可愛げのない女とは婚約破棄?では、遠慮なく可愛くない反撃を。

ハチワレ

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馬車に揺られること数時間、私たちは隣国・グランヴィル公爵領の広大な敷地へと足を踏み入れた。
目の前に現れたのは、歴史と伝統を感じさせる壮麗な白亜の城……ではなく、あまりにも装飾が過剰で、維持費が国家予算を圧迫していそうな巨大な邸宅だった。


私は馬車を降りるなり、手帳を開いて邸宅の外観を鋭く睨みつけた。


「……閣下。一つ伺ってもよろしいかしら?」


「なんだい、ミリアーナ。我が愛しの毒舌秘書よ。この邸宅の美しさに言葉を失ったかな?」


「いいえ。この邸宅の『無駄な維持費』を想像して、胃が痛くなっただけですわ。見てください、あの屋根に鎮座している金色のガーゴイル。あのような複雑な形状の像は、鳥の糞が溜まりやすく、清掃コストが通常の三倍はかかります。今すぐ撤去して、シンプルな雨どいに変更することを強く進言いたします」


「……! いきなり建物の構造から否定してくれるのか! 素晴らしい、その『効率の鬼』っぷり!」


カシアン閣下は一人で悶えているが、私は構わず正門へと進んだ。
そこには、閣下の帰還を待ちわびていたであろう数十人の使用人たちが、一列に並んで深々と頭を下げていた。


「お帰りなさいませ、閣下!」


一糸乱れぬ挨拶。
普通なら「教育が行き届いている」と感心するところだろうが、私の目は誤魔化せない。


「……。閣下、早速ですが初仕事に取り掛からせていただきます。……そこの、右から三番目のメイド」


「は、はい!?」


名指しされた若いメイドが、びくりと肩を揺らした。


「あなたのエプロン、右のポケットに甘菓子(キャンディ)の包み紙が入っていますわね。待機中に間食をしていた証拠です。それから、そちらの執事。靴の磨き方が甘い。つま先の光沢が周囲の石畳と調和していません。お客様を迎える準備としては二流以下ですわ」


「な、な……っ。何だ、この無礼な女は!」


年配の執事長が顔を真っ赤にして前に出た。
しかし、カシアン閣下がそれを手で制した。


「控えろ。彼女は今日から私の専属秘書であり、この屋敷の全権を握るミリアーナ・オーブリー嬢だ。彼女の言葉は、私の言葉だと思え」


「で、ですが閣下! このような小娘に何が分かると……」


「『分かると……』ではありませんわよ、執事長。私はオーブリー公爵邸の管理を十歳から任されておりました。この規模の屋敷なら、使用人の数は現在の三分の二で十分に回せます。つまり、残りの三分の一は、閣下の慈悲に甘えて給料を泥棒している『装飾品』と同じですわ」


私の冷徹な宣告に、並んでいた使用人たちの間に戦慄が走った。


「……さて。閣下、まずは帳簿を見せていただきます。それから、各部屋の清掃チェックリストと、食材の仕入れルートの明細。これらを確認するまで、私は一歩も動きません。もちろん、閣下への『生活態度改善命令』も同時並行で行いますわよ」


「いいぞ、やってくれ! まずはどこから始める?」


「決まっていますわ。あなたのその、無駄に広い執務室です。書類が山積みになっているのが外からでも想像できます。……行きましょう。ぐずぐずしている時間は、一秒ごとに金貨をドブに捨てているのと同じですわ」


私はカシアン閣下を先導するように屋敷の中へと突き進んだ。
執事長たちが後ろで「あ、あの女、魔女じゃないのか……」と囁いているのが聞こえたが、私はふっと鼻で笑った。


魔女? 心外ですわね。
私はただの、整理整頓が大好きな「元」公役令嬢です。


執務室の重厚な扉を開けると、案の定、そこはカオスの極みだった。
机の上には読みかけの本と書類が混ざり合い、ソファには脱ぎ捨てられた上着が放置されている。


「……。閣下、三秒だけ時間をあげます。この惨状に対する、納得のいく言い訳をどうぞ」


「あ、いや、これは……忙しくて手が回らなくて……」


「不合格です。忙しいのは能力不足の言い訳になりません。……いいですか、整理整頓ができない人間は、頭の中も散らかっています。頭の中が散らかっている人間に、領民の命を預かる資格はありませんわ。今すぐその上着を畳みなさい! でなければ、私が窓から放り捨てます!」


「……! 放り捨ててくれるのか! ああ、その冷たい眼差し、たまらない……!」


「喜んでいないで動く! ……それから執事長! あなたも見ていないで、今すぐこの部屋のホコリを検知する道具を持ってきなさい。私の指先が黒くなったら、あなたの解雇通知書をその場で作成しますわよ」


屋敷中に、私の叱咤激励(という名の罵倒)が響き渡った。
カシアン閣下の屋敷は、今日から私の「戦場」になった。


私は山積みの書類の一番上を手に取り、最初の一行を読み終える前に、赤ペンで大きくバツ印を書いた。


「……お粗末。閣下、この予算案を書いた者を今すぐここに呼びなさい。私が一時間かけて、算数から教え直してあげますわ」


「……ふふ、ミリアーナ。君がこの屋敷に来てくれて、本当によかった。……ああ、叱られるって、なんて豊かな時間なんだ……」


変態的な喜びを隠さない主人と、恐怖に震える使用人たち。
そして、冷徹にペンを振るう私。


グランヴィル公爵邸の「革命」は、こうして幕を開けたのである。
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