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本音と建前
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レイの言っていた通り、数日は平穏な船旅だった。
六人の体と心はすっかり癒され、追風を受けて軽やかに走っていた。
あの襲撃以来、あれほど大きな奇襲はなかった。片手で数えられるものではなかったが、岸からの攻撃に徐々に慣れていったのもある。シュウトとユウは、仲は相変わらずなものの、いざ危険な状況になると阿吽の呼吸で共に戦った。誰も怪我一つすることなく、ついに船の旅は終りを迎えたのだった。
左岸の岩場が入りくんだ場所に船を隠し、一行は地面に降り立った。アマネやハルカは久々の砂の感触を、嬉しそうに噛み締めた。レイはこほんと小さく咳払いをして、自然と皆の注目を集めた。彼の言いたいことが何となくわかったからかもしれなかった。
「陸を進むという事は、いよいよ六人全員が危険にさらされるという事です。姫様方はくれぐれもお気を付けください。歩く旅は辛いでしょうが、出来る限り負担を少なくしますので」
アンリは冷静に言葉を返した。
「レイに無理を言ってここまで来たのよ。私の意志で。辛いなんて決して思わないわ。アマネもそうでしょ?」
アマネは急に話を振られて一瞬目を開いた。これから先アマネがわがままや愚痴を言わないように、覚悟を決めて約束させるつもりなのだろう。姉の方が上手だった。アマネはただ頷くだけだった。
「もちろんよ」
「それで?これからどうするんだ?」
ハルカは空気を一気に明るくさせて言った。レイも穏やかに微笑む。
「このまましばらく岩場を川に沿って北へ進みます。それから西へ折れ、森を抜け、街を抜け、メリアメ王の元まで行きます」
父の名前が挙がり、娘二人は顔を強ばらせた。いよいよ目的を果たす時が来るのだ。この旅の目的を、嫌でも再確認させられた。ユウは励ますように一歩前に出た。
「大丈夫ですよ。メリアメ王の予定している陣地へは、まだ一ヵ月ほどあります。最後は、戦える者だけで決着をつけますから」
押しつけがましい事もなく、ユウは事実だけを述べたのだが、アンリの胸には熱く響いた。自分のわがままにユウを付き合わせてしまったのだ。尊敬してきたキヌンに背き、討とうとさえしている。命の保証も全くできない、無謀な戦いに招いてしまった。せめてもと、言葉の力を信じてアンリは切実に言った。
「絶対に、この六人で生きて戻りましょう」
シュウトを除く四人は、安心させるように深く頷いた。レイは後方を気にして、皆を促した。
「行きましょうか」
船の荷物は持てるだけ鞄に詰めて、男四人で分けて持つことにした。真ん中に姫二人を挟み、前方にレイ、右にハルカ、左にユウ、後ろにはシュウトがついた。岩場を抜けるまでは多少姿を隠しながら進めるため、それほど緊迫感もなく一行は歩いていた。船よりもずっとお互いの距離が近いため、アマネは喋りやすさを嬉しく思った。
「ハルカとシュウトは、いつから友達なの?」
姉の隣を歩いていたハルカに訊ねた。シュウトの情報は直接は手に入らないため、周りから聞くしかなかった。ハルカは気持ちよく応えた。
「まだニ年も経ってないんじゃないかな」
「えっ、そうなの。仲がいいから、子供の頃からかと思ってた」
「気が合うんだ、すごく。月日は関係ないよ」
「どこで出会ったの?」
「王家の墓だ。不思議な光が結びつけた、奇跡みたいなもんだったよ。ちなみに、その時、レイとも初めて会った」
「初耳だわ」
姫二人はきょとんとしてしまった。集まった六人は、ただの偶然ではなかったのかもしれない。
「シュウトは、ずっと一人で墓の守りをしていたんだ。俺が友達になりたくて、声を掛けたんだぜ」
アマネは興味津々にハルカの話に聞き入った。ハルカは、後ろのシュウトの顔を見ようとちらと振り返った。
「いい奴だよ、シュウトは。無愛想だけど、慣れてないだけなんだ。優しい。俺が自信を持って言うよ」
「私もそう思う」
シュウトは聞くに耐えられず、思わず足を止めてしまうところだった。
「俺たちと同じくらい、君たちも仲がいいけどな」
ハルカはうまい具合に話を姫達にすり替えた。実を言うと、一緒に旅を始めてから、アンリ姫とはまだ業務的な話しかできていなかったのだ。彼女は気が張り詰めているだろうと、距離を縮める頃合をずっと計っていた。話ができる嬉しさでいっぱいのはずなのだが、ハルカは傍から見れば至って普通に会話していた。それだけ器用なのだろう。シュウトは後ろから感心して相棒を眺めた。
「お姉さまのためなら、死んでもいい。そう思って一緒に来たのよ」
「アマネ、冗談はやめて」
「私は本気よ」
いつものような掛け合いだったが、ハルカは良いものが見れたと満足気だった。
「アンリちゃんも、そんな顔するんだな」
妹をきつく睨んでいたアンリは、はっとなって表情を緩めた。
「お恥ずかしいところをお見せしました」
「いやいや。お姉さんらしくていいよ。怒った顔も綺麗だしな」
アンリは警戒心を込めてハルカを見た。王宮の人々から、今まで嫌というほどのお世辞を聞いてきた。そのせいもあり、今のハルカの言葉は本音か建前か、判断する力が鈍っていた。
「お姉様のことたぶらかさないでよ」
アマネは頬を膨らませてハルカにきつく言った。それでも彼は余裕な顔だった。
「そんなつもりないよ。ただ、心から思ったことを口にしただけさ。俺は嘘が嫌いなんだ」
アンリの事をからかうわけでもなく、本心から述べているようだった。姉妹二人とユウは、珍しい者を見るようにハルカを眺めた。ためらいもなく見返りも求めず他人を讃えるなんて、王宮の人間ならそんな無駄な事はしない。心の思うままに気持ちを口にできたらどんなにいいかと、思うだけだった。アマネだけはハルカに同調した。
「言いたいことを言うのが一番よね」
自分に仲間ができたと、自慢げにユウを見た。
「アマネ様がおっしゃるのは、ただのわがままですけどね」
六人の体と心はすっかり癒され、追風を受けて軽やかに走っていた。
あの襲撃以来、あれほど大きな奇襲はなかった。片手で数えられるものではなかったが、岸からの攻撃に徐々に慣れていったのもある。シュウトとユウは、仲は相変わらずなものの、いざ危険な状況になると阿吽の呼吸で共に戦った。誰も怪我一つすることなく、ついに船の旅は終りを迎えたのだった。
左岸の岩場が入りくんだ場所に船を隠し、一行は地面に降り立った。アマネやハルカは久々の砂の感触を、嬉しそうに噛み締めた。レイはこほんと小さく咳払いをして、自然と皆の注目を集めた。彼の言いたいことが何となくわかったからかもしれなかった。
「陸を進むという事は、いよいよ六人全員が危険にさらされるという事です。姫様方はくれぐれもお気を付けください。歩く旅は辛いでしょうが、出来る限り負担を少なくしますので」
アンリは冷静に言葉を返した。
「レイに無理を言ってここまで来たのよ。私の意志で。辛いなんて決して思わないわ。アマネもそうでしょ?」
アマネは急に話を振られて一瞬目を開いた。これから先アマネがわがままや愚痴を言わないように、覚悟を決めて約束させるつもりなのだろう。姉の方が上手だった。アマネはただ頷くだけだった。
「もちろんよ」
「それで?これからどうするんだ?」
ハルカは空気を一気に明るくさせて言った。レイも穏やかに微笑む。
「このまましばらく岩場を川に沿って北へ進みます。それから西へ折れ、森を抜け、街を抜け、メリアメ王の元まで行きます」
父の名前が挙がり、娘二人は顔を強ばらせた。いよいよ目的を果たす時が来るのだ。この旅の目的を、嫌でも再確認させられた。ユウは励ますように一歩前に出た。
「大丈夫ですよ。メリアメ王の予定している陣地へは、まだ一ヵ月ほどあります。最後は、戦える者だけで決着をつけますから」
押しつけがましい事もなく、ユウは事実だけを述べたのだが、アンリの胸には熱く響いた。自分のわがままにユウを付き合わせてしまったのだ。尊敬してきたキヌンに背き、討とうとさえしている。命の保証も全くできない、無謀な戦いに招いてしまった。せめてもと、言葉の力を信じてアンリは切実に言った。
「絶対に、この六人で生きて戻りましょう」
シュウトを除く四人は、安心させるように深く頷いた。レイは後方を気にして、皆を促した。
「行きましょうか」
船の荷物は持てるだけ鞄に詰めて、男四人で分けて持つことにした。真ん中に姫二人を挟み、前方にレイ、右にハルカ、左にユウ、後ろにはシュウトがついた。岩場を抜けるまでは多少姿を隠しながら進めるため、それほど緊迫感もなく一行は歩いていた。船よりもずっとお互いの距離が近いため、アマネは喋りやすさを嬉しく思った。
「ハルカとシュウトは、いつから友達なの?」
姉の隣を歩いていたハルカに訊ねた。シュウトの情報は直接は手に入らないため、周りから聞くしかなかった。ハルカは気持ちよく応えた。
「まだニ年も経ってないんじゃないかな」
「えっ、そうなの。仲がいいから、子供の頃からかと思ってた」
「気が合うんだ、すごく。月日は関係ないよ」
「どこで出会ったの?」
「王家の墓だ。不思議な光が結びつけた、奇跡みたいなもんだったよ。ちなみに、その時、レイとも初めて会った」
「初耳だわ」
姫二人はきょとんとしてしまった。集まった六人は、ただの偶然ではなかったのかもしれない。
「シュウトは、ずっと一人で墓の守りをしていたんだ。俺が友達になりたくて、声を掛けたんだぜ」
アマネは興味津々にハルカの話に聞き入った。ハルカは、後ろのシュウトの顔を見ようとちらと振り返った。
「いい奴だよ、シュウトは。無愛想だけど、慣れてないだけなんだ。優しい。俺が自信を持って言うよ」
「私もそう思う」
シュウトは聞くに耐えられず、思わず足を止めてしまうところだった。
「俺たちと同じくらい、君たちも仲がいいけどな」
ハルカはうまい具合に話を姫達にすり替えた。実を言うと、一緒に旅を始めてから、アンリ姫とはまだ業務的な話しかできていなかったのだ。彼女は気が張り詰めているだろうと、距離を縮める頃合をずっと計っていた。話ができる嬉しさでいっぱいのはずなのだが、ハルカは傍から見れば至って普通に会話していた。それだけ器用なのだろう。シュウトは後ろから感心して相棒を眺めた。
「お姉さまのためなら、死んでもいい。そう思って一緒に来たのよ」
「アマネ、冗談はやめて」
「私は本気よ」
いつものような掛け合いだったが、ハルカは良いものが見れたと満足気だった。
「アンリちゃんも、そんな顔するんだな」
妹をきつく睨んでいたアンリは、はっとなって表情を緩めた。
「お恥ずかしいところをお見せしました」
「いやいや。お姉さんらしくていいよ。怒った顔も綺麗だしな」
アンリは警戒心を込めてハルカを見た。王宮の人々から、今まで嫌というほどのお世辞を聞いてきた。そのせいもあり、今のハルカの言葉は本音か建前か、判断する力が鈍っていた。
「お姉様のことたぶらかさないでよ」
アマネは頬を膨らませてハルカにきつく言った。それでも彼は余裕な顔だった。
「そんなつもりないよ。ただ、心から思ったことを口にしただけさ。俺は嘘が嫌いなんだ」
アンリの事をからかうわけでもなく、本心から述べているようだった。姉妹二人とユウは、珍しい者を見るようにハルカを眺めた。ためらいもなく見返りも求めず他人を讃えるなんて、王宮の人間ならそんな無駄な事はしない。心の思うままに気持ちを口にできたらどんなにいいかと、思うだけだった。アマネだけはハルカに同調した。
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