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「……はぁ。ようやく、私のこの『殿下の異常行動記録』も最終ページですわ」
王立学院の卒業式を間近に控えたある日。
ミリーは、ボロボロになったメモ帳の最後の余白に、万感の思いを込めてペンを走らせていました。
「ミリー様、何をそんなに熱心に書いていらっしゃいますの? また私と殿下の惚気話の採取かしら?」
「惚気なんて生温いものではありませんわよ、ラブリー様。これは後世に伝えるべき『愛という名の怪奇現象』の報告書ですわ」
ミリーが呆れ顔で顔を上げると、そこには以前にも増してキラキラとしたオーラを放つラブリーの姿がありました。
彼女の指には、もはや質量保存の法則を無視しているかのような、巨大な魔導宝石が輝いています。
「あら、失礼ね。私と殿下は、今や世界で最も『安定した』カップルとして、国民の模範になっておりますのよ?」
「安定……。ええ、殿下がラブリー様の周囲一キロメートル以内を永続的な聖域に指定し、許可なき者の侵入を物理的に遮断しているおかげで、治安だけは異常に安定していますわね」
「ふふふ。おかげで私、最近は自分の足で歩くことすら忘れてしまいそうですわ。移動はすべて、殿下が用意した『自動追尾型・豪華座椅子』ですもの」
ラブリーが扇で口元を隠して笑うと、背後の影からヌッとレオが姿を現しました。
「……よぉ。その椅子、俺が後ろで押してるんだけどな。殿下に『ラブリーの乗り心地を損なうな』って、ミリ単位の振動すら許されない特殊訓練を毎日させられてるんだぜ?」
「あらレオ様、お疲れ様ですわ。でも、おかげで私の腰痛も完治いたしましたわよ?」
「そりゃよかったな。……おかげで俺の筋肉は、もう人間を辞める一歩手前まで鍛え上がっちまったよ」
レオが溜息をつくと、廊下の先から、もはや歩くたびに祝福の鐘の音が鳴り響く(魔法で設定済み)クロードが歩いてきました。
「ラブリー! 私の愛しい、唯一無二の王太子妃! 三十分も離れていたせいで、私の心臓の鼓動が寂しさで不整脈を起こしそうだったよ!」
「殿下! いけませんわ、お体に障ります! さあ、すぐに私の『愛の波動』を注入して差し上げますわ!」
ラブリーがクロードの腕の中に飛び込むと、二人の周囲にはピンク色のハート型の火花がバチバチと飛び散りました。
もはや物理現象として「愛」が可視化されているのです。
「……。……。……ねえレオ様、あれ、一応公共の場ですわよね?」
「……諦めろ、ミリー。あそこに立ち入れば、俺たちの網膜が焼き切れる。……殿下、今日の予定は?」
クロードはラブリーを抱き締めたまま、至福の表情で答えました。
「ああ。今日はラブリーのために、隣国の死火山を一つ買い取って、そこを巨大な『チョコフォンデュの泉』に改造する工事の視察に行く予定だ」
「火山をチョコに!? 殿下、それはもう環境破壊の域を超えていますわ!」
「何を言うんだ、ミリー嬢。ラブリーが『温かいチョコを心ゆくまで浴びてみたい』と一言呟いたんだ。ならば、地球のエネルギーを使ってそれを叶えるのが、婚約者としての責務だろう?」
「……言ってませんわよ、殿下! 私はただ『チョコをお腹いっぱい食べたい』と言っただけですわ!」
「ははは、謙遜しなくていいよ、ラブリー。君の『お腹いっぱい』は、私にとっては『世界をチョコで満たせ』という意味に変換されるからね」
「……ダメだわ。このお方の翻訳機、一生直りそうにありませんわ」
ラブリーは呆れつつも、その表情は幸せそうに綻んでいました。
最初は嫌われようとして始めた婚約破棄作戦。
しかし、結果として辿り着いたのは、自分の我儘をすべて「神託」として受け止めてくれる、狂気的に一途な男の腕の中でした。
「……ねえ、殿下。私、悪役令嬢になれなくて、少しだけ残念に思っていた時期もありましたのよ」
「悪役? そんなものに君がなる必要はない。……君が悪を成したいと言うなら、私がその先回りをし、世界中の悪をすべて『君の功績』に変えてしまおう」
「……それ、もはや私が何をしても聖女になるってことですわね?」
「その通りだ。君が毒を撒けば薬草が芽吹き、君が人を罵ればそれは祝福の歌となる。……それが、私の愛という名の魔法の力だよ」
「……ふふっ。重いですわ。本当に、胃もたれするほど重いですわ、殿下」
ラブリーは、クロードの胸に顔を埋め、静かに目を閉じました。
重い愛。逃げ場のない執着。
けれど、その檻は世界で一番温かく、心地よい。
「愛は重いくらいが丁度いい……。私、ようやくそう思えるようになりましたわ」
「……ああ。これからも、その重みで君の人生を完璧に固定して差し上げよう。二度と、私の側から離れられないようにな」
クロードが甘く囁き、二人は誰にも邪魔できない、二人だけの完結した世界の中で、静かに唇を重ねました。
「……終わりましたわね、レオ様。……私のメモ帳、最後の一行。……『以後、末長く爆発しろ』」
ミリーがパタンとメモ帳を閉じると、王宮の空には、殿下が魔法で打ち上げた「ラブリーの笑顔の形をした永続的なオーロラ」が美しく輝きました。
悪役はどこにもいない。
ただ、愛が重すぎる二人が、世界を自分たちの色に染め替えながら、永遠に幸せに暮らしていく。
そんな、おかしな、けれど最高に甘い物語は、ここで一旦の幕を閉じます。
……もちろん、殿下の「さらなる過保護」という名の続編は、一生終わることはないのでしょうけれど。
「「「お幸せにーっ!!(物理的な光に耐えながら)」」」
国民たちの祝福(という名の悲鳴)を背に、二人の黄金色の未来は、どこまでも重く、どこまでも眩しく続いていくのでした。
王立学院の卒業式を間近に控えたある日。
ミリーは、ボロボロになったメモ帳の最後の余白に、万感の思いを込めてペンを走らせていました。
「ミリー様、何をそんなに熱心に書いていらっしゃいますの? また私と殿下の惚気話の採取かしら?」
「惚気なんて生温いものではありませんわよ、ラブリー様。これは後世に伝えるべき『愛という名の怪奇現象』の報告書ですわ」
ミリーが呆れ顔で顔を上げると、そこには以前にも増してキラキラとしたオーラを放つラブリーの姿がありました。
彼女の指には、もはや質量保存の法則を無視しているかのような、巨大な魔導宝石が輝いています。
「あら、失礼ね。私と殿下は、今や世界で最も『安定した』カップルとして、国民の模範になっておりますのよ?」
「安定……。ええ、殿下がラブリー様の周囲一キロメートル以内を永続的な聖域に指定し、許可なき者の侵入を物理的に遮断しているおかげで、治安だけは異常に安定していますわね」
「ふふふ。おかげで私、最近は自分の足で歩くことすら忘れてしまいそうですわ。移動はすべて、殿下が用意した『自動追尾型・豪華座椅子』ですもの」
ラブリーが扇で口元を隠して笑うと、背後の影からヌッとレオが姿を現しました。
「……よぉ。その椅子、俺が後ろで押してるんだけどな。殿下に『ラブリーの乗り心地を損なうな』って、ミリ単位の振動すら許されない特殊訓練を毎日させられてるんだぜ?」
「あらレオ様、お疲れ様ですわ。でも、おかげで私の腰痛も完治いたしましたわよ?」
「そりゃよかったな。……おかげで俺の筋肉は、もう人間を辞める一歩手前まで鍛え上がっちまったよ」
レオが溜息をつくと、廊下の先から、もはや歩くたびに祝福の鐘の音が鳴り響く(魔法で設定済み)クロードが歩いてきました。
「ラブリー! 私の愛しい、唯一無二の王太子妃! 三十分も離れていたせいで、私の心臓の鼓動が寂しさで不整脈を起こしそうだったよ!」
「殿下! いけませんわ、お体に障ります! さあ、すぐに私の『愛の波動』を注入して差し上げますわ!」
ラブリーがクロードの腕の中に飛び込むと、二人の周囲にはピンク色のハート型の火花がバチバチと飛び散りました。
もはや物理現象として「愛」が可視化されているのです。
「……。……。……ねえレオ様、あれ、一応公共の場ですわよね?」
「……諦めろ、ミリー。あそこに立ち入れば、俺たちの網膜が焼き切れる。……殿下、今日の予定は?」
クロードはラブリーを抱き締めたまま、至福の表情で答えました。
「ああ。今日はラブリーのために、隣国の死火山を一つ買い取って、そこを巨大な『チョコフォンデュの泉』に改造する工事の視察に行く予定だ」
「火山をチョコに!? 殿下、それはもう環境破壊の域を超えていますわ!」
「何を言うんだ、ミリー嬢。ラブリーが『温かいチョコを心ゆくまで浴びてみたい』と一言呟いたんだ。ならば、地球のエネルギーを使ってそれを叶えるのが、婚約者としての責務だろう?」
「……言ってませんわよ、殿下! 私はただ『チョコをお腹いっぱい食べたい』と言っただけですわ!」
「ははは、謙遜しなくていいよ、ラブリー。君の『お腹いっぱい』は、私にとっては『世界をチョコで満たせ』という意味に変換されるからね」
「……ダメだわ。このお方の翻訳機、一生直りそうにありませんわ」
ラブリーは呆れつつも、その表情は幸せそうに綻んでいました。
最初は嫌われようとして始めた婚約破棄作戦。
しかし、結果として辿り着いたのは、自分の我儘をすべて「神託」として受け止めてくれる、狂気的に一途な男の腕の中でした。
「……ねえ、殿下。私、悪役令嬢になれなくて、少しだけ残念に思っていた時期もありましたのよ」
「悪役? そんなものに君がなる必要はない。……君が悪を成したいと言うなら、私がその先回りをし、世界中の悪をすべて『君の功績』に変えてしまおう」
「……それ、もはや私が何をしても聖女になるってことですわね?」
「その通りだ。君が毒を撒けば薬草が芽吹き、君が人を罵ればそれは祝福の歌となる。……それが、私の愛という名の魔法の力だよ」
「……ふふっ。重いですわ。本当に、胃もたれするほど重いですわ、殿下」
ラブリーは、クロードの胸に顔を埋め、静かに目を閉じました。
重い愛。逃げ場のない執着。
けれど、その檻は世界で一番温かく、心地よい。
「愛は重いくらいが丁度いい……。私、ようやくそう思えるようになりましたわ」
「……ああ。これからも、その重みで君の人生を完璧に固定して差し上げよう。二度と、私の側から離れられないようにな」
クロードが甘く囁き、二人は誰にも邪魔できない、二人だけの完結した世界の中で、静かに唇を重ねました。
「……終わりましたわね、レオ様。……私のメモ帳、最後の一行。……『以後、末長く爆発しろ』」
ミリーがパタンとメモ帳を閉じると、王宮の空には、殿下が魔法で打ち上げた「ラブリーの笑顔の形をした永続的なオーロラ」が美しく輝きました。
悪役はどこにもいない。
ただ、愛が重すぎる二人が、世界を自分たちの色に染め替えながら、永遠に幸せに暮らしていく。
そんな、おかしな、けれど最高に甘い物語は、ここで一旦の幕を閉じます。
……もちろん、殿下の「さらなる過保護」という名の続編は、一生終わることはないのでしょうけれど。
「「「お幸せにーっ!!(物理的な光に耐えながら)」」」
国民たちの祝福(という名の悲鳴)を背に、二人の黄金色の未来は、どこまでも重く、どこまでも眩しく続いていくのでした。
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