フレンチ・キス

明日菜

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雪那と菜々子

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深夜、ある街のビジネスホテルの一室。

違法にコピーされたカードキーで押し入った3人の外国人グループが、目的の人物を探す。

ベッドルームにはいない。

ふとバスルームから聞こえるシャワー音に男達は顔を見合わせる。

目的の人物は、女だ。

男達は一様に卑猥な笑みを浮かべると、バスルームの扉に向かった。

扉を蹴破ると、中にいたのは裸の女…

…ではなく、黒い上下に身を包んた女。

女は既に右手に拳銃を構え、男達を射程に捉えていた。

華奢で小柄な、少女のような女だ。

それも、かなりの美少女と言ってよい。

こんな小娘の構える銃など、どうせ"はったり"だと思ったのだろう。

「ナナコ・エレアノール・サクラギ?」

一番前にいる男は、愚かにも女を捕まえるべく手を出そうとする。

女の銃から弾丸が発射された…

と、思われたが、男の眉間に突き刺さっていたのは"鍼"だった。

それでも男は巨体を仰け反らせ、大きな音を立てて後ろにひっくり返った。

残された男達は慌てて銃を取り出すが、既に左手に"本物の銃"を手にした女によって、男達の銃は弾き飛ばされる。

あっと言う間に取り押さえられた男共は、後ろ手に手錠をかけられると、最初の男と同じように"鍼"を打たれる。ちなみに、身体検査のために身ぐるみも剥がされた。

裸の男達を転がしながら、女はどこかへと電話をかける。

「Adieu」

ーナナコは最後に哀れな男達にひと声かけると、部屋の窓にワイヤーを取り付け、身軽に飛び出し、夜の闇へと消えていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

ー翌日の午後。


成田空港国際線ターミナルは、フランスからの旅客で賑わっていた。

歩く歩道に、ひときわ目を引く、長身の女がいた。

モデルかと思われるような、稀に見る美人だ。

…かなり後方から、その女を見つめる男がいた。

男はポケットに手を入れながら、ゆっくりと歩き、少しずつ、ごく自然に女に近付きながら、これから起こるであろう出来事を想像する。

女の背中をじっと見つめる。

自分は、女の脇をさりげなく通りすぎると同時に鋭利な"凶器"を彼女の脇腹に突き刺す。

暫く経ったのち、女の身体がゆっくりと倒れ込む…。

周囲が騒然とし出す中、その頃自分はすでに人々の群れの中に紛れている…。

この仕事を終えたら、今夜は女を侍らせ、日本の繁華街で心ゆくまで遊ぶつもりだ。

目の前の女もかなりの上玉で、殺してしまうのが惜しい気もするが、不幸にも自分の標的にされたのが運の尽きだ。

照準を定め、男はポケットから"凶器"を引き抜き、女の脇腹を刺した。

…と思われた次の瞬間、女は身を翻し、男の手を掴むと同時に凶器を手刀で叩き落とした。

そして、パンプスのヒールで凶器を蹴り上げる。

凶器はあえなく歩道の手摺を越えて地面に転がった。

「あっ…!!」

男は、痛みと驚きに声を上げると、自分自身も手摺を乗り越え逃げようとするが、その"女"も手摺を飛び越えるとすぐに男を取り押さえ、膝蹴りを喰らわせた。

「神代警視どの、お疲れ様です!」

「凶器、押収して」

神代警視と呼ばれた人物が男に手錠を掛けている間に、他の警察官やSP達もわらわらと出現する。

「日本の警察だ」

男が引っ立てられると、神代警視が一人残った部下に話しかける。

「あの男は、国際指名手配されている、一応凄腕の殺し屋みたい。非金属製の先を尖らせた細い管状のものを凶器に使えば探知器にも引っ掛からないと考えたんでしょうけど」

神代警視は、愉快そうにくすくすと笑う。

「気の毒だけど、奴がターゲットとして狙っていたこのアタシは、サクラギ警視でも"女"でもなかった」

「……。そうですね」

国際指名手配されているフランスの凶悪なテロ組織が日本にやって来て、それを追う任務を負っているのがインターポール(国際刑事警察機構)のサクラギ警視である。

ところが、組織側にも、来日したインターポールの捜査官を始末する計画があるという情報が入った。

幸い、組織側はまだサクラギ警視の顔を知らないと思われた。

そこで、組織側に偽の来日情報を流し撹乱させようとしたのだった。

サクラギ警視に扮した神代警視がフランスから来日したように見せかけるため、出入国管理局にも話を通してあった。

「あの殺し屋は雇われだから、どうせあいつから大した情報は得られないでしょう。しかし、サクラギ警視が先日来日している可能性も考慮して、彼女の所にも刺客を差し向けるとはね」

ちなみに彼らの真の標的であるナナコ・サクラギ警視は先日、客室乗務員になりすまし、既に入国していた。

(でも、こちらの情報も漏れたようね)

刺客どもはサクラギ警視が返り討ちにしたが、護衛として付けたSPは負傷した。 

「なかなか油断出来ないわ」

神代雪那(かみしろ せつな)警視は切れ長の目を眇めると、実はウィッグであるところの長い髪をかき上げた。

「とにかく、神代警視どのもサクラギ警視どのも、ご無事で何よりです」

「まぁ、忙しくなるのは、これからよ」

まず一刻も早く、ナナコ・サクラギ警視を更に厳重な警護下に置かなければならない。


*お読み下さってありがとうございます

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