転生した愛し子は幸せを知る

ひつ

文字の大きさ
61 / 314
本編

【閑話】後悔 5(直斗視点)

しおりを挟む
 俺が日本を離れてから三年ほど経った。定期的ではあるが家族に手紙を何度も出した。恵美さんと心愛ちゃんからは毎回のように返事が返ってきた。だが華からは数えるほどしか返ってこなかった。文も少なくシンプルな物だった。そして必ず何処か文字を間違っていた。わざと間違えているのかただのミスなのか区別が付かなかった。



 今年で四年目になった。思っていた以上に早く新しい事業が成功しそうだ。最低でも五年はかかると思っていたが予想外にも上手くいったのだ。もしかしたら五年もかからずに日本に戻れるかも知れない。華は今年で15歳だ。小学校の卒業式には出れなかったが中学の卒業式には出られるかもしれない。




 あらかた仕事も落ち着いてもうすぐ帰れる事になった。俺宛に手紙が届いていた。恵美さんたちかと思って差出人の名前を見ると、差出人は華と仲が良い隣の家の夫婦からだった。意外な相手からの手紙に驚いたが何事だろうと手紙を開いた。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 宮月 直斗さんへ

 ご無沙汰しております。お元気でしょうか?貴方は結局気づかないまま華ちゃんを置いて行かれたんですね。華ちゃんに貴方の連絡先を聞いても教えてくれませんでした。失礼かと思いましたが勝手に調べさせて貰いました。貴方の部下と名乗る吉田さんにお聞きしてこの手紙を出しました。吉田さんを責めないであげて下さい。彼も華ちゃんを心配して協力してもらったのですから。

 もう華ちゃんは限界です。華ちゃんは貴方に手紙でメッセージを書いて送ったと言っていました。きっと気づいてくれるだろうと。しかし、待てども貴方は気づいた様子がない。それ故もう一刻の猶予もないと思い、今の華ちゃんの現状を把握してもらいたいと思いました。

 華ちゃんは恵美さんとその娘の心愛さんから虐待されています。貴方は気づいていなかったようですがそれは貴方が日本にまだ居た時からです。彼らは巧妙に隠していますし、華ちゃんも誰にも言うことがないのでこちらも手が出せない状態なのです。もう五年近くになります。この頃の華ちゃんはいつ倒れてもおかしくないくらいなのです。警察も証拠が無ければ動いてくれませんし、どうする事も出来ません。お願いです。貴方が華ちゃんの父親だと言うのなら!この手紙を読んだらすぐに帰国して下さい。そして…華ちゃんを助けてあげて下さい。


♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 俺は手紙の内容が信じられなかった。恵美さんと心愛ちゃんが華を虐待している?そんなわけがないと思った。あの二人は華を幸せにしてくれるってそう信じて託したんだ。俺は手紙の内容に書いてあった、華が俺にメッセージを送ったという言葉を思い出し、急いで今までの手紙を取り出した。華からの手紙はもちろん全部取っておいた。


 俺はどこにメッセージが書いてあるのか必死に探した。そして思い出した。華は必ず何処か文字を間違っていた事を。その文字を抜き出して繋げていくと華が隠したメッセージが出てきた。


「助けて…痛い……助けて…会いたい……怖い…お父さん……私を助けて……」


 俺は華の隠されたメッセージを読んでから手の震えが止まらなかった。華からの手紙の違和感を感じていながら今までその違和感を読み取ろうとしなかった。俺は急いで華の元へ帰る支度をした。新しい事業も終わりに近いし俺が居なくてももう大丈夫だろうから日本へ帰ると伝え、華の元へと急いだ。飛行機に乗っている時間がもどかしい。早く、早く。1分でも1秒でも早く。



 








 長いフライト時間も終わりやっと空港に着いた。俺は急いでタクシーに乗り、華の待つ家へと向かった。




 家の前には救急車が止まっていた。俺は嫌な予感がしてならない。心臓の音がうるさい。俺はタクシーを止めてもらい走った。家の周りに集まる人たちを払いのけるようにして近づく。


「すみません通して下さい!すみません。通して……」


 俺の目に飛び込んできたのはぐったりした華が運ばれているところだった。


「華?ウソ…だろ?……華っ!!!」


 俺は華に急いで駆け寄った。


「ちょっ!誰ですか?一刻も争う状況なんです。離れて下さい!」


 救急隊の人が邪魔だと言うように俺から華を引き離す。


「この人はこの子の父親だよ!!」

「落ち着け!お前は父親だろっ!」

 救急隊の人の質問に答えるように間に入って来たのは隣の家の夫婦だった。


 俺は呼吸を整えて一旦落ち着く。


「すみません。私…いや俺は華の父親です。救急車に乗せて下さい。お願いします。」


「父親…分かりました。早く乗って下さい。時間がありません。」


「私も行くよ。あんたは後から来てくれ!」


 隣の家の奥さんが一緒に乗り込み、その旦那さんは後から来るようだ。すぐに救急車は走り出した。


「華っ!華っ!頼むしっかりしてくれ。」


「華ちゃんしっかりするんだよ!!お父さんが帰ってきたよ。華ちゃんっ!」



 嫌だ。もう失いたくないんだ。華…お願いだ。お前まで俺の前から居なくならないでくれ。華を守るって決めたんだ。幸せにするって。華っ!華っ!!


















 あのまま華は助からなかった。病院に着く頃には心臓が止まり再び動く事はなかった。華の身体にはいくつもの痣が出来ていて、体重も平均よりも軽く痩せていた。骨は何本もヒビが入っていたり折れていたりしていたらしい。俺は華の姿を見て泣く事しか出来なかった。





 その後、恵美さんと心愛ちゃんは警察に連れていかれた。二人は虐待などしていないと主張していたが俺が海外へ行く前に設置した防犯カメラが決め手となった。まさか防犯対策で設置したものがこのような形で役立つとは思わなかった。俺も一度防犯カメラの映像を見たが胸糞悪いものだった。結局、恵美さんは刑務所へ入り、心愛ちゃんは児童施設へと入れられた。



 俺は華が死んだその日から何もする気になれず、ただ毎日をボーッとしながら過ごしていた。そんなある日誰かが俺の元へと訪ねてきた。


 ピンポーン


 俺は気だるげにドアを開けた。そこには約5年ぶりに会う吉田がいた。


「……吉田」


「お久しぶりです。中、入ってもいいですか?」


 吉田は俺の返事も聞かずに中へと入って来た。


「うわー。暗っ!暗すぎますって。何ですかこの部屋。ぐちゃぐちゃですよ。てか、ちゃんとご飯食べてます?」


 そういえば部屋の明かりも付けていなかったな。部屋がぐちゃぐちゃなのは俺が暴れたからだ。華は俺が殺したんだってそう思ってしまうんだ。いや、俺が殺したようなものだな。結局、俺は華に何もしてあげられなかった。悔しかった。悲しかった。華もいなくなった。優香さんもいなくなった。俺がこの世にいる意味なんてあるのか。ご飯なんて食べる気になんてならなかった。


「はぁ…なんか勘違いしてません?なんであんたが一番辛そうにしてるだよ?違うだろ。俺、そーゆうのが一番嫌いなんですけど。何もかも失ったみたいな顔して自分も死のうとしてますよね?ふざけてるんですか。ただ逃げてるだけじゃないですか。俺言いましたよね?ちゃんと二人について調べた方が良いって。怪しいって。俺の忠告を無視したのはあんただろ。」


「そうだな……俺がお前の話をあの時しっかり聞いていれば華は死ななかった。……華は俺が殺したんだ」



「ああそうだよ!!あんたが華ちゃんを殺したんだ!!実際に殺したのはあの二人だが、華ちゃんが死ぬような原因を作ったのはあんただ。あんたは優香さんの時もそうだった。いつもいつも遅いんだよ!間に合ってないだろ!優香さんも華ちゃんももっと生きたかったはずなんだ!」


 吉田の言葉は厳しかった。優香さんの件で話し合いになった時に似ている。あの時も俺はこいつに怒られたんだっけ。



「……逃げないで下さいよ。現実から逃げるな!!優香さんと華ちゃんの分まで生きろよ。生きて償えよ!!」


「俺が生きていていいのだろうか……」



 ゴォン!!!



 俺は一瞬何が起きたか分からなかった。そして吉田が俺を殴ったんだと理解した。



「甘えんな!あんたは生きてる。生きてるんだよ!!生きてていいのかって?それはな死んだ二人に対して失礼なんだよ!侮辱なんだよ!あの二人の分まであんたは生きなきゃいけないんだよ!でないと……二人が報われないだろ。」




 あぁそうか。俺は誰かに怒って欲しかったんだな。甘えんなって。必死に生きろって。ありがとな吉田。俺は優香さんと華の分まで生きるよ。生きて償うよ。



 なあ、華。お前は今幸せか?天国はいい所か?もし生まれ変わってまた会えるとしたら俺はお前とたくさん話したいよ。まずは謝罪しなきゃだな。そんでもって愛してるってちゃんと伝えたいよ。一度も言ってやれなかった言葉だ。華…お前は俺の大切な娘だよ。



 神様。どうか華を…華を幸せにしてあげて下さい。華が笑顔で過ごせるように……












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 皆さんお疲れ様でした。【閑話】後悔   はこれにて終了です。優香、吉田、恵美、心愛などの視点も書きたい☆気が向いたら書く予定です。(一体いつになったら気が向くだろか笑笑)

 次からは本編に戻ります。少しはストック用意出来ました!

作者「が、頑張ったよ!褒めて褒めて~」




 
しおりを挟む
感想 169

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。 しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。 オリバーはエミリアを愛していない。 それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。 子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。 それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。 オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。 一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...