太陽の猫と戦いの神

中安子

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ひととき

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「確か、王家の墓を守っていらっしゃいましたね」
「なんで知っている」
「一応、神官ですから」
 まだ幼さの残る容姿を持った青年なのに、侮れない不思議さを持っていた。シュウトのように、かなりの歳月を生きていてもおかしくないくらいだ。
「墓を離れてしまったが、眠る王たちは大丈夫だろうか」
「今は保たれたとしても、いずれは失ってしまう物も多いでしょう。この世界に永遠は存在しません」
「…そうか」
 シュウトはどこか寂しそうに呟いた。守ってきた物は結局、滅びてしまう運命のようだ。それならば何のために墓の盗賊たちと戦ってきたのか。
「シュウト様がいなければ、墓はもっと早くに荒らされていたでしょう。眠る王たちも、あなたへの恩は忘れません。次の世界で、きっと報われるはずです」
 レイにはシュウトの心の声が聞こえているようだった。ただの励ましの言葉ではなかった。シュウトを救ってくれる言葉だった。
「次の世界?」
「命を終えた者が逝く世界です。目的を終えれば、あなたもきっと」
「俺にも行けるのか」
「ええ。神はあなたが来られるのを、楽しみに待っていますよ」
 シュウトはしばらく何も言えなかった。今までの神官と違って、レイの言葉は信じられた。年齢や見た目は全く関係ないと言えるほど、彼は別格だった。人間離れしているような、どこか自分に似通った存在だと気づき始めていた。ただ、他人と深く関わってしまうのを恐れているのも事実だった。シュウトにとってただ一人、信頼できるのはハルカだけだった。彼だけ居てくれれば、それだけでよかった。
 ただ、レイの言った“神”とは一体何を指しているのか、気になって仕方なかった。ここで聞かなければ、機会はもう訪れないかもしれない。シュウトの心の片隅にいつも居る、柔らかく青く光る白猫。
「俺の身体の中にいた奴か」
 レイはふと懐かしそうな笑みを浮かべた。シュウトが覚えていたことが、嬉しかったのだろう。
「ええ。あの方はきっと太陽の化身です。一時だけ、王が神を変えてしまったために、行き場を失ってしまったのでしょう」
「太陽…」
 白猫自身が述べていた事が、真実だったのだと確信した瞬間だった。レイが言うのなら、間違いはないだろう。いつも夜に現れていたため、月や星の神なのかと最初は思っていた。ただ、そういえば彼女も何となくそんな事を言っていた。あまり深く聞くことすらしなかった、あの時の自分を後悔していた。
「全ての神を統べる偉大なお方です。明るく大地を照らす、この世界の力そのものです」
 レイがためらいもなく白猫を讃えているのが不思議だった。シュウトの知っている彼女は、全て知っているかのように話してはいたものの、神とは遠い、人間味に溢れていたからだ。どこか高飛車なお姫様のようでもあり、わがままなお婆さんのようでもある。ただ、自分が褒められているわけでもないのに、どこか嬉しかった。
「会ったことがあるのか?」
 今まで誰にも、ハルカにさえ、白猫の話をするのを控えていた。自分一人のものにしておきたかった気もするし、猫が口をきくだなんて、よく考えればただの可笑しい夢の話だった。ハルカは信じてくれるかもしれないが、無理に合わせてもらうのも気が引けた。
 レイなら、シュウトの感じ取っている何かを知っている気がしたのだ。
「僕は直接はお会いできません。こちら側の人間ですから。ただ、お告げのお声と、瞑想の先で、ちらとお顔だけ、垣間見たことはあります」
「猫なのか?」
「いいえ。きっと本当のお姿は、我々のような人に近いでしょう。ただ、光で包まれ、この世のものとは比べ物にならないほど、美しく綺麗なお姿でした」
 レイは珍しく感情を込めて強く言った。
 どこか誇らしげであるその様が羨ましかった。この世を外れているシュウトでさえも踏み込めない世界。月を眺めては行きたいと切に願う楽園。想像したくても、姿も景色も何も浮かんでこない。穏やかな時が流れ、暖かで優しくて、何もかも満たされた世界。荒んだ現実しか見てこなかったシュウトには、幸せがどんなものか全く分からなかった。
「シュウト様は特別です。我々なんかより、もっと神に近い場所で暮らすことでしょう。必ず、迎えが来ます」
 月明かりを受けてきらりと輝く銀髪と澄んだ瞳。シュウトには全く持ち合わせていない、どこか白猫にも似ている美しさだった。どこか遠い目で、レイを見つめる。これ以上は何も言えなかった。彼の言葉は胸にしっかりとしまわれた。一つの約束事として、シュウトの希望となった。
 二人は示し合わす事もなく、揃って月を眺めた。
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