可愛げのない女とは婚約破棄?では、遠慮なく可愛くない反撃を。

ハチワレ

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市場の喧騒から少し外れた、人通りの少ない路地裏。
そこを塞ぐようにして、黒いマントを羽織った五人の男たちが立ちはだかった。
彼らの腰には、王家直属の隠密部隊であることを示す、隠し紋章入りの剣が下げられている。


「……ミリアーナ・オーブリー様。大人しく王都へお戻りください。殿下は、貴女のこれまでの無礼を水に流し、温情をもって迎えるとおっしゃっております」


リーダー格の男が、低く威圧的な声で告げた。
私は、カシアン閣下が担いでいるジャガイモの袋から、芽が出かかっている一つを手に取り、それを男に向けて突きつけた。


「……まず、第一に。その『水に流す』という表現。加害者であるあちら側が使うのは、言語道断ですわ。日本語……いえ、この国の公用語を基礎からやり直しなさい。語彙力の欠如は、知性の欠如と同義ですわよ」


「な、何だと……? 我々は殿下の命で……」


「第二に、その立ち位置。路地の出口を完全に塞げていませんわ。左端のあなた、足の角度が外に開きすぎています。そこからなら、私はスカートを捲り上げることなく優雅に脱出可能です。包囲網の形成すら満足にできないなんて、税金の無駄遣いにもほどがありますわ」


私は一歩、男たちに歩み寄った。
刺客たちは、なぜか気圧されたように一歩後退する。


「第三に……。そこのあなた。剣の鞘に、わずかな錆が見えますわね」


「……! な、なぜそれを……」


「手入れを怠った武器は、いざという時に〇・一秒の抜刀の遅れを招きます。その〇・一秒が、あなたの命を散らす原因になると理解していますの? 命を懸けている割には、美学が錆びついていますわね。不潔です。今すぐその剣を捨てて、研ぎ師の弟子にでも入りなさい」


「き、貴様……! 女だと思って黙って聞いていれば……!」


男が激昂し、剣の柄に手をかけた。
その瞬間、私の背後に控えていたカシアン閣下が、ジャガイモの袋をドサリと地面に置いた。
彼の周囲の空気が、一瞬にして絶対零度まで凍りつく。


「……おい。私の秘書が、親切に君たちの欠点を指摘してくれているんだ。最後まで黙って拝聴するのが、教育を受ける側の礼儀ではないのか?」


「ぐっ……グランヴィル公爵……!」


「彼女の言葉は鋭いだろう? だが、真実だ。……ミリアーナ。こいつら、どうする? 私が今ここで、文字通り『ゴミの分類』をしてあげてもいいが」


カシアン閣下が剣を抜こうとするのを、私は扇を広げて制した。


「閣下、お待ちになって。暴力は最も非効率的な解決手段ですわ。返り血で私のジャガイモが汚れたら、あなたの今夜の夕食は石ころになります。……いいですか、あなた方。王都へ戻って、あの馬鹿……いえ、殿下にこう伝えなさい」


私は手帳を一枚破り、そこに殴り書きをしてリーダーの男の胸元に叩きつけた。


「『ネクタイも結べず、自分の鼻毛も管理できない男に、私の人生を管理する資格はありません。戻ってきてほしければ、まずは王宮の全予算案をミスなく書き直し、私の合格点を得てから、三歩歩いてワンと鳴きながらお越しください』……と。あ、あとこれ。お土産ですわ」


私は、先ほど手に持っていた「芽の出たジャガイモ」を男の口に無理やり押し込んだ。


「……毒ではありませんが、ソラニンが含まれていますわ。食べれば少しお腹を壊すでしょう。今のあなた方の腐った根性を叩き直すには、ちょうど良いデトックスになりますわね。さあ、一秒以内に私の視界から消えなさい。でなければ、あなた方の実家の住所と、過去三年間の不適切な交友関係を、王都の広報板に掲示しますわよ?」


「な、ななな……! なぜそれを……!」


「私は秘書ですわよ? オーブリー家にいた頃、王宮の全職員の身辺調査を済ませていないとでも思いましたの? ……三、二……」


カウントダウンが終わる前に、五人の隠密たちは、脱兎のごとく路地裏から逃げ去っていった。
一人は、恐怖のあまりジャガイモを飲み込みそうになって咽せていたが。


「……ふぅ。ゴミ捨て完了ですわね。閣下、お待たせしました」


「……ミリアーナ。君は、君という存在は……!」


振り返ると、カシアン閣下がジャガイモの袋を抱きしめたまま、膝をついて震えていた。


「『三歩歩いてワンと鳴け』……! なんという、なんという高潔な命令……! 君にそう言われるなら、私は今すぐこの場でグランヴィル公爵の名を捨てて、君の忠実な番犬になっても構わない……!」


「……。閣下、その『番犬になりたい』という願望は、自宅の庭だけでやってください。市場の入り口でやられると、私の社会的信用がマイナスに振り切れます。ほら、立ちなさい。ジャガイモが重いなら、私が代わりにあなたの頭を担いで帰りましょうか?」


「頭を……! 物理的に私を運んでくれるのか! ああ、幸せだ!」


「……。……。早く歩きなさい。今夜は、このジャガイモで『最も効率的で栄養価の高い』スープを作りますから。残さず食べないと、明日の朝の説教は三時間に延長しますわよ」


「三時間の説教! 至福! 急ごう、ミリアーナ! 一秒でも早く、君に叱られる時間が欲しい!」


私は、意気揚々とジャガイモを担いで歩き出した閣下の背中を見送りながら、深いため息をついた。
王都の追手。
彼らが戻れば、ウィルフレッド様はきっと逆上するだろう。
けれど、そんなことはどうでもいい。


今の私には、この「扱いにくいけれど、私の言葉を全力で受け止める変態」を更生させるという、国家運営よりも困難な任務があるのだから。


私は手帳に「刺客:教育完了。再発防止策として王宮のセキュリティへの皮肉を準備」と書き込み、夕暮れの街を歩き出した。
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