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081:地下1階6
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装備の手入れは終わった。消耗品の補充も終わった。案内人からも頑張れというようなことは言われている。今から挑もうとしていることを何とかしなければとても地下世界に出て行くことはできそうもないのだ。クリストたちは準備を確認したところで再びダンジョンへと乗り込み、地下1階、これからは10層という案内人の呼び方にそろえることになるだろうが、とにかくそこの魔法の仕掛けによって分けられているというエリアに向かうのだ。
地上から階段を下り、いつものように駆けていくラットを見ながらひたすらに直進していく。丁字路に突き当たるところまで進んだところで右へ、その先の突き当たりが目的地だ。前回ここへ来たときには普通に突き当たりだからそれで終了としていた場所なのだが、案内人に言わせるとここでディテクト・マジックをお薦めということだった。つまり魔法の仕掛けが何かしらここにあるということだ。
「ディテクト・マジック‥‥何かしらこれ」
カリーナが魔法を使うと、どうやら目の前、壁の前に薄い桃色をしら球体が浮かんでいるのだという。魔法を使っていない他の誰にもそれは見えていない。意を決して手を伸ばしそれに触れるがそれだけでは何事も起きない。それならとちょうど手の内に収まりそうな大きさだったので握ってみたのだが、それが正解だった。
通路の壁が奥へすぅっと色を変えていく。黒から薄い桃色へ。そして透明に。中央に向かって色が変わり、そして人が通れるような大きさで透明な部分が広がっている。どうやらここを通り抜けることで未知のエリアへと入ることができるようだ。
向こう側は下でも見たように明るくなっている。そのおかげで先まで見通せて、壁のない通路が伸びているのが分かる。通路の左右は少し落ちたところで水が満ちていて、水面を覆うように植物の葉が広がっていて、ところどころ水面よりも高く伸びている葉もあった。葉の大きさは40から50センチほどもあるだろうか。果たしてこれがどれほど広がっているのか。ただ壁がないということで見通しは良さそうで、そして水面が見えている部分も多く、そうなれば歩いて渡ることもできそうだった。
まずはフリアがそこへ踏み出す。だが一歩二歩と進んだところで後ろを振り返り、慌てふためき始めた。何事かを言っているがそれがこちらに届いていない。
「‥‥ああ、これはあれだろう、一方通行なんだろうな」
「そんな感じだねえ、どうする?」
「どうするもなにも、行くしかないだろう」
意を決してクリストがまずはそこへ踏み入る。フリアがあーという顔をしているが仕方がないだろう。あのままではフリア一人をここに放置することになってしまう。結局攻略を目標にしているのだから進むしかないのだ。全員がそのエリアに入り、背後を確認するが、案の定、そこには何もなかった。壁もない。当然通ることのできるあの不思議な空間のようなものもない。あるのは果てなく続く水面と、それを覆う植物の葉だけだ。左も同じように果てなく続く水面と葉、正面に通路は続き、右は水面の向こうに通路が見えている。そしてそこよりはるか向こうだが、薄く影のようなもやのような、人のような形のものがいるのが見えている。あれがこのエリアの魔物だろうか。
「さあて、ここからどうするのかだ。まず、あれは魔物か? 何か分かるか」
「ああごめん、待ってね、今確認するよ」
ばたばたしていて周囲の確認ができていなかった。フリアは額に上げていたイーグル・アイを下げて目に当て、周囲を見渡す。
「うん、魔物だね。たぶんスペクター? な気がするよ。それでもっと向こうにたぶんレイス? かも」
「スペクターにレイスか。それはほぼレイスがボスで決まりじゃないか」
「脅威度的にもそんな気がするね。それで見えているっていうのが気になるよね。直接行ったら台無しな気がするけれど」
「水中に何かいるのかしらね? 一応見てみましょうか。ディテクト・イーヴル‥‥うん? ディテクト・イーヴル‥‥変ね。フェリクスも試してみてくれる? 魔法が発動しないわ」
「え、本当かい? ディテクト・イーヴル‥‥駄目だね。何の反応もない」
レイス、スペクターはまあいい。だいたいどういう魔物かは知っている。だがディテクトの魔法が発動しないとはどういうことか。ここへ来るためにディテクト・マジックは使っていて普通に効果を発揮したというのに。
カリーナとフェリクスは他の魔法も試し始める。ウォーター・ウォーク、ブレス、ファイアー・ボルト、マジック・ミサイル。何一つ発動はしなかった。
「‥‥これは、もしかして魔法禁止ってことなのか?」
「そうとしか考えられないよ。どうすればいいんだろう。来てしまった以上戻ることもできない。でも魔法が使えない」
「まずいな‥‥待て、道具はどうなんだ? イーグル・アイは使えたよな?」
「うん。普通に」
「そうだよな。どれ、俺のは‥‥使えるな」
先ほど周囲の偵察のためにフリアがイーグル・アイを使っている。そして今クリストが自分のナイト・ソードを使い周囲に闇をもたらした。ということは魔法の道具は使えていると言うことだ。そうなるとマジック・ミサイル・ワンドとファイアー・スタッフ、フォース・ビードといったこれまで頼りになった道具はどうなのかということになるのだが、これらは使用可能な回数に制限がある。ここで一発使ってしまっていざという時に使えませんでは困ったことになってしまう。
「よし。少なくとも武器はいけるってことだ。だったらまずはスペクターだ。あれなら俺たちだけでも何とかなる。その時に使えるかどうかを見よう」
「そうだな。これは魔法の武器がそろっていたのは幸運だったな」
全てダンジョンに用意してもらっておいてなんだが、前衛が全員魔法の武器を持っているというのは強みだ。レイスやスペクターのようなアンデッドにはやはり普通の武器よりも効果があるだろう。とにかくこれで方針は決まった。まずはスペクターの居場所を目指すのだ。
それ以外の魔物の出現の危険性もあるため、そこからも慎重にフリアを先頭に進んでいく。通路はしばらく先で行き止まりになり、そこの床には魔法円が描かれていた。そして行き止まりになった場所の先は水面に葉が生い茂り、その向こう側、前と右に別の通路の床が見えている。この魔法円が移動用なのだろうと判断し、フリアが入ってみるが特に反応はない。これでは行き先がと迷う前にできることをやろうと全員が魔法円に入ったところでそれが反応し、薄い桃色の光をあふれさせてクリストたちを包んだ。
光が消えた場所は魔法円の上で、そして通路の形状がまったく違っていた。どうやら全員が乗ることで別の魔法円に移動する仕組みだったらしい。部屋ほどの広さの場所の角に出たらしく、後ろと左が水面だった。そして前方と、右手にも先に進むための通路が見えている。まずは前と決め、そちらに進むと今回も行き止まりに魔法円だ。それに全員が乗り進んだ先は右へ通路が伸びていてそれ以外の方向は全て水面だった。
「いや、これは参ったな。進んでいるのか何なのかまったく分からないぞ」
「一応地図を書いているけれど、困るよね、つながりが全然分からない。ある程度書いて通路の形が一緒ならそれが一致っていうことになるだろうけれど、それが分かってくるまではどうしようもないね」
「もうこれはあれよね、とにかくガンガン魔法円に乗って移動していくしかないでしょ。フェリクスが言うみたいに、そのうち一致しだすわよ」
「それしかないのか、仕方がない。とにかく手当たり次第か」
通路の形以外にまったく特徴がない場所で、さっきからスペクターとレイス以外の魔物がまったく見えてこない。これは戦闘が発生しなくて楽ではあるのだが、それどころではないほど移動が面倒だった。
今回の通路はスタート地点から右へ真っすぐ進んで右へ折れ、その先でまた行き止まりに魔法円だった。そこへ入ると今度は前と左右が水面で後ろに通路が伸びている。そちらへ真っすぐ進むと行き止まりで魔法円だ。そこへ入ると今度は部屋ほどの広さで左と後ろが水面、右手、部屋の別の角部分に魔法円、そして正面には通路が伸びている。まずは近くということで右の魔法円に入ると前と左右が水面、後ろに通路だ。そこを進んでいくと部屋に出て正面に魔法円、右奥方向に通路だ。
「ん? この形は見たね。最初に移動してきた場所かもしれないよ」
「お、なるほどね、こうやってとにかく埋めていくわけだな。まあ変化がなくて面白みはないんだが、とにかく進もう。てことは次はどこだ?」
「戻ろう。戻って、ここに出るからそこからこっちの通路だね」
引き返し魔法円に入る。出た場所は前と右が水面、背後には魔法円が見えていて、左手には通路が伸びている。この通路の先が未探索だ。そこへ進み、しばらく先で右に折れるとその先も部屋になっていて、奥の左右に魔法円があった。まずは右ということでそこへ入ると真四角な部屋へ。前と左に魔法円があった。ではまず前へと入ると、次は通路に出る。その通路の先は部屋になっていて、そしてスペクターの姿が見て取れた。
「来たか。よし、ここが勝負だな。俺とエディが正面から突っ込む。フリアは回り込んでくれ。フェリクスがマジック・ミサイル・ワンド、カリーナは状態異常に備えてポーションを用意しておいてくれ。まあ普通のスペクターならそこまで必要ないだろうが」
「ここでマジック・ミサイルが使えればファイアー・スタッフがレイス戦の鍵になりそうだね」
「そういうことだな。よし、いいな、行こう」
通路を進むと部屋の中にいたスペクターが身を起こしこちらを見つめてくる。怒りの表情を浮かべた半透明の人型の魔物だが足元は霧かもやのようにぼやけていて不確かだ。エディとクリストが正面から迫ろうと部屋に入ったところでスペクターが大きく腕を振り、そこから一筋の雷光が放たれ、とっさに掲げたエディの盾を打った。
「俺たちは魔法禁止だってのに、こいつはいいのかよ」
クリストの不満はもっともだが、言っていても仕方がない。フリアが右側に大きく回るようにして移動を開始、そしてフェリクスがマジック・ミサイル・ワンドを振りかざした。
「マジック・ミサイル!」
その気合いに押し出されるようにワンドから魔法の矢が1本放たれ、スペクターに命中する。そこへエディ、クリスト、背後に回ったフリアが武器を構えて突撃すると、まとめて攻撃を受けたスペクターはそれ以上抵抗することもなく崩れるように姿を消していった。
「よし、大丈夫そうだな。てーか、ここまで来るとスペクター相手だと過剰なのか」
「ちょっとやり過ぎな感じだったね」
「とはいえこれで使えることが確定だ。十分だろう」
スペクター相手ではクリストたちの攻撃力が高すぎてどの程度の効果だったのかはほとんど分からなかった。だが今回の戦闘で魔法の道具は間違いなく効果を発揮することが分かったのだ。そして相手はこの環境でもお構いなしに魔法を使ってくることも確定した。これはまたしてもリフレクト・ミラー・チャイムの出番だろう。ダンジョンの用意してくれた道具頼みなのは何ともだが、とにかくこれで戦える。
スペクターを倒したあとには宝箱が出現していて、フリアが鍵なし罠なしを確認してこれを開けると、そこからは指輪が一つ見つかった。
次は引き返して別のルートだ。一つ戻ったところで選んでいない魔法円は一つなのでそこへ進む。出た先も部屋になっていて左前方に魔法円、そして右方向に通路があった。まずはということで左前方の魔法円へ入ると、そこも部屋になっていて、そして宝箱が置かれていた。
「おー、普通に宝箱もあるんだね。ん、鍵なし、罠なし、開けるよ」
宝箱の中からはいつものポーションの薬瓶とは違う小さな瓶が見つかった。中身が何も入っていないところを見ると、これは中身ではなく瓶そのものに何かしらの効果があるのだろうか。とにかくこれでこの部屋は終了だ。他に通路も魔法円もなく、一つ引き返すことになる。そうすると進むべき方向は一つしかないので通路に進んでその先の魔法円に入ることになる。その先は短めの直進の通路で、行き止まりには魔法円。そこへ入ると部屋に出て、そこはもう一つ魔法円があるだけだ。その先は通路になっていて、そして前方は広い部屋へとつながっていた。部屋の奥の方には小さな祭壇のようなものがあり、その前にレイスだろう、全身が暗い影のようなもやに包まれた人型の魔物がいた。
「さあて、ここまで来たな。いよいよ、と言いたいところだが、何だ?」
いよいよこのエリアのボス戦といきたいとこではあったのだが、通路から部屋へと入るには2つの鉄の門を開けなければならないようになっていて、一つ目はすでに開いているがもう一つが閉じている。これと似たような仕組みは9階で見たが、もしやと思って閉じている門まで行って手を掛けてみたもののそれはびくともしなかった。
「開かないな。一つ開いているってことはもう一体スペクターがいるってことだよな」
「そうみたいだね。そうして左、向こうに見えているよね」
「見えているなあ。分かりやすくていいんだが、どこまで戻ればいいんだ?」
見えていて今すぐに挑めそうなのにそこへ行く方法が分かっていない。魔法円をどこまで戻るのかを確認すると、選んでいないものが一つだけあって、そこまで引き返す必要がありそうだった。ここから5つ、魔法円を戻る。そうするとまだ使っていない魔法円までたどり着き、そこへ進むのだ。
真っすぐな通路の途中に右への分かれ道、そこに魔法円があり、そこへ入ると部屋へ出る。部屋の左奥に通路があり、そこへ進むと魔法円。その先は真っすぐな通路で行き止まりの魔法円に入ると部屋、そしてその部屋の中にあった魔法円に入ると通路。その向こうには部屋があり、スペクターがいた。
「ようやくか。もうどう通ってきたのか分からんが、とにかくスペクターだ。魔法はいらない。俺たちだけでいいぞ」
エディとクリストが正面から、フリアが回り込んで突撃する。それだけの話だ。スペクターが魔法を使ってくるかもしれないがそれも今回は気にしない方針だ。部屋へ踏み込んだところでスペクターが動き出し右手を振るうと今回も雷撃が走りエディがそれを盾で受ける。多少のダメージが抜けるかもしれないが、この程度ならばどうという話ではない。あとは一気に距離を詰めたクリストが剣を振り、回り込んだフリアがナイフを振るい、そして最後にエディが斧を突き入れたところで勝負あり。スペクターは崩れるようにその姿を消していった。
そのあとに残された宝箱は今回も鍵も罠もなく、フリアがさっさと開けると中からはポーションが見つかった。中の液体は薄い水色をしていて、とりあえずヒーリングではなさそうということだけが分かった。
これでレイスに挑む準備は整っただろう。またひたすら引き返し、そしてもう一度レイスまでの魔法円を進んでいく。いくつもの移動を行うとようやく正面にレイスが見えている場所までたどり着き、そしてやはり鉄の門は開かれていた。
「さあ今度こそだ。準備をしよう」
前衛3人は予定どおり魔法の武器で攻撃。エディの盾とクリストの剣にはリフレクト・ミラー・チャイムで魔法反射の鏡面を作る。フリアは念のためフォース・ビードも用意。フェリクスがマジック・ミサイル・ワンドを、カリーナがファイアー・スタッフを用意。後衛の防御が薄いことが最大の問題なので、今回はとにかく正面からエディとクリストが迫り、その背後から開幕の魔法を全力で放つ。フリアは回り込んで背後から攻撃し、いざとなったらフォース・ビードで仕切り直し。これで方針は決まりだ。
部屋へ踏み込むとレイスが身を起こす。全身を影に包まれ、目の奥にだけ暗い黄色い光がともっている。真っ黒な口を開け、カカカと笑ったような音がした。左右に大きく開いた両手から雷光がエディとクリストに迫り、2人はそれを反射させると雷光は逆にレイスに当たる。この現象に驚いたのかふわりと浮かんで一歩分後退する。
「マジック・ミサイル!」
フェリクスの持つワンドから3本の魔法の矢がそこへ迫る。
「ファイアー・ボール!」
カリーナのスタッフから炎の塊がそこへ迫る。
激しい爆発音とともにレイスを炎が包み込み、さらにそこへ魔法の矢が突き刺さっていく。そしてエディがここと判断して斧を突き入れ、さらに強撃を放ってダメージを積む。炎が消えたあとには駆けつけたクリストが剣を振るい、フリアもナイフを振ってさらに追加効果の冷気ダメージを与えていく。
積み上がるダメージにレイスは怒りの表情を浮かべてグオオオと叫び、その体から影が離れるように広がるとエディを包み込んだ。
「ぐぅっ」
体力を吸われるような感触に思わずうめいたエディを見ながらレイスがにやりと表情を崩し、さらにその足元から影が吹き上がるように持ち上がると形をスペクターへと変えていき、その現れたスペクターがそのままエディに組み付くように動き出す。
「もう一度だ!」
クリストが宣言し、そのままスペクターを放置してレイスに斬りかかる。その動きを見たフェリクスとカリーナが再び同じ魔法をレイス目掛けて放った。
「マジック・ミサイル!」
「ファイアー・ボール!」
魔法の矢が立て続けにレイスに突き刺さり、さらにその体を引っかけるようにして炎の渦が巻き起こる。レイスの魔法への抵抗は高いだろうが、これだけ積み上げたダメージが弱いわけがない。
炎が消えたところで再びクリストの攻撃、フリアの攻撃と積み重ねられると、うずくまるように地面に落ちていく。だがまだ動きが止まったわけではないようだ。レイスは地面についた手を持ち上げて正面を向くと、思い切り振り抜くように動かした。狙った場所はスペクターに組み付かれて動けないエディだった。放たれた雷撃は確かにエディに届いたが、やはりリフレクト・ミラー・チャイムの効果は絶大だった。本当なら体を貫いただろう雷撃が盾に反射され、逆にレイスの体を貫いた。
雷撃に貫かれたレイスの体が崩れていく。全身からもやが立ち上るようにして消えていくのだ。さあこれで残りはスペクターのみ。そうなってしまえば話は簡単だった。クリストとフリアの攻撃が積み上げられ、逃がさないようにエディがそれを抱え込んでいるうちに動きが止まり、今までと同じようにその体が崩れるように消えていった。
「よし、これでクリアだ。エディ、大丈夫か?」
今回はエディがスペクターを抱え込めたことも勝因だったが、同時にエディがダメージも抱え込んでしまっていた。
「ふぅ、何とかなったな。正直反射できなければ危なかったかもしれない」
「そうだな。何というか、本当にこいつは便利だよな。開幕から頼りっぱなしだった」
繰り返してしまうがリフレクト・ミラー・チャイムに感謝する展開だった。だがとにかくこれでレイスも撃破だ。姿を消したその足元には今までと同じように今回も宝箱が出現していて、そして小さな金属板がそこに落ちていた。
「来たな。やはりこいつが持っていたってことでいいようだ」
「そうね。そして数字の1、決まりね」
目標はクリアされた。これで全ての金属板がそろったのだ。1から5まで全てそろえれば門前の魔物の脅威度がそれなりのところまで落ちてくると言っていた、それがこれでそろったのだ。
もう一つ、宝箱は今回も鍵も罠もなく、フリアが開けたその中からは角笛が一つ見つかった。これで今回の探索は一応終了だ。あとは帰らなければならないのだが、そのための魔法円はレイスのいた部屋の奥、小さな祭壇があった場所の裏手にあった。祭壇は特に文字などもなく、レイス出現のための演出だろうかという程度しか分からなかったが、とにかくこれで帰り道も見つかった。その魔法円に入ると真っすぐな通路に出て、そして行き止まりにあった魔法円に入ると、その先は周囲を壁に囲まれた暗い通路の中だった。どうやら通常の地下1階に出たのだろう。通路を進み、分かれ道や扉の位置を確認していくと、やはそこは地下1階だということが分かる。これで攻略は完了だ。今回はこのまま地上へ戻り、そこで一休みしよう。
地上から階段を下り、いつものように駆けていくラットを見ながらひたすらに直進していく。丁字路に突き当たるところまで進んだところで右へ、その先の突き当たりが目的地だ。前回ここへ来たときには普通に突き当たりだからそれで終了としていた場所なのだが、案内人に言わせるとここでディテクト・マジックをお薦めということだった。つまり魔法の仕掛けが何かしらここにあるということだ。
「ディテクト・マジック‥‥何かしらこれ」
カリーナが魔法を使うと、どうやら目の前、壁の前に薄い桃色をしら球体が浮かんでいるのだという。魔法を使っていない他の誰にもそれは見えていない。意を決して手を伸ばしそれに触れるがそれだけでは何事も起きない。それならとちょうど手の内に収まりそうな大きさだったので握ってみたのだが、それが正解だった。
通路の壁が奥へすぅっと色を変えていく。黒から薄い桃色へ。そして透明に。中央に向かって色が変わり、そして人が通れるような大きさで透明な部分が広がっている。どうやらここを通り抜けることで未知のエリアへと入ることができるようだ。
向こう側は下でも見たように明るくなっている。そのおかげで先まで見通せて、壁のない通路が伸びているのが分かる。通路の左右は少し落ちたところで水が満ちていて、水面を覆うように植物の葉が広がっていて、ところどころ水面よりも高く伸びている葉もあった。葉の大きさは40から50センチほどもあるだろうか。果たしてこれがどれほど広がっているのか。ただ壁がないということで見通しは良さそうで、そして水面が見えている部分も多く、そうなれば歩いて渡ることもできそうだった。
まずはフリアがそこへ踏み出す。だが一歩二歩と進んだところで後ろを振り返り、慌てふためき始めた。何事かを言っているがそれがこちらに届いていない。
「‥‥ああ、これはあれだろう、一方通行なんだろうな」
「そんな感じだねえ、どうする?」
「どうするもなにも、行くしかないだろう」
意を決してクリストがまずはそこへ踏み入る。フリアがあーという顔をしているが仕方がないだろう。あのままではフリア一人をここに放置することになってしまう。結局攻略を目標にしているのだから進むしかないのだ。全員がそのエリアに入り、背後を確認するが、案の定、そこには何もなかった。壁もない。当然通ることのできるあの不思議な空間のようなものもない。あるのは果てなく続く水面と、それを覆う植物の葉だけだ。左も同じように果てなく続く水面と葉、正面に通路は続き、右は水面の向こうに通路が見えている。そしてそこよりはるか向こうだが、薄く影のようなもやのような、人のような形のものがいるのが見えている。あれがこのエリアの魔物だろうか。
「さあて、ここからどうするのかだ。まず、あれは魔物か? 何か分かるか」
「ああごめん、待ってね、今確認するよ」
ばたばたしていて周囲の確認ができていなかった。フリアは額に上げていたイーグル・アイを下げて目に当て、周囲を見渡す。
「うん、魔物だね。たぶんスペクター? な気がするよ。それでもっと向こうにたぶんレイス? かも」
「スペクターにレイスか。それはほぼレイスがボスで決まりじゃないか」
「脅威度的にもそんな気がするね。それで見えているっていうのが気になるよね。直接行ったら台無しな気がするけれど」
「水中に何かいるのかしらね? 一応見てみましょうか。ディテクト・イーヴル‥‥うん? ディテクト・イーヴル‥‥変ね。フェリクスも試してみてくれる? 魔法が発動しないわ」
「え、本当かい? ディテクト・イーヴル‥‥駄目だね。何の反応もない」
レイス、スペクターはまあいい。だいたいどういう魔物かは知っている。だがディテクトの魔法が発動しないとはどういうことか。ここへ来るためにディテクト・マジックは使っていて普通に効果を発揮したというのに。
カリーナとフェリクスは他の魔法も試し始める。ウォーター・ウォーク、ブレス、ファイアー・ボルト、マジック・ミサイル。何一つ発動はしなかった。
「‥‥これは、もしかして魔法禁止ってことなのか?」
「そうとしか考えられないよ。どうすればいいんだろう。来てしまった以上戻ることもできない。でも魔法が使えない」
「まずいな‥‥待て、道具はどうなんだ? イーグル・アイは使えたよな?」
「うん。普通に」
「そうだよな。どれ、俺のは‥‥使えるな」
先ほど周囲の偵察のためにフリアがイーグル・アイを使っている。そして今クリストが自分のナイト・ソードを使い周囲に闇をもたらした。ということは魔法の道具は使えていると言うことだ。そうなるとマジック・ミサイル・ワンドとファイアー・スタッフ、フォース・ビードといったこれまで頼りになった道具はどうなのかということになるのだが、これらは使用可能な回数に制限がある。ここで一発使ってしまっていざという時に使えませんでは困ったことになってしまう。
「よし。少なくとも武器はいけるってことだ。だったらまずはスペクターだ。あれなら俺たちだけでも何とかなる。その時に使えるかどうかを見よう」
「そうだな。これは魔法の武器がそろっていたのは幸運だったな」
全てダンジョンに用意してもらっておいてなんだが、前衛が全員魔法の武器を持っているというのは強みだ。レイスやスペクターのようなアンデッドにはやはり普通の武器よりも効果があるだろう。とにかくこれで方針は決まった。まずはスペクターの居場所を目指すのだ。
それ以外の魔物の出現の危険性もあるため、そこからも慎重にフリアを先頭に進んでいく。通路はしばらく先で行き止まりになり、そこの床には魔法円が描かれていた。そして行き止まりになった場所の先は水面に葉が生い茂り、その向こう側、前と右に別の通路の床が見えている。この魔法円が移動用なのだろうと判断し、フリアが入ってみるが特に反応はない。これでは行き先がと迷う前にできることをやろうと全員が魔法円に入ったところでそれが反応し、薄い桃色の光をあふれさせてクリストたちを包んだ。
光が消えた場所は魔法円の上で、そして通路の形状がまったく違っていた。どうやら全員が乗ることで別の魔法円に移動する仕組みだったらしい。部屋ほどの広さの場所の角に出たらしく、後ろと左が水面だった。そして前方と、右手にも先に進むための通路が見えている。まずは前と決め、そちらに進むと今回も行き止まりに魔法円だ。それに全員が乗り進んだ先は右へ通路が伸びていてそれ以外の方向は全て水面だった。
「いや、これは参ったな。進んでいるのか何なのかまったく分からないぞ」
「一応地図を書いているけれど、困るよね、つながりが全然分からない。ある程度書いて通路の形が一緒ならそれが一致っていうことになるだろうけれど、それが分かってくるまではどうしようもないね」
「もうこれはあれよね、とにかくガンガン魔法円に乗って移動していくしかないでしょ。フェリクスが言うみたいに、そのうち一致しだすわよ」
「それしかないのか、仕方がない。とにかく手当たり次第か」
通路の形以外にまったく特徴がない場所で、さっきからスペクターとレイス以外の魔物がまったく見えてこない。これは戦闘が発生しなくて楽ではあるのだが、それどころではないほど移動が面倒だった。
今回の通路はスタート地点から右へ真っすぐ進んで右へ折れ、その先でまた行き止まりに魔法円だった。そこへ入ると今度は前と左右が水面で後ろに通路が伸びている。そちらへ真っすぐ進むと行き止まりで魔法円だ。そこへ入ると今度は部屋ほどの広さで左と後ろが水面、右手、部屋の別の角部分に魔法円、そして正面には通路が伸びている。まずは近くということで右の魔法円に入ると前と左右が水面、後ろに通路だ。そこを進んでいくと部屋に出て正面に魔法円、右奥方向に通路だ。
「ん? この形は見たね。最初に移動してきた場所かもしれないよ」
「お、なるほどね、こうやってとにかく埋めていくわけだな。まあ変化がなくて面白みはないんだが、とにかく進もう。てことは次はどこだ?」
「戻ろう。戻って、ここに出るからそこからこっちの通路だね」
引き返し魔法円に入る。出た場所は前と右が水面、背後には魔法円が見えていて、左手には通路が伸びている。この通路の先が未探索だ。そこへ進み、しばらく先で右に折れるとその先も部屋になっていて、奥の左右に魔法円があった。まずは右ということでそこへ入ると真四角な部屋へ。前と左に魔法円があった。ではまず前へと入ると、次は通路に出る。その通路の先は部屋になっていて、そしてスペクターの姿が見て取れた。
「来たか。よし、ここが勝負だな。俺とエディが正面から突っ込む。フリアは回り込んでくれ。フェリクスがマジック・ミサイル・ワンド、カリーナは状態異常に備えてポーションを用意しておいてくれ。まあ普通のスペクターならそこまで必要ないだろうが」
「ここでマジック・ミサイルが使えればファイアー・スタッフがレイス戦の鍵になりそうだね」
「そういうことだな。よし、いいな、行こう」
通路を進むと部屋の中にいたスペクターが身を起こしこちらを見つめてくる。怒りの表情を浮かべた半透明の人型の魔物だが足元は霧かもやのようにぼやけていて不確かだ。エディとクリストが正面から迫ろうと部屋に入ったところでスペクターが大きく腕を振り、そこから一筋の雷光が放たれ、とっさに掲げたエディの盾を打った。
「俺たちは魔法禁止だってのに、こいつはいいのかよ」
クリストの不満はもっともだが、言っていても仕方がない。フリアが右側に大きく回るようにして移動を開始、そしてフェリクスがマジック・ミサイル・ワンドを振りかざした。
「マジック・ミサイル!」
その気合いに押し出されるようにワンドから魔法の矢が1本放たれ、スペクターに命中する。そこへエディ、クリスト、背後に回ったフリアが武器を構えて突撃すると、まとめて攻撃を受けたスペクターはそれ以上抵抗することもなく崩れるように姿を消していった。
「よし、大丈夫そうだな。てーか、ここまで来るとスペクター相手だと過剰なのか」
「ちょっとやり過ぎな感じだったね」
「とはいえこれで使えることが確定だ。十分だろう」
スペクター相手ではクリストたちの攻撃力が高すぎてどの程度の効果だったのかはほとんど分からなかった。だが今回の戦闘で魔法の道具は間違いなく効果を発揮することが分かったのだ。そして相手はこの環境でもお構いなしに魔法を使ってくることも確定した。これはまたしてもリフレクト・ミラー・チャイムの出番だろう。ダンジョンの用意してくれた道具頼みなのは何ともだが、とにかくこれで戦える。
スペクターを倒したあとには宝箱が出現していて、フリアが鍵なし罠なしを確認してこれを開けると、そこからは指輪が一つ見つかった。
次は引き返して別のルートだ。一つ戻ったところで選んでいない魔法円は一つなのでそこへ進む。出た先も部屋になっていて左前方に魔法円、そして右方向に通路があった。まずはということで左前方の魔法円へ入ると、そこも部屋になっていて、そして宝箱が置かれていた。
「おー、普通に宝箱もあるんだね。ん、鍵なし、罠なし、開けるよ」
宝箱の中からはいつものポーションの薬瓶とは違う小さな瓶が見つかった。中身が何も入っていないところを見ると、これは中身ではなく瓶そのものに何かしらの効果があるのだろうか。とにかくこれでこの部屋は終了だ。他に通路も魔法円もなく、一つ引き返すことになる。そうすると進むべき方向は一つしかないので通路に進んでその先の魔法円に入ることになる。その先は短めの直進の通路で、行き止まりには魔法円。そこへ入ると部屋に出て、そこはもう一つ魔法円があるだけだ。その先は通路になっていて、そして前方は広い部屋へとつながっていた。部屋の奥の方には小さな祭壇のようなものがあり、その前にレイスだろう、全身が暗い影のようなもやに包まれた人型の魔物がいた。
「さあて、ここまで来たな。いよいよ、と言いたいところだが、何だ?」
いよいよこのエリアのボス戦といきたいとこではあったのだが、通路から部屋へと入るには2つの鉄の門を開けなければならないようになっていて、一つ目はすでに開いているがもう一つが閉じている。これと似たような仕組みは9階で見たが、もしやと思って閉じている門まで行って手を掛けてみたもののそれはびくともしなかった。
「開かないな。一つ開いているってことはもう一体スペクターがいるってことだよな」
「そうみたいだね。そうして左、向こうに見えているよね」
「見えているなあ。分かりやすくていいんだが、どこまで戻ればいいんだ?」
見えていて今すぐに挑めそうなのにそこへ行く方法が分かっていない。魔法円をどこまで戻るのかを確認すると、選んでいないものが一つだけあって、そこまで引き返す必要がありそうだった。ここから5つ、魔法円を戻る。そうするとまだ使っていない魔法円までたどり着き、そこへ進むのだ。
真っすぐな通路の途中に右への分かれ道、そこに魔法円があり、そこへ入ると部屋へ出る。部屋の左奥に通路があり、そこへ進むと魔法円。その先は真っすぐな通路で行き止まりの魔法円に入ると部屋、そしてその部屋の中にあった魔法円に入ると通路。その向こうには部屋があり、スペクターがいた。
「ようやくか。もうどう通ってきたのか分からんが、とにかくスペクターだ。魔法はいらない。俺たちだけでいいぞ」
エディとクリストが正面から、フリアが回り込んで突撃する。それだけの話だ。スペクターが魔法を使ってくるかもしれないがそれも今回は気にしない方針だ。部屋へ踏み込んだところでスペクターが動き出し右手を振るうと今回も雷撃が走りエディがそれを盾で受ける。多少のダメージが抜けるかもしれないが、この程度ならばどうという話ではない。あとは一気に距離を詰めたクリストが剣を振り、回り込んだフリアがナイフを振るい、そして最後にエディが斧を突き入れたところで勝負あり。スペクターは崩れるようにその姿を消していった。
そのあとに残された宝箱は今回も鍵も罠もなく、フリアがさっさと開けると中からはポーションが見つかった。中の液体は薄い水色をしていて、とりあえずヒーリングではなさそうということだけが分かった。
これでレイスに挑む準備は整っただろう。またひたすら引き返し、そしてもう一度レイスまでの魔法円を進んでいく。いくつもの移動を行うとようやく正面にレイスが見えている場所までたどり着き、そしてやはり鉄の門は開かれていた。
「さあ今度こそだ。準備をしよう」
前衛3人は予定どおり魔法の武器で攻撃。エディの盾とクリストの剣にはリフレクト・ミラー・チャイムで魔法反射の鏡面を作る。フリアは念のためフォース・ビードも用意。フェリクスがマジック・ミサイル・ワンドを、カリーナがファイアー・スタッフを用意。後衛の防御が薄いことが最大の問題なので、今回はとにかく正面からエディとクリストが迫り、その背後から開幕の魔法を全力で放つ。フリアは回り込んで背後から攻撃し、いざとなったらフォース・ビードで仕切り直し。これで方針は決まりだ。
部屋へ踏み込むとレイスが身を起こす。全身を影に包まれ、目の奥にだけ暗い黄色い光がともっている。真っ黒な口を開け、カカカと笑ったような音がした。左右に大きく開いた両手から雷光がエディとクリストに迫り、2人はそれを反射させると雷光は逆にレイスに当たる。この現象に驚いたのかふわりと浮かんで一歩分後退する。
「マジック・ミサイル!」
フェリクスの持つワンドから3本の魔法の矢がそこへ迫る。
「ファイアー・ボール!」
カリーナのスタッフから炎の塊がそこへ迫る。
激しい爆発音とともにレイスを炎が包み込み、さらにそこへ魔法の矢が突き刺さっていく。そしてエディがここと判断して斧を突き入れ、さらに強撃を放ってダメージを積む。炎が消えたあとには駆けつけたクリストが剣を振るい、フリアもナイフを振ってさらに追加効果の冷気ダメージを与えていく。
積み上がるダメージにレイスは怒りの表情を浮かべてグオオオと叫び、その体から影が離れるように広がるとエディを包み込んだ。
「ぐぅっ」
体力を吸われるような感触に思わずうめいたエディを見ながらレイスがにやりと表情を崩し、さらにその足元から影が吹き上がるように持ち上がると形をスペクターへと変えていき、その現れたスペクターがそのままエディに組み付くように動き出す。
「もう一度だ!」
クリストが宣言し、そのままスペクターを放置してレイスに斬りかかる。その動きを見たフェリクスとカリーナが再び同じ魔法をレイス目掛けて放った。
「マジック・ミサイル!」
「ファイアー・ボール!」
魔法の矢が立て続けにレイスに突き刺さり、さらにその体を引っかけるようにして炎の渦が巻き起こる。レイスの魔法への抵抗は高いだろうが、これだけ積み上げたダメージが弱いわけがない。
炎が消えたところで再びクリストの攻撃、フリアの攻撃と積み重ねられると、うずくまるように地面に落ちていく。だがまだ動きが止まったわけではないようだ。レイスは地面についた手を持ち上げて正面を向くと、思い切り振り抜くように動かした。狙った場所はスペクターに組み付かれて動けないエディだった。放たれた雷撃は確かにエディに届いたが、やはりリフレクト・ミラー・チャイムの効果は絶大だった。本当なら体を貫いただろう雷撃が盾に反射され、逆にレイスの体を貫いた。
雷撃に貫かれたレイスの体が崩れていく。全身からもやが立ち上るようにして消えていくのだ。さあこれで残りはスペクターのみ。そうなってしまえば話は簡単だった。クリストとフリアの攻撃が積み上げられ、逃がさないようにエディがそれを抱え込んでいるうちに動きが止まり、今までと同じようにその体が崩れるように消えていった。
「よし、これでクリアだ。エディ、大丈夫か?」
今回はエディがスペクターを抱え込めたことも勝因だったが、同時にエディがダメージも抱え込んでしまっていた。
「ふぅ、何とかなったな。正直反射できなければ危なかったかもしれない」
「そうだな。何というか、本当にこいつは便利だよな。開幕から頼りっぱなしだった」
繰り返してしまうがリフレクト・ミラー・チャイムに感謝する展開だった。だがとにかくこれでレイスも撃破だ。姿を消したその足元には今までと同じように今回も宝箱が出現していて、そして小さな金属板がそこに落ちていた。
「来たな。やはりこいつが持っていたってことでいいようだ」
「そうね。そして数字の1、決まりね」
目標はクリアされた。これで全ての金属板がそろったのだ。1から5まで全てそろえれば門前の魔物の脅威度がそれなりのところまで落ちてくると言っていた、それがこれでそろったのだ。
もう一つ、宝箱は今回も鍵も罠もなく、フリアが開けたその中からは角笛が一つ見つかった。これで今回の探索は一応終了だ。あとは帰らなければならないのだが、そのための魔法円はレイスのいた部屋の奥、小さな祭壇があった場所の裏手にあった。祭壇は特に文字などもなく、レイス出現のための演出だろうかという程度しか分からなかったが、とにかくこれで帰り道も見つかった。その魔法円に入ると真っすぐな通路に出て、そして行き止まりにあった魔法円に入ると、その先は周囲を壁に囲まれた暗い通路の中だった。どうやら通常の地下1階に出たのだろう。通路を進み、分かれ道や扉の位置を確認していくと、やはそこは地下1階だということが分かる。これで攻略は完了だ。今回はこのまま地上へ戻り、そこで一休みしよう。
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