ダンジョン・エクスプローラー

或日

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093:VS.ドラコリッチ

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 門前の広場に踏み入る前、手前で一度止まって準備をするのだが、今の時点ではまだ畏怖の影響を受け続けていた。広場に入ってから使用しないと封印の効果は発揮されないと聞いている。それも踏まえて戦闘の開始はクリストたちが引き受け、それまでは軍の兵士たちは広場には入らない予定だ。これは案内人から聞いたこの場での戦場の判定がどのようになっているのかという説明から決めたことだった。
 結局前回案内人が戦闘に介入したのは、ドラコリッチの召喚したシャドーが森の中の兵士にまで襲いかかったからだという。ドラコリッチに許されている行動範囲は門前の広場のみで、その先に直接手を出すことは許されていないのだ。シャドーの行動もその判定に含まれる、それに対してドラコリッチに対する攻撃は森からでも可能だったということを考えるとずいぶんドラコリッチに対して厳しくはないかとも考えられるが、それでもあの結果なのだから有利も不利もない決まりなのだろう。
 だがこれで考えられることが増えた。接近戦を行う者以外は森に待機していれば襲われることがないということだ。ただ通常の矢弾では森から放った攻撃がまったく効果を上げていなかった。今回鋭利の油という薬品を得て、軍の兵士たちは全員がそれを武器に塗って使うことにしていた。矢弾にも槍にも剣にもそれ以外にも可能な限り全部にだ。
 ドラコリッチの正面から戦うことになるのはクリストたちのパーティーと、もう一組はマリウスが中心になる編成だ。2組のパーティーが正面から戦うことになる。この2組の前衛がタトゥーシールを使用する。ダメージ耐性を上げるアブソービングだけは受けた攻撃で属性が固定されるということなのでドラコリッチのブレスが雷撃になってから使うことになる。それ以外にも効果が持続するという回復薬は体力も疲労も持っておく。瞬時の回復が得られるポーションは支援組が持って緊急時に使っていくことになっている。あとはドラコリッチの体力や疲労を減退させるという薬もタイミングを見て使っていくことになるので、そうするとこの正面に立つ2組は非常に忙しいことになる。それだけに左右に分かれた軍の兵士たち、森の中からの射撃といった攻撃に集中できるグループがどれだけダメージを積めるかが重要になってくるだろう。
 ドラコリッチのブレスの属性を雷撃に絞る方法は単純だ。前回も正面からジャベリンを撃ち込んだことで使ってきた。今回も同じように正面から攻撃してそちらに使わせようという思惑だった。それがうまくいかなくてもとにかく正面一方向から強い攻撃を使うことで誘導するつもりだった。それまでは火や冷気、毒には耐性薬で対抗していくことになる。さすがに薬の効果が不確かなだけにできれば早い段階で雷撃に絞らせ、タトゥーシールを使った対抗手段に切り替えたかった。

「さーて、いよいよなわけだが、確認だ。いつもどおりエディが盾で受け止める。危険を感じたら遠慮なく強撃を使ってくれ。その方が固定もしやすいだろうからな。俺は正面から攻撃、タイミングを見て減退薬を使って、緊急時はダークネス。フリアは周囲を動きながら攻撃、緊急時にはフォースビード。フェリクスは攻撃魔法に全振りだな。とにかくダメージを積むことを考えてくれ。カリーナは支援を中心に、可能ならファイアー・スタッフを使ってくれ。アイウーンストーンはどうする?」
「私が支援と防御、回復の魔法を仕込んでおくわ。それで実際に使うのは開幕ブレス、あとはエディに防御と抵抗、回復をかけ続けるってところね」
「そうだね。僕は基本的に攻撃魔法に振っているし、仕込んでおく必要性も低い。5レベルもファイアーボールを高レベルで使うのにまわすし、予備でマジックミサイル・ワンドを持っておくくらいかな」
「火薬はある程度削って頭が下がってきたところに確実に使いたい。指示したらフリアに渡してくれ」
「了解。ダメージを一発で狙うにはそれが一番だからね。口に放り込んだらファイアー・ボルトかマジック・ミサイルか、エディが強撃で狙うか、とにかく一斉にだね」
「よし、これでいいな。あとはいつもどおり、臨機応変てやつだ」
 正面に立つクリストたちがどちらかと言えば主力だ。とにかく持ち合わせている手段が多彩で前衛は全員が魔法の武器を装備している。ドラコリッチの能力の封印に始まり、常時弱体化を狙いながら攻撃を加え続け、強力な一撃も準備しておく忙しい役回りだが、これもこの場所に一番乗りした成果の一つだ。喜んで引き受けよう。
 対する軍の役割はマリウスのパーティー以外は単純だが重要だ。ひたすら攻撃を積み重ね、いざとなれば支援にも回る。前線に立たない兵士たちも支援に回復にそしてシャドーの処理にと役割は重要だった。
「私も前に出る、いざとなればターゲットはまわしてくれ。盾役は引き受けよう」
「そうだな。エディが一人でやれるかっていったらな。頼む。その時にはカリーナがそっちの支援に入る」
「うむ。さて、これで準備はできたな?」
 正面に立つもう1組はマリウスが中心だ。マリウスはミノタウロスから獲得したハンマーに大盾も用意していてエディと交互に盾役を務めることができるように準備していた。アイウーンストーンは魔法の回復手段を持たないこちらのパーティーが所持して緊急時に使うことになる。
 とにかくこうして準備は整い、指示を受けたクウレルとパキのパーティーがそれぞれの位置へと移動していく。広場の手前にはジャベリンをゴムの力で放り投げるためのカタパルトも引き寄せられ、支援に回る兵士たちが操作を確認している。
 クリスト、マリウスの両パーティーも互いにうなずき合って位置に付く。
 さあ、勝負を始めよう。

 とうにこちらに気がついているドラコリッチの目は青かった。
 伏せた姿勢で首をぐりぐりと動かし、その牙の隙間からはゴシューという音とともに時折青白い煙が吹き上がっている。
 正面に立ち畏怖に震えドラコリッチに見られながらもカリーナが前衛にブレスを、エディには加えてエンハンス・アビリティを使う。後衛2人はそこからメイジ・アーマーとシールドを展開。さらに全員がタトゥーシールを体に貼り付けた。
「始めるぞ! 開幕は冷気! 耐性薬を使え!」
 宣言したクリストが広場に入ると同時にドラコリッチもその背を起こす。カチカチと牙を打ち合わせると胸の中から青白いもやが上がっていく。大きな口を開け、ゴウッという激しい音とともに広場に吹雪が吹き荒れた。
「分かってんだよ」
 クリストが1の、フリアが2の、マリウスが3のそしてもう一人の兵士が4の、金属板を折る。
 目の前のドラコリッチから何かがごそっと抜け落ちていったかのようだった。
 つい先ほどまで感じていた畏怖の感情が消える。
「ファイアー・ボール!」
 開幕を告げるフェリクスの放った火球の魔法がドラコリッチの首元で炸裂した。同時にカタパルトからジャベリンが放たれる。引き絞っていたゴムの力は思いのほか強く、炎の渦の中、ドラコリッチの胸へとそのまま吸い込まれるように飛び、突き刺さった。
 ドラコリッチが牙をカチカチと打ち合わせると青い眼球がぐるりと回り、赤く変わる。
「ち、次は炎!」
 言いながら飛び出したクリストが顎下に剣を振るいながら足元へと侵入していく。フリアもまた足元、つま先に切りつけながら右へ大きく迂回していく。エディは正面から盾を構えて接近し、頭部目掛けて斧を突き出す。攻撃が届く必要は今はない。視線を引きつけ、炎のブレスが吐かれる方向を絞るのだ。
 マリウスのパーティーも、クウレルもパキもまた遅れじと足元に飛び出し首に、胸に、足に攻撃を加えていく。そこへ周囲から放たれた矢が迫りバシバシと音を立てる。いくつかは皮膚に刺さっただろうか。
 ドラコリッチが足元をうろつく人の多さをうっとうしそうにしながら大口を開けて下を向き、胸からせり上がってきた赤い炎の塊をそのまま吐き出した。
「う、お、熱いが、だが耐えられるぞ。ジャベリン! 用意でき次第続けて放て!」
 耐性薬が効果を発揮していた。だが数の少ない耐性薬にいつまでも頼るわけにはいかない。早く雷撃に切り替えさせたかった。
 炎を吐くために下を向いていたドラコリッチの頭に斧を振ったエディがそのまま強撃を放つと、衝撃に頭部がそのままがくんと下がる。そこへマリウスがハンマーを合わせ打ち上げる格好にして胴体の前を空けた。
 カタパルトでジャベリンを二人がかりで引き絞っていた兵士が同時に手を離し、放たれたそれが今度も真っすぐに胸元へと届き、命中する。残念ながら突き刺さるとはいかなかったものの打撃にはなっただろう。
 ドラコリッチがカチカチと牙を打ち合わせると眼球がまたぐるりと回り、今度こそ黄色く変わる。胸からせり上がる色は黄色く、そして開いた口から放たれたのは雷撃だった。
「よし! これで固定だ!」
 クリストが金属板を折ると、また一瞬ドラコリッチの体から何か膜のようなものがごそっと落ちていったかのような錯覚を覚えた。
 放たれた雷撃は正面にいたエディやカリーナやほかの兵士たちを撃ち抜きながらカタパルトに命中し、破壊する。だがこれでこのカタパルトは役割を全うしたと言っていいだろう。担当していた兵士たちは逃げ出していて無事だ。
 ここからは全員が雷撃の耐性薬にアブソービングタトゥーシールも使って耐性を引き上げ吐かれるブレスは基本的に無視することになる。あとはひたすらにダメージを積み体力を削りきるだけだった。合間合間には森から矢も放たれ、ドラコリッチの意識を散漫にさせようと試みている。
 だがドラコリッチとて黙って殴られ続けるつもりなどない。足を振り、翼を振り、尾を振り、口からかみつきにいき、足元をうろつくじゃまな人間どもを蹴散らそうと動いてくる。クリストたちも、そして兵士たちも、それを武器を使って盾を使って、時には地面に転がって避けながら攻撃を加えていった。
 頭上から覆い被さるようにして迫る口を思い切り伏せることでエディが避け、降りてきていたその口に横からマリウスが思い切り盾をぶつけ、さらに振り回したハンマーが牙を打ち付けたことでドラコリッチの視線を引きつけ、盾役が切り替わる。
 そのマリウスに駆け寄ったカリーナがエンハンス・アビリティで強化をかけ、そこからエディが立ち上がるのを手助けする。
 その間にもフェリクスはひたすらに攻撃魔法を放ち続けた。基本的にはファイアー・ボールとスコーチング・レイ、マジック・ミサイルといったダメージ量重視の選択になる。今回の目標は大きい。放った魔法が外れる心配はいらなかった。抵抗されようがなんだろうが、とにかくダメージを与えることだ。
 クリストとフリアは攻撃を加えながら頭が降りてくるたびにそこへ減退薬を投げ混み続けるのだが、これはなかなか思うようには効果が出ない。そもそもうまく口の中に入ってくれないのだから回数をこなしていくしかないだろう。
 右側からうまく後ろ足近くに潜り込んだクウレルが翼を切り裂き、そこへ振られた尾を乗り越えるようにして回避する。
 左側からは胴体近くまで踏み込んだパキが胴体に剣を突き刺し、こぼれる腐食の効果があるだろう体液を避けながらそのまま後方へと剣を滑らせていく。

 ドラコリッチが前足を地面から離し体を起こす。胸の辺りからはぼたぼたと黒い液体が地面へと落ちていき、そこからシャドーが次々に現れた。
「来たか! 任せるぞ!」
 マリウスの声に応えるように広場の外で待機していた兵士たちが槍を構えて駆けだし、動き出したシャドーだけを相手取るようにして攻撃していく。弓手もそちらに攻撃対象を切り替える。ドラコリッチの近くまで行って攻撃に巻き込まれたら弱体化している体で持ちこたえられるかは分からない。だがシャドー相手ならば話が違う。自分たちでも十分に戦えるのだ、その手応えを得ながら1体ずつを確実に倒し、そうでなくとも攻撃をしかけてターゲットを引き取ってドラコリッチから引き離していく。これでドラコリッチ相手のグループの手をシャドーに向けさせずに済むのだ。
 体を起こしていたドラコリッチがそのままズシンと大きな音と衝撃を伴って地面に体を落とす。巻き起こった土煙に誰もが一度手を止める。そのタイミングを狙ったのかドラコリッチがその場でぐるりと一回転するように大きく体を動かし、その勢いのまま尾を振り回した。最も近くにいたクウレルとそれ以外にも2人が引きずられ、跳ね飛ばされる。そのままエディまで尾が迫る。
「ストーン・ウォール!」
 そこへカリーナが準備していた魔法を放った。
 厚さ5、6センチもあるだろうか、巨大な石壁が層をなして次々に出現する。そこへ撃ち込まれた尾が1枚目を破壊し、2枚目を破壊し、3枚目を破壊し、そうして6枚目を破壊したところで動きを止めた。
 尾の動きが止まってしまったところからドラコリッチはまた姿勢を戻そうと動き出す。その戻っていく頭部を狙ってパキが攻撃を加えていくと、嫌がったドラコリッチがそちらへ足を振る。それを転がって避けたパキが頭上を通過していく足に剣をぶち当て、同時に同じ部隊の兵士たちもその足に攻撃を集中させると、踏ん張ろうと下ろしたその足ががくりと折れた。
 肘を着くような格好で体が地面へと降りてしまったドラコリッチがカチカチと牙を打ち鳴らし、足を傷つけたパキの方へと雷撃のブレスを放つ。
 だが、その頭も地面近くに降りてきてしまっていた。横から駆け込んだクリストが剣を振り、さらに目の前の口に突っ込むように体力と疲労の減退薬を投げ込む。
「フリア! 火薬だよ!」
 駆けだしたフリアがフェリクスから火薬を受け取り、ドラコリッチが起こそうとする頭に向かう。上げる速度を下げさせるためにクリストが頭部に組み付き、手当たり次第に剣を振っていく。ぶるりと身震いしてクリストを落としたドラコリッチがかみつこうと口を開いて迫り、間に合ったフリアがそこへ火薬の袋を突っ込む。
 ドラコリッチはそのまま重なるようにしているクリストとフリアをまとめてかみ砕こうとしたが、それはかなわなかった。2人を守るようにして現れた黒い半透明の球体に遮られて牙を止められてしまったのだ。
「助かった、いいタイミングだったな」
「うん。やっぱりこれ便利、無理ができるよ」
 ビード・フォースの防御はドラコリッチのかみつきよりも強力だった。2人はそのまま球体の中で薬品を使い、体力と疲労を回復させていく。そしてこの防御を見届けたならば、あとは火薬を爆発させるだけだった。
「マジック・ミサイル!」
 フェリクスが口の中を狙って魔法の矢を放つ。同時にマリウスとエディが頭部に駆け寄り、マリウスはハンマーを大きく振り上げ振り下ろし、エディはたたきつけた斧からそのまま強撃を放つ。
「ファイアーボール!」
 ついでとばかりにカリーナが頭部目掛けてファイアー・スタッフを使って魔法を放った。
 まとめてたたきつけられた攻撃に思わず持ち上げた頭部の、口の中で爆発が起きた。
 ドオオオンッという鈍く大きな音、思わず身をすくめるような衝撃、そして、ドラコリッチの下顎がはじけて木っ端みじんに吹き飛んだ。
 ぐずぐずに崩れた肉と骨がまき散らされる。
 ぼたぼたと体液が地面へと落ちていく。
 身をよじるようにして動くドラコリッチからは音声を止められたせいもあってか悲鳴もない。その胸から湧き上がる黄色い光が口の中から現れるが、形をまとめることなく漏れるようにして地面に向かって雷撃が乱雑に放たれる。
 闇雲に振り回される足に、翼に、尾に、兵士たちが弾き飛ばされる。爆発の真下にいたエディやマリウスは頭上から落ちてくる肉や骨や液体や雷撃に盾をかざして逃げることが精一杯だった。
 そこへ弓手が一斉に矢を射かけ、ドラコリッチに命中させていく。ダメージとともに足元の仲間の支援だ。その間にもカリーナは魔法を使ってエディやマリウスたちを回復していく。
 この激しい動きが一段落したところへ尾にひきずられたダメージからポーションで強引に回復してきたクウレルの部隊が突撃し、目の前の尾から体をよじ登るようにして背に上がっていった。そして振り回す剣で翼を切り裂き、胴体へ突き刺す。
 予想外のところから攻撃を受けたドラコリッチが身をよじり、傷だらけでボロボロになっている翼を打ち合わせるように動かして背の上のクウレルたちを振り落としにかかった。
 その胸元ではフォース・ビードの防御が解けて動けるようになったクレストとフリアが再び武器を振り回して攻撃を加えていく。
「何となくだが、攻撃が弱ってきたな?」
「そうだな。疲労が効いてきたのかもしれん」
 クレストが近寄ってマリウスに声をかける。
「勝負所だな」
「うむ。行くぞ! 畳み掛けろ!」
 再び身を起こし背のクウレルたちを振り落とすことに成功したドラコリッチの胸からは再び黒い液体が地面に落ち、シャドーが現れるところだった。自分の体力を削ってまでした行動だが、それは好都合だった。再び広場から離れて待機していた兵士たちが飛び出し、弓手は対象を切り替え、シャドーを引き取ってドラコリッチから引き離していく。
 ここからドラコリッチが体を落とすことはもう分かっていて、そこへ置いておく魔法はファイアーボールが2つだった。巻き起こる爆発と炎にドラコリッチの体が包まれる。
 体を落とすことで発生した衝撃で弾き飛ばしたり転ばせたりできた兵士はわずかだった。体勢を維持できた兵士たちが槍を構えて突き進み、炎の向こうにある体へ突き立てる。
 衝撃から逃れたクレストやマリウス、フリアが駆け寄って切りつけ殴る。
 盾役を再び引き受けたエディが見えている上顎に斧を突き立て強撃を放つ。
 背から振り落とされて再びダメージを受けたクウレルたちは今回もポーションで強引に立て直して攻撃に参加、雷撃のブレスを受けたパキたちも同じように復帰してきていた。
 ドラコリッチがまたしても大きく体をぐるりと回し、尾を振り回す。またしても真っ先に巻き込まれる位置にいたクウレルたちは持っていた武器を振り回される尾にぶつけるようにして放り投げると地面に伏せて尾が頭上を通過していくのを見送った。この振り回しは一度経験していてどう対応すべきかは分かっていた。
 そして振り回された尾は先ほど立てられて今もそこにある石の壁にぶちあたり、残る4枚をそのまま破壊してからエディへ迫った。だがすでに勢いは落ちていた。
「ストーン・スキン!」
 カリーナから魔法の支援を受けてエディは盾を構えそれを受け止める。
「ライトニング・ボルト!」
 振り切ったつもりが完全に受け止められてしまった尾を、その形に沿うようにフェリクスの雷撃の魔法が貫通していく。
 さらにマリウスがハンマーを思い切り打ち下ろす。
 ドラコリッチの胸から黄色い光が上がっていき、そして口からあふれた雷撃がお返しとばかりに地面をはうようにして広がっていく。
 だが雷撃への耐性は全員が十分に積んでいるのだ。
 そのブレス攻撃の合間に、地面近くまで降りてきていたドラコリッチの体につかまったフリアがそのまま体をよじ登り、首にナイフを当ててガリガリと傷つけていく。
 そして同じように駆け込んだクリストが、こちらは下から思い切り振り上げた剣が上顎の根本付近を切り裂き上へと突き抜ける。
 目の前で止まっている尾に斧を振り下ろしたエディが強撃を放つと、その部分が砕け半ばから分断される形になった尾の先端部分がビタンビタンと地面をはねた。
 ドラコリッチはもう一度体を起こそうと踏ん張るが、パキの部隊が目の前で半ば折れたような格好になっていた足に攻撃を集中させると、その部分から完全に折れて先端がちぎれ飛び、体を支えられなくなったドラコリッチが右側に体を倒すようにして地面に落とす。目の前で腹が丸出しになったところへクウレルの部隊が突っ込むと、殴り、蹴り、突き刺し、手当たり次第に攻撃を加えていく。加えて弓手も大きく見えている胴体へ集中するように矢を放った。
 度重なる攻撃と突き刺さったままの矢でぼろぼろの翼を振り上げ、振り下ろして周囲の兵士を追い払い、何とかしようと頭を持ち上げるドラコリッチの首にはまだフリアがしがみついていて、変わらずに首の骨を狙ってガリガリと攻撃を重ねていた。
 ドラコリッチにとってこの時点で一番攻撃がしやすそうな位置にいるのはクリストで、そこへ向かって頭を起こして雷撃を、と胸から黄色い光が上がっていく。その首元にクリストは飛び込んだ。狙うのはフリアがゴリゴリガリガリとやっていた場所だった。遠慮なく全力で突き上げた剣は狙い違わずそこへ届き、フリアのナイフと合わせてその部分を切断することに成功した。
 ずり、と首がずれた。
 胸から上がってきた黄色い光はそこから周囲へ漏れ、クリストとフリアを雷撃が襲った。
 2人はそこから転がるようにして地面に落ち、クリストはダメージをこらえながらその場から離れ、フリアは地面をごろごろと転がるようにして離れていく。
「ファイアー・ボール!」
 とどめを刺したのはカリーナがファイアー・スタッフの力を借りて放った火球だった。
 ずれた首を中心に発生した火球の中で、そのまま首が落下していく。
 ずうんっと大きな音をさせて頭部が地面に落ち、ドラコリッチの動きが止まった。持ち上げられていた翼はそのまま力なくバサリと落ち、踏ん張ろうとしていた左前足ががくりと折れる。起こそうとしていた体もまた、頭の後を追うようにして地面に落ちた。

 沸き起こったは歓声だった。
 槍が剣が拳がそれに応えるように振り回される。
 森から飛び出してきた弓手や支援に回っていた兵士たちが抱き合っている。
 地面に座り込んでしまった兵士の表情にも笑顔がある。
 反対側へ転がっていったフリアが寝転んだまま両手の拳を空に向かって突き上げていた。
 しゃがみ込んだままフェリクスからポーションを受け取って口を付けていたクリストは、回りを見渡して満足感に浸っていた。
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