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第十三 輪廻転生
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人は死して歴史を残す
物は生きて歴史を語る
自然は変わって歴史を造る
二月も終わりに近づき、辺りはすっかり暖かくなっていた。
私は、ようやくまた仕事に取り掛かれる。
刃物を研ぐ際は、外で作業している上、常に水と共に過ごすため、寒い時期では仕事ができないのだ。
いつものように仕事をしていると、突然、友人が、奇妙な赤錆の塊を持ってきた。
それは、ナイフのような形状をしているが、上部に輪の付いた、異形のヒルトを持っている。
刃であろう部分は、私が普段研いでいるもの達よりもやや長く、先端はグリップの丁度中心線あたりにある。
グリップには、ボタンのようなものがあるものの、錆で固着して動かない。
銃剣だ。私は一目で気がついた。
友人曰く、廃棄予定の「ゴミの山」に混ざっていたらしい
「で、何なんだよこれ。」
「銃剣なのは間違いないな。」
「それは見りゃわかるんだけどさ、なんでこんなもんが『ゴミの山』に混じってんだ?」
「こっちが聞きたいよ。それより、正体を掴むためにも修復してみないと。」
「法規制とか大丈夫なん?」
「銃剣に関しては個人での所有を取り締まるものはないけど、念の為銃剣じゃないものにしてやれば良い。」
「は?」
この「武器アレルギー国」は、刀剣に関する取締りが非常に厳しい。
しかし、その内容は非常に曖昧である。
「銃剣は個人で持っている分には問題ないと言われているけど、念には念を入れて、ね。」
「それにしたって、銃剣じゃないものにするって、どういうことだよ?」
「着剣装置を破壊して、ブレードの形状を変えて、ただのナイフにしてやるのさ。」
勿体ない気もするが、もとより私達はグレーゾーンの人間であるからして、これ以上黒に染まるわけにもいかない。
何より、この「歴史の語り部」を生まれ変わらせることができる、その機会を逃したくなかった。
「強引だな・・・まあ、そいつはお前にくれてやるからさ。」
「ああ、バッチリ『転生』させてやるよ。」
そうして、友人から赤錆の塊を受け取ると、私は友人を見送った。
友人の外骨格は、いつの間にやら別のものに変わっていた。
あの白の異形とは全く異なる、比較して遥かに小さく、ルーフが開閉し、パッと見どちらが前で、どちらが後ろなのかもわからない、黒い外骨格だった。
またしても、異形の外骨格だ。人のことを言えたものではないが、彼もまた、変わり者である。
次の日、私は、早速「転生」の準備にとりかかった。
あれの、表面の赤錆を丁寧に擦り落とし、そして酸の液に浸けた。
赤錆の塊は、酸液の中で泡を出しながら、既にその真の姿を見せ始めていた。
数時間が経過し、既に辺りは暗くなっていた。
私はそれを酸液から取り出すと、表面を流水で綺麗に洗い流した。
次の日、赤錆の塊は、真っ黒な塊へと姿を変えていた。
私はそれを布で拭き上げ、流水を掛け流しながら金属のブラシで擦り洗った。
そんな作業を繰り返しているうちに、その塊は、徐々に真の姿へと戻って行った。
真っ赤な「錆の塊」は、鋼の色に輝く「元銃剣」になった。
それも、かなり研ぎ減りしている。恐らく、かなり酷使されたのだろう。
片刃・・とは言っても刃は朽ちて付いていないのだが、それは戦時に作られた、西側の国のものであることが、形状と刻印から判明した。
なぜ、そんなものがここにあるのだろう・・・疑問を感じつつも、私はそれを「転生」させるべく、作業を続けた。
まずはこれを、「元銃剣」から「ただのナイフのベース」にしてやる必要がある。
この「武器アレルギー国」のルールに従うべく、形状を変えてやるのだ。そのまま研ぎ上げると、直刃の銃剣になってしまう。
私は後ろめたさを感じつつも、着剣装置を無効化し、それを業火に当てたのち、ブレード側の付け根を局所的に水で冷却した。
こうしてやることで、着剣は不可能となり、刃は前傾姿勢になる。つまり、この武器アレルギー国のルール上、これは普通のナイフとして存在させられるのだ。
私は再びそれを業火の中に放り込み、しばらくしたのち、それを取り出して空冷した。
ゆっくりと冷ますことで、焼き鈍し・・・つまり、鋼材を一旦柔らかくして加工しやすくするのだ。
その「ナイフのベース」が冷えたことを確認すると、私は、それを砥石に当てた。
焼きなまされた鋼は簡単に研げる。ほぼ「単なるナイフの形をした鋼」だったそれは、徐々に刃として仕上がっていった。
私は再びそれを業火の中に放り込み、しばらくしたのち、それを取り出して水冷した。
急激に冷ますことで、焼き入れ・・・つまり、鋼材を再び硬くして頑丈にするのだ。
その「ナイフ」が冷えたことを確認すると、私は再び、それを砥石に当てた。
焼き入れされた鋼は非常に硬い。「立派なナイフ」となったそれは、徐々に鏡のように輝く刃を手に入れた。
一度死にかけ、人々に忘れ去られかけたそれは、現代に蘇った。
歴史を私に語ったそれは、新たに私の歴史を造るものへと変貌を遂げた。
生物と異なり、刃物は永遠の命を持つ。
時として歴史を語り、時として人を救い、時として歴史を造り、時として人を傷付ける。
どの時代に作られ、どのような形状で、どのような材質で、どのような人が使うかで、刃物は全く異なる役割を持つ。
「もう戦わなくて良いんだよ。」
修繕直前の傷み方からして、それがかつてライフルに取り付けられ、幾度となく硝炎に晒された事は明確であった。
しかし、もうその必要はない。いくら気持ちがこもっているとは言え、刃物に語りかけるとは、私も大概、変わり者である。
この、平和な時代に、この、生まれ変わった存在へ、私は、新たな役割を与えた。
かつて、人と人が戦うために存在したその銃剣だった物は、この瞬間、私と自然が調和するために存在する普通のナイフへ生まれ変わった。
判明したそれの「正体」と、それの「転生」が完了したことを友人伝えると、彼は、いつもよりほんの少し興奮気味だった。
ほとんど他者や物に興味を持たない彼でも、一度死にかけた物が生まれ変わる瞬間に立ち会えたことが、少し嬉しかったようだ。
物は生きて歴史を語る
自然は変わって歴史を造る
二月も終わりに近づき、辺りはすっかり暖かくなっていた。
私は、ようやくまた仕事に取り掛かれる。
刃物を研ぐ際は、外で作業している上、常に水と共に過ごすため、寒い時期では仕事ができないのだ。
いつものように仕事をしていると、突然、友人が、奇妙な赤錆の塊を持ってきた。
それは、ナイフのような形状をしているが、上部に輪の付いた、異形のヒルトを持っている。
刃であろう部分は、私が普段研いでいるもの達よりもやや長く、先端はグリップの丁度中心線あたりにある。
グリップには、ボタンのようなものがあるものの、錆で固着して動かない。
銃剣だ。私は一目で気がついた。
友人曰く、廃棄予定の「ゴミの山」に混ざっていたらしい
「で、何なんだよこれ。」
「銃剣なのは間違いないな。」
「それは見りゃわかるんだけどさ、なんでこんなもんが『ゴミの山』に混じってんだ?」
「こっちが聞きたいよ。それより、正体を掴むためにも修復してみないと。」
「法規制とか大丈夫なん?」
「銃剣に関しては個人での所有を取り締まるものはないけど、念の為銃剣じゃないものにしてやれば良い。」
「は?」
この「武器アレルギー国」は、刀剣に関する取締りが非常に厳しい。
しかし、その内容は非常に曖昧である。
「銃剣は個人で持っている分には問題ないと言われているけど、念には念を入れて、ね。」
「それにしたって、銃剣じゃないものにするって、どういうことだよ?」
「着剣装置を破壊して、ブレードの形状を変えて、ただのナイフにしてやるのさ。」
勿体ない気もするが、もとより私達はグレーゾーンの人間であるからして、これ以上黒に染まるわけにもいかない。
何より、この「歴史の語り部」を生まれ変わらせることができる、その機会を逃したくなかった。
「強引だな・・・まあ、そいつはお前にくれてやるからさ。」
「ああ、バッチリ『転生』させてやるよ。」
そうして、友人から赤錆の塊を受け取ると、私は友人を見送った。
友人の外骨格は、いつの間にやら別のものに変わっていた。
あの白の異形とは全く異なる、比較して遥かに小さく、ルーフが開閉し、パッと見どちらが前で、どちらが後ろなのかもわからない、黒い外骨格だった。
またしても、異形の外骨格だ。人のことを言えたものではないが、彼もまた、変わり者である。
次の日、私は、早速「転生」の準備にとりかかった。
あれの、表面の赤錆を丁寧に擦り落とし、そして酸の液に浸けた。
赤錆の塊は、酸液の中で泡を出しながら、既にその真の姿を見せ始めていた。
数時間が経過し、既に辺りは暗くなっていた。
私はそれを酸液から取り出すと、表面を流水で綺麗に洗い流した。
次の日、赤錆の塊は、真っ黒な塊へと姿を変えていた。
私はそれを布で拭き上げ、流水を掛け流しながら金属のブラシで擦り洗った。
そんな作業を繰り返しているうちに、その塊は、徐々に真の姿へと戻って行った。
真っ赤な「錆の塊」は、鋼の色に輝く「元銃剣」になった。
それも、かなり研ぎ減りしている。恐らく、かなり酷使されたのだろう。
片刃・・とは言っても刃は朽ちて付いていないのだが、それは戦時に作られた、西側の国のものであることが、形状と刻印から判明した。
なぜ、そんなものがここにあるのだろう・・・疑問を感じつつも、私はそれを「転生」させるべく、作業を続けた。
まずはこれを、「元銃剣」から「ただのナイフのベース」にしてやる必要がある。
この「武器アレルギー国」のルールに従うべく、形状を変えてやるのだ。そのまま研ぎ上げると、直刃の銃剣になってしまう。
私は後ろめたさを感じつつも、着剣装置を無効化し、それを業火に当てたのち、ブレード側の付け根を局所的に水で冷却した。
こうしてやることで、着剣は不可能となり、刃は前傾姿勢になる。つまり、この武器アレルギー国のルール上、これは普通のナイフとして存在させられるのだ。
私は再びそれを業火の中に放り込み、しばらくしたのち、それを取り出して空冷した。
ゆっくりと冷ますことで、焼き鈍し・・・つまり、鋼材を一旦柔らかくして加工しやすくするのだ。
その「ナイフのベース」が冷えたことを確認すると、私は、それを砥石に当てた。
焼きなまされた鋼は簡単に研げる。ほぼ「単なるナイフの形をした鋼」だったそれは、徐々に刃として仕上がっていった。
私は再びそれを業火の中に放り込み、しばらくしたのち、それを取り出して水冷した。
急激に冷ますことで、焼き入れ・・・つまり、鋼材を再び硬くして頑丈にするのだ。
その「ナイフ」が冷えたことを確認すると、私は再び、それを砥石に当てた。
焼き入れされた鋼は非常に硬い。「立派なナイフ」となったそれは、徐々に鏡のように輝く刃を手に入れた。
一度死にかけ、人々に忘れ去られかけたそれは、現代に蘇った。
歴史を私に語ったそれは、新たに私の歴史を造るものへと変貌を遂げた。
生物と異なり、刃物は永遠の命を持つ。
時として歴史を語り、時として人を救い、時として歴史を造り、時として人を傷付ける。
どの時代に作られ、どのような形状で、どのような材質で、どのような人が使うかで、刃物は全く異なる役割を持つ。
「もう戦わなくて良いんだよ。」
修繕直前の傷み方からして、それがかつてライフルに取り付けられ、幾度となく硝炎に晒された事は明確であった。
しかし、もうその必要はない。いくら気持ちがこもっているとは言え、刃物に語りかけるとは、私も大概、変わり者である。
この、平和な時代に、この、生まれ変わった存在へ、私は、新たな役割を与えた。
かつて、人と人が戦うために存在したその銃剣だった物は、この瞬間、私と自然が調和するために存在する普通のナイフへ生まれ変わった。
判明したそれの「正体」と、それの「転生」が完了したことを友人伝えると、彼は、いつもよりほんの少し興奮気味だった。
ほとんど他者や物に興味を持たない彼でも、一度死にかけた物が生まれ変わる瞬間に立ち会えたことが、少し嬉しかったようだ。
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