居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン

文字の大きさ
10 / 52

第10話 モラトリアム

しおりを挟む
 改めて互いの名前を知った後、俺たちはいろいろと会話を交わした。出身地のことなど、基本的な情報を交換したのだ。

 まずひとつ、夏織さんは東京出身らしい。小学校から高校までずっと由緒ある女子校に通っていたとか。妙に礼儀正しいとは思っていたけど、そういうバックグラウンドがあるなら納得がいく。

 両親からは東京の大学に進学するよう勧められたらしいが、思い切って一人暮らしを決意したとのこと。それで、仙台にある森宮大学を受験したというわけだそうだ。

「へえー、じゃあ夏織さんはお嬢様なんですね。すごいなあ」
「別に、昔からそうだったからな。特に何も思わない」

 追加で頼んだごぼうチップスをつまみながら、夏織さんがそう答えた。最初はやたらと緊張していたみたいだけど、だんだん落ち着いてきたな。

「そういえば、怜はどこの出身なんだ?」
「僕は大崎市というところから来ました。宮城の県北ですよ」
「そうか、地元なんだな」
「いえ、仙台に住み始めたのはここ数年の話ですし。立場は夏織さんと変わりませんよ」

 実際、あまり仙台が地元という感じはしない。東京から来る人よりはよっぽど慣れているだろうけどな。

「その……ひとつ聞いていいか?」
「何ですか?」

 夏織さんが箸を止め、俺の持つビールジョッキ(三杯目)に目を向けた。何か気になることがあるのかな?

「こんなことを聞くのは申し訳ないんだが、怜はどうしてんだ?」
「ああ……」

 なるほど、そういうことか。たしかに現役入学の一年生なら年齢的に酒を飲めないのが普通だ。そりゃ二十歳にもいかないで飲んでる奴もいるけどさ。

「簡単ですよ、僕は二浪してますから。本来なら、学年的には夏織さんの二個上なんです」
「そっ、そうだったのか。すまない、聞かない方がよかったか」
「いえ、悪く思わないでください。僕は気にしていませんから」

 夏織さんは申し訳なさそうに頭を下げていたが、勉強せずに怠けていた俺が悪いので気にする方がおかしい。どちらかというと、むしろ二浪もさせてくれた自分の親に申し訳ないな……って、あれ?

「どうかしました?」
「いや、その……」

 口元に手を当てて、考え込んでいる夏織さん。今度は何が気になるんだろう。

「やっぱり、怜は大人だな」
「大人?」
「昨日から思っていたんだ。同じ一年生なのに、怜はずいぶんと思慮深い。そうか、二個も年上なら納得だ」
「あはは、浪人の二年間なんてただのモラトリアムですよ。大した意味はないです」

 浪人で社会性が磨かれる……なんてよく言われるけど、戯言に過ぎないと思う。実際、大半の浪人生は予備校なり自宅なりで勉強して過ごすわけだからな。むしろ頭が凝り固まってしまう気すらするけど――

「うえっ!?」
「怜、君に頼みがあるんだ」

 なんだ急に!? ジョッキに伸ばそうとした手を掴まれてしまって、思わず変な声を出してしまった。夏織さんは真剣な表情で俺の顔を見ている。

「この通り、私は何も知らないんだ! 居酒屋の作法すら、私の辞書には存在しない」
「べべ別に、そんなの知らなくたって生きていけますって!」

 本当にこの人の行動は読めねえな! 俺は慌てて首を振って手を放そうとするが、夏織さんはがっちりと掴んだまま。

「私はずっと箱庭の中で育てられた。この街に来てから、ずっと知らないことだらけのなんだ」
「は、はあ」
「だから怜、これから私に教えてほしい。怜が学んできたこと、身につけてきたこと、みんな私に」
「どうして……」
「なんだ?」
「どうして僕なんですか?」

 心からの言葉だった。俺はたまたま夏織さんを口説いた(らしい)だけの男。きっと両親に大事に育てられてきたであろうこの人に、物事を教える資格があるのだろうか?

 俺が問うたあと、夏織さんはきょとんとしていた。そして、まるで俺の問いが愚問であると言わんばかりに――口を開く。

「私が教えてほしいと思ったからだ。他に理由が必要か?」

 ――綺麗だ、と思った。真っすぐに見つめる夏織さんの目が、凛とした声が、何より素直な心意気が。

「夏織さん」
「!?」

 空いていた左手を、夏織さんの両手にそっと添えた。予想外だったようで、またまた顔を赤く染めている。

「な、なんだ急に!?」
「たぶん、夏織さんが知らずに僕が知っている知識なんてほとんどありません。どんぐりの背比べですよ」
「そっ、そんなことは――」
「でも」

 夏織さんの手をそっと撫でる。柔らかく、すべすべの肌。さっきこの人がしてくれたように、努めて視線を真っすぐにして、はっきりと言った。

「僕も教えたいと思いました。だからこれから、精いっぱい頑張ります」

 互いの目を見つめあう。向こうが何を思っているのか、俺には未だに分からない。それでも、ひとつ予感したことがある。――夏織さんとは長い付き合いになるんだろうな、なんて。

「そろそろ締めにしませんか? ここはお茶漬けも美味しいんですよ」
「そっ、そうなのか? それはぜひ食べたいな」

 二人で一緒にメニューを眺める。梅か鮭かちりめん山椒かを選びながら、ふと思った。

 ああ幸せだな、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

処理中です...