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14、いざ面会へ
しおりを挟むとうとう面会当日となった。
侯爵家の別荘には前日から泊まっているので、僕はゆっくりルルの到着を待てばいい。ライも一緒に泊まったので話し相手に困らないし、会話しているだけで気が楽になった。
彼女の到着の知らせを受けたのは、朝食をとっくに食べ終え食後のお茶を飲み、時間を持て余してライとボードゲームをしていた最中だった。約束していた時間よりだいぶ遅れているが、彼女の事だからな。どうせ僕を待たせて当然と考えているんだろう。以前はこれぐらい普通と言うか、会えるだけで嬉しかったので特に気にしていなかったけれど、今は会いたいと願った本人が約束の時間に遅れるなんて非常識だと不快に感じる。恋は盲目状態だったのだな、と改めて昔の自分を振り返って反省していたら、正面に座っていたライが真顔で今すぐ移送してしまおうか、と呟いた。慌てて宥めたら冗談だと笑ってくれたが、完全にあの目は本気だった…。
各自の従者を連れてライと共に部屋に向かう。先にあの部屋に案内されているだろうルルの様子を案内役に聞けば、彼女の機嫌は悪くないらしい。侯爵家の別荘は外装や内装にも気品があり、明らかに高級品であると分かる家具や装飾品等が配置されているのだ。当然のように掃除も行き届いているし、管理を任されている使用人も一流。そんな所に案内されたのだから、久々の外出である事も相まって女の子らしく浮かれ気味であるようだ。
手筈通りに、ライには特殊な部屋で待機してもらう。ドアの前で覚悟を決めて深呼吸をし、僕は従者達とルルが待つ部屋に入った。
「遅いわ、私を待たせるなんてどういうつもりかしら」
僕が入った瞬間、投げつけられた言葉がこれだ。挨拶すらなく、彼女は椅子に座ったままで立ち上がる様子もない。ついでに言うなら、僕を見ていたのは数秒で、今は顔を背けられ視線すら合っていない。
僕はそのまま立ち止まって彼女を観察してみた。いつも綺麗に結い上げられていた金髪は降ろされていて、何か植物らしき物が彫刻された木製の髪留めが一つ付いているだけだ。身に着けている衣服はドレスではあるが、淡い桃色をしたシンプルな物でいつもの華やかさは皆無。好んで付けていたはずの豪華なネックレスは、今は金の細いチェーンに小さなエメラルドが付いた物のみになっている。服装だけで身分を判断するならば、少し裕福な商家の娘に見えた。
もう一度その場で深呼吸をし、ゆっくり歩いて対面上にある椅子に腰かける。従者達は二人が僕の背後の壁側に立ち、一人はルルの背後の壁側へ回った。
「…久しぶりだね」
一先ず声を掛ければ、彼女は大きく溜息をついた。
「まず、私への謝罪が先でしょう?」
「何の謝罪かな?」
「私に説明までさせるつもりなの? 本当に気の利かない人ね、あの人ならすぐ理解するし私を待たせる事なんてしないのに…」
以前からルルは僕と比べて『あの人』がイイとか『あの人』ならとか口にする事が多かったけど、『あの人』とは一体誰の事を指すのだろうといつも不思議だった。彼女の浮気相手は人数が多くて、時期によってその相手が違うから名前が無いと分からなかったからだ。…それでもあの時の僕はルルの言う『あの人』に負けまいと色々努力してみた事があるが、結局彼女の中で常に『あの人』は素晴らしく良い人で、僕は気の利かない悪い人だった。
「仕方がないから教えてあげるわ。わざわざこの私が貴方に会う為に足を運んだのよ。それなのに待たせるなんて、悪い事をしたと貴方から謝罪するのが当然の事でしょう」
――あぁ、やはりルルは何一つ変わっていなかった。
何よりも優先されるべきは自分で、何よりも求められているのは自分で、何よりも正しいのは自分なのだ。
彼女はいつまでも、愛に満ちた世界しかないと本気で信じていた。
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※短編です。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4800文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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