八百を並べる喜多見美亜あいつに感心しながら、今日のストーリー設定を確認する。
 下北沢花奈は、隣のクラスなんだが、クラスメートと言うことにするんだな。で、課題を忘れたのでわざわざ届けに来てくれたと。家にいなかったからって、わざわざ都内までやってくるなんて、随分親切な男の子だが。そんなしてくれる相手と下北沢花奈の関係は? ——あっ、騎士ナイトか。
 まあ、それは置いといて、
「それじゃ……受け取りますんで……花奈?」
 とりあえず渡すものあるんなら受け取ってさっさと追っぱらおうと思ったのか、なんだかめんどくさそうにそう言った、代々木お姉様は、
「あんたが、受け取る?」
 と俺に聞いてくる。
 そして、それに首肯しながら、俺が立ち上がりドアに向かうと、
「……ドアが開いた時に逃げようたってそうはいかないからね」
 すれ違いざまにそんな言葉を耳元で囁くのだった。
 ——はん?
 俺は気づかれないようにこっそりと鼻で笑った。
 なんだこの人。脅かしてるのかな?
 俺が逃げないように。
 俺がまた修羅場から逃避しないように?
 でも、——俺は思った。
 いやいや脅かさなくても逃げないよ。体は。
 心配しなくても良いよ。逃げないよ。体は。
 下北沢花奈の体はな!
 俺は、薄笑いを浮かべながらインターフォンに向かって言う。
「来てるのは誰? 向ケ丘勇の他は……」
「百合ちゃんと、あと、も・ち・ろ・ん、美亜も来てるよ」
 俺がさりげなく確認した言葉の意図を十分に組んでくれて、「それ」が可能なことを俺に伝えてくれる喜多見美亜あいつだった。
 オーケー、ならば、それなら……
「じゃあ、今外出るから……」
 俺は少し軋むボロアパートのドアを開け外に出る。玄関先、言った通りの三人が目の前にいるのを確認する。
 ニコニコしながら俺を見てる俺の体。他に、百合ちゃんと、中に下北沢花奈が入ってるはずの喜多見美亜の体は神妙な面持ちで、少し顔伏せて、上目使いで俺を見てる。
 俺は、その三人の一番後ろにいた、中に下北沢花奈の入っている喜多見美亜の体にに、分かってるなと言うような目配せをする。と、首肯する彼女。俺はつかつかと彼女のところまで歩いて行くと……

 ブチュ!

 熱烈なキスをするのであった。

   *

 女の子同士でキスをしているシーンを見て、代々木公子と赤坂律の大学生のお姉様二人は、たちまち大パニックになるのだった。
「えええ! 花奈ってそうなの!」
「うわ、そうだとしても……こんな綺麗な子と……なんであんたが……」
 今日のマンガ作成中に色々ちゃちゃ入れてくる話を聞けば、どっちかというと百合好きでなくBL趣味のお二人様なので、女同士のラブシーンには喜ぶというよりは、どうして良いかわからずに当惑しているようだった。キャーキャー言いながら、何もできずに後ろでおろおろしているのが背中から雰囲気で伝わってくる。
 それがわかって、——ははは、騒げ騒げ。と俺は思った。
 まあ、下北沢花奈はこの後。このお姉様型に少し違った目で見られるだろう、しかし、それも自らの身から出たサビ。この女が、コミケ前の修羅場から逃げたくて俺(喜多見美亜の体)と入れ替わったからこんなことになるのだ。
 俺の方というか、キスしている相手の喜多見美亜あいつはもうこの二人と関わることもないだろうから、どうも思われようと関係ないし……
 さあ、このクソ修羅場には下北沢花奈を残して、俺はさっさと家に帰って週末の深夜アニメに備えて、お茶でも飲みながらゆったりと心を落ち着けるのだ。こんな、一瞬も気の抜けない監視体制からはオサラバなのだ、と俺は思うのだった。
「どうするの……これどうするの……」
「なんだろ、祝福して赤飯とか炊かないとだめなの……えっ? それ違う?」
 ふん。混乱しろクソお姉様方。俺は、「背中」で慌てふためく二人の様子を感じて、口元をニヤリとさせた。
 もう、俺はあんた達とは無関係だ。そう、俺は、さっきまでのコミケ前の修羅場と違い、余裕をもって「背中」に感じる視線にも対処できるのだった。もう俺はそれに何もビビらないでいられるのだった。でも「背中」……?
「でも——事情は良くわらないけど。締め切りは変わらないのよ、花奈」
「そうだよ、花奈。と、……君たちも」赤坂お姉様が俺らに向かって言う。「わざわざここまでやって来て、花奈と深い関係なのはわかったけど、——今日は彼女たてこんでいるんだ。と言うか、本気で今日あたりで花奈の仕事進めておかないとまずいんだよ」
 なんだか想定外の出来事を見てしまった混乱から、そろそろ現実に戻って、このうやむやで下北沢花奈が今日マンガを描けなくなることを心配しだしたふたりだった。
 俺は……その声を「背中」で聞く。
 ん? 
 背中?
 って! 背中って!

「入れ替わってないじゃん!」
 
「…………」

 俺の焦った顔を、キョトンとした表情で見つめる下北沢花奈——喜多見美亜あいつの顔であった。
 なんだ! キスをしても入れ替わらない!
 これこそ——想定外だ。

 ブチュ!

 俺はそれならと、もう一度熱烈なキスを交わすのだが、

「あっ……うっ」

 なんだか色っぽい声を出す、下北沢花奈(喜多見美亜の唇)だが、あの体と心が溶け合うような、入れ替わる時のもやっとした心情はまるでやってこない。感じるのは——俺の心を占めるのは——柔らかい唇の感触と、毎日嗅いでいるはずなのに、他人の匂いとして感じれば、くらっとするような喜多見美亜あいつの爽やかながらなんかちょっと甘い良い匂い。
 なに、これ……
 もしかして?
 これ……だめ?
「だから、花奈……あなたが彼女と熱々なのはわかったけど——もうそろそろ仕事に戻ろう……」
「そうだよ。君たちも、こんな軒先で騒ぎ起こさないで……なんなら中に入ってもらって……あたしたちは、花奈を監禁しているんでも、怪しいものでもないことちゃんと説明するから」
 俺はキスをやめて、顔を離し、下北沢花奈の後ろにいる喜多見美亜あいつと百合ちゃんに目配せをする。二人も、俺が入れ替わっていないこと悟って、びっくりとしたような、呆然としたような、——表情を浮かべていた。
 なら、もう一度。俺はそう思い。下北沢花奈(喜多見美亜の顔)に向き直るが、彼女は申し訳なさそうに目をふせる。
 ああ、だめだな。俺は悟った。なんでかは良く分からないが、下北沢花奈は今自分の体に戻ることはできないらしい。俺と喜多見美亜あいつの時のように元に戻ることができなくなっていまっているのだった。

 となると……

「じゃあ、そう言うことでしたら……先ずは中にいれてもらって事情を聞くことにしますか」

 喜多見美亜あいつはそういって、このまま追い返されてしまうと言う最悪の事態だけは避けることを選択してくれたのだが……ねえ、いったいこのあとどうすれば良いの?
 俺は途方にくれながら振り返り、そこで少しイライラし始めたのか、顔に、どう見ても起こっているのを無理やり隠している、お姉様二人の引きつった笑い顔を見ることになるのだった。
 俺はまた修羅に逆戻りとなるしかないようなのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

処理中です...