2 / 7
雪那と菜々子
しおりを挟む深夜、ある街のビジネスホテルの一室。
違法にコピーされたカードキーで押し入った3人の外国人グループが、目的の人物を探す。
ベッドルームにはいない。
ふとバスルームから聞こえるシャワー音に男達は顔を見合わせる。
目的の人物は、女だ。
男達は一様に卑猥な笑みを浮かべると、バスルームの扉に向かった。
扉を蹴破ると、中にいたのは裸の女…
…ではなく、黒い上下に身を包んた女。
女は既に右手に拳銃を構え、男達を射程に捉えていた。
華奢で小柄な、少女のような女だ。
それも、かなりの美少女と言ってよい。
こんな小娘の構える銃など、どうせ"はったり"だと思ったのだろう。
「ナナコ・エレアノール・サクラギ?」
一番前にいる男は、愚かにも女を捕まえるべく手を出そうとする。
女の銃から弾丸が発射された…
と、思われたが、男の眉間に突き刺さっていたのは"鍼"だった。
それでも男は巨体を仰け反らせ、大きな音を立てて後ろにひっくり返った。
残された男達は慌てて銃を取り出すが、既に左手に"本物の銃"を手にした女によって、男達の銃は弾き飛ばされる。
あっと言う間に取り押さえられた男共は、後ろ手に手錠をかけられると、最初の男と同じように"鍼"を打たれる。ちなみに、身体検査のために身ぐるみも剥がされた。
裸の男達を転がしながら、女はどこかへと電話をかける。
「Adieu」
ーナナコは最後に哀れな男達にひと声かけると、部屋の窓にワイヤーを取り付け、身軽に飛び出し、夜の闇へと消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー翌日の午後。
成田空港国際線ターミナルは、フランスからの旅客で賑わっていた。
歩く歩道に、ひときわ目を引く、長身の女がいた。
モデルかと思われるような、稀に見る美人だ。
…かなり後方から、その女を見つめる男がいた。
男はポケットに手を入れながら、ゆっくりと歩き、少しずつ、ごく自然に女に近付きながら、これから起こるであろう出来事を想像する。
女の背中をじっと見つめる。
自分は、女の脇をさりげなく通りすぎると同時に鋭利な"凶器"を彼女の脇腹に突き刺す。
暫く経ったのち、女の身体がゆっくりと倒れ込む…。
周囲が騒然とし出す中、その頃自分はすでに人々の群れの中に紛れている…。
この仕事を終えたら、今夜は女を侍らせ、日本の繁華街で心ゆくまで遊ぶつもりだ。
目の前の女もかなりの上玉で、殺してしまうのが惜しい気もするが、不幸にも自分の標的にされたのが運の尽きだ。
照準を定め、男はポケットから"凶器"を引き抜き、女の脇腹を刺した。
…と思われた次の瞬間、女は身を翻し、男の手を掴むと同時に凶器を手刀で叩き落とした。
そして、パンプスのヒールで凶器を蹴り上げる。
凶器はあえなく歩道の手摺を越えて地面に転がった。
「あっ…!!」
男は、痛みと驚きに声を上げると、自分自身も手摺を乗り越え逃げようとするが、その"女"も手摺を飛び越えるとすぐに男を取り押さえ、膝蹴りを喰らわせた。
「神代警視どの、お疲れ様です!」
「凶器、押収して」
神代警視と呼ばれた人物が男に手錠を掛けている間に、他の警察官やSP達もわらわらと出現する。
「日本の警察だ」
男が引っ立てられると、神代警視が一人残った部下に話しかける。
「あの男は、国際指名手配されている、一応凄腕の殺し屋みたい。非金属製の先を尖らせた細い管状のものを凶器に使えば探知器にも引っ掛からないと考えたんでしょうけど」
神代警視は、愉快そうにくすくすと笑う。
「気の毒だけど、奴がターゲットとして狙っていたこのアタシは、サクラギ警視でも"女"でもなかった」
「……。そうですね」
国際指名手配されているフランスの凶悪なテロ組織が日本にやって来て、それを追う任務を負っているのがインターポール(国際刑事警察機構)のサクラギ警視である。
ところが、組織側にも、来日したインターポールの捜査官を始末する計画があるという情報が入った。
幸い、組織側はまだサクラギ警視の顔を知らないと思われた。
そこで、組織側に偽の来日情報を流し撹乱させようとしたのだった。
サクラギ警視に扮した神代警視がフランスから来日したように見せかけるため、出入国管理局にも話を通してあった。
「あの殺し屋は雇われだから、どうせあいつから大した情報は得られないでしょう。しかし、サクラギ警視が先日来日している可能性も考慮して、彼女の所にも刺客を差し向けるとはね」
ちなみに彼らの真の標的であるナナコ・サクラギ警視は先日、客室乗務員になりすまし、既に入国していた。
(でも、こちらの情報も漏れたようね)
刺客どもはサクラギ警視が返り討ちにしたが、護衛として付けたSPは負傷した。
「なかなか油断出来ないわ」
神代雪那(かみしろ せつな)警視は切れ長の目を眇めると、実はウィッグであるところの長い髪をかき上げた。
「とにかく、神代警視どのもサクラギ警視どのも、ご無事で何よりです」
「まぁ、忙しくなるのは、これからよ」
まず一刻も早く、ナナコ・サクラギ警視を更に厳重な警護下に置かなければならない。
*お読み下さってありがとうございます
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
