殿下、私以外の誰かを愛してください。

ハチワレ

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かつて、生クリームが舞い、婚約破棄が宣言されたあの因縁の王城大広間。


しかし今日、この場所は当時とは比較にならないほどの「狂気」……もとい「熱狂」に包まれていました。


壁一面にはラブリーの肖像画が隙間なく飾られ、シャンデリアのクリスタルはすべて彼女の瞳の色に合わせて特注されたエメラルドに差し替えられています。


「……殿下。もう一度だけ言わせてくださいませ。……やりすぎですわ」


ラブリーは、重さ数十キロはあると思われる、ダイヤモンドと真珠をこれでもかと縫い付けた「究極の再婚衣装」に身を包み、隣のクロードを睨みつけました。


「やりすぎ? とんでもない。これでも私の愛の貯蔵量の、わずか数パーセントを具現化したに過ぎないよ、ラブリー」


クロードは、眩いばかりの純白の礼服を纏い、もはや後光が差しているような自信に満ちた笑みを浮かべています。


「さあ、ミリー嬢。準備はいいかな? 歴史の目撃者としての、君の役割を期待しているよ」


「……はいはい。もう何でもありですわね。皆様、注目してくださいましー。世界で一番お節介な王子様が、何か仰るそうですわよ」


司会進行を任されたミリーが、疲れ切った声でマイク(魔導式)に向かって告げました。


会場に集まった貴族たちは、一ヶ月前のパレード以来、すでに殿下の「ラブリー教」による洗脳……もとい、多額の寄付と所得倍増によって、完全に彼女を聖女として受け入れる態勢が整っていました。


クロードは一歩前へ出ると、会場全体に響き渡る声で宣言しました。


「国民諸君! そして親愛なる貴族諸君! 一ヶ月前、私はこの場所で、ラブリー・ファン・デリシャスとの婚約を解消した! それは、彼女のあまりに高潔な魂を、私の卑小な独占欲から解き放つためであった!」


「(……卑小な独占欲、という自覚はあったんですのね……)」


ラブリーのツッコミを無視し、クロードはドラマチックに両手を広げました。


「しかし、私は気づいたのだ! 彼女を自由に放つということは、世界に太陽を二つ作るのと同じこと。その光はあまりに強く、並の男では焼き尽くされてしまう! ……彼女のその『重すぎる慈愛』を正面から受け止め、共に歩めるのは、私という名の盾しかいないということに!」


「「「おおおおおっ!!!」」」


会場から地鳴りのような歓声が上がりました。
もはや誰も、一ヶ月前の「生クリーム事件」を悪事だとは思っていません。
あれは「聖なるパックの儀式」として、すでに教科書に載る勢いなのです。


「よって、私は今日、ここに宣言する! ラブリー・ファン・デリシャスと、再婚約……否、未来永劫の『共犯関係』を結ぶことを! 彼女は再び、私の、そしてこの国の、唯一無二の王太子妃となるのだ!」


クロードが跪き、ラブリーの手を取って、かつての婚約指輪の十倍はあろうかという巨大な宝石の指輪を嵌めました。


「……殿下。これ、重すぎて指が折れそうですわ」


「大丈夫だ。指を支えるための目に見えない魔導浮遊装置を仕込んでおいたからね」


「……そういう問題ではありませんわ。……でも、分かりましたわ。……私、もう逃げませんもの」


ラブリーは、深いため息とともに、最高の「悪女(を演じきれなかった聖女)」の微笑みを浮かべました。


「皆様、お聞きになって! 私はこの、世界で一番話が通じない、愛の重すぎる殿下を引き受けることにいたしましたわ! 私がこのお方の隣にいなければ、この国の物理法則がいつ書き換えられるか分かったものではありませんもの!」


「「「ラブリー様ーっ! 王国の救世主ーっ!」」」
「「「バカップル万歳ーっ!」」」


会場は、大混乱を通り越して、一種のトランス状態のような喝采に包まれました。
レオが隅で「やれやれ、これでお守りも一生の仕事になったな」と笑い、ミリーは「第27話:再婚約成立。混沌の果てのハッピーエンド」と、メモ帳の最終ページの一歩手前に、万感の思いで書き込みました。


「ラブリー。……幸せに、するなんて言わないよ」


クロードが彼女の耳元で囁きました。


「……君が『幸せすぎて苦しい』と悲鳴を上げるまで、私は君を愛し、守り、甘やかし続けるからね」


「……望むところですわ。……私の我儘で、殿下を一生振り回して差し上げますわよ!」


二人の熱烈な口づけ……ではなく、殿下による「強引な抱擁」と、ラブリーの「負けじと重い抱擁」が交わされた瞬間、会場には本物の金粉と、バラの花びらが吹雪のように降り注ぎました。


かつての婚約破棄から、世界で最も「重い」再婚約へ。
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