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喧騒から掛け離された空間は、私とエドガー様の距離を縮めてくれた気がした。
それに、エドガー様がこんなところで、隠れてケーキを食べているなんて思わなかった。
私の事を気にしてかエドガー様は山盛りのケーキの前でお預け状態になっている。
「私の事はどうぞお気にせず召し上がってください」
「では、一緒にどうですか?」
にっこりと笑顔でお皿をこちらに向けてくれた。私も食べた方が、エドガー様も気兼ねがないと思って、カップケーキを1つ手に取る。
ピンクのクリームが乗ったカップケーキは、可愛らしいく美味しそうだ。
「あの、何故こんな所に?」
カップケーキに齧りつこうとして、動揺でカップケーキを落としそうになる。
「ええと、外の空気を吸おうと思って…エドガー様は?」
「僕は…外の方がゆっくり甘い物が食べられますから」
エドガー様はそう言うとケーキのお皿を持ち上げてパチッとウィンクして見せた。ウィンクするエドガー様もお茶目で可愛らしい!
顔が熱くなるのを感じて、1口カップケーキを齧った。
エドガー様は攻略対象ではないものの、ヒロインの兄だ。美麗な容姿で令嬢たちにも密かに人気で、会場にいればアインツ同様に囲まれているところだろう。
「確かに、エドガー様はご令嬢が放って置きませんわね!エドガー様は素敵ですもの」
そう言うと、エドガー様は照れ隠しのようにオレンジジュースの入ったグラスに口をつけた。
「そんな事ありませんよ。あ、そう言えば。近々、生徒会の役員に推薦する書状がアインツ殿下から送られると思います。貴方なら大歓迎です」
エドガー様はどこか嬉しそうに言う。片眼鏡でクールな印象なのに、そんな可愛い反応とかありですか?私の心臓がもたないんですけど!
だが、原作と違う。本来なら生徒会にはシャロンが入るはずで、クリスティナは生徒会には入っていなかった。
「……私が生徒会に?」
戸惑いが隠せない、それが伝わったのかエドガー様は不安そうな顔でこちらを伺う。
しっかりしないと…けど、殿下からの推薦を無碍には出来ない。
「何か、入れない理由でも?」
「いっいいえ!そんなものありませんわ!謹んでお受け致しますわ」
エドガー様を安心させるように、微笑みを浮かべる。
「それなら良かった。貴方が入るのを楽しみにしていますよ」
エドガー様はほっと胸を撫で、笑顔で返してくれた。その笑顔に胸がキュンとする。エドガー様のお顔が見られるなら、喜んで入ります!!
さっきまで、私の居場所では無いと思っていた場所が、エドガー様の笑顔のおかげで都合よく変わる。
エドガー様と楽しく談笑しながらケーキを平らげると、スっとエドガー様が立ち上がる。エドガー様は階段を1歩降り、私に向き直る。
「エドガー様?」
「レディ クリスティナ、僕と1曲お相手願えますか?」
エドガー様は綺麗な所作で私に手を差し出した。あまりのかっこよさに見惚れて一瞬呆然とする。
思わず息を飲み、ハッとしてエドガー様の手に手を重ねた。
「もちろんですわ!」
エドガー様からの申し出が嬉しく、恥ずかしさも相まって照れ笑いを浮かべてしまう。
エドガー様は一瞬目を見開くと優しい微笑みを浮かべ、私を立ち上がらせエスコートしてくれる。
日が落ちていく。先程まで明るかった空が、赤と青が混じり紫色に変わる。マジックアワーだ。もうじき夜が訪れる。
会場の喧騒は止み、中からはゆったりとした音楽が流れ込んでくる。
私たちは中庭の花々に囲まれて、誰もいない、私たち2人だけの世界になる。
すっかり私は夢見心地で、ただエドガー様の、空のように紫がかった美しい瞳を見つめていることしかできなかった。
まるで、ゲームスチルを見ているようだ。
今の私達は傍から見ると、どう見えるんだろうと考える。恋人同士に見えるのならそれほど嬉しいものはない。
私の一方的な気持ちに少し悲しくなるが、この瞬間だけは、エドガー様と踊っている時だけは悲しさは消えて心が満たされていく。
軽快なステップに合わせ、長いスカートの裾が閃く。
突風が吹き、私達の髪を攫った。私達は、動きを止める。風で花びらが舞い上がり、私たちに降り注ぐ。顔にかかった髪をエドガー様が、耳にかけてくれる。
頬に触れた手が止まり、不思議に思ってエドガー様を見上げると、アメジストの瞳が私の瞳を捉えて離さない。
自然とエドガー様の顔が近づく…。
…近づく??ちょっ!ちょっと待って!!まだ、心の準備が出来ません!もう、どうにでもなれっ!
ぎゅっと目を閉じたところで、エドガー様が私の髪を梳く。
「あまりにもクリスティナ様がお美しいので、花と間違えたのでしょう」
エドガー様の声に、恐る恐る目を開けると、エドガー様の掌の上にはうにょうにょと動く何かが居た。
「……エドガー様? それって…?…~っ!!」
声にならない声が出て、私は数歩退く。あれが頭の上にいたなんて聞きたくない!想像もしたくない!みるみる身体中に鳥肌が立つ。
そんな私を落ち着かせるようにエドガー様は言う。
「春にはきっと、この子は美しい蝶になりますよ」
綺麗な蝶になろうがなるまいが、そんなの今はどうでもいい!そのうにょうにょを早くどうにかして!!っと心の中で叫ぶ。
泣きそうになりながらも、うにょうにょを持つエドガー様を見上げる。大好きなエドガー様には悪いが、距離を保つ。
夢心地だった私のテンションは一気に急降下していく。
「あ、あの、その、それをはやく置いてください!」
「あぁ、そうですね。申し訳ありません。ご令嬢にお見せするようなものではありませんでしたね」
苦笑いをして、エドガー様は例のうにょうにょを葉っぱの上に置いた。
虫にも心優しいのだと称えるべき所だろうけど、もうエドガー様の手は取れない!だって間接的にアレに触れたことになってしまうから!
心の中でヒィーっと悲鳴をあげる。
手放しそうになる意識を必死に手繰り寄せ、何とか持ち堪える。
「クリスティナ様ー!」
会場の方から元気な声がして、パッと顔を向けると、満面の笑みを浮かべたリディアナがいた。
いつもクールな印象があったリディアナが、なんだかとっても楽しそう。
「リディアナさん?」
「こちらにいらっしゃったんですね!私、色々なドレスを見てアイデアが降ってまいりましたわ!是非クリスティナ様に着て頂きたいドレスのデザインがあるんです!」
こちらに駆け寄って、まくし立てるように言ったリディアナに、私は腕を掴まれる。
引き摺られるようにしてリディアナに、引っ張られる。
「あの、エドガー様。失礼します」
呆気に取られるエドガー様にペコッとお辞儀をしてリディアナの向かう方について行く。
ダンスホールを抜けた先に小休憩スペースがあり、そこに入っていく。
休憩スペースには、ブリジットがおりティーセットが用意されていた。
「クリスティナ様!急にリディアナを呼びに行ったと思ったら中々戻ってこなくて、心配しましたのよ!」
ブリジットは駆け寄ると、私の手を取った。安心してと手を握り返しす。
「ブリジット様、いつからリディアナさんとそんなに仲良くなりましたの?」
「べっ別に仲良くはないですわ…その…庶民って呼ぶのも変ですもの…」
カッと顔を赤らめてわたわたと慌てるように言葉を紡ぐ。そんな姿が可愛らしくてふふっと笑ってしまう。
「クリスティナ様も私の事はリディアナとお呼びください」
「じゃあ、リディアナさんの事はリディ、ブリジット様はリジー。私の事はティナと呼んでちょうだい!親愛の証よ」
いいでしょ?と2人を見ると嬉しそうにしてくれている。私も嬉しくなり、3人で手を取る。
「さぁ、リディ。いいデザインが浮かんだんでしょう?見せて!」
「はい!!リジー様もティナ様もこちらですわ!」
数々のデザイン画が机いっぱいに置かれる。私は、本当の親友が出来たようでこの光景がとても嬉しかった。
それに、エドガー様がこんなところで、隠れてケーキを食べているなんて思わなかった。
私の事を気にしてかエドガー様は山盛りのケーキの前でお預け状態になっている。
「私の事はどうぞお気にせず召し上がってください」
「では、一緒にどうですか?」
にっこりと笑顔でお皿をこちらに向けてくれた。私も食べた方が、エドガー様も気兼ねがないと思って、カップケーキを1つ手に取る。
ピンクのクリームが乗ったカップケーキは、可愛らしいく美味しそうだ。
「あの、何故こんな所に?」
カップケーキに齧りつこうとして、動揺でカップケーキを落としそうになる。
「ええと、外の空気を吸おうと思って…エドガー様は?」
「僕は…外の方がゆっくり甘い物が食べられますから」
エドガー様はそう言うとケーキのお皿を持ち上げてパチッとウィンクして見せた。ウィンクするエドガー様もお茶目で可愛らしい!
顔が熱くなるのを感じて、1口カップケーキを齧った。
エドガー様は攻略対象ではないものの、ヒロインの兄だ。美麗な容姿で令嬢たちにも密かに人気で、会場にいればアインツ同様に囲まれているところだろう。
「確かに、エドガー様はご令嬢が放って置きませんわね!エドガー様は素敵ですもの」
そう言うと、エドガー様は照れ隠しのようにオレンジジュースの入ったグラスに口をつけた。
「そんな事ありませんよ。あ、そう言えば。近々、生徒会の役員に推薦する書状がアインツ殿下から送られると思います。貴方なら大歓迎です」
エドガー様はどこか嬉しそうに言う。片眼鏡でクールな印象なのに、そんな可愛い反応とかありですか?私の心臓がもたないんですけど!
だが、原作と違う。本来なら生徒会にはシャロンが入るはずで、クリスティナは生徒会には入っていなかった。
「……私が生徒会に?」
戸惑いが隠せない、それが伝わったのかエドガー様は不安そうな顔でこちらを伺う。
しっかりしないと…けど、殿下からの推薦を無碍には出来ない。
「何か、入れない理由でも?」
「いっいいえ!そんなものありませんわ!謹んでお受け致しますわ」
エドガー様を安心させるように、微笑みを浮かべる。
「それなら良かった。貴方が入るのを楽しみにしていますよ」
エドガー様はほっと胸を撫で、笑顔で返してくれた。その笑顔に胸がキュンとする。エドガー様のお顔が見られるなら、喜んで入ります!!
さっきまで、私の居場所では無いと思っていた場所が、エドガー様の笑顔のおかげで都合よく変わる。
エドガー様と楽しく談笑しながらケーキを平らげると、スっとエドガー様が立ち上がる。エドガー様は階段を1歩降り、私に向き直る。
「エドガー様?」
「レディ クリスティナ、僕と1曲お相手願えますか?」
エドガー様は綺麗な所作で私に手を差し出した。あまりのかっこよさに見惚れて一瞬呆然とする。
思わず息を飲み、ハッとしてエドガー様の手に手を重ねた。
「もちろんですわ!」
エドガー様からの申し出が嬉しく、恥ずかしさも相まって照れ笑いを浮かべてしまう。
エドガー様は一瞬目を見開くと優しい微笑みを浮かべ、私を立ち上がらせエスコートしてくれる。
日が落ちていく。先程まで明るかった空が、赤と青が混じり紫色に変わる。マジックアワーだ。もうじき夜が訪れる。
会場の喧騒は止み、中からはゆったりとした音楽が流れ込んでくる。
私たちは中庭の花々に囲まれて、誰もいない、私たち2人だけの世界になる。
すっかり私は夢見心地で、ただエドガー様の、空のように紫がかった美しい瞳を見つめていることしかできなかった。
まるで、ゲームスチルを見ているようだ。
今の私達は傍から見ると、どう見えるんだろうと考える。恋人同士に見えるのならそれほど嬉しいものはない。
私の一方的な気持ちに少し悲しくなるが、この瞬間だけは、エドガー様と踊っている時だけは悲しさは消えて心が満たされていく。
軽快なステップに合わせ、長いスカートの裾が閃く。
突風が吹き、私達の髪を攫った。私達は、動きを止める。風で花びらが舞い上がり、私たちに降り注ぐ。顔にかかった髪をエドガー様が、耳にかけてくれる。
頬に触れた手が止まり、不思議に思ってエドガー様を見上げると、アメジストの瞳が私の瞳を捉えて離さない。
自然とエドガー様の顔が近づく…。
…近づく??ちょっ!ちょっと待って!!まだ、心の準備が出来ません!もう、どうにでもなれっ!
ぎゅっと目を閉じたところで、エドガー様が私の髪を梳く。
「あまりにもクリスティナ様がお美しいので、花と間違えたのでしょう」
エドガー様の声に、恐る恐る目を開けると、エドガー様の掌の上にはうにょうにょと動く何かが居た。
「……エドガー様? それって…?…~っ!!」
声にならない声が出て、私は数歩退く。あれが頭の上にいたなんて聞きたくない!想像もしたくない!みるみる身体中に鳥肌が立つ。
そんな私を落ち着かせるようにエドガー様は言う。
「春にはきっと、この子は美しい蝶になりますよ」
綺麗な蝶になろうがなるまいが、そんなの今はどうでもいい!そのうにょうにょを早くどうにかして!!っと心の中で叫ぶ。
泣きそうになりながらも、うにょうにょを持つエドガー様を見上げる。大好きなエドガー様には悪いが、距離を保つ。
夢心地だった私のテンションは一気に急降下していく。
「あ、あの、その、それをはやく置いてください!」
「あぁ、そうですね。申し訳ありません。ご令嬢にお見せするようなものではありませんでしたね」
苦笑いをして、エドガー様は例のうにょうにょを葉っぱの上に置いた。
虫にも心優しいのだと称えるべき所だろうけど、もうエドガー様の手は取れない!だって間接的にアレに触れたことになってしまうから!
心の中でヒィーっと悲鳴をあげる。
手放しそうになる意識を必死に手繰り寄せ、何とか持ち堪える。
「クリスティナ様ー!」
会場の方から元気な声がして、パッと顔を向けると、満面の笑みを浮かべたリディアナがいた。
いつもクールな印象があったリディアナが、なんだかとっても楽しそう。
「リディアナさん?」
「こちらにいらっしゃったんですね!私、色々なドレスを見てアイデアが降ってまいりましたわ!是非クリスティナ様に着て頂きたいドレスのデザインがあるんです!」
こちらに駆け寄って、まくし立てるように言ったリディアナに、私は腕を掴まれる。
引き摺られるようにしてリディアナに、引っ張られる。
「あの、エドガー様。失礼します」
呆気に取られるエドガー様にペコッとお辞儀をしてリディアナの向かう方について行く。
ダンスホールを抜けた先に小休憩スペースがあり、そこに入っていく。
休憩スペースには、ブリジットがおりティーセットが用意されていた。
「クリスティナ様!急にリディアナを呼びに行ったと思ったら中々戻ってこなくて、心配しましたのよ!」
ブリジットは駆け寄ると、私の手を取った。安心してと手を握り返しす。
「ブリジット様、いつからリディアナさんとそんなに仲良くなりましたの?」
「べっ別に仲良くはないですわ…その…庶民って呼ぶのも変ですもの…」
カッと顔を赤らめてわたわたと慌てるように言葉を紡ぐ。そんな姿が可愛らしくてふふっと笑ってしまう。
「クリスティナ様も私の事はリディアナとお呼びください」
「じゃあ、リディアナさんの事はリディ、ブリジット様はリジー。私の事はティナと呼んでちょうだい!親愛の証よ」
いいでしょ?と2人を見ると嬉しそうにしてくれている。私も嬉しくなり、3人で手を取る。
「さぁ、リディ。いいデザインが浮かんだんでしょう?見せて!」
「はい!!リジー様もティナ様もこちらですわ!」
数々のデザイン画が机いっぱいに置かれる。私は、本当の親友が出来たようでこの光景がとても嬉しかった。
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