可愛げのない女とは婚約破棄?では、遠慮なく可愛くない反撃を。

ハチワレ

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「却下です。やり直しなさい」


執務室に、私の冷徹な宣告が響き渡った。
私の目の前で震えているのは、グランヴィル公爵家お抱えの儀礼官と、王室御用達のウェディングプランナーだ。
彼らが自信満々に持ってきた「世紀の結婚式・豪華絢爛プラン」は、私の手によって赤ペンで真っ赤に染め上げられていた。


「み、ミリアーナ様。ですが、これは公爵家の威信を示すための、伝統に則った形式でして…。参列者三千人、式典は三日三晩続くのが…」


「伝統? ……。……。……それは『思考停止の別名』ではなくて? 三千人の参列者のうち、実際に閣下と有意義な外交関係にあるのは、私の試算ではせいぜい一八〇人。残りの二八二〇人は、ただの『食料消費要員』ですわ。公費を投じて、赤の他人に高級肉を振る舞う合理的理由を説明しなさい」


「そ、それは、お祝いのムードを共有し……」


「ムードで国家の予算が潤うのですか? 共有すべきは喜びではなく、正確な収支報告書ですわ。式典を三日三晩続けるなど、労働基準法の観点からも、使用人の集中力低下による事故リスクの観点からも、言語道断。……結婚式は、最大で二時間に短縮します。それ以上の時間は、人生の無駄遣い以外の何物でもありませんわ」


私が手帳を叩くと、儀礼官たちが絶望したような顔でカシアン閣下を見た。
しかし、閣下はといえば、私の隣で頬を上気させ、熱い吐息を漏らしていた。


「……! 『伝統は思考停止の別名』! ああ、ミリアーナ、君はなんて気高く、そして恐ろしいんだ。世紀の結婚式を二時間の業務報告会のように切り詰めるその手腕…。もはや、私との愛さえも効率化しようとしているのかい?」


「当然ですわ。閣下、あなたのその『愛』という名の不純なエネルギーを、いかに無駄なく、かつ領地の繁栄へと転換させるか。それが私の新妻としての初仕事になりますわ。……喜んでいる暇があったら、この『参列者選別リスト(解雇通知付き)』に目を通しなさい」


私は閣下の前に、一人の情け容赦もないリストを突きつけた。


「この、隣国のボナパルト伯爵。前回の夜会で、ワインの飲みすぎで廊下に嘔吐していましたわね。このような衛生管理能力のない者を神聖な式に招くのは、空間の汚染です。除名。…こちらのケイン男爵、三年前の借金が未完済です。お祝いの言葉よりも、返済計画書を持ってこさせなさい」


「…徹底しているね。だが、ミリアーナ。このリストによると、君の元婚約者であるウィルフレッドと、ルルアも入っているようだが?」


カシアン閣下が不思議そうに首を傾げた。
私はフッと冷ややかに口角を上げた。


「当然ですわ。彼らには『観覧席』ではなく、式場の隅で『皿洗い』として参加していただきます。自分たちが捨てた幸せがいかに完璧に管理され、輝いているのか。それを、立ち仕事による筋肉痛と共に噛み締めていただくのです。…これほど効率的な『ざまぁ』の演出、他にありますか?」


「……! 敵対勢力を労働力として再利用しつつ、精神的打撃を与える多目的戦略……! ミリアーナ、君を妻に迎える私は、世界で最も安全で、最も過酷な場所に身を置くことになるんだな。ああ、ゾクゾクするよ!」


「…騒がしいですよ、閣下。それからプランナーさん。私のウェディングドレスですが、シルクの量を三割減らしなさい。無駄に長い裾は、移動時の転倒リスクを高めるだけでなく、床のホコリを吸着してクリーニング代を増大させるだけですわ。機動力と審美性を両立させた『戦闘型ドレス』を用意しなさい。分かりましたか?」


「せ、戦闘型……!? は、はい! 全力を尽くします!」


プランナーたちが逃げるように去っていく。
静かになった執務室で、私はふと、自分の左手の薬指に輝く指輪を見つめた。


……効率化。合理化。
私はそう言い続けているけれど。
この指輪の輝きを不快だと思わない自分に、少しだけ戸惑いを感じていた。


「……ミリアーナ。君がそんなに一生懸命、私たちの式の『無駄』を削ぎ落としてくれるのは…本当は、私との二人の時間を一分でも長く確保したいから、ではないのかい?」


カシアン閣下が、後ろからそっと私の肩に顎を乗せてきた。


「…っ!! な、何を……! 自意識過剰ですわ! 私はただ、この屋敷の経済状況を最適化したいだけで…閣下、密着度が高いと言ったはずです! マイナス三〇〇点ですわ!」


「…耳が赤いよ、ミリアーナ。ああ、その照れ隠しの罵倒。これこそが、私にとって最大の『伝統』になりそうだ」


「…黙りなさい、変態公爵!……ほら、次の議題ですわ! ハネムーンの行程表! 移動時間を一〇パーセント短縮するために、馬車の馬を全て一等馬に買い換えますわよ!」


私は、激しく脈打つ鼓動を「計算ミス」だと自分に言い聞かせながら、新たな書類を手に取った。
結婚式まで、あと一ヶ月。
私の「可愛くない反撃」は、いつの間にか、世界で最も効率的で熱烈な「愛の物語」へと形を変えていた。


けれど、私はまだ、そのことを認めない。
認めることは、論理的な敗北を意味するからですわ。


「……さあ、閣下! ぐずぐずしている時間は一秒たりともありませんわよ! 立って! 歩いて! 領民のために働きなさい!」


「はい、ミリアーナ様!」


私たちの喧騒は、今日も屋敷中に、幸せな不協和音となって響き渡るのだった。
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