49 / 62
出発
しおりを挟む
「長い間、置かせていただいてありがとうございました」
レイは深々と頭を下げた。
草木も寝静まる真夜中だった。レイは長官の部屋を訪ねていた。奥にはセティが、表情を険しくしたまま腰掛けていた。何が起きたかは、彼も承知しているようだった。
「厳しい道のりでしょう。お気を付けください。神はあなたがたの背中を押しはしますが、実際に護る事はできません。最後は、六名の皆様の判断が頼りです」
レイは彼の言葉を十分噛み締めてから頷いた。
「ありがとうございます。今は何も持ちあわせていないので、カルナクに帰ってから、またお礼の品をお送りします」
「お気遣いは結構ですよ。ただ無事に帰れた事だけお知らせください」
セティは朗らかに微笑んだ。
二人は並んでそのまま入口へと向かった。
既に皆揃っていた。燃え盛る松明の明かりを受けて、きりっとした表情を浮かべている。誰にも迷いは見られなかった。
「お待たせしました。行きましょう」
五人は自然と、二組に分かれた。
アンリは妹と向き合ってから、その後ろにいる二人に向けてお辞儀をした。
「ユウ、シュウト、アマネを頼みます」
二人は初耳だったらしく、ぎょっとして姉姫を見返した。
「決めたの。もう何も言わないで」
姉が口を開く前に、アマネはすかさず口調を強めて言った。
「どちらへ行っても危険な道です。妹をよろしくお願いします」
今更相談している暇もないのは分かっていた。揺るがない姫二人を動かす術を彼らは持っていなかった。シュウトは仕方なく言う。
「俺に護衛は無理だ。ユウにさせてくれ」
「それが最善ですね。一人だけここに残れとも言えませんしね」
アマネは冗談めかしてユウを睨んだ。拒否されないか、正直不安もあったのだ。心が少し軽くなって、ふっと笑顔を見せた。
「絶対に王とハルカを助けて合流しようね」
五人はお互いを励ますように顔を見合わせて頷きあった。たくさんの言葉が浮かんでくるのだが、言いだしても切りがないと飲み込んだ。
セティは護衛に声を掛けると、奥から馬が二頭、綱に引かれて五人の前に現れた。立派な黒馬だった。五人は見慣れないものに一瞬息を潜めた。祭の時にたまに馬車として見るくらいだった。この黒馬達はそれと比べると、闇に溶けて余計に大きく見えた。よく見れば、簡単な鞍がつけられていた。
「北の者達は、馬の背にまたがり駆けるそうです。歩いていくより、格段に速い。二頭しか用意できませんでしたが、ぜひ、お使いください。上手く扱えるように、まじないもかけてありますので。返す必要はありませんよ」
五人は少し戸惑ったが、僅かながら知識のあるレイとユウが手綱を受け取った。
レイは代表して礼を述べる。
「ありがとうございます。なぜそこまで…」
「私も神にお仕えする身ですから。ご意志を汲んで最大限のお手伝いをしなければなりません」
レイは微かに微笑んだ。年齢もかなりの差がある神官二人だったが、合わせた瞳で全て通じ合っていた。彼らにしか理解できない世界を見ているようだった。セティはすっと現実に戻ると、皆を急かした。
「さあ、外は危険ですが、行かなければ間に合わなくなります。時間は待ってくれません。皆様どうかお気を付けて」
五人も我に返ると、あたふたしながらもレイの指示に従った。
「それぞれ姫様方を馬の前方に、ユウ様と僕が後ろで手綱を取りましょう。シュウト様は…」
「俺は走るからいい」
間髪いれずにシュウトは応えた。馬の話を聞いてすぐに、そうするつもりだったようだ。「その方が気にせずに走れる。そのかわり、道はユウに任せる」
ユウはアマネが馬に乗るのを手伝いながらも、彼らの話も耳に入っていたようで「わかった」と小さく返事をした。アマネはまた心配事が一つ無くなったようで、すっきりとした笑顔を馬上で浮かべた。
レイとユウも馬の背に収まると、セティの合図で門が開かれた。
馬は入口に引っ張られるように勢いよく駆け出す。
「必ず、六人でまた会いましょう」
レイが馬の足音に負けずに最後にと声を上げた。ユウ達は街を真っ直ぐに抜け、レイ達は左に折れていった。誰も後ろは振り返らず、前だけを見据えた。
今は感傷に浸っている場合ではなかった。何としてもお互いの目的を果たさなければならなかった。
レイは深々と頭を下げた。
草木も寝静まる真夜中だった。レイは長官の部屋を訪ねていた。奥にはセティが、表情を険しくしたまま腰掛けていた。何が起きたかは、彼も承知しているようだった。
「厳しい道のりでしょう。お気を付けください。神はあなたがたの背中を押しはしますが、実際に護る事はできません。最後は、六名の皆様の判断が頼りです」
レイは彼の言葉を十分噛み締めてから頷いた。
「ありがとうございます。今は何も持ちあわせていないので、カルナクに帰ってから、またお礼の品をお送りします」
「お気遣いは結構ですよ。ただ無事に帰れた事だけお知らせください」
セティは朗らかに微笑んだ。
二人は並んでそのまま入口へと向かった。
既に皆揃っていた。燃え盛る松明の明かりを受けて、きりっとした表情を浮かべている。誰にも迷いは見られなかった。
「お待たせしました。行きましょう」
五人は自然と、二組に分かれた。
アンリは妹と向き合ってから、その後ろにいる二人に向けてお辞儀をした。
「ユウ、シュウト、アマネを頼みます」
二人は初耳だったらしく、ぎょっとして姉姫を見返した。
「決めたの。もう何も言わないで」
姉が口を開く前に、アマネはすかさず口調を強めて言った。
「どちらへ行っても危険な道です。妹をよろしくお願いします」
今更相談している暇もないのは分かっていた。揺るがない姫二人を動かす術を彼らは持っていなかった。シュウトは仕方なく言う。
「俺に護衛は無理だ。ユウにさせてくれ」
「それが最善ですね。一人だけここに残れとも言えませんしね」
アマネは冗談めかしてユウを睨んだ。拒否されないか、正直不安もあったのだ。心が少し軽くなって、ふっと笑顔を見せた。
「絶対に王とハルカを助けて合流しようね」
五人はお互いを励ますように顔を見合わせて頷きあった。たくさんの言葉が浮かんでくるのだが、言いだしても切りがないと飲み込んだ。
セティは護衛に声を掛けると、奥から馬が二頭、綱に引かれて五人の前に現れた。立派な黒馬だった。五人は見慣れないものに一瞬息を潜めた。祭の時にたまに馬車として見るくらいだった。この黒馬達はそれと比べると、闇に溶けて余計に大きく見えた。よく見れば、簡単な鞍がつけられていた。
「北の者達は、馬の背にまたがり駆けるそうです。歩いていくより、格段に速い。二頭しか用意できませんでしたが、ぜひ、お使いください。上手く扱えるように、まじないもかけてありますので。返す必要はありませんよ」
五人は少し戸惑ったが、僅かながら知識のあるレイとユウが手綱を受け取った。
レイは代表して礼を述べる。
「ありがとうございます。なぜそこまで…」
「私も神にお仕えする身ですから。ご意志を汲んで最大限のお手伝いをしなければなりません」
レイは微かに微笑んだ。年齢もかなりの差がある神官二人だったが、合わせた瞳で全て通じ合っていた。彼らにしか理解できない世界を見ているようだった。セティはすっと現実に戻ると、皆を急かした。
「さあ、外は危険ですが、行かなければ間に合わなくなります。時間は待ってくれません。皆様どうかお気を付けて」
五人も我に返ると、あたふたしながらもレイの指示に従った。
「それぞれ姫様方を馬の前方に、ユウ様と僕が後ろで手綱を取りましょう。シュウト様は…」
「俺は走るからいい」
間髪いれずにシュウトは応えた。馬の話を聞いてすぐに、そうするつもりだったようだ。「その方が気にせずに走れる。そのかわり、道はユウに任せる」
ユウはアマネが馬に乗るのを手伝いながらも、彼らの話も耳に入っていたようで「わかった」と小さく返事をした。アマネはまた心配事が一つ無くなったようで、すっきりとした笑顔を馬上で浮かべた。
レイとユウも馬の背に収まると、セティの合図で門が開かれた。
馬は入口に引っ張られるように勢いよく駆け出す。
「必ず、六人でまた会いましょう」
レイが馬の足音に負けずに最後にと声を上げた。ユウ達は街を真っ直ぐに抜け、レイ達は左に折れていった。誰も後ろは振り返らず、前だけを見据えた。
今は感傷に浸っている場合ではなかった。何としてもお互いの目的を果たさなければならなかった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる