太陽の猫と戦いの神

中安子

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内心

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 空が白んでくるのは思っていたよりも早かった。
 得したような損したような、そんな気分だった。地平線から姿を現した神は、この世の何よりも速く光を放ち、熱を届ける。あの白猫だなんて到底考えられなかったが、誰も敵わない力強さは似ているような気がした。ずっと嫌いだと思っていた太陽が、どこか美しく見えた。ただ、やはり眩しすぎて苦手だった。太陽を肯定するという事は、自分自身を肯定するのと同じだった。シュウトは逃げたくても逃げられない苦痛を抱きながら、光を避けて生きてきたのだ。
「おはよう」
 ハルカが起きだしてきて二人に元気良く声を掛けた。彼の突き抜けた明るさは、正しく太陽のようだった。どこか彼に惹かれてしまうのも頷ける気がした。いくら拒んでも構わずに照らしてくる太陽のようだった。
「明るくなっちまったけど、よかったら休めよ」
 僅かな時間しか寝ていないはずなのに、すっきりした顔をしていた。シュウトはそんな彼と目を合わすだけで体が温かくなる気がした。 
「暇を見て休ませてもらうよ」
 シュウトは微笑もうと口の端を上げた。不器用な笑顔だったが、十分ハルカを安心させた。
「レイも休んでくれ。お前が体調崩したら、俺たち困るからな」
 レイはにんまりと笑った。彼にも疲れは全く見えない。むしろ全てを愉快そうに受け入れているようだった。
「でしたら、あとでユウ様と交代しましょう。ただ、もう少しだけ休ませてあげてください」
 少し遠くで横になっているユウを、三人で眺めた。いつもなら日の出と共に起き出すのだが、今日は固まったようにぴくりとも動かなかった。崖の上での戦いがどれほどのものだったのか、実際に見なくても想像ができた。
 ユウは直後ですら疲れた様子を見せなかったが、口数少なく、塞いでいるようだった。ユウは昔から護衛だったため、感情を表に出さず内に秘めるのが癖でもあった。アマネでさえ普段とやかく言われるものの、ユウの心の声を知らないのだ。出会って数十日のシュウトたちに、彼の事がわかるわけがなかった。一つだけわかるとすれば、彼はシュウトを認めていない、それだけだった。レイは彼を気遣ってそっと言った。
「普通の兵士なら、生きては返って来られません」
「俺たちじゃ限度があるしな。姫さんらは絶対に守らないと」
 奥から物音とアマネの高い声が聞こえてきた。内容までは聞き取れなかったが、どうやら姫二人も起き出したようだった。シュウトは「少し休む」と小さく言うと、素早くその場を離れて眠り始めた。ハルカとレイはきょとんとしながら彼を眺める。
「おはよう」
 アマネが元気よく駆けてきて、にっこりと挨拶をした。続いてアンリも晴れやかに頭を下げる。
「あれ、シュウトとユウは?」
 アマネは昨日あった出来事を既に忘れているようで、明るい調子で訊ねた。
「シュウト様は夜の見張りを終えて、先程お休みになられました。ユウ様も、まだ休息が足りていません。もう少しお休みいただきましょう」
「俺がちゃんと見張っとくよ」
「昨日襲撃を受けた豪族たちの支配下を抜けるまでは、二日ほどあります。あれだけ戦闘力を欠けば、追手はないと思われます。念のため、岸に注意を払いつつ、出来るだけ物陰に隠れてお過ごしください」
 レイの真剣な話に、姫二人は静かに頷くだけだった。
「レイは休めたの?」
 アンリは若い彼を気遣って、様子を窺った。彼は一瞬言葉を詰まらせ、何と言おうか思案しているようだった。そんなレイを見てハルカはすぐに口を開いた。彼は「既に休んだから大丈夫」と言うに決まっている。
「まだだ。できれば早めに休ませてあげたいんだが」
 レイは何か言いたげな表情でハルカを見る。
「ただ、俺だけが護衛じゃ頼りないだろ」
 誰もが不安にかられ、次の言葉が思いつかないでいる時、はっきりした声が飛んできた。
「心配ありません。もう動けますから」
 皆が振り向くと、ユウがすたすたと近づいてきた。レイとアンリは挨拶がわりに小さく頭を下げた。アマネは疑うように、彼を下から上まで眺める。
「大丈夫なの?」
 心外だとでも言うようにユウは姫を睨んだ。
「馬鹿にしてるんですか」
 珍しくユウにしては喧嘩口調だった。アンリは急いで間に入る。
「こう見えてけっこう心配していたのよ」
 ユウは面食らって少し畏まる。
「私たちにはユウが必要よ。あなたの力は王宮の誇りなの」
 王の一番娘から発せられる言葉はありがたく、実に心に響くものだった。この人のために尽くそうと、誰もが思える存在だ。ユウは静かに頭を下げた。
「もし体が大丈夫そうなら、ハルカと見張りをお願いできるかしら。レイに休んでもらいたいの」
「わかりました。もちろんです」
 顔を上げたユウは、レイと目を合わせた。
「お心遣い感謝します」
 レイはそっとその場を去り、ユウとハルカは打ち合わせてそれぞれ両岸を見張った。
 アマネは腕を組んで姉に近づく。
「ユウどうしたのかな?」
「疲れもあるでしょうし、シュウトの戦い方を目の当たりにして、色々思うところがあるのでしょう。こういう時こそ、優しくしてあげなさい」
「…そうなんだ」
 アマネは首を傾げて、ユウの後ろ姿を眺めた。
「これ以上優しくできる?」
「こらアマネ」
 アンリは寝床の近くへ妹を引っ張って連れて行った。無邪気さは彼女の長所でもあるのだが、緊迫した状態ではユウを悩ませてしまうかもしれなかった。できるだけ声の届かない距離を保つべきだった。
「ユウがいなければ、私たちは間違いなく死ぬわ。もう少し、ユウを気遣ってあげて」
「わかったよ、お姉さま」
 相変わらずの、その場しのぎの返事だった。
 アンリは大きなため息と共に肩を落とした。
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