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「いいか、よく聞け! 国を富ませるものは金ではない! 『愛』だ!」
ドラグーン公爵城の大会議室。
視察団の要望により開催された『領地経営に関する意見交換会』の冒頭で、ロランド王子は高らかに宣言した。
彼は演壇に立ち、集められたドラグーン領の文官たちを見下ろして、酔いしれるように語り続ける。
「この領地は寒すぎる! 気温のことではない、心の温度だ! ルーア、君のやり方はあまりにも事務的で冷徹だ。数字、数字、数字……そんなもので民の心が満たされると思うか?」
ロランドは芝居がかった仕草で胸に手を当てた。
「民が求めているのは、指導者からの温かい慈愛だ! 笑顔だ! たとえ貧しくとも、愛があれば人は幸せに生きられるのだ!」
「そうですぅ! ロランド様のおっしゃる通りですぅ!」
最前列で、サクラ役のミナがパチパチと拍手をする。
「愛があれば、お腹が空いても我慢できるんですぅ! 寒くても心はポカポカなんですぅ!」
ドラグーン領の文官たちは、ポカンと口を開けていた。
彼らの顔には「この人たちは何を言っているんだ?」という純粋な困惑が浮かんでいる。
演壇の脇で、書記を務めるルーアは無表情のまま手を挙げた。
「……殿下。質問よろしいでしょうか」
「なんだ? ようやく私の言葉が心に響いたか?」
「いいえ。殿下の発言があまりに抽象的すぎて、議事録にどう要約すればいいか不明だったため確認です」
ルーアはペン先でコツコツと机を叩いた。
「『愛があれば国は回る』という主張ですが、具体的なエネルギー変換効率を教えていただけますか?」
「は?」
「つまり、『愛』というリソースを投入することで、どの程度の『電力』や『食料』が生産されるのか、という数値データです」
ルーアは真顔で尋ねた。
「例えば、今冬の豪雪により、領内の主要道路3本が通行止めになりました。これを除雪するために必要なのは、除雪部隊の人件費と魔法魔導具の燃料費、〆て金貨五百枚です。殿下の『愛』で、この雪を溶かせますか?」
「そ、それは……私が現地に行って、民を励ませば……!」
「励ましで雪は溶けません。むしろ、殿下の警護費用と現地での接待費で、さらに赤字が拡大します」
ルーアはバッサリと切り捨てた。
「次に、下水道の老朽化問題。配管の交換には高度な土木技術と莫大な予算が必要です。殿下とミナ様が配管に向かって『愛してるよ♡』と囁けば、錆びた鉄パイプが新品に生まれ変わるのですか?」
「そ、そんなわけあるか! 揚げ足を取るな!」
「揚げ足ではありません。現実の話をしています。インフラ整備、治安維持、物流管理。これらは全て『予算』と『計画』によって維持されています。愛や精神論でインフラは整備できません」
ルーアは冷徹な瞳で会場を見渡した。
「民がお腹を空かせている時に必要なのは、指導者の笑顔ではなくパンです。寒さに震えている時に必要なのは、慈愛ではなく石炭です。それらを安定供給するシステムを作ることこそが、統治者の義務であり、最大の『愛』ではありませんか?」
シーン……。
会議室が静まり返る。
文官たちは、感動に打ち震えていた。
(す、すごい……! 俺たちが言いたくても言えなかったことを、全部言ってくれた!)
(そうだ! 精神論で腹は膨れないんだよ!)
(一生ついていきます、ルーア姉さん!)
文官たちの瞳に、ルーアへの忠誠の炎が燃え上がる。
一方、論破されたロランドは顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。
「き、貴様……! そこまで言うか! 金、金、金! そんなに金が大事か!」
「大事です。金がなければ国は滅びます」
「心が貧しい! 哀れな女だ! そんなことだから、お前は誰からも愛されないんだ!」
ロランドが捨て台詞を吐いた、その時だった。
ガタンッ!
上座で沈黙を守っていたクラウスが、椅子を蹴って立ち上がった。
部屋の空気が一瞬で凍りつき、窓ガラスに霜が走る。
「……聞き捨てならんな、ロランド王子」
クラウスがゆっくりと演壇へ歩み寄る。
その殺気は凄まじく、ロランドは「ひっ」と悲鳴を上げて腰を抜かした。
「あ、愛されないだと? 誰が?」
クラウスはロランドの襟首を掴み上げ、宙に吊るした。
「もがっ……く、苦しい……!」
「訂正しろ。今すぐにだ。ルーアほど、この領地で愛されている人間はいない」
クラウスは低い声で告げた。
「彼女が来てから、我が領の財政は黒字化した。文官たちは過労から解放され、家族と過ごす時間を得た。領民たちは整備された道路と安価な流通に感謝している」
彼は会場の文官たちに視線を向けた。
「おい、お前たち。ルーアのことをどう思っている?」
文官長ハンスが、即座に起立して叫んだ。
「尊敬しております! ルーア様は我らの救世主です!」
「そうだ! ルーア様のおかげで給料が上がった!」
「ルーア様万歳! 効率化万歳!」
会場中から湧き上がるルーア・コール。
クラウスは満足げに頷き、再びロランドを睨みつけた。
「聞いたか? これが『結果』を出した者への、真の敬意と愛情だ。お前の言う薄っぺらい愛とは重さが違う」
そして、クラウスは少しだけ声を落とし、ルーアの方を見て言った。
「それに……私自身、彼女のその徹底した合理主義に、どうしようもなく惹かれている」
「え?」
突然の流れ弾に、ルーアが目を丸くする。
クラウスは少し照れくさそうに、しかしはっきりと言った。
「愛で雪は溶かせないと言ったな? その通りだ。だが、君が計算し、君が守ったこの領地を、私は愛している。そして、その中心にいる君のこともな」
ドッカン。
会場が爆発した(心理的に)。
文官たちは「ヒューヒュー!」と口笛を吹き、ミナは「キーッ!」とハンカチを噛み締め、ロランドは白目を剥いて気絶した。
ルーアは顔が沸騰しそうになるのを必死で抑え、計算機で顔を隠した。
「……か、閣下。公私混同は慎んでください。議事録になんと書けばいいのですか……」
「事実を書けばいい。『領主は補佐官にベタ惚れである』とな」
「書きません! 削除です、削除!」
ルーアは赤ペンで空中の何かを消すような仕草をした。
その様子を、部屋の隅でじっと観察している男がいた。
ガミール伯爵だ。
彼は騒ぎには参加せず、ルーアが持っている『魔導計算機』を鋭い眼光で見つめていた。
「……あの計算機。やはりただの計算機ではないな」
ガミールは手元のメモ帳に書き込んだ。
『ターゲット:魔導計算機。あの異常な計算速度と、所有者の思考を加速させる機能……もしや、古代遺跡から発掘されたロストテクノロジーか?』
ガミールはニヤリと笑った。
「ロランド殿下の戯言などどうでもいい。あの計算機さえ手に入れば、我が国の財政難を一発で解決できるかもしれん……」
彼は懐から、小型の通信機を取り出した。
「……おい、工作部隊か? 今夜だ。今夜、決行する」
***
その夜。
会議での疲れ(主に精神的な)を癒すため、ルーアは自室でくつろいでいた。
「はぁ……今日は疲れたわ。ロランド殿下の相手をするより、決算書を百枚処理する方がマシね」
彼女はサイドテーブルに愛用の魔導計算機を置き、ベッドに横たわった。
クラウスの言葉が、脳内でリフレインする。
『君のことも、愛している』
「……反則よ、あんな公衆の面前で」
ルーアは枕に顔を埋め、足をバタバタさせた。
「計算が狂うじゃない。……でも、悪くない気分だわ」
そのまま眠りに落ちようとした、その時。
カタン。
窓の外で、小さな音がした。
ルーアはハッと目を開けた。
ここは三階だ。鳥か? いや、もっと重い音だ。
彼女は音を立てずにベッドから降り、護身用のペーパーナイフ(切れ味抜群)を手に取った。
カーテンの隙間から月明かりが差し込む。
窓の鍵が、外側から魔法で解錠されようとしているのが見えた。
(……泥棒? この警備厳重な公爵城に?)
ルーアは息を潜め、侵入者を待ち構えた。
窓が静かに開き、黒装束の男が音もなく忍び込んでくる。
男の狙いは、ルーア自身……ではなく。
サイドテーブルに置かれた、魔導計算機だった。
(あれを狙ってるの?)
男が計算機に手を伸ばした瞬間。
「『棚卸し』の時間には、まだ早いですわよ?」
ルーアの声と共に、ペーパーナイフが男の喉元に突きつけられた。
「ッ!?」
男が驚愕し、飛び退く。
「誰の差し金かしら? 私の大事な相棒(商売道具)に触ろうなんて、いい度胸ね」
ルーアの目は、昼間の会議の時よりも遥かに冷たく、そして鋭く光っていた。
「さあ、吐きなさい。計算機を盗んでどうするつもり? 転売? それとも分解?」
侵入者は舌打ちをし、短剣を抜いた。
「チッ、勘のいい女だ! 大人しくそれを渡せば命だけは助けてやる!」
「お断りします。これは非売品であり、私の体の一部です。渡すくらいなら、あなたを『損金処理』させていただきます!」
戦闘のゴングが鳴る。
だが、ルーアはただの事務員ではない。
数多の修羅場(バーゲンセールや王宮の派閥争い)をくぐり抜けてきた、戦う公爵令嬢なのだ。
そして何より、この城には『最強の番犬』がいることを、侵入者は忘れていた。
「……私の城で、私の女に刃を向けるとは」
ドォォォン!!
部屋のドアが吹き飛び、吹雪と共に魔王(クラウス)が現れた。
「死に急ぎたいようだな、鼠め」
その手には、巨大な氷の大剣が握られていた。
「あ、閣下。ドアの修理費、請求しますよ」
「後で払う! 今はこいつを冷凍保存するのが先だ!」
侵入者の顔が絶望に染まる。
「ひ、ひいいいッ! 話が違うぞガミール様ぁ!」
「あら、名前が出ちゃいましたね」
ルーアはニッコリと笑った。
「自白、ありがとうございます。これで証拠は揃いました」
業務効率化を邪魔する者には、容赦ない断罪が下される。
氷の公爵と鉄の女。この最強タッグに挑んだことこそが、ガミール一派の最大の計算ミスだった。
ドラグーン公爵城の大会議室。
視察団の要望により開催された『領地経営に関する意見交換会』の冒頭で、ロランド王子は高らかに宣言した。
彼は演壇に立ち、集められたドラグーン領の文官たちを見下ろして、酔いしれるように語り続ける。
「この領地は寒すぎる! 気温のことではない、心の温度だ! ルーア、君のやり方はあまりにも事務的で冷徹だ。数字、数字、数字……そんなもので民の心が満たされると思うか?」
ロランドは芝居がかった仕草で胸に手を当てた。
「民が求めているのは、指導者からの温かい慈愛だ! 笑顔だ! たとえ貧しくとも、愛があれば人は幸せに生きられるのだ!」
「そうですぅ! ロランド様のおっしゃる通りですぅ!」
最前列で、サクラ役のミナがパチパチと拍手をする。
「愛があれば、お腹が空いても我慢できるんですぅ! 寒くても心はポカポカなんですぅ!」
ドラグーン領の文官たちは、ポカンと口を開けていた。
彼らの顔には「この人たちは何を言っているんだ?」という純粋な困惑が浮かんでいる。
演壇の脇で、書記を務めるルーアは無表情のまま手を挙げた。
「……殿下。質問よろしいでしょうか」
「なんだ? ようやく私の言葉が心に響いたか?」
「いいえ。殿下の発言があまりに抽象的すぎて、議事録にどう要約すればいいか不明だったため確認です」
ルーアはペン先でコツコツと机を叩いた。
「『愛があれば国は回る』という主張ですが、具体的なエネルギー変換効率を教えていただけますか?」
「は?」
「つまり、『愛』というリソースを投入することで、どの程度の『電力』や『食料』が生産されるのか、という数値データです」
ルーアは真顔で尋ねた。
「例えば、今冬の豪雪により、領内の主要道路3本が通行止めになりました。これを除雪するために必要なのは、除雪部隊の人件費と魔法魔導具の燃料費、〆て金貨五百枚です。殿下の『愛』で、この雪を溶かせますか?」
「そ、それは……私が現地に行って、民を励ませば……!」
「励ましで雪は溶けません。むしろ、殿下の警護費用と現地での接待費で、さらに赤字が拡大します」
ルーアはバッサリと切り捨てた。
「次に、下水道の老朽化問題。配管の交換には高度な土木技術と莫大な予算が必要です。殿下とミナ様が配管に向かって『愛してるよ♡』と囁けば、錆びた鉄パイプが新品に生まれ変わるのですか?」
「そ、そんなわけあるか! 揚げ足を取るな!」
「揚げ足ではありません。現実の話をしています。インフラ整備、治安維持、物流管理。これらは全て『予算』と『計画』によって維持されています。愛や精神論でインフラは整備できません」
ルーアは冷徹な瞳で会場を見渡した。
「民がお腹を空かせている時に必要なのは、指導者の笑顔ではなくパンです。寒さに震えている時に必要なのは、慈愛ではなく石炭です。それらを安定供給するシステムを作ることこそが、統治者の義務であり、最大の『愛』ではありませんか?」
シーン……。
会議室が静まり返る。
文官たちは、感動に打ち震えていた。
(す、すごい……! 俺たちが言いたくても言えなかったことを、全部言ってくれた!)
(そうだ! 精神論で腹は膨れないんだよ!)
(一生ついていきます、ルーア姉さん!)
文官たちの瞳に、ルーアへの忠誠の炎が燃え上がる。
一方、論破されたロランドは顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。
「き、貴様……! そこまで言うか! 金、金、金! そんなに金が大事か!」
「大事です。金がなければ国は滅びます」
「心が貧しい! 哀れな女だ! そんなことだから、お前は誰からも愛されないんだ!」
ロランドが捨て台詞を吐いた、その時だった。
ガタンッ!
上座で沈黙を守っていたクラウスが、椅子を蹴って立ち上がった。
部屋の空気が一瞬で凍りつき、窓ガラスに霜が走る。
「……聞き捨てならんな、ロランド王子」
クラウスがゆっくりと演壇へ歩み寄る。
その殺気は凄まじく、ロランドは「ひっ」と悲鳴を上げて腰を抜かした。
「あ、愛されないだと? 誰が?」
クラウスはロランドの襟首を掴み上げ、宙に吊るした。
「もがっ……く、苦しい……!」
「訂正しろ。今すぐにだ。ルーアほど、この領地で愛されている人間はいない」
クラウスは低い声で告げた。
「彼女が来てから、我が領の財政は黒字化した。文官たちは過労から解放され、家族と過ごす時間を得た。領民たちは整備された道路と安価な流通に感謝している」
彼は会場の文官たちに視線を向けた。
「おい、お前たち。ルーアのことをどう思っている?」
文官長ハンスが、即座に起立して叫んだ。
「尊敬しております! ルーア様は我らの救世主です!」
「そうだ! ルーア様のおかげで給料が上がった!」
「ルーア様万歳! 効率化万歳!」
会場中から湧き上がるルーア・コール。
クラウスは満足げに頷き、再びロランドを睨みつけた。
「聞いたか? これが『結果』を出した者への、真の敬意と愛情だ。お前の言う薄っぺらい愛とは重さが違う」
そして、クラウスは少しだけ声を落とし、ルーアの方を見て言った。
「それに……私自身、彼女のその徹底した合理主義に、どうしようもなく惹かれている」
「え?」
突然の流れ弾に、ルーアが目を丸くする。
クラウスは少し照れくさそうに、しかしはっきりと言った。
「愛で雪は溶かせないと言ったな? その通りだ。だが、君が計算し、君が守ったこの領地を、私は愛している。そして、その中心にいる君のこともな」
ドッカン。
会場が爆発した(心理的に)。
文官たちは「ヒューヒュー!」と口笛を吹き、ミナは「キーッ!」とハンカチを噛み締め、ロランドは白目を剥いて気絶した。
ルーアは顔が沸騰しそうになるのを必死で抑え、計算機で顔を隠した。
「……か、閣下。公私混同は慎んでください。議事録になんと書けばいいのですか……」
「事実を書けばいい。『領主は補佐官にベタ惚れである』とな」
「書きません! 削除です、削除!」
ルーアは赤ペンで空中の何かを消すような仕草をした。
その様子を、部屋の隅でじっと観察している男がいた。
ガミール伯爵だ。
彼は騒ぎには参加せず、ルーアが持っている『魔導計算機』を鋭い眼光で見つめていた。
「……あの計算機。やはりただの計算機ではないな」
ガミールは手元のメモ帳に書き込んだ。
『ターゲット:魔導計算機。あの異常な計算速度と、所有者の思考を加速させる機能……もしや、古代遺跡から発掘されたロストテクノロジーか?』
ガミールはニヤリと笑った。
「ロランド殿下の戯言などどうでもいい。あの計算機さえ手に入れば、我が国の財政難を一発で解決できるかもしれん……」
彼は懐から、小型の通信機を取り出した。
「……おい、工作部隊か? 今夜だ。今夜、決行する」
***
その夜。
会議での疲れ(主に精神的な)を癒すため、ルーアは自室でくつろいでいた。
「はぁ……今日は疲れたわ。ロランド殿下の相手をするより、決算書を百枚処理する方がマシね」
彼女はサイドテーブルに愛用の魔導計算機を置き、ベッドに横たわった。
クラウスの言葉が、脳内でリフレインする。
『君のことも、愛している』
「……反則よ、あんな公衆の面前で」
ルーアは枕に顔を埋め、足をバタバタさせた。
「計算が狂うじゃない。……でも、悪くない気分だわ」
そのまま眠りに落ちようとした、その時。
カタン。
窓の外で、小さな音がした。
ルーアはハッと目を開けた。
ここは三階だ。鳥か? いや、もっと重い音だ。
彼女は音を立てずにベッドから降り、護身用のペーパーナイフ(切れ味抜群)を手に取った。
カーテンの隙間から月明かりが差し込む。
窓の鍵が、外側から魔法で解錠されようとしているのが見えた。
(……泥棒? この警備厳重な公爵城に?)
ルーアは息を潜め、侵入者を待ち構えた。
窓が静かに開き、黒装束の男が音もなく忍び込んでくる。
男の狙いは、ルーア自身……ではなく。
サイドテーブルに置かれた、魔導計算機だった。
(あれを狙ってるの?)
男が計算機に手を伸ばした瞬間。
「『棚卸し』の時間には、まだ早いですわよ?」
ルーアの声と共に、ペーパーナイフが男の喉元に突きつけられた。
「ッ!?」
男が驚愕し、飛び退く。
「誰の差し金かしら? 私の大事な相棒(商売道具)に触ろうなんて、いい度胸ね」
ルーアの目は、昼間の会議の時よりも遥かに冷たく、そして鋭く光っていた。
「さあ、吐きなさい。計算機を盗んでどうするつもり? 転売? それとも分解?」
侵入者は舌打ちをし、短剣を抜いた。
「チッ、勘のいい女だ! 大人しくそれを渡せば命だけは助けてやる!」
「お断りします。これは非売品であり、私の体の一部です。渡すくらいなら、あなたを『損金処理』させていただきます!」
戦闘のゴングが鳴る。
だが、ルーアはただの事務員ではない。
数多の修羅場(バーゲンセールや王宮の派閥争い)をくぐり抜けてきた、戦う公爵令嬢なのだ。
そして何より、この城には『最強の番犬』がいることを、侵入者は忘れていた。
「……私の城で、私の女に刃を向けるとは」
ドォォォン!!
部屋のドアが吹き飛び、吹雪と共に魔王(クラウス)が現れた。
「死に急ぎたいようだな、鼠め」
その手には、巨大な氷の大剣が握られていた。
「あ、閣下。ドアの修理費、請求しますよ」
「後で払う! 今はこいつを冷凍保存するのが先だ!」
侵入者の顔が絶望に染まる。
「ひ、ひいいいッ! 話が違うぞガミール様ぁ!」
「あら、名前が出ちゃいましたね」
ルーアはニッコリと笑った。
「自白、ありがとうございます。これで証拠は揃いました」
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