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第34話 団子より花
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バッティングセンターから出て、再び二人で道を歩く。時刻はちょうど十二時前。お天道様が高く登っていて、俺たちの頭に容赦なく日差しが突き刺さる。自分の肌という肌に汗が滲むのを感じながら、歩を進めていた。
「怜、お腹が空いてないか?」
「ん? ああ、自分はそこまで」
「そ、そうか」
すぐ隣を歩いていた夏織さんがこちらを向いたかと思えば、すぐに目をそらした。たしかに飯時だけど、俺は別に……って、馬鹿か俺は!
「あ~、でもお腹が空いてきたかもしれないです」
「本当か!?」
「どこか食べに行きましょうか?」
「あ、ああ!」
夏織さんの声色が明るくなった。まあ、女性に「腹が減った」と言わせるわけにはいかないよな。
でも、昼飯と言ってもどうしようかな。ここは臨海地帯、あまり飲食店が多いわけじゃない。となると……もう少し先のショッピングモールまで行った方が良さそうだな。
「もうちょっと先にショッピングモールがあるので、そこのフードコートでも行きましょうか」
「ああ、構わない」
この暑さだし、早く行って涼みたいところだな。あと五分といったところか……っと、もう見えてきたな。広々とした駐車場と、その向こうに大きな建物。さらにトレードマークの観覧車も元気よく回っている。
「あれです……って、あれ」
案内しようとしたら、夏織さんが視界から消えていた。キョロキョロと見回してみると、夏織さんは少し後ろで立ち止まっていた。俺も足を止めて、側に歩み寄った。
「どうかしましたか?」
「あれは……遊園地か?」
「いえ、あそこのアウトレットには観覧車があるんですよ」
「そうなのか……」
夏織さんは目をキラキラと輝かせて、動くゴンドラを凝視していた。……乗りたいのかな?
「の、乗りますか?」
「い、いいのか!?」
「いいも何も、夏織さんが乗りたいなら付き合いますよ」
「そうか、怜は素晴らしい人間だな!」
にっこにこで歩き出す夏織さん。観覧車に乗るくらいで「素晴らしい人間」に認定されるとは。この人が他人を見る基準というのは複雑怪奇だな。別に悪い気はしないけどさ。
「でも、お昼ご飯は――」
「いい、そんなのいい! 食べなくてもいいくらいだ!」
「ええっ!?」
「さっ、早く行こう!」
「ちょっ、夏織さん!?」
暑いのも気にせず、夏織さんは早歩きで先の方に進んでいく。最初はちょっと戸惑ったけど、まあ仕方ないかとついていく俺。
エスコートするつもりが、夏織さんには振り回されてばっかりだ。でもまあ、俺が主導権を握ることが第一なわけじゃない。夏織さんが楽しければ、それでいい!
「ほらっ、遅いぞ怜!」
陽炎の向こうで、夏織さんが手を振っている。麦わら帽子に、風に揺れる純白のワンピースが本当によく似合う。
「待ってくださいよー!」
再び、駆け出した俺だった。
「怜、お腹が空いてないか?」
「ん? ああ、自分はそこまで」
「そ、そうか」
すぐ隣を歩いていた夏織さんがこちらを向いたかと思えば、すぐに目をそらした。たしかに飯時だけど、俺は別に……って、馬鹿か俺は!
「あ~、でもお腹が空いてきたかもしれないです」
「本当か!?」
「どこか食べに行きましょうか?」
「あ、ああ!」
夏織さんの声色が明るくなった。まあ、女性に「腹が減った」と言わせるわけにはいかないよな。
でも、昼飯と言ってもどうしようかな。ここは臨海地帯、あまり飲食店が多いわけじゃない。となると……もう少し先のショッピングモールまで行った方が良さそうだな。
「もうちょっと先にショッピングモールがあるので、そこのフードコートでも行きましょうか」
「ああ、構わない」
この暑さだし、早く行って涼みたいところだな。あと五分といったところか……っと、もう見えてきたな。広々とした駐車場と、その向こうに大きな建物。さらにトレードマークの観覧車も元気よく回っている。
「あれです……って、あれ」
案内しようとしたら、夏織さんが視界から消えていた。キョロキョロと見回してみると、夏織さんは少し後ろで立ち止まっていた。俺も足を止めて、側に歩み寄った。
「どうかしましたか?」
「あれは……遊園地か?」
「いえ、あそこのアウトレットには観覧車があるんですよ」
「そうなのか……」
夏織さんは目をキラキラと輝かせて、動くゴンドラを凝視していた。……乗りたいのかな?
「の、乗りますか?」
「い、いいのか!?」
「いいも何も、夏織さんが乗りたいなら付き合いますよ」
「そうか、怜は素晴らしい人間だな!」
にっこにこで歩き出す夏織さん。観覧車に乗るくらいで「素晴らしい人間」に認定されるとは。この人が他人を見る基準というのは複雑怪奇だな。別に悪い気はしないけどさ。
「でも、お昼ご飯は――」
「いい、そんなのいい! 食べなくてもいいくらいだ!」
「ええっ!?」
「さっ、早く行こう!」
「ちょっ、夏織さん!?」
暑いのも気にせず、夏織さんは早歩きで先の方に進んでいく。最初はちょっと戸惑ったけど、まあ仕方ないかとついていく俺。
エスコートするつもりが、夏織さんには振り回されてばっかりだ。でもまあ、俺が主導権を握ることが第一なわけじゃない。夏織さんが楽しければ、それでいい!
「ほらっ、遅いぞ怜!」
陽炎の向こうで、夏織さんが手を振っている。麦わら帽子に、風に揺れる純白のワンピースが本当によく似合う。
「待ってくださいよー!」
再び、駆け出した俺だった。
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