ダンジョン・エクスプローラー

或日

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092:勇気凛々

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 案内人のところからマリウスが戻ってきて告げた言葉にアエリウスは驚きを禁じ得なかった。冒険者の言っていた準備というのはあのドラコリッチの能力を封印するもので、全てが想定どおりにいったとしたら、戦う相手はあのドラコリッチではなく、普通のブルー・ドラゴンを元にしたような普通のドラコリッチになるだろうというのだ。そして総崩れとなってしまった自分たちを回復して回ったセルバ家が持ち込んでいたというポーション類。それどころか他にもいろいろとありそうだということだったが、そういったものを全て提供してもらえるのだという。
 どうも話を聞いているとセルバ家はこの事態を想定していたのではないかと考えられた。冒険者に依頼は出していて、実際こうして10階まで到達はしているのだが、その先の門前の魔物というものの脅威度を非常に高く想定していたのではないかということだ。冒険者1パーティーでできることの限界を考えて、派遣されてくる軍の規模を考えて、共同戦線を張ることを考えていたのではないかということだ。
 この事態をアエリウスは大きな感謝を持って受け止めていた。
 事前情報から得ていた門前の魔物を倒せるかどうかぎりぎりのところで考えていたのだ。実際これまでに他のダンジョンで発見されている大型の魔物であればその考え方で問題はなかっただろう。だがこうしてこのダンジョンで地面に横たわっているのは自分たちなのだ。想定が甘かった。直前でドラコリッチが相手と聞きはしても、もう少しやれるのではないかと考えてしまっていた。甘かったのだ。いざ自分の隣の兵士が恐怖にやられ、そして尾の一振りで宙を舞うことなり、自分たちの実力のなさを思い知らされてしまっていた。せめてあそこはバリア・ストーンの使いどころだっただろう、何をやっていたのだ。畏怖と恐怖から離れてみると、自分への怒りが湧いてくる。そこへもたらされた、もう一度やり直せるかもしれない、何とかなるかもしれないという希望の光だった。
 アエリウスはマリウスに支えられながら体を起こすと、もう1本ポーションを飲み干し、それからステラ・マノ・セルバに頭を下げるためにもう一度案内人のところまで進んでいった。

「まず言っておきますが、わたしだけでなく後からアーシア叔母様も来ますから、改めて正式なお話をお願いします」
 案内人のところでなぜか腕組みをしていたステラが言う。
 アーシアはステラの後見人だったはず。であればそれは確かに許可が必要だろう。アエリウスはうなずくと承諾を告げた。現地ですぐさま行動に移すためのものなので簡易的な話にはなってしまうが、マリウスと自分、そしてステラとアーシアのサインで契約は成立するだろう。そこにいるギルドの職員に見届け人になってもらえばなおいい。
「では具体的なお話をしましょうか。まず先にですね、トーリさん、これまでにここで見つかったもので使っても良いものってありますか?」
 ステラがギルドの受け付けでこちらの様子をうかがっているトーリに訪ねる。
 確かに報告書で見ているがいろいろと使い勝手の良さそうなものは出てきているが、それを今問うのだろうか。
「えーっと、大丈夫ですよと言いたいところだったのですが、先日の視察の時に目録にしてしまいまして‥‥」
「あー、そうすると使えても9階で出たものでしょうか」
「‥‥それも目録を作って、送ってしまっていまして‥‥」
「あー、それは仕方がありませんね。そうするとダンジョン産の道具で使えそうなのはわたしたちが見つけたものくらいですね」
 目録を作成し送付済みとなると、さすがにこれから勝手に使いますとはいかない。何しろ国の中央でも目にするのだ。欲している人物、貴族や商店、協会関係者など考えると無理がある。だがわたしたちが見つけたものという気になる言葉があった。
「俺たちが見つけたものはさすがにもう無理だろうな。何か使いたいものでもあったのか?」
「そうですね。報告を見たのですけれど、ジャイアント・ストレングス・ポーション、あれがあれば遠くから槍を投げるとか石を投げるとかでも十分活躍できそうですし、尾を受け止める役割とかも考えられますよね。インヴァルナラビリティ・ポーションがダメージの抵抗力を上げる? レジスタンスが冷気抵抗でしたっけ、それからディサピアランス・ダストでしたか、姿を消せる粉? でしたっけ、奇襲に使えそうな。あとはジェム・ストーンでエレメンタルを召喚する、ウィザリング・スタッフで筋力と耐久力を下げられるとかですか。あとは、えーっと、ヒロイズムのスクロール。あれもいいですよね。恐怖に対する完全耐性に一時的なヒットポイントの増加、それにブレスの効果が付くかも」
 ステラがつらつらと語る内容に思わず天を仰ぐ。確かに視察の時に中央から来た者が目録は早めに送るようにと言ってしまってはいたが、そうか、という気持ちが沸き起こる。聞いているだけで使いどころが浮かび上がる、あまりにも惜しい結果だった。
「ジャイアント・ストレングスなんて何階で出たやつだよ‥‥まさかその時からこの展開を狙っていたとか言わないよな」
「4階だったね。でもウォーター・ブリージングが出たのなんて3階だよ‥‥あり得そうじゃない」
「ねえヒロイズムって私たちは知らないのだけれど」
 頭を抱えるアエリウスの前で冒険者たちがステラに問う。そうかそんなに浅い階層からすでに使える道具が見つかっていたのか。
「ふっふ、ヒロイズムはですねえ、実はわたしたちはポーションで発見しまして。その効果と同じならという前提ですけれどね」
「へえ、ポーション? それにもヒロイズムっていうのがあったのね。なるほどねえ」
「で、問題のそのわたしたちが見つけたってのは何の話だよ? 大丈夫か? 怒られないか?」
 怒られないか? という問いにステラがカウンターに上体をぺたりと乗せ、そのまま足をぶらぶらさせる。どうやら思うところはあったらしい。
「ヴァイオラさんとかうちのオオカミたちとか、どう考えても上層余裕なんですもの。5階まで6階まで行く用事とか、こうして10階に来るですとか、歩く機会も多いのでこうなってしまったのです」
 腰に手を当ててどうだと言わんばかりの表情をしているヴァイオラはともかく、今まさに降りてきた昇降機から姿を見せたアーシアはとてもごまかせないだろう。一緒に降りてきた灰褐色のオオカミはステラのぶらぶらする足をふんふんと嗅いでいる。
「あなたは本当に‥‥どうせ勝手にダンジョンをうろうろしているという話でしょう。もう本当にね、ヴァイオラも、ステラにもう少し厳しくして」
 ステラがカウンターの上でわーんと言いながら頭に手をやる。こういうところは子供らしくて良いのだが。
 などと言っている場合ではない。
「失礼、私は軍のアエリウスと申します。今ステラ様ともお話をさせていただいたのですが、このあと軍の方でいろいろと融通を利かせていただきたく」
「ああ、来ていて、門前の魔物とやるとかっていう話は聞いているわ。それで、融通をっていうのは?」
 アエリウスはトーリの許可を得るとギルド内の応接を借りてアーシアに説明をし始める。ステラの許可は得ているが、ここでアーシアに断られたら話が終わってしまうのだ。
「先ほどお聞きしたところここへ持ち込まれているものも多いということでしたので、それを使わせていただく許可をですね。ステラ様にはすでにお許しを頂いておりますので、アーシア様にも是非」
「なるほどね、確かにいろいろと持ち込んでいるわね。そう、ステラがいいと言うのなら私も大丈夫よ。それで、一応正式にするのね? 分かったわ。私たち2人のサインをしましょう」
「ありがたい。これで何とかなるかもしれません。感謝いたします」
 とはいえまだステラが出せると言っているものの具体的な話がこれからだ。先ほどのダンジョンから見つかっているものの同等を考えて良いのならばかなり期待できそうだったが、果たしてどうだろうか。

「ヒロイズム・ポーションはもう言いましたよね。ではそれ以外を一つずついきましょう。まず、あのジャベリンの射出機? というのです? あれはまだ使えますか?」
「いや、本体は多少の補修でなんとかなるが、バネがな」
「なるほど、そうすると、ゴムで代用はできますか? これ、輸入品なのですけれど、使い道が難しそうで放置されていたものを買ってみたのです」
 そう言って出してきたものは太く長い輪になっている茶色い樹脂のようなものだった。ただ柔軟性が非常に高く、伸び縮みするらしい。
「ふむ。威力は下がるかもしれんが撃てなくはなさそうか‥‥試してみよう」
 そう決まった。さっそく担当者に渡し、使い方を検討する。輸入品、というのが気になり確認すると、どうもこの国唯一の港であるヴァスティフに赴いた際に購入したらしい。どこから来た商人か確認してもソート・ランゲルという知らない国名を言われたそうで、場所もずっと南ということしか分からなかったそうだ。
「カタパルトはこれでいいですね。次に、このダンジョン産のものをもう2つ。1つはタトゥーシールの詰め合わせです。全部で10枚。魔法の模様を描いたシールなのですが、これが防御力を上げるバリア、これが抵抗判定に有利を得られるレジスタンス、これがヒットポイントが0になるような攻撃を受けても1を残して耐えられるライフウェル、これが相手からは使用した人の体がぶれて見えるブラー、それからダメージ耐性を上げるアブソービング。全部2枚ずつしかありません。使う人を良く考えましょう。
「もう1つはアイウーンストーン・リザーヴ。アイウーンストーンは別のものが見つかっていますよね。これは頭に装備すると周囲に回るクリスタルが出てきまして、これ1つに1つ、レベル3までの魔法をキープした状態にしておけるそうなのです。フェリクスさんかカリーナさんが魔法を込めて、誰か使えるようにしておくと良いでしょう」
 どちらも効果は高そうだ。タトゥーシールは前衛が使うことになるだろう。特にバリアとレジスタンスは価値が高い。攻撃を受けることを前提で考えられる。アイウーンストーンの魔法のキープというのも効果的だった。防御魔法か攻撃魔法か、いくつか事前に準備しておき、相手の行動に合わせて使うことができるようになるということだ。
「最後に、こちらは問題ありのものですね。森と山で採れたあれこれをどうこうしてヴァイオラさんが作ってくれた薬品です。かなり種類があるのですが、いかんせんポーションではなく、しかもヴァイオラさんは錬金術師ではないし薬師でもないので市場に出せません。鑑定の結果、効果があることは分かっているのですけれど、一応今回限りのことです。トーリさんも見なかったことにしてください」
 森や山で採れたものから作られる薬品。錬金術師でも薬師でもないとなればいわゆる闇、無許可の薬品製造になる。それは確かに見なかったことにしなければならない。だが今回は効果があると分かっているのであれば目をつぶろう。使ってしまえばなかったことになるのだからそれでいいのだ。だが出てきたものは恐ろしいほど効果に期待を持てるものだった。
 ここからはヴァイオラが説明していく。
 体力の回復が効果の高いものから低いものまで3種類、体力の減退が同じく3種類。同じように魔力の回復と減退、疲労の回復と減退が全て3種類ずつだ。さらに炎、冷気、雷撃、毒、魔法に対する抗耐性付加。いわゆる毒薬が威力の高いものから低いものまで3種類。一瞬で効果を発揮し3秒間相手の動きを止めるというとんでもない麻痺薬。武器に+1の効果を付与する鋭利の油、さらに衝撃を加えると爆発するという黒い粉末まで出てきた。
「‥‥いや、とんでもないな。この体力とか魔力とかの回復ってのはポーションとは違うのか?」
「違います。効果がゆっくりと発揮されますからポーションのように一気に回復することができません。減退も同じように効果はゆっくりですね。効果別に最大値が違うと考えていただければ」
「使い方が難しいか。だがこの疲労の回復と減退は良さそうだ。かなり期待ができる」
「期待されすぎても困りますが長期戦を想定すると意味はあるでしょう。ただどれも素材の問題で数がありません」
「何を使ったんだ? 普通のものじゃないのか?」
「普通が何かは知りませんが、私が使ったのは植物の花や葉、根、種だとか、木の枝や皮、鉱物、キノコ、コケ、魔物を含む虫、魚、獣の一部、卵、まあそういったものですね」
 え‥‥という気持ちで薬瓶を眺める。植物の部分はまだいいのだが、鉱物やキノコだコケだそのほか生き物の一部だとかも材料なのか、という気持ちだ。聞かない方が使いやすかったかもしれない。
「‥‥まあいい。毒とか麻痺は効果があるのかどうか、分からんな。ドラコリッチが耐性を持っていたらどうしようもない。それと、この爆発するってのは何だ。これも薬か?」
「ドラコリッチに状態異常は期待しない方が良いでしょうね。鍵を握るとしたら鋭利の油でしょうか。この効果を全ての攻撃に乗せて攻め続ければいずれは倒せる、かもしれません。持続時間は30分もないくらいでしょうから、いつまでもとはいきませんが。最後のそれは一応薬と言っていいのでしょう、火薬ですね。山で採れたものを何種類か粉にして混ぜたものですよ。衝撃を加えるか火を着けるかすれば爆発して、そうですね、この部屋が吹き飛ぶ程度には威力があります」
 この部屋、と言ってトーリの方へ手を差し出している。その手にのけ反ってしまっているが別にトーリに使うわけではなく、吹き飛ぶのはギルドの部屋一つ分ということだろう。火薬というものを全部一度に使えばその程度の威力だということで、それはもちろん十分な威力だと言っていいだろう。

 こうして積み上がった使える道具、薬品類だ。これ以外にも普通のポーションは用意があるし状態異常を回復するというレストレーション・ウォーターの提供も受けた。現状可能な限り、最大限の準備ができたといっていいだろう。
 戦力は冒険者1パーティー5人。そして軍の兵士たちがどこまで回復して何人参加できるのかということになるのだが、状態に問題のない装備をまとめ、問題なく動ける兵士を前線に組み込んでいって、そうしてそろえられたのは17人だった。ポーションで回復はさせたが疲労や精神力までは考慮していない。それでも前線に立てると本人も了承した結果、ここまではそろえられたのだ。残りの完全には回復できていない兵士たちにももちろん役割はある。薬品を持って回復する、傷ついた兵士を離脱させる、そしてドラコリッチが召喚するシャドーの処理だ。このシャドーの処理は大きな意味を持つだろう。こうして軍と冒険者、そしてセルバ家が提供した備品によって準備は整った。
 あとは挑むだけだった。
「ここから先は振り絞れるだけの勇気を振り絞る覚悟だな。行くか」
 マリウスとクリストが中心になって作戦は決まった。
 あとは本当に覚悟を決めてドラコリッチの前へと進み、自分たちの勇気を示すのだ。
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