太陽の猫と戦いの神

中安子

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出発

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「長い間、置かせていただいてありがとうございました」
 レイは深々と頭を下げた。
 草木も寝静まる真夜中だった。レイは長官の部屋を訪ねていた。奥にはセティが、表情を険しくしたまま腰掛けていた。何が起きたかは、彼も承知しているようだった。
「厳しい道のりでしょう。お気を付けください。神はあなたがたの背中を押しはしますが、実際に護る事はできません。最後は、六名の皆様の判断が頼りです」
 レイは彼の言葉を十分噛み締めてから頷いた。
「ありがとうございます。今は何も持ちあわせていないので、カルナクに帰ってから、またお礼の品をお送りします」
「お気遣いは結構ですよ。ただ無事に帰れた事だけお知らせください」
 セティは朗らかに微笑んだ。
 二人は並んでそのまま入口へと向かった。
 既に皆揃っていた。燃え盛る松明の明かりを受けて、きりっとした表情を浮かべている。誰にも迷いは見られなかった。
「お待たせしました。行きましょう」
 五人は自然と、二組に分かれた。
 アンリは妹と向き合ってから、その後ろにいる二人に向けてお辞儀をした。
「ユウ、シュウト、アマネを頼みます」
 二人は初耳だったらしく、ぎょっとして姉姫を見返した。
「決めたの。もう何も言わないで」
 姉が口を開く前に、アマネはすかさず口調を強めて言った。
「どちらへ行っても危険な道です。妹をよろしくお願いします」
 今更相談している暇もないのは分かっていた。揺るがない姫二人を動かす術を彼らは持っていなかった。シュウトは仕方なく言う。
「俺に護衛は無理だ。ユウにさせてくれ」
「それが最善ですね。一人だけここに残れとも言えませんしね」
 アマネは冗談めかしてユウを睨んだ。拒否されないか、正直不安もあったのだ。心が少し軽くなって、ふっと笑顔を見せた。
「絶対に王とハルカを助けて合流しようね」
 五人はお互いを励ますように顔を見合わせて頷きあった。たくさんの言葉が浮かんでくるのだが、言いだしても切りがないと飲み込んだ。
 セティは護衛に声を掛けると、奥から馬が二頭、綱に引かれて五人の前に現れた。立派な黒馬だった。五人は見慣れないものに一瞬息を潜めた。祭の時にたまに馬車として見るくらいだった。この黒馬達はそれと比べると、闇に溶けて余計に大きく見えた。よく見れば、簡単な鞍がつけられていた。
「北の者達は、馬の背にまたがり駆けるそうです。歩いていくより、格段に速い。二頭しか用意できませんでしたが、ぜひ、お使いください。上手く扱えるように、まじないもかけてありますので。返す必要はありませんよ」
 五人は少し戸惑ったが、僅かながら知識のあるレイとユウが手綱を受け取った。
 レイは代表して礼を述べる。
「ありがとうございます。なぜそこまで…」
「私も神にお仕えする身ですから。ご意志を汲んで最大限のお手伝いをしなければなりません」
 レイは微かに微笑んだ。年齢もかなりの差がある神官二人だったが、合わせた瞳で全て通じ合っていた。彼らにしか理解できない世界を見ているようだった。セティはすっと現実に戻ると、皆を急かした。
「さあ、外は危険ですが、行かなければ間に合わなくなります。時間は待ってくれません。皆様どうかお気を付けて」
 五人も我に返ると、あたふたしながらもレイの指示に従った。
「それぞれ姫様方を馬の前方に、ユウ様と僕が後ろで手綱を取りましょう。シュウト様は…」
「俺は走るからいい」
 間髪いれずにシュウトは応えた。馬の話を聞いてすぐに、そうするつもりだったようだ。「その方が気にせずに走れる。そのかわり、道はユウに任せる」
 ユウはアマネが馬に乗るのを手伝いながらも、彼らの話も耳に入っていたようで「わかった」と小さく返事をした。アマネはまた心配事が一つ無くなったようで、すっきりとした笑顔を馬上で浮かべた。
 レイとユウも馬の背に収まると、セティの合図で門が開かれた。
 馬は入口に引っ張られるように勢いよく駆け出す。
「必ず、六人でまた会いましょう」
 レイが馬の足音に負けずに最後にと声を上げた。ユウ達は街を真っ直ぐに抜け、レイ達は左に折れていった。誰も後ろは振り返らず、前だけを見据えた。
 今は感傷に浸っている場合ではなかった。何としてもお互いの目的を果たさなければならなかった。
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