居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン

文字の大きさ
24 / 52

第24話 悪友からの忠告

しおりを挟む
「どうすっかなあ」

 学食のカウンター席にて、右手に持った箸で蕎麦をすすりながら、左手に持ったスマホで調べ物をしている。明日の土曜日、夏織さんとデートに行く。そのためにいろいろと検索しているのだ。

「流石に水族館を回るのは午前で終わるよなあ……」

 いくら大きい水族館とは言っても、見るのに一日中かかるようなスポットじゃないからな。その後はどこに行こう? 大昔は松島に水族館があったから、そのまま遊覧船にでも乗ればよかったのだけど。

 でもなあ、デートかあ。この間まではドタバタしてたけど、改めてデートだって思うとワクワクするなあ。あんなモデルみたいな夏織さんと二人で……なんて、夢みたいだ――

「あの、すいません」
「へっ?」

 誰だ、知り合い? なんて思いながら振り返ると――そこにいたのは、見知らぬ女子学生二人組だった。マスクをしていて、素顔がよく分からない。

「僕に何か用ですか?」
「お聞きしたいことがあるんですけど」
「は、はあ」

 なんだろう? ……二人とも妙に目がぎらついていて、怖い。あまりこのキャンパスに知り合いはいないんだけど、誰だろう。

「篠崎夏織さんとはどういったご関係なんですか?」
「……は?」

 夏織さん? なんで?

「ど、どういうことですか?」
「どういったご関係なんですか?」

 なになになに!? マジで怖いんだけど!? なんでそんな睨んでくるの!? っていうか蕎麦食ってる時に話しかけてくるんじゃねえよ!

「あの、あなた方は何者なんですか?」
「質問に答えてください。どういったご関係なんですか?」
「そう聞くならそっちが名乗ってください」

 なんだコイツら、マジで。質問に答えてください、じゃねーよ。そういう時は自分から名乗るもんだろうが。

「……そうですか。では、失礼します」
「は?」

 女子学生二人は、踵を返すようにして向こうに歩いていく。

「ちょっ、ちょっと待て!!」

 追いかけようと思ったが――荷物があるので、動くことが出来ない。どうしようもなく、ただ去っていく二人の背中を眺めるしかなかった。

***

「……ってことがあったんだよ」
「あっはっは! 怜くん、なかなか面白い経験したじゃん!」
「笑いごとじゃねえよ!」

 飲み屋のカウンター席にて、徳利を傾けながら大笑いしているのは――俺の悪友、松岡である。この間のドタキャンの代わりに、今日この店でサシ飲みすることにしていたのだ。当然ながら、松岡のおごりである。

「うさぎたんから聞いてビックリしたよお。まさか怜くんが篠崎さんとお近づきになったなんて」
「ったくよお、お前の彼女には困ったよ」
「あっはっは、それも聞いたよ!」

 おちょこを口につけ、一気に飲み干す松岡。サングラスの下に隠れた目元が笑っていて、浪人時代と変わらないなあと思ったりもする。

 松岡は茶髪のうえにピアスもつけていて、一見するとチャラチャラした怖い兄ちゃんだ。サングラスもかけてるしな。だけど、俺のことは#怜____くん__#__#と呼ぶ(同学年とはいえ、年上だからだろう)し、心の内に悪意を隠すこともない。

「別にお前の彼女はどうでもいいんだよ。それより昼のことが気になってるんだ、何か知らないか」
「怜くんはさあ、自分の立場をもうちょっと理解した方がいいと思うな」
「へっ?」

 空になったのを見て、俺のおちょこに日本酒を注ぐ松岡。なみなみと注ぎ入れてから、松岡はさらに話を続けた。

「あんまり友達いなさそうな怜くんは分かんないだろうけどさ」
「余計なお世話だ」
「篠崎さんって結構な有名人なんだよ。特に川内のキャンパスではね」

 川内というのは一年生が多く集められるキャンパスで、基本的には教養の講義が行われている。医学部のキャンパスにいることが多い俺たちには馴染みのないことだが、篠崎夏織は川内では有名人である。……と、松岡は言いたいのだと思う。

「なんで有名人なんだ?」
「そりゃあんな背が高くて綺麗な女の子、有名になるでしょー!」
「今の、録音して白兎さんに聞かせてやればよかったな。他の女の子を褒めてたぞって」
「ちょっ、怜くんそれはなしだって!」

 慌てたように手を振る松岡。こんななりして、冗談を真に受けるくらいにはピュアなんだよな。

「で、話の続きは?」
「そうそう、とにかく篠崎さんは有名人なんだよ! 弓道でインターハイとか出てたらしいし」
「マジで?」
「知らなかったの?」
「知らなかった」

 マジかよ、言ってくれればいいのに。自分でそういうことを明かさないあたり、やはり謙虚としか言いようがない。俺や松岡だったら威張って自慢してるだろうけど!

「でもよ、夏織さんが有名人なことと今日の件に関係があるのか?」
「はっきり言うよ。怜くんはたくさんの人間を敵に回してる」
「……は?」

 敵? なんで? 俺が何をしたって?

「どういうことだよ!?」
「うさぎたんから聞いたんだけど、篠崎さんには『隠れファン』が多いんだって」
「隠れファン?」
「そ! だからさあ、そういう人からすれば怜くんは敵に決まってるでしょ?」
「そりゃ、そうだけどさ……」
「うさぎたんも隠れファンは警戒しているんだって。篠崎さんが他人に興味を持たないから、今まで何もなかったらしいけど」
「でも、昼に来た奴らは女の子だったぞ」
「関係ないよ。男女関係なくファンは多いんだよ、きっと」

 寝耳に水、というのが松岡の話を聞いた印象だった。要するに、隠れファンからすれば――キャンパスで夏織さんと話したりしている俺は敵ってことか。白兎が異常に俺のことを警戒していたのも、隠れファンの話を聞けば納得がいく。

 だけどさ。……くっだらない話にもほどがあるってもんだ。俺が夏織さんと仲良くする、そのことの何が悪い? むしろ本人に隠れて夏織さんを崇めているのも変な話だろう。

 そりゃ、あの日の記憶のことをいつか打ち明けなければならないのはある。だけど、俺と夏織さんの仲にとやかく言われる筋合いはないはずだ。

「ったく、しょうもないにもほどがあるな」
「あはは、怜くんがそんなに怒ってるのも珍しいね」
「そうか?」
「そもそも僕以外には普段から敬語でしょー? どっちかというと、冷静な印象だけどな」
「まあ、な」

 注いでもらった日本酒を、ちびりと飲む。うまい、飲みやすいな。

「とにかく、俺は気にしないことにするよ」
「さっすが怜くん! 明日もデートなんでしょ?」
「彼女から聞いたのか?」
「そ! 良い話を期待してるからね!」

 松岡はまたけらけらと笑った。浪人時代からさらに笑顔が増えた。あの頃はいろいろあったんだろうが、楽しく大学生活を送っているようで何よりだ。

 さて、俺は俺で頑張らないとな。隠れファンだろうがなんだろうが、関係のない話だ。夏織さん、最高のデートにしような――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

処理中です...