居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン

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第19話 乾杯

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 俺たちはエレベーターで目的の階に上がる。流石に恥ずかしいので、腕に抱き着くのはやめてもらった。

 扉が開くと、すぐ目の前に店内の様子が見えた。十個くらいのテーブル席があり、その間を串刺しになった肉を持った店員が歩き回っている。すごい光景だな。

「いらっしゃいませー!」
「二人で予約していた篠崎だが」
「どうぞ、こちらの席へ!」

 えーと、隅っこの方の席か。夏織さんに導かれるまま、俺はすたすたと歩いていく。席につくと、再び店員がやってきた。

「飲み放題にしますか? それとも単品にしますか?」
「怜、どうする?」
「単品で大丈夫ですよ、そもそも夏織さんは飲めないわけですし」
「分かった。では、私はウーロン茶を頼む」
「僕は生で」
「かしこまりました~」

 この間と比べて、夏織さんの受け答えが随分と自然になったなあ。一回経験すれば慣れるものか。そういや肝心の肉の方の注文を取られなかったけど、どうなってるんだろう?

「夏織さん、お肉の方は?」
「ああ、予約の時に注文しておいたんだ。結構良いコースだぞ」
「えっ、みんな同じコースじゃないんですね」
「食べ放題になる肉の種類が変わるんだ。楽しみにしておいてくれ」

 へえ、そりゃ楽しみだな。さっきから夏織さんに抱き着かれたり抱き着かれたり抱き着かれたりして(誤植ではない)正気を失いそうだったから、肉に集中出来るのは良いかもしれない。というか集中しよう、マジで。

「お待たせしました、生とウーロン茶です~」

 とかなんとか考えているうちに、店員が俺たちの飲み物を持ってきた。夏織さんの前にウーロン茶が、俺の前になみなみとビールが注がれたジョッキが置かれる。うおっ、ここのビールはデカいな。南米サイズなんだろうか。

「では、乾杯しよう!」
「ええ!」

 夏織さんの発声で、俺たちは飲み物を手に取った。夏織さんの目をしっかり見つめて――ジョッキを持ち上げる。

「私と怜の親交に、乾杯!」
「乾杯!」

 カチンと音を鳴らして、ジョッキとグラスを重なり合わせた。溢れんばかりの泡が揺れて、零れ落ちそうになる。

「よいしょっ!」

 うおっと、なかなか重いな! ジョッキを傾けて、ビールののどこしを……うまいっ!

「ぷはーっ!」
「本当に、怜は美味しそうにビールを飲むんだな」
「えっ、そうですか?」
「ああ、そのままコマーシャルに出来そうだ」

 なんだよ夏織さん、そんな不思議そうな顔をして。そんなに俺って美味そうに飲んでるのかな? 今度自撮りしながら飲んでみようかな。

「今度、飲んでいるところを撮ってみようか?」
「ぷっ!」
「ど、どうしたんだ!?」

 あはは、夏織さんも同じことを考えてたのか! こういうところで考えが一致すると、ちょっと嬉しい。

「いや別に、僕と夏織さんは似た者同士だなって」
「えっ、何がだ?」
「いやあ、そのままの意味ですよ」

 再びジョッキを傾けて、ビールを飲む。夏織さんはまた怪訝そうな顔をしていた。

「似た者同士、か」
「ん、どうかしました?」
「……お似合い、という意味だろうか?」
「!?」

 ちょっ、それは意味が違ってこないか!? 「お似合い」って恋人とか夫婦とかに使う言葉だろ!?

「そ、それだと変な意味になりませんか!?」
「何が変なんだ?」
「えっ?」
「私と怜が『お似合い』で、何が変なんだ?」
「何って、その……それは、恋人とかに使う言葉で――」
「わ、私と怜が恋人では……変なのか?」
「へっ?」

 恋人って――俺と夏織さんが? 夏織さんの口からそんな考えが出てくるなんて。さっきまでの行動といい、今日はやけに思わせぶりだ。……本当に、何があったんだろう?

「えっと……変、ではないと思います」
「ほ、本当か?」
「ええ、本当です」
「そうか。……良かった」

 辛うじて返事をしてみると、夏織さんはほっとしたように胸を撫でおろした。もー、なんなんだよう。

 夏織さんは髪をいじりながら、ちらちらと俺の顔を見ている。そんなに顔を赤くして、上目遣いなんてされたら……可愛いなんてもんじゃない! 気が気でないから、早く肉が来てほし――

「お待たせしました、スペアリブでーす!」
「「デカっ!!」」

 俺たちの妙な雰囲気が、一瞬でデカい肉に壊されてしまった瞬間であった!!
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