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新入生歓迎パーティーの翌日、授業は休みとなっていた。
「ティナ様!!こちらですわ!!」
正門の前にはブリジットが手を挙げてこちらだと知らせる。
そう、今日は休日ということで街に出かける事になったのだが、リディアナがまだ来ていないようだ。
「ごきげんよう。リディはまだ来てないの?」
「ごきげんよう、ティナ様。それが、まだ来ておりませんの。リディアナってば何をしているのかしら。ティナ様を待たせるだなんて、許せませんわ!」
ブリジットはプンプンといった様子で、頬を膨らませる。可愛らしい姿ではあるが、リディアナの事は愛称では呼んでくれないのかと、少し寂しく思う。
まだ、ブリジット様には受け入れられないに違いない。
「私は構わないわ。それに、今日は休日だものそんなに急がなくてもいいじゃない」
ね?っとブリジットを諌める。
「ティナ様がそう言うなら…」
渋々とでも言いたそうに、ブリジットは納得してくれる。
私も今日のお出かけが楽しみで昨日の夜からずっと、そわそわしっぱなしだった。リディアナを待つ数分で、私もやっと落ち着くことができた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません!!」
リディアナが駆け寄ってくるのが見えて、リディアナと合流すると私たちは街へと繰り出した。
学園がある街は、それはそれは治安がいい。近くに王城もあるし、騎士たちがよく巡回をしているおかげで、貴族である私たちも心置き無く歩き回れる。
私たちの今日のお目当ては、王妃様もお気に入りだというチョコケーキのあるカフェだ。
青い小鳥が看板に描かれた、清潔感のある綺麗な店は、学園が休みということも相まって、女性客ばかりで溢れかえっていた。
「……人気……なのね」
正直甘く見すぎていた。
座れる気がしない。決して狭くはない店内ではあるが、席は見渡す限り全て埋まっている。
店内は話し声を邪魔しない程度の音量でクラシック音楽が流れていて、甘いスウィーツの香りが店内に漂っている。
長居したくなるのも分かってしまう、居心地の良さそうな店だ。
空席がなさそうな店内に、私はほとんど諦めていた。
「フッフッフッ、ご心配には及びませんことよ!私、こんなこともあろうかと予約をしておきましたの!」
胸を張ってブリジットが慌ただしく給仕をしているウェイトレスを呼び止めた。
ウェイトレスはブリジットの名前を聞くと、慌てて予約席へと案内してくれる。
予約席は店の一番奥の、静かな席だ。観葉植物が障害になって、私たちの座る一角をうまく店内から隠してくれているみたい。乙女の内緒話には持ってこいの場所だ。
別に内緒話はないのだけどね。
「すごい!私、予約だなんて頭になかったわ」
「本当に、リジー様は準備がいいのですね」
「そ、そんなこと!当然のことですわ!」
遠慮なく褒める私とリディアナに、ブリジットは頬をほんのり赤らめ、胸を張った。
嬉しそうにメニューを広げる彼女がなんとなく可愛くて、私とリディアナは生ぬるい視線を向ける。
「やっぱりここはチョコケーキかしら?」
「でも、いちごのタルトケーキも美味しそうですよ」
「あら、王道のショートケーキも人気ですわよ!」
三人三様に、メニューを睨んではケーキの名前をあげていく。
できることならこの店のケーキを制覇したいぐらいだけど!
私たちはそれぞれ味見させてもらうことにして、チョコケーキ、いちごのタルト、ショートケーキを頼んだ。
注文して数分、ケーキと紅茶がそれぞれに運ばれてきた。
私たちは美味しいケーキと紅茶に舌鼓を打つ。
うん、やっぱり美味しい!王妃様が気に入るはずだわ!頬に手を添えてケーキの味に感動する。
そんなケーキを味わいながら、私は
「そういえば、私生徒会に入ることなったの」
と、告白した。
紅茶を飲んでいたブリジットが思いっきり咳き込みだした。
「ゲホッ、ゲホッ…!」
「大丈夫?…リジー?」
「お水をどうぞ!」
水を渡して背を叩くリディアナのお陰か、水をゆっくりと飲んだブリジットは落ち着きを取り戻し、ゆっくりとグラスをテーブルに戻した。
ブリジットは深呼吸をして、私を見つめる。
「あの、今なんと仰っいましたの?」
なんとなく鋭い視線に、私は首を傾げつつも繰り返す。
「生徒会に入ることになった、と…」
「せっ、生徒会!なぜそんな悪の巣窟に入ることになりましたの!」
ガタンっと、勢いよく立ち上がったブリジットに、私とリディアナは目を丸くする。
観葉植物のお陰か、お喋りに夢中になっている他の女性客たちはこちらを気にしていないようで安心する。けど、耳に残ったのは悪の巣窟という物騒な単語だ。
「お、落ち着いて、リジー?」
「申し訳ありませんわ!でも、どうしてそんなことになったのですか?!」
ブリジットは心のこもってない謝罪と一緒に椅子に座り直した。様子を見るに、どうやら彼女は生徒会にいい印象を持っていないみたいだ。
「成績優秀者が生徒会に選ばれるというのは聞きましたが、アインツ様の推薦で…」
「アインツ様の…!それは、とっても素敵ですわ!けどっ!いけませんわ!生徒会の方々はそれはそれは素敵な方ばかりですけど、生徒会長は魔女なのですわ!」
「魔女?」
私とリディアナは首を傾げる。
アインツがてっきり生徒会長だと思っていたが、ブリジットの言い方ではたぶん違うらしい。けど、生徒会長が魔女ってどういうことなの?
私の想像範囲内の魔女は、つばの長い黒いとんがり帽子に、不気味な緑の液体が入った大釜をぐるぐるかき混ぜている悪者のような醜女。とにかく、あまり良いイメージがないものばかりだ。
それに、魔女なんて言うファンシーなものはこの世界にはなかったはず、私は考えを巡らせた。
「ええそうですの!人のことを弄んで、まるで玩具のように扱うのですわ!あの魔女に関わってはいけませんわ!」
力説するブリジットの言葉を無視したいわけではないが、アインツの名前が入った生徒会への推薦状を断る勇気は私にはない。
卒業後のことを考えると、アインツを無下になんて出来ない。王族にコネは持っておきたいのは、世の貴族には当然のことだろう。私って小心者…。頭を抱えた私にリディアナがフォークを置く。
「生徒会に入ることは誉れです。それに、魔女だなんて今の時代もういませんよ。リジー様のお言葉は気にしなくていいですよ」
「ちょ、ちょっと!」
「そ、そうよね。ありがとうリディ」
「ティナ様まで!本当の事ですのよ!」
がっつりと本人の目の前で、リディアナはバッサリと言い切る。私は苦笑いを浮かべながら魔女の話は忘れようと決意して、私は甘いチョコケーキを頬張った。
しっとりと甘すぎないビターなチョコケーキは、クリームを乗せて一緒に食べると、とっても美味しかった。王妃様も気に入るわけだわ。
最後までブリジットは私が生徒会に入ることを反対していたものの、リディアナの名誉な事だと諭してくれたお陰か、無理に止めることはしなくなった。
まぁ、アインツからの推薦だから渋々でも考え直してくれたのかな?
ただ、ひどく心配はしているみたい。
私達はケーキを食べ切ると、街を少し散策して帰路に着いた。
そして、生徒会への挨拶の時は来た。休み明けすぐに、アインツから推薦状が届いたのだ。
放課後、生徒会室に来るようにと書かれた手紙に従って、私は校舎の最上階、一番奥にある豪華な扉をノックした。
「どうぞ、お入りください」
その声と共に扉が開く。ゴクリと喉を鳴らし、生唾を飲み込む。
扉の先には豪華な書斎机があり、その机には息を飲むような美女が鎮座していた。
美女は私と目が合うと、優しげに目を細めて微笑んだ。
同性でありながらドキッとしてしまうような、風貌だ。思わずほぉっと惚けてしまいそうになる。
「はじめまして、クリスティナ嬢。わたくしは生徒会長のカミラです」
私は妖艶に微笑むカミラから目が離せずに居た。
「ティナ様!!こちらですわ!!」
正門の前にはブリジットが手を挙げてこちらだと知らせる。
そう、今日は休日ということで街に出かける事になったのだが、リディアナがまだ来ていないようだ。
「ごきげんよう。リディはまだ来てないの?」
「ごきげんよう、ティナ様。それが、まだ来ておりませんの。リディアナってば何をしているのかしら。ティナ様を待たせるだなんて、許せませんわ!」
ブリジットはプンプンといった様子で、頬を膨らませる。可愛らしい姿ではあるが、リディアナの事は愛称では呼んでくれないのかと、少し寂しく思う。
まだ、ブリジット様には受け入れられないに違いない。
「私は構わないわ。それに、今日は休日だものそんなに急がなくてもいいじゃない」
ね?っとブリジットを諌める。
「ティナ様がそう言うなら…」
渋々とでも言いたそうに、ブリジットは納得してくれる。
私も今日のお出かけが楽しみで昨日の夜からずっと、そわそわしっぱなしだった。リディアナを待つ数分で、私もやっと落ち着くことができた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません!!」
リディアナが駆け寄ってくるのが見えて、リディアナと合流すると私たちは街へと繰り出した。
学園がある街は、それはそれは治安がいい。近くに王城もあるし、騎士たちがよく巡回をしているおかげで、貴族である私たちも心置き無く歩き回れる。
私たちの今日のお目当ては、王妃様もお気に入りだというチョコケーキのあるカフェだ。
青い小鳥が看板に描かれた、清潔感のある綺麗な店は、学園が休みということも相まって、女性客ばかりで溢れかえっていた。
「……人気……なのね」
正直甘く見すぎていた。
座れる気がしない。決して狭くはない店内ではあるが、席は見渡す限り全て埋まっている。
店内は話し声を邪魔しない程度の音量でクラシック音楽が流れていて、甘いスウィーツの香りが店内に漂っている。
長居したくなるのも分かってしまう、居心地の良さそうな店だ。
空席がなさそうな店内に、私はほとんど諦めていた。
「フッフッフッ、ご心配には及びませんことよ!私、こんなこともあろうかと予約をしておきましたの!」
胸を張ってブリジットが慌ただしく給仕をしているウェイトレスを呼び止めた。
ウェイトレスはブリジットの名前を聞くと、慌てて予約席へと案内してくれる。
予約席は店の一番奥の、静かな席だ。観葉植物が障害になって、私たちの座る一角をうまく店内から隠してくれているみたい。乙女の内緒話には持ってこいの場所だ。
別に内緒話はないのだけどね。
「すごい!私、予約だなんて頭になかったわ」
「本当に、リジー様は準備がいいのですね」
「そ、そんなこと!当然のことですわ!」
遠慮なく褒める私とリディアナに、ブリジットは頬をほんのり赤らめ、胸を張った。
嬉しそうにメニューを広げる彼女がなんとなく可愛くて、私とリディアナは生ぬるい視線を向ける。
「やっぱりここはチョコケーキかしら?」
「でも、いちごのタルトケーキも美味しそうですよ」
「あら、王道のショートケーキも人気ですわよ!」
三人三様に、メニューを睨んではケーキの名前をあげていく。
できることならこの店のケーキを制覇したいぐらいだけど!
私たちはそれぞれ味見させてもらうことにして、チョコケーキ、いちごのタルト、ショートケーキを頼んだ。
注文して数分、ケーキと紅茶がそれぞれに運ばれてきた。
私たちは美味しいケーキと紅茶に舌鼓を打つ。
うん、やっぱり美味しい!王妃様が気に入るはずだわ!頬に手を添えてケーキの味に感動する。
そんなケーキを味わいながら、私は
「そういえば、私生徒会に入ることなったの」
と、告白した。
紅茶を飲んでいたブリジットが思いっきり咳き込みだした。
「ゲホッ、ゲホッ…!」
「大丈夫?…リジー?」
「お水をどうぞ!」
水を渡して背を叩くリディアナのお陰か、水をゆっくりと飲んだブリジットは落ち着きを取り戻し、ゆっくりとグラスをテーブルに戻した。
ブリジットは深呼吸をして、私を見つめる。
「あの、今なんと仰っいましたの?」
なんとなく鋭い視線に、私は首を傾げつつも繰り返す。
「生徒会に入ることになった、と…」
「せっ、生徒会!なぜそんな悪の巣窟に入ることになりましたの!」
ガタンっと、勢いよく立ち上がったブリジットに、私とリディアナは目を丸くする。
観葉植物のお陰か、お喋りに夢中になっている他の女性客たちはこちらを気にしていないようで安心する。けど、耳に残ったのは悪の巣窟という物騒な単語だ。
「お、落ち着いて、リジー?」
「申し訳ありませんわ!でも、どうしてそんなことになったのですか?!」
ブリジットは心のこもってない謝罪と一緒に椅子に座り直した。様子を見るに、どうやら彼女は生徒会にいい印象を持っていないみたいだ。
「成績優秀者が生徒会に選ばれるというのは聞きましたが、アインツ様の推薦で…」
「アインツ様の…!それは、とっても素敵ですわ!けどっ!いけませんわ!生徒会の方々はそれはそれは素敵な方ばかりですけど、生徒会長は魔女なのですわ!」
「魔女?」
私とリディアナは首を傾げる。
アインツがてっきり生徒会長だと思っていたが、ブリジットの言い方ではたぶん違うらしい。けど、生徒会長が魔女ってどういうことなの?
私の想像範囲内の魔女は、つばの長い黒いとんがり帽子に、不気味な緑の液体が入った大釜をぐるぐるかき混ぜている悪者のような醜女。とにかく、あまり良いイメージがないものばかりだ。
それに、魔女なんて言うファンシーなものはこの世界にはなかったはず、私は考えを巡らせた。
「ええそうですの!人のことを弄んで、まるで玩具のように扱うのですわ!あの魔女に関わってはいけませんわ!」
力説するブリジットの言葉を無視したいわけではないが、アインツの名前が入った生徒会への推薦状を断る勇気は私にはない。
卒業後のことを考えると、アインツを無下になんて出来ない。王族にコネは持っておきたいのは、世の貴族には当然のことだろう。私って小心者…。頭を抱えた私にリディアナがフォークを置く。
「生徒会に入ることは誉れです。それに、魔女だなんて今の時代もういませんよ。リジー様のお言葉は気にしなくていいですよ」
「ちょ、ちょっと!」
「そ、そうよね。ありがとうリディ」
「ティナ様まで!本当の事ですのよ!」
がっつりと本人の目の前で、リディアナはバッサリと言い切る。私は苦笑いを浮かべながら魔女の話は忘れようと決意して、私は甘いチョコケーキを頬張った。
しっとりと甘すぎないビターなチョコケーキは、クリームを乗せて一緒に食べると、とっても美味しかった。王妃様も気に入るわけだわ。
最後までブリジットは私が生徒会に入ることを反対していたものの、リディアナの名誉な事だと諭してくれたお陰か、無理に止めることはしなくなった。
まぁ、アインツからの推薦だから渋々でも考え直してくれたのかな?
ただ、ひどく心配はしているみたい。
私達はケーキを食べ切ると、街を少し散策して帰路に着いた。
そして、生徒会への挨拶の時は来た。休み明けすぐに、アインツから推薦状が届いたのだ。
放課後、生徒会室に来るようにと書かれた手紙に従って、私は校舎の最上階、一番奥にある豪華な扉をノックした。
「どうぞ、お入りください」
その声と共に扉が開く。ゴクリと喉を鳴らし、生唾を飲み込む。
扉の先には豪華な書斎机があり、その机には息を飲むような美女が鎮座していた。
美女は私と目が合うと、優しげに目を細めて微笑んだ。
同性でありながらドキッとしてしまうような、風貌だ。思わずほぉっと惚けてしまいそうになる。
「はじめまして、クリスティナ嬢。わたくしは生徒会長のカミラです」
私は妖艶に微笑むカミラから目が離せずに居た。
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