可愛げのない女とは婚約破棄?では、遠慮なく可愛くない反撃を。

八雲

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「……皆様! 聞いてくださいませ! このミリアーナ様こそ、恐ろしい魔女ですわ! 彼女は冷徹な言葉で人の心を操り、私と殿下の仲を引き裂こうとしているのです!」


王都の噴水広場。
そこには、ボロボロの平民服をまとい、髪を振り乱したルルアさんの姿があった。
どうやら舞踏会での大失敗により社交界から干され、なりふり構っていられなくなったらしい。


私は、視察の帰りに立ち寄ったその広場で、冷ややかに彼女を見下ろした。
カシアン閣下は、私の隣で「魔女……! ついに超越的な存在にまで昇華されたのか、ミリアーナ!」と、またしても変な感動に震えている。


「……。ルルアさん。まず第一に、公共の場で大声を張り上げるのは、騒音公害です。その絶叫のデシベル値は、周囲の商店の売上に悪影響を及ぼすレベルですわ。経済的損失を計算したことがありますの?」


「そんなの関係ありませんわ! 皆様、見てください! この冷たい目! 彼女は私が殿下に愛されているのが許せなくて、夜な夜な私の不始末を帳簿にまとめて、呪いをかけているんですわ!」


「……。……。……呪い?」


私は深く、深いため息をついた。
あまりの非論理的な主張に、私の脳細胞が抗議の声を上げている。


「それは呪いではなく『監査(オーディット)』と呼びますの。あなたが国庫から引き出したドレス代、宝石代、そしてエステ代。それらが正当な予算項目に該当しないことを、私は客観的なデータに基づいて指摘しただけですわ。……数字は嘘をつきませんが、あなたの脳内にはファンタジーが詰まっているようね。不潔ですわよ」


「嘘よ! 数字なんて、あなたが勝手に書き換えたに決まってますわ! 殿下だって、私の『愛』があれば国は安泰だっておっしゃっていたのに……!」


「愛で国が安泰になるなら、今すぐ近隣諸国の軍備を全てハートマークに塗り替えなさい。……いいですか、ルルアさん。あなたが『愛』と呼んでいるものは、ただの『搾取』ですわ。国民の血税を、自分のフリルに変える行為を、どの辞書が愛と定義しているのか教えていただけます?」


私が一歩踏み出すと、ルルアさんはビクリとして後ずさった。
広場に集まった平民たちは、当初はルルアの涙に同情的な目を向けていたが、私の「数字」と「税金」という単語を聞いた途端、その視線は険しいものに変わった。


「……そういえば、最近パンの値段が上がったのは、王宮の無駄遣いのせいだって噂だぜ」


「あのピンクの女、さっきから喚いているけど、言ってることに中身がねぇな」


周囲のひそひそ話が、ルルアさんの耳にも届いたらしい。
彼女は顔を青くし、最後の悪あがきとばかりに私を指差した。


「……っ! 皆様、騙されないで! 彼女は元悪役令嬢ですのよ! 殿下に婚約破棄されるような、可愛げのない、性格の歪んだ女なんですわ!」


「可愛げ、ですか。……ルルアさん。あなたの定義する『可愛げ』とは、思考を停止させ、他人に依存し、物理法則を無視してワインの海にダイブすることかしら? ……それなら、私は一生、可愛げなど必要ありませんわ」


私は扇をパチンと閉じ、冷徹に言い放った。


「私は私の言葉で、この国の不純物を排除する。……閣下、お聞きなさい。彼女は私を『悪役令嬢』と呼びました。……光栄なことですわね。正論を吐く者が悪役とされるのなら、私は喜んでその役を引き受けましょう」


「……! 悪役……! 正義をなぎ倒す、美しき毒の華! ミリアーナ、君こそ真の支配者に相応しい! さあ、この愚かな女に、トドメの『論理的抹殺』を与えてやってくれ!」


カシアン閣下は、もはや応援団のような熱量で私を煽っている。


「……言われるまでもありません。ルルアさん。あなたの今現在の立ち位置、風下ですわよ。あなたの流した涙の成分が蒸発し、不潔な湿気となって私の方へ流れてきています。……今すぐその涙を拭き、ハローワーク……いえ、職業紹介所へ行きなさい。自分の筋肉で稼いだ金でパンを買い、その空腹で自分の愚かさを噛み締めなさい。それが、唯一あなたに残された『更生』の道ですわ」


「う、うわぁぁぁん! ミリアーナ様なんて、大っ嫌いですわぁぁぁ!」


ルルアさんは、かつてのパーティー会場と同じように、泣き叫びながら広場から走り去っていった。
もはや、彼女を追いかける「騎士」も「王子」も、そこにはいなかった。


広場に残されたのは、完璧な秩序を保って立つ私と、幸せそうに悶える変態公爵、そして……感銘を受けたように拍手を送り始める平民たちだけだった。


「……閣下。拍手はやめさせてください。非効率的です。……それより、次の視察先へ。……あ、言い忘れましたが。閣下、今のルルアさんの真似をして『私も嫌いと言ってほしい』なんて口走ったら、即座に給与を五割カットしますわよ」


「……!! なぜ私の心が読めるんだ! 五割カット……! 生活の困窮という新たな苦痛を与えてくれるのか! ああ、ミリアーナ……!」


「早く歩きなさい、この廃棄物!」


私は、意気揚々と(?)歩き出した閣下の後ろを追いながら、手帳に大きくバツ印を書いた。
ルルア、排除完了。
次は……あの、未だに未練がましく手紙を送ってくる「鼻毛王子」の始末ですわね。
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