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「……というわけで、この『星屑のドレス』の独占販売権につきましては、売上の30%をロイヤリティとして頂戴します。契約期間は二年。更新時は再交渉ということで」
「は、はいぃ! 喜んで契約させていただきます!」
舞踏会の会場の隅で、南方の宝石商がハンカチで額の汗を拭いながら、契約書にサインをした。
ルーアの交渉術は鮮やかだった。
相手の購買意欲を煽り、希少性をアピールし、逃げ場をなくしてから、笑顔で高額な条件を突きつける。
宝石商が去った後、ルーアは契約書を満足げに弾いた。
「よし。これで来期の繊維部門の黒字は確定ね。ボーナスの原資も確保できたわ」
「……君は、ここでも仕事か」
背後から、呆れたような、それでいて少し拗ねたような声がした。
クラウスだ。
彼は手に持ったグラスを揺らしながら、不満げにルーアを見下ろしている。
「せっかくの舞踏会だぞ。少しは余韻に浸るとか、私との時間を楽しむとかできないのか?」
「余韻で飯は食えません。それに、今の契約で得た資金は、閣下が欲しがっていた新型の魔導暖房設備の導入費に充てられますよ?」
「……ぐっ。それはありがたいが」
クラウスは言葉に詰まった。
論理では勝てない。しかし、感情が納得していない。
周囲の貴族たちは、楽しそうに談笑したり、チークダンスを踊ったりしている。
彼も、ルーアともっと踊りたかったのだ。
「……もう一曲だ」
クラウスはグラスを置き、強引にルーアの手を取った。
「え? またですか? さっき踊ったばかりですが」
「さっきのは『見せつけ』のためのダンスだ。今度は私のためのダンスだ」
「意味がわかりません。カロリーの無駄遣いでは?」
「黙ってついてこい。……これは業務命令だ」
クラウスは有無を言わせず、ルーアをホールの中央へと連れ出した。
音楽がスローな曲調に変わる。
二人は再び体を密着させ、ゆっくりとステップを踏み始めた。
「……はぁ。仕方ありませんね」
ルーアは小さくため息をついたが、その表情は満更でもなさそうだ。
「では、有意義な時間にするために、来年度の予算配分について話し合いましょうか」
「……ダンス中に予算の話か?」
「はい。オフィスで話すより、リラックスした状態の方が柔軟なアイデアが出ますから」
ルーアはクラウスの肩に手を置き、真剣な眼差しで見上げた。
周囲から見れば、愛の言葉を囁き合っているようにしか見えない距離だ。
「まず、公共事業費ですが、道路整備に15%増額を提案します。物流の効率化が急務です」
「……わかった。だが、治安維持費も増やしたい。最近、君のファンが増えすぎて警備が大変なのだ」
「ファン? ストーカー予備軍のことですか? なら排除システムを構築しましょう。……それと、教育予算ですが」
二人は優雅にターンを決める。
ドレスの裾が美しく翻る。
「美しい……」
「ええ、美しい数字です。教育への投資は十年後の税収増に直結しますから」
「違う、君のことだ」
「聞いてませんね。……で、魔法研究所の予算は削減します。成果が出ていないプロジェクトが多すぎます」
「待ってくれ。あそこでは今、『ルーアの疲れを癒すマッサージチェア』を開発させているのだ」
「……なんですって?」
ルーアの目が光った。
「即時採用。予算倍増で進めてください」
「現金なやつだ……」
周囲の貴族たちは、二人の熱っぽい(?)会話を聞いて、うっとりとしていた。
「まあ、見て。あんなに見つめ合って……」
「きっと、『君なしでは生きられない』とか囁いているのよ」
「情熱的ねぇ……」
実際は「予算倍増」とか「税収増」とか言っているだけなのだが、二人の美貌と雰囲気があまりに完璧すぎて、誰も真実に気づかない。
曲がクライマックスに差し掛かる。
クラウスはルーアの腰をぐっと引き寄せ、耳元で囁いた。
「……ルーア。予算の話はもういい」
「え? まだ衛生管理費の話が……」
「ただ、私に身を委ねろ。……君を感じたい」
甘い声。低い吐息。
ルーアの心臓が、予算案とは関係ない理由で跳ね上がった。
(……くっ、またこの攻撃)
この公爵、無自覚にフェロモンを撒き散らすからタチが悪い。
「……わかりましたよ。少しだけ、静かにしてます」
ルーアは観念して、クラウスの胸に額を預けた。
トクトクと、彼の心音が聞こえる。
それは意外にも速く、彼もまた緊張しているのだと伝わってきた。
(……悪くないわね。こういうのも、たまには)
ルーアがそう思いかけた、その時だった。
曲が終わり、二人が離れると、一人の給仕係が恭しく近づいてきた。
「公爵閣下、ルーア様。喉が渇いたでしょう。当家特製のヴィンテージワインでございます」
給仕係は深くお辞儀をして、銀のトレイを差し出した。
そこには、ルビーのように赤い液体が入った二つのグラスが載っている。
「……気が利くな」
クラウスが手を伸ばそうとした。
だが。
「お待ちください」
ルーアが鋭い声で制止した。
「……ん? どうした?」
「このワイン……おかしいですね」
ルーアはグラスを手に取らず、じっと液体を見つめた。
そして、給仕係の顔を覗き込む。
給仕係――変装したガミールは、冷や汗をタラリと流した。
(ば、馬鹿な……見ただけで毒だと見抜いたのか!? 無臭無味の特製毒だぞ!?)
「何がおかしいんだ?」
クラウスが尋ねる。
ルーアは冷静に解説を始めた。
「まず、表面張力です。通常のワインに比べて、液面の盛り上がりが0.2ミリほど低い。何らかの不純物が混入している証拠です」
「……は?」
「次に、香り。ヴィンテージワイン特有の熟成香の中に、微かにですが『苦扁桃(アーモンド)』のような香りが混じっています。これは、特定の薬品反応によるものです」
「……薬品?」
「そして何より」
ルーアは給仕係に向かって、冷ややかに言い放った。
「この給仕係の手袋。安物の綿製ですね。当家の給仕係には、最高級のシルクの手袋を支給しています。経費削減マニアの私が、そこをケチるわけがありません」
ルーアはニッコリと笑った。
「つまり、あなたは当家のスタッフではありませんね? ……不法侵入者さん?」
ガミールの顔色が蒼白になる。
「ひっ……!」
「誰だ、貴様」
クラウスの声が絶対零度に変わる。
彼は瞬時にルーアを背にかばい、給仕係を睨みつけた。
「……ち、ちくしょう! なんでバレるんだ! 完璧な変装だったのに!」
ガミールはトレイを放り投げ、懐から短剣を抜いた。
「こうなったら無理心中だ! 死ねぇ、ルーア!」
彼はやけくそになってルーアに襲いかかった。
会場から悲鳴が上がる。
しかし。
「……遅い」
ルーアは一歩も動かなかった。
動く必要がなかったからだ。
パキィン!!!
ガミールの体が、空中で静止した。
足先から首までが、一瞬にして分厚い氷に覆われたのだ。
「……私の目の前で、私の補佐官に刃を向けるとは」
クラウスが右手を突き出していた。
その手からは、恐ろしいほどの冷気が立ち上っている。
「身の程を知れ、ゴミ屑が」
ガミールは氷像となり、情けない顔で固まったまま、ゴトンと床に倒れた。
「……ふう。騒々しいですね」
ルーアは、床に落ちて割れたグラスの破片を拾い上げ、匂いを嗅いだ。
「やはり。『シレンシオ・ポイズン』……声を奪う毒薬ですね。これを飲ませて、私の口を封じるつもりでしたか」
彼女は呆れたように首を振った。
「黙らせたいなら、毒よりも『極上のスイーツ』を出した方が効果的ですよ。私は食べている時だけは静かですから」
「……ルーア、無事か?」
クラウスが心配そうに肩を抱く。
「ええ、問題ありません。計算通りです」
ルーアは氷漬けになった男の顔を覗き込んだ。
「あら? この顔……どこかで見覚えが」
彼女は男の眼鏡を指で弾いた。
「……元隣国財務大臣、ガミール伯爵ではありませんか」
会場がどよめく。
「えっ、隣国の大臣が暗殺未遂?」
「なんてことだ……」
「国を追われて逆恨みか? 見苦しいな」
ルーアは懐から計算機を取り出し、カチカチと叩いた。
「不法侵入、殺人未遂、器物破損(グラス代)、そして精神的苦痛……さらに、この騒ぎで舞踏会が中断したことによる『機会損失』」
彼女は冷徹な裁判官のように告げた。
「ガミール様。あなたの全財産を没収しても足りませんが、残りの人生を鉱山労働で支払っていただきます。計算上、完済まで約二百五十年かかりますが、頑張ってくださいね」
ガミール(氷像)の目から、一筋の涙が凍りついて流れた。
「……さて」
ルーアは手をパンと叩き、会場の空気を変えた。
「皆様、お見苦しいところをお見せしました! 余興はこれにて終了です! さあ、音楽を! 夜はまだこれからですわ!」
楽団が慌てて演奏を再開する。
貴族たちは、今の鮮やかな解決劇を見て、改めてルーアという存在に畏敬の念を抱いた。
「……すごいな、あの方」
「毒を見抜く目、暗殺者を前にしても動じない胆力……」
「まさに、ドラグーン公爵の隣に立つに相応しい『鉄の女』だ」
称賛の嵐の中、クラウスはルーアの耳元で囁いた。
「……君は本当に、退屈させない女だ」
「褒め言葉として受け取っておきます。……あ、閣下」
「なんだ?」
「助けていただき、ありがとうございました。……少しかっこよかったです」
ルーアは小声で付け足すと、照れ隠しのようにそっぽを向いた。
クラウスは目を見開き、それから破顔した。
「……そうか。なら、もう一曲踊ってくれるか? 今度は予算の話抜きで」
「……仕方ありませんね。特別サービスです」
二人は再び踊り出した。
足元には氷漬けの暗殺者が転がっているというシュールな光景だったが、二人の世界には誰も割り込めなかった。
こうして、舞踏会は大盛況(と逮捕者一名)のうちに幕を閉じた。
しかし、ルーアの「敵」は、外部だけではなかった。
翌日。
ついに「あの集団」が、公爵城にやってくる。
バーンスタイン公爵家の両親と、ルーアを狙う大量の「お見合い写真」を持った親戚一同である。
「ルーアちゃん! 結婚おめでとう!」
まだ結婚していないのに、気の早い祝福と共に現れた彼らが、新たなカオスを巻き起こすことになる。
「は、はいぃ! 喜んで契約させていただきます!」
舞踏会の会場の隅で、南方の宝石商がハンカチで額の汗を拭いながら、契約書にサインをした。
ルーアの交渉術は鮮やかだった。
相手の購買意欲を煽り、希少性をアピールし、逃げ場をなくしてから、笑顔で高額な条件を突きつける。
宝石商が去った後、ルーアは契約書を満足げに弾いた。
「よし。これで来期の繊維部門の黒字は確定ね。ボーナスの原資も確保できたわ」
「……君は、ここでも仕事か」
背後から、呆れたような、それでいて少し拗ねたような声がした。
クラウスだ。
彼は手に持ったグラスを揺らしながら、不満げにルーアを見下ろしている。
「せっかくの舞踏会だぞ。少しは余韻に浸るとか、私との時間を楽しむとかできないのか?」
「余韻で飯は食えません。それに、今の契約で得た資金は、閣下が欲しがっていた新型の魔導暖房設備の導入費に充てられますよ?」
「……ぐっ。それはありがたいが」
クラウスは言葉に詰まった。
論理では勝てない。しかし、感情が納得していない。
周囲の貴族たちは、楽しそうに談笑したり、チークダンスを踊ったりしている。
彼も、ルーアともっと踊りたかったのだ。
「……もう一曲だ」
クラウスはグラスを置き、強引にルーアの手を取った。
「え? またですか? さっき踊ったばかりですが」
「さっきのは『見せつけ』のためのダンスだ。今度は私のためのダンスだ」
「意味がわかりません。カロリーの無駄遣いでは?」
「黙ってついてこい。……これは業務命令だ」
クラウスは有無を言わせず、ルーアをホールの中央へと連れ出した。
音楽がスローな曲調に変わる。
二人は再び体を密着させ、ゆっくりとステップを踏み始めた。
「……はぁ。仕方ありませんね」
ルーアは小さくため息をついたが、その表情は満更でもなさそうだ。
「では、有意義な時間にするために、来年度の予算配分について話し合いましょうか」
「……ダンス中に予算の話か?」
「はい。オフィスで話すより、リラックスした状態の方が柔軟なアイデアが出ますから」
ルーアはクラウスの肩に手を置き、真剣な眼差しで見上げた。
周囲から見れば、愛の言葉を囁き合っているようにしか見えない距離だ。
「まず、公共事業費ですが、道路整備に15%増額を提案します。物流の効率化が急務です」
「……わかった。だが、治安維持費も増やしたい。最近、君のファンが増えすぎて警備が大変なのだ」
「ファン? ストーカー予備軍のことですか? なら排除システムを構築しましょう。……それと、教育予算ですが」
二人は優雅にターンを決める。
ドレスの裾が美しく翻る。
「美しい……」
「ええ、美しい数字です。教育への投資は十年後の税収増に直結しますから」
「違う、君のことだ」
「聞いてませんね。……で、魔法研究所の予算は削減します。成果が出ていないプロジェクトが多すぎます」
「待ってくれ。あそこでは今、『ルーアの疲れを癒すマッサージチェア』を開発させているのだ」
「……なんですって?」
ルーアの目が光った。
「即時採用。予算倍増で進めてください」
「現金なやつだ……」
周囲の貴族たちは、二人の熱っぽい(?)会話を聞いて、うっとりとしていた。
「まあ、見て。あんなに見つめ合って……」
「きっと、『君なしでは生きられない』とか囁いているのよ」
「情熱的ねぇ……」
実際は「予算倍増」とか「税収増」とか言っているだけなのだが、二人の美貌と雰囲気があまりに完璧すぎて、誰も真実に気づかない。
曲がクライマックスに差し掛かる。
クラウスはルーアの腰をぐっと引き寄せ、耳元で囁いた。
「……ルーア。予算の話はもういい」
「え? まだ衛生管理費の話が……」
「ただ、私に身を委ねろ。……君を感じたい」
甘い声。低い吐息。
ルーアの心臓が、予算案とは関係ない理由で跳ね上がった。
(……くっ、またこの攻撃)
この公爵、無自覚にフェロモンを撒き散らすからタチが悪い。
「……わかりましたよ。少しだけ、静かにしてます」
ルーアは観念して、クラウスの胸に額を預けた。
トクトクと、彼の心音が聞こえる。
それは意外にも速く、彼もまた緊張しているのだと伝わってきた。
(……悪くないわね。こういうのも、たまには)
ルーアがそう思いかけた、その時だった。
曲が終わり、二人が離れると、一人の給仕係が恭しく近づいてきた。
「公爵閣下、ルーア様。喉が渇いたでしょう。当家特製のヴィンテージワインでございます」
給仕係は深くお辞儀をして、銀のトレイを差し出した。
そこには、ルビーのように赤い液体が入った二つのグラスが載っている。
「……気が利くな」
クラウスが手を伸ばそうとした。
だが。
「お待ちください」
ルーアが鋭い声で制止した。
「……ん? どうした?」
「このワイン……おかしいですね」
ルーアはグラスを手に取らず、じっと液体を見つめた。
そして、給仕係の顔を覗き込む。
給仕係――変装したガミールは、冷や汗をタラリと流した。
(ば、馬鹿な……見ただけで毒だと見抜いたのか!? 無臭無味の特製毒だぞ!?)
「何がおかしいんだ?」
クラウスが尋ねる。
ルーアは冷静に解説を始めた。
「まず、表面張力です。通常のワインに比べて、液面の盛り上がりが0.2ミリほど低い。何らかの不純物が混入している証拠です」
「……は?」
「次に、香り。ヴィンテージワイン特有の熟成香の中に、微かにですが『苦扁桃(アーモンド)』のような香りが混じっています。これは、特定の薬品反応によるものです」
「……薬品?」
「そして何より」
ルーアは給仕係に向かって、冷ややかに言い放った。
「この給仕係の手袋。安物の綿製ですね。当家の給仕係には、最高級のシルクの手袋を支給しています。経費削減マニアの私が、そこをケチるわけがありません」
ルーアはニッコリと笑った。
「つまり、あなたは当家のスタッフではありませんね? ……不法侵入者さん?」
ガミールの顔色が蒼白になる。
「ひっ……!」
「誰だ、貴様」
クラウスの声が絶対零度に変わる。
彼は瞬時にルーアを背にかばい、給仕係を睨みつけた。
「……ち、ちくしょう! なんでバレるんだ! 完璧な変装だったのに!」
ガミールはトレイを放り投げ、懐から短剣を抜いた。
「こうなったら無理心中だ! 死ねぇ、ルーア!」
彼はやけくそになってルーアに襲いかかった。
会場から悲鳴が上がる。
しかし。
「……遅い」
ルーアは一歩も動かなかった。
動く必要がなかったからだ。
パキィン!!!
ガミールの体が、空中で静止した。
足先から首までが、一瞬にして分厚い氷に覆われたのだ。
「……私の目の前で、私の補佐官に刃を向けるとは」
クラウスが右手を突き出していた。
その手からは、恐ろしいほどの冷気が立ち上っている。
「身の程を知れ、ゴミ屑が」
ガミールは氷像となり、情けない顔で固まったまま、ゴトンと床に倒れた。
「……ふう。騒々しいですね」
ルーアは、床に落ちて割れたグラスの破片を拾い上げ、匂いを嗅いだ。
「やはり。『シレンシオ・ポイズン』……声を奪う毒薬ですね。これを飲ませて、私の口を封じるつもりでしたか」
彼女は呆れたように首を振った。
「黙らせたいなら、毒よりも『極上のスイーツ』を出した方が効果的ですよ。私は食べている時だけは静かですから」
「……ルーア、無事か?」
クラウスが心配そうに肩を抱く。
「ええ、問題ありません。計算通りです」
ルーアは氷漬けになった男の顔を覗き込んだ。
「あら? この顔……どこかで見覚えが」
彼女は男の眼鏡を指で弾いた。
「……元隣国財務大臣、ガミール伯爵ではありませんか」
会場がどよめく。
「えっ、隣国の大臣が暗殺未遂?」
「なんてことだ……」
「国を追われて逆恨みか? 見苦しいな」
ルーアは懐から計算機を取り出し、カチカチと叩いた。
「不法侵入、殺人未遂、器物破損(グラス代)、そして精神的苦痛……さらに、この騒ぎで舞踏会が中断したことによる『機会損失』」
彼女は冷徹な裁判官のように告げた。
「ガミール様。あなたの全財産を没収しても足りませんが、残りの人生を鉱山労働で支払っていただきます。計算上、完済まで約二百五十年かかりますが、頑張ってくださいね」
ガミール(氷像)の目から、一筋の涙が凍りついて流れた。
「……さて」
ルーアは手をパンと叩き、会場の空気を変えた。
「皆様、お見苦しいところをお見せしました! 余興はこれにて終了です! さあ、音楽を! 夜はまだこれからですわ!」
楽団が慌てて演奏を再開する。
貴族たちは、今の鮮やかな解決劇を見て、改めてルーアという存在に畏敬の念を抱いた。
「……すごいな、あの方」
「毒を見抜く目、暗殺者を前にしても動じない胆力……」
「まさに、ドラグーン公爵の隣に立つに相応しい『鉄の女』だ」
称賛の嵐の中、クラウスはルーアの耳元で囁いた。
「……君は本当に、退屈させない女だ」
「褒め言葉として受け取っておきます。……あ、閣下」
「なんだ?」
「助けていただき、ありがとうございました。……少しかっこよかったです」
ルーアは小声で付け足すと、照れ隠しのようにそっぽを向いた。
クラウスは目を見開き、それから破顔した。
「……そうか。なら、もう一曲踊ってくれるか? 今度は予算の話抜きで」
「……仕方ありませんね。特別サービスです」
二人は再び踊り出した。
足元には氷漬けの暗殺者が転がっているというシュールな光景だったが、二人の世界には誰も割り込めなかった。
こうして、舞踏会は大盛況(と逮捕者一名)のうちに幕を閉じた。
しかし、ルーアの「敵」は、外部だけではなかった。
翌日。
ついに「あの集団」が、公爵城にやってくる。
バーンスタイン公爵家の両親と、ルーアを狙う大量の「お見合い写真」を持った親戚一同である。
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