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「……廃嫡?」
私は持っていたティーカップを、ソーサーの上にカチャリと置いた。
いつもの相談所。
平和な午後の光が差し込む中、シグルド様が持ってきた王宮からの極秘文書の内容は、爆弾級のものだった。
「ああ。父上……陛下が本気だ」
シグルド様は、珍しく眉間に深い皺を寄せていた。
「理由は明白だ。婚約破棄騒動に始まり、国宝(指輪)の無断持ち出し、そして先日の隣国王子への土下座(足置き化)。王家の威信は地に落ちた」
「まあ、自業自得ですね」
私は冷淡に言い放った。
「むしろ今まで廃嫡されなかったのが不思議なくらいです。これで少しは国も良くなるんじゃないですか?」
「そう他人事のように言うな」
シグルド様は重い息を吐いた。
「問題は、クロードを廃嫡した後、誰が次の王太子になるかだ」
「そりゃあ、他に王位継承権を持つ方は……」
私は言葉を止め、目の前の男を見た。
銀髪の美丈夫。
現国王の長子(側室腹だが)。
文武両道、カリスマ性抜群。
「……あ」
「そうだ。私だ」
シグルド様は絶望的な顔で天を仰いだ。
「クロードがいなくなれば、必然的に私が立太子することになる。側室の子だとか言っていられる状況ではない」
「……え、ちょっと待ってください」
私の脳内で、シミュレーションが高速回転を始めた。
シグルド様が王太子になる。
↓
彼は超多忙になり、この相談所に来られなくなる。
↓
私のスポンサーがいなくなる(資金源の枯渇)。
↓
さらに、彼が王になれば、そのパートナーである私は……?
「……もしかして、私も『王妃』として王宮に連れ戻される?」
「十中八九そうなるな。私はお前以外を妻にする気はない」
シグルド様は真顔で、とんでもない爆弾を落とした。
「私が王になれば、お前を逃がす場所などなくなる。王宮の奥深く、鳥籠のような離宮に閉じ込められ、毎日公務と外交に追われる日々だ」
「嫌アアアアアッ!!」
私は絶叫して頭を抱えた。
「冗談じゃないわ! やっと手に入れた自由なのよ!? なんでまた、あの堅苦しいドレスを着て、愛想笑いを振りまく生活に戻らなきゃいけないの!?」
「私も御免だ。書類仕事は嫌いではないが、王などという不自由な椅子に座るつもりはない。私はここで、お前と下らない事件を解決していたいのだ」
利害は完全に一致した。
私たちは顔を見合わせた。
目の奥に、戦士の炎が宿る。
「……阻止しましょう」
「ああ。絶対にだ」
「そのためには、どうすれば?」
「決まっている」
シグルド様は、机の上に置かれた『王太子廃嫡に関する審議会・開催通知』を指差した。
「あの馬鹿(クロード)を、どうにかして『王太子として使える』レベルまで叩き直す。そして審議会で、廃嫡を撤回させるしかない」
「……無理ゲーでは?」
「奇跡を起こすしかない」
私たちは直ちに立ち上がり、装備(扇子と書類と鞭)を整えた。
目指すは王宮の地下牢。
そこに、私たちの「平和な老後」を握る、世界一頼りない鍵がいる。
◇ ◇ ◇
王宮の地下牢。
湿っぽい石造りの独房の隅で、クロード殿下は膝を抱えて丸くなっていた。
「うう……寒い……ひもじい……。ミナ……アンズ……ママ……」
ボロボロのシャツ一枚。
伸び放題の髭。
かつてのキラキラ王子の面影はどこにもない。
ただの浮浪者だ。
カツ、カツ、カツ。
私たちの足音が響くと、殿下はのろのろと顔を上げた。
「……誰だ? 処刑人が来たのか?」
「ええ、処刑人ですわ。あなたの『甘ったれた根性』を処刑しに来ました」
私が鉄格子の前に立つと、殿下の目が大きく見開かれた。
「ア、アンズ!? それに兄上!?」
殿下は鉄格子に縋り付いた。
「助けに来てくれたのか!? やっぱり君は僕を愛して……!」
「黙れ」
シグルド様が冷たく一喝した。
「勘違いするな。我々がお前を助けるのは、お前のためではない。我々の『快適な隠居ライフ』のためだ」
「へ?」
「単刀直入に言います、殿下」
私は扇子で鉄格子を叩いた。
「一週間後の審議会で、あなたの廃嫡が決定します。そうなれば、あなたは平民以下。路頭に迷い、野垂れ死ぬ運命です」
「ひぃっ!?」
「ですが、私たちにとってもそれは迷惑なのです。シグルド様が王太子になると、私の店に来れなくなりますから」
「そ、そんな理由で……?」
「重要です(真顔)。そこで、取引です」
私は懐から、分厚い『スパルタ教育カリキュラム』を取り出した。
昨晩、徹夜で作ったものだ。
「これから一週間、私があなたを徹底的に教育します。王太子としての振る舞い、公務の処理能力、そして何より『空気を読む力』を叩き込みます」
「きょ、教育……?」
殿下は私の手にあるカリキュラム(厚さ五センチ)を見て、ガタガタと震え出した。
「そ、そんなのできるわけがない! 僕は繊細なんだ! 詰め込み教育なんてされたら壊れてしまう!」
「壊れたら作り直します」
「ヒィィィ!」
「やるのか、やらないのか。選べ」
シグルド様が、独房の鍵をチャリチャリと鳴らした。
「ここで一生を終えるか。地獄の特訓を受けて、王太子の座にしがみつくか」
クロード殿下は、私とシグルド様の鬼のような形相を交互に見た。
そして、涙ながらに叫んだ。
「や、やりますぅぅぅ! 助けてぇぇぇ!」
「交渉成立ね」
私は鍵を受け取り、ガチャリと扉を開けた。
「さあ、立ちなさいクロード。地獄のブートキャンプの始まりよ!」
◇ ◇ ◇
その日から、王宮の離宮にて、伝説に残る猛特訓が始まった。
**一日目:座学(公務処理)**
「遅い! その書類の決裁に何分かけているのですか! 目標タイムは三十秒です!」
「む、無理だぁ! 字が細かいぃぃ!」
私はハリセン(紙を丸めたもの)で机を叩いた。
「読み飛ばすコツを教えます! 『予算』『期限』『責任者』。この三点だけを見なさい! あとは全部美辞麗句です!」
「な、なるほど……! うおおお! 読める! 読めるぞ!」
**二日目:肉体労働(根性叩き直し)**
「走れ! 止まるな! ミナ様はもっと重いバーベルを上げていますよ!」
「ぜぇ、ぜぇ……! なんで僕が……丸太を……!」
特別コーチとして招聘されたガレス団長が、鬼の形相で叫ぶ。
「筋肉は裏切らん! 王たるもの、フィジカルこそが正義だ! サイドチェスト!!」
「サイドチェストォォォ!!(ヤケクソ)」
**三日目:精神修養(勘違い矯正)**
「はい、復唱!」
「『私は世界の中心ではない』!」
「『女性の言葉は額面通り受け取れ』!」
「『嫌いは嫌いという意味であり、好きの裏返しではない』!」
「よし! 次、鏡を見て!」
「『私はイケメンだが、中身は残念だ』!」
「よくできました!」
クロード殿下は涙を流しながら、自己否定の言葉を叫び続けた。
洗脳に近いが、これくらいやらないと彼のポジティブ回路は修正できない。
そして、運命の審議会当日。
私たちは、生まれ変わった(やつれ果てた)クロード殿下を連れて、王座の間へと向かった。
そこには、国王陛下をはじめ、国の重鎮たちがズラリと並んでいる。
空気は重い。
「クロード」
国王陛下が、低い声で告げた。
「そなたの数々の愚行、もはや看過できぬ。本日をもって廃嫡し、シグルドを……」
「お待ちください、父上」
クロード殿下が、静かに一歩進み出た。
その足取りには、かつてのようなフワフワした軽さはない。
大地を踏みしめるような、確かな重みがあった。
「最後に、一度だけ発言の機会をいただきたい」
「……よかろう。申してみよ」
殿下は深呼吸をし、顔を上げた。
その目は、ゲッソリと窪んでいるが、理性の光が宿っている。
「私は、愚かでした」
会場がざわめいた。
あのナルシスト王子が、自分の非を認めた?
「自分の美貌と地位に溺れ、周囲の人々の献身に気づかず、多くの迷惑をかけました。特にアンズ嬢、そして兄上には、言葉では償えないほどの苦労を……」
殿下は私とシグルド様に向き直り、深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
王宮中が静まり返った。
あのプライドの塊が、臣下の前で頭を下げたのだ。
「私は変わります。いえ、変わらなければならないと痛感しました。もう一度だけ、チャンスをください。もし次、期待を裏切るようなことがあれば……その時は自ら命を絶ちます」
殿下の悲壮な決意。
(まあ、裏で私が『失敗したらシグルド様が物理的に埋めるそうです』と脅したのが効いているのだが)
国王陛下は、しばらくじっと息子を見つめていた。
やがて、ほうっと息を吐いた。
「……目つきが変わったな」
陛下はチラリと、背後に控える私とシグルド様を見た。
「『調教師』が優秀だったようだな」
バレている。
陛下は苦笑し、杖を突いた。
「よかろう。廃嫡は一時保留とする。ただし、半年間の観察期間を設ける。その間、死に物狂いで働くがよい」
「はっ! ありがとうございます!」
クロード殿下はその場に崩れ落ち、男泣きした。
勝った。
私とシグルド様は、小さくガッツポーズをした。
これで私たちの「平穏」は守られたのだ。
「……よくやった、アンズ」
「シグルド様こそ、裏工作お疲れ様でした」
私たちは安堵の笑みを交わした。
しかし。
私たちは一つ、重大な計算違いをしていた。
改心したクロード殿下が、今度は「真面目すぎて面倒くさいストーカー」に変貌することを、まだ予想できていなかったのだ。
私は持っていたティーカップを、ソーサーの上にカチャリと置いた。
いつもの相談所。
平和な午後の光が差し込む中、シグルド様が持ってきた王宮からの極秘文書の内容は、爆弾級のものだった。
「ああ。父上……陛下が本気だ」
シグルド様は、珍しく眉間に深い皺を寄せていた。
「理由は明白だ。婚約破棄騒動に始まり、国宝(指輪)の無断持ち出し、そして先日の隣国王子への土下座(足置き化)。王家の威信は地に落ちた」
「まあ、自業自得ですね」
私は冷淡に言い放った。
「むしろ今まで廃嫡されなかったのが不思議なくらいです。これで少しは国も良くなるんじゃないですか?」
「そう他人事のように言うな」
シグルド様は重い息を吐いた。
「問題は、クロードを廃嫡した後、誰が次の王太子になるかだ」
「そりゃあ、他に王位継承権を持つ方は……」
私は言葉を止め、目の前の男を見た。
銀髪の美丈夫。
現国王の長子(側室腹だが)。
文武両道、カリスマ性抜群。
「……あ」
「そうだ。私だ」
シグルド様は絶望的な顔で天を仰いだ。
「クロードがいなくなれば、必然的に私が立太子することになる。側室の子だとか言っていられる状況ではない」
「……え、ちょっと待ってください」
私の脳内で、シミュレーションが高速回転を始めた。
シグルド様が王太子になる。
↓
彼は超多忙になり、この相談所に来られなくなる。
↓
私のスポンサーがいなくなる(資金源の枯渇)。
↓
さらに、彼が王になれば、そのパートナーである私は……?
「……もしかして、私も『王妃』として王宮に連れ戻される?」
「十中八九そうなるな。私はお前以外を妻にする気はない」
シグルド様は真顔で、とんでもない爆弾を落とした。
「私が王になれば、お前を逃がす場所などなくなる。王宮の奥深く、鳥籠のような離宮に閉じ込められ、毎日公務と外交に追われる日々だ」
「嫌アアアアアッ!!」
私は絶叫して頭を抱えた。
「冗談じゃないわ! やっと手に入れた自由なのよ!? なんでまた、あの堅苦しいドレスを着て、愛想笑いを振りまく生活に戻らなきゃいけないの!?」
「私も御免だ。書類仕事は嫌いではないが、王などという不自由な椅子に座るつもりはない。私はここで、お前と下らない事件を解決していたいのだ」
利害は完全に一致した。
私たちは顔を見合わせた。
目の奥に、戦士の炎が宿る。
「……阻止しましょう」
「ああ。絶対にだ」
「そのためには、どうすれば?」
「決まっている」
シグルド様は、机の上に置かれた『王太子廃嫡に関する審議会・開催通知』を指差した。
「あの馬鹿(クロード)を、どうにかして『王太子として使える』レベルまで叩き直す。そして審議会で、廃嫡を撤回させるしかない」
「……無理ゲーでは?」
「奇跡を起こすしかない」
私たちは直ちに立ち上がり、装備(扇子と書類と鞭)を整えた。
目指すは王宮の地下牢。
そこに、私たちの「平和な老後」を握る、世界一頼りない鍵がいる。
◇ ◇ ◇
王宮の地下牢。
湿っぽい石造りの独房の隅で、クロード殿下は膝を抱えて丸くなっていた。
「うう……寒い……ひもじい……。ミナ……アンズ……ママ……」
ボロボロのシャツ一枚。
伸び放題の髭。
かつてのキラキラ王子の面影はどこにもない。
ただの浮浪者だ。
カツ、カツ、カツ。
私たちの足音が響くと、殿下はのろのろと顔を上げた。
「……誰だ? 処刑人が来たのか?」
「ええ、処刑人ですわ。あなたの『甘ったれた根性』を処刑しに来ました」
私が鉄格子の前に立つと、殿下の目が大きく見開かれた。
「ア、アンズ!? それに兄上!?」
殿下は鉄格子に縋り付いた。
「助けに来てくれたのか!? やっぱり君は僕を愛して……!」
「黙れ」
シグルド様が冷たく一喝した。
「勘違いするな。我々がお前を助けるのは、お前のためではない。我々の『快適な隠居ライフ』のためだ」
「へ?」
「単刀直入に言います、殿下」
私は扇子で鉄格子を叩いた。
「一週間後の審議会で、あなたの廃嫡が決定します。そうなれば、あなたは平民以下。路頭に迷い、野垂れ死ぬ運命です」
「ひぃっ!?」
「ですが、私たちにとってもそれは迷惑なのです。シグルド様が王太子になると、私の店に来れなくなりますから」
「そ、そんな理由で……?」
「重要です(真顔)。そこで、取引です」
私は懐から、分厚い『スパルタ教育カリキュラム』を取り出した。
昨晩、徹夜で作ったものだ。
「これから一週間、私があなたを徹底的に教育します。王太子としての振る舞い、公務の処理能力、そして何より『空気を読む力』を叩き込みます」
「きょ、教育……?」
殿下は私の手にあるカリキュラム(厚さ五センチ)を見て、ガタガタと震え出した。
「そ、そんなのできるわけがない! 僕は繊細なんだ! 詰め込み教育なんてされたら壊れてしまう!」
「壊れたら作り直します」
「ヒィィィ!」
「やるのか、やらないのか。選べ」
シグルド様が、独房の鍵をチャリチャリと鳴らした。
「ここで一生を終えるか。地獄の特訓を受けて、王太子の座にしがみつくか」
クロード殿下は、私とシグルド様の鬼のような形相を交互に見た。
そして、涙ながらに叫んだ。
「や、やりますぅぅぅ! 助けてぇぇぇ!」
「交渉成立ね」
私は鍵を受け取り、ガチャリと扉を開けた。
「さあ、立ちなさいクロード。地獄のブートキャンプの始まりよ!」
◇ ◇ ◇
その日から、王宮の離宮にて、伝説に残る猛特訓が始まった。
**一日目:座学(公務処理)**
「遅い! その書類の決裁に何分かけているのですか! 目標タイムは三十秒です!」
「む、無理だぁ! 字が細かいぃぃ!」
私はハリセン(紙を丸めたもの)で机を叩いた。
「読み飛ばすコツを教えます! 『予算』『期限』『責任者』。この三点だけを見なさい! あとは全部美辞麗句です!」
「な、なるほど……! うおおお! 読める! 読めるぞ!」
**二日目:肉体労働(根性叩き直し)**
「走れ! 止まるな! ミナ様はもっと重いバーベルを上げていますよ!」
「ぜぇ、ぜぇ……! なんで僕が……丸太を……!」
特別コーチとして招聘されたガレス団長が、鬼の形相で叫ぶ。
「筋肉は裏切らん! 王たるもの、フィジカルこそが正義だ! サイドチェスト!!」
「サイドチェストォォォ!!(ヤケクソ)」
**三日目:精神修養(勘違い矯正)**
「はい、復唱!」
「『私は世界の中心ではない』!」
「『女性の言葉は額面通り受け取れ』!」
「『嫌いは嫌いという意味であり、好きの裏返しではない』!」
「よし! 次、鏡を見て!」
「『私はイケメンだが、中身は残念だ』!」
「よくできました!」
クロード殿下は涙を流しながら、自己否定の言葉を叫び続けた。
洗脳に近いが、これくらいやらないと彼のポジティブ回路は修正できない。
そして、運命の審議会当日。
私たちは、生まれ変わった(やつれ果てた)クロード殿下を連れて、王座の間へと向かった。
そこには、国王陛下をはじめ、国の重鎮たちがズラリと並んでいる。
空気は重い。
「クロード」
国王陛下が、低い声で告げた。
「そなたの数々の愚行、もはや看過できぬ。本日をもって廃嫡し、シグルドを……」
「お待ちください、父上」
クロード殿下が、静かに一歩進み出た。
その足取りには、かつてのようなフワフワした軽さはない。
大地を踏みしめるような、確かな重みがあった。
「最後に、一度だけ発言の機会をいただきたい」
「……よかろう。申してみよ」
殿下は深呼吸をし、顔を上げた。
その目は、ゲッソリと窪んでいるが、理性の光が宿っている。
「私は、愚かでした」
会場がざわめいた。
あのナルシスト王子が、自分の非を認めた?
「自分の美貌と地位に溺れ、周囲の人々の献身に気づかず、多くの迷惑をかけました。特にアンズ嬢、そして兄上には、言葉では償えないほどの苦労を……」
殿下は私とシグルド様に向き直り、深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
王宮中が静まり返った。
あのプライドの塊が、臣下の前で頭を下げたのだ。
「私は変わります。いえ、変わらなければならないと痛感しました。もう一度だけ、チャンスをください。もし次、期待を裏切るようなことがあれば……その時は自ら命を絶ちます」
殿下の悲壮な決意。
(まあ、裏で私が『失敗したらシグルド様が物理的に埋めるそうです』と脅したのが効いているのだが)
国王陛下は、しばらくじっと息子を見つめていた。
やがて、ほうっと息を吐いた。
「……目つきが変わったな」
陛下はチラリと、背後に控える私とシグルド様を見た。
「『調教師』が優秀だったようだな」
バレている。
陛下は苦笑し、杖を突いた。
「よかろう。廃嫡は一時保留とする。ただし、半年間の観察期間を設ける。その間、死に物狂いで働くがよい」
「はっ! ありがとうございます!」
クロード殿下はその場に崩れ落ち、男泣きした。
勝った。
私とシグルド様は、小さくガッツポーズをした。
これで私たちの「平穏」は守られたのだ。
「……よくやった、アンズ」
「シグルド様こそ、裏工作お疲れ様でした」
私たちは安堵の笑みを交わした。
しかし。
私たちは一つ、重大な計算違いをしていた。
改心したクロード殿下が、今度は「真面目すぎて面倒くさいストーカー」に変貌することを、まだ予想できていなかったのだ。
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