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離別
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言葉の恐ろしさに、ユウと姫らは青ざめた顔でお互いを見合った。
二つの命を天秤にかけるなんて出来る訳がなかった。どれだけ大きなものを敵にしているのかを思い知らされた気がした。
誰もが口をつぐむなか、アンリだけは覚悟を決めたように顔を上げた。
「ねえシュウト。あなたはこの紙を見た時に、何も構わずに、真っ先にハルカを探しに行く事もできた。だけど、一度私たちの元に来てくれた」
姫の威厳が感じられる、優しく、堂々した口調だった。皆はただ惹かれるように、彼女の言葉に耳を傾け見守った。姉姫は続ける。
「ハルカを助けたい気持ちは、痛いくらいに分かるわ。だけど、シュウトがハルカを助けに行けば、きっと私の父は死んでしまう。この六人でしてきた旅が、無駄になってしまう。ハルカもそれは望まないはず。お願い、シュウト。私の父を助けてください。その代わりに、私がハルカを助けに行きます」
シュウト以外は動揺した様子でアンリを見た。
「父とキヌンに、ハルカを助けてもらうよう言いに行こうと思います」
可能性は低いとしても、一番現実的な選択のような気がした。
一度はっきり敵だとみなした相手に頭を下げに行くという事がどういう事か、当人も十分に分かっているはずだった。アンリは全てを押し殺して、ハルカを優先するつもりのようだった。アマネは何か言おうとしたが、ぐっと堪えて俯いた。
レイもアンリの話を補うように話し始めた。
「出来るだけ六人揃って目的を果たしたかったのですが、こうなった以上は、分かれて行動するしかありません。僕はアンリ様と行きます。王を救えるのは、武術に長けているシュウト様、ユウ様しかいません。僕からもお願います」
レイは二人に向かって深く頭を下げた。彼がどれだけ本気で言っているかは、見れば十分だった。
「間に合うのか」
シュウトは掠れた声で訊ねた。
「絶対とは言い切れませんが、首尾よくいけばどちらも成功するはずです」
レイは言い終えてから地面に簡単な地図を描いた。
「ここの街から北西の方角に進むと、敵地一帯です。川を挟んで右が敵陣、左がメリアメ王軍です。シュウト様方は川に沿って北へ進めば着きます。詳しくはユウ様が良く知っていらっしゃるでしょう。僕はアンリ様と王の陣を目指そうと思います」
皆すぐには頷けなかったが、考えれば考えるほど、道はそれしかなかった。終いには皆揃って首を縦に振った。
「今はただ信じて、迅速に動くしかありません」
レイはユウと顔を見合わした。何か合図したかのように、ユウは「すぐに準備する」と言ってその場を後にした。
「僕も長官に挨拶してきますので、一度失礼します。半時後に入口で集合しましょう」
レイも出来るだけ落ち着こうとはしているが、焦りが少し漏れていた。
姫達も釣られて、ただ急いで「わかりました」と返事をしただけだった。シュウトもレイが去ってすぐに、何も言わずにどこかへ歩いて行った。
空気が荒れていた。姉妹はただ呆然と立ち尽くしていた。事の流れが早すぎて、ついて行くのにやっとだった。ただ、自分が口にした事を忘れた訳ではなかった。アンリはアマネを促した。
「私達も荷支度を済ませましょう」
妹は反応はしたが動き出さなかった。アンリは言うべき言葉をしっかり選別してから諭すように言った。
「アマネ。私は最後に、好きな道を選ばせてもらった。あなたに何か言える立場じゃなくなったわ。誰と行くかは、あなたが決めなさい」
アマネも薄々とは感じていたようだった。瞳はじんわりと潤んでいた。ただ泣くまいと必死に堪えていた。アンリも手を貸す事はしなかった。彼女の決断は聞かなくても分かっていた。これ以上は傍で助けてあげられないのだ。姉はただ静かに、妹の口から語られるまで、我慢強く待った。
「お姉様とこれっきり会えなくなるのは嫌。だけど、シュウトとユウ二人では心配なの。私はシュウトと約束したの。傍にいるって。だから、彼らと行くわ」
泣き出しそうになりながら懸命に話す妹を、アンリは親の気持ちで眺めた。小さい頃から見てきた彼女の立派になった姿は、感慨深いものがあった。
「お姉様、くれぐれもご無事で」
アマネは姉を抱きしめた。既に涙が溢れていた。
「全てが終わったら、一緒に帰りましょうね」
アンリは優しい声で囁いた。妹の涙が収まるまで、じっとそのまま、今までずっと近くにあった妹の体温を感じた。これが最後になるかもしれないと思えば思うほど、簡単に離れる事が出来なかった。姉は心に決めて、妹と向き合った。
「間に合わなくなるわ。行きましょう」
妹も深く頷いて、二人も荷造りに向かった。
二つの命を天秤にかけるなんて出来る訳がなかった。どれだけ大きなものを敵にしているのかを思い知らされた気がした。
誰もが口をつぐむなか、アンリだけは覚悟を決めたように顔を上げた。
「ねえシュウト。あなたはこの紙を見た時に、何も構わずに、真っ先にハルカを探しに行く事もできた。だけど、一度私たちの元に来てくれた」
姫の威厳が感じられる、優しく、堂々した口調だった。皆はただ惹かれるように、彼女の言葉に耳を傾け見守った。姉姫は続ける。
「ハルカを助けたい気持ちは、痛いくらいに分かるわ。だけど、シュウトがハルカを助けに行けば、きっと私の父は死んでしまう。この六人でしてきた旅が、無駄になってしまう。ハルカもそれは望まないはず。お願い、シュウト。私の父を助けてください。その代わりに、私がハルカを助けに行きます」
シュウト以外は動揺した様子でアンリを見た。
「父とキヌンに、ハルカを助けてもらうよう言いに行こうと思います」
可能性は低いとしても、一番現実的な選択のような気がした。
一度はっきり敵だとみなした相手に頭を下げに行くという事がどういう事か、当人も十分に分かっているはずだった。アンリは全てを押し殺して、ハルカを優先するつもりのようだった。アマネは何か言おうとしたが、ぐっと堪えて俯いた。
レイもアンリの話を補うように話し始めた。
「出来るだけ六人揃って目的を果たしたかったのですが、こうなった以上は、分かれて行動するしかありません。僕はアンリ様と行きます。王を救えるのは、武術に長けているシュウト様、ユウ様しかいません。僕からもお願います」
レイは二人に向かって深く頭を下げた。彼がどれだけ本気で言っているかは、見れば十分だった。
「間に合うのか」
シュウトは掠れた声で訊ねた。
「絶対とは言い切れませんが、首尾よくいけばどちらも成功するはずです」
レイは言い終えてから地面に簡単な地図を描いた。
「ここの街から北西の方角に進むと、敵地一帯です。川を挟んで右が敵陣、左がメリアメ王軍です。シュウト様方は川に沿って北へ進めば着きます。詳しくはユウ様が良く知っていらっしゃるでしょう。僕はアンリ様と王の陣を目指そうと思います」
皆すぐには頷けなかったが、考えれば考えるほど、道はそれしかなかった。終いには皆揃って首を縦に振った。
「今はただ信じて、迅速に動くしかありません」
レイはユウと顔を見合わした。何か合図したかのように、ユウは「すぐに準備する」と言ってその場を後にした。
「僕も長官に挨拶してきますので、一度失礼します。半時後に入口で集合しましょう」
レイも出来るだけ落ち着こうとはしているが、焦りが少し漏れていた。
姫達も釣られて、ただ急いで「わかりました」と返事をしただけだった。シュウトもレイが去ってすぐに、何も言わずにどこかへ歩いて行った。
空気が荒れていた。姉妹はただ呆然と立ち尽くしていた。事の流れが早すぎて、ついて行くのにやっとだった。ただ、自分が口にした事を忘れた訳ではなかった。アンリはアマネを促した。
「私達も荷支度を済ませましょう」
妹は反応はしたが動き出さなかった。アンリは言うべき言葉をしっかり選別してから諭すように言った。
「アマネ。私は最後に、好きな道を選ばせてもらった。あなたに何か言える立場じゃなくなったわ。誰と行くかは、あなたが決めなさい」
アマネも薄々とは感じていたようだった。瞳はじんわりと潤んでいた。ただ泣くまいと必死に堪えていた。アンリも手を貸す事はしなかった。彼女の決断は聞かなくても分かっていた。これ以上は傍で助けてあげられないのだ。姉はただ静かに、妹の口から語られるまで、我慢強く待った。
「お姉様とこれっきり会えなくなるのは嫌。だけど、シュウトとユウ二人では心配なの。私はシュウトと約束したの。傍にいるって。だから、彼らと行くわ」
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「お姉様、くれぐれもご無事で」
アマネは姉を抱きしめた。既に涙が溢れていた。
「全てが終わったら、一緒に帰りましょうね」
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妹も深く頷いて、二人も荷造りに向かった。
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