太陽の猫と戦いの神

中安子

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背負いすぎ

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「もう一週間も走ってるけど、大丈夫なの?」
 馬の足音にかき消されまいと、アマネは精一杯声を張って言った。
 馬の左側を、遅れる事なくぴったりと走っていたシュウトは、不思議そうに姫を見返した。
「辛そうに見えないだろう?」
 三人も、街を通り抜けようとした時には追手に見つかりしばらく追いかけられていた。
 シュウトは馬と同じ速度で走りながらも、軽く敵の相手をしながら進んでいた。ユウやアマネが剣を抜く必要はなかった。追手らが諦めると、アマネは安堵し、いよいよしっかりしなければと思い直す事になった。気の利くレイや姉は、もう傍にいないのだ。黙々と走るユウとシュウトの間を取り持たなければならなかった。二人が仲良い訳はなく、お互い必要最低限しか会話もなかった。放っておいても問題はないのだが、アマネ自身が過ごしにくかった。それを改善するためには、自分で空気を作るしかなかった。
 気を遣って話しても、彼は涼しい顔をしてもっともな言葉で返すだけだった。無視されないだけ良いのかもしれないが、こうもそっけないと、みるみる自信をなくしていった。アマネはため息が出そうになるのを必死に堪えた。負けを認めたくはなかった。ユウも助け舟を出してくれる事はなく、ただ様子を見守るだけだった。アマネはやり場のない気持ちを込めて、後方で手綱を取るりユウを思いきり睨んだ。
「もう着く?」
 少し前に街を出て、今は左手の川に沿って荒地を走っていた。七回目の夜だった。まだ辺りは戦場らしい様子もなかった。しばらく走って安全だとわかると、夜には馬を休めながら交代で睡眠もとった。土地勘のあるユウだったが、実際にどこで戦が行われるのかまで予想するのは困難だった。
「あと少しはかかりますよ。我が軍にも、敵の軍にも見つからないように進まなければなりませんから」
 ユウが一層大人しいのは、警戒を強めているためだった。軍の計画を、ユウは知らない。彼らは一体どういう動きでメリアメ王を狙うのか、想像もつかなかった。そして、姫を連れてどこまで戦えるのか、不安で仕方なかった。今までの規模とは訳が違う、シュウト一人に任せられる数ではないはずだった。だからと言って、アマネをどこかに置いていく事もできない。解決策が見つからないまま、それでも速度を落とす事なく進むしかなかった。
「着けば命懸けの戦いが待っています」
 アマネもユウの調子を察したのか、真剣な顔つきで前を見据えた。
「何が起きても、後悔はしないわ。死んだとしても。私が決めた事よ。ユウは何もかも背負いすぎだわ」
「アマネ様は後悔しなかったとしても、僕が後悔します」
 アマネは思わず後ろを振り返り、ユウの顔を見た。ユウは真面目な顔できょとんとした妹姫を見返す。
「それなら、何が何でも守るのね」
「戦いになったらくれぐれも勝手に動かないでくださいよ」
「わかってるわ」
「見えてきたぞ。思っていたよりこちら側だったな」
 シュウトは彼らの会話を気にもせず、突然声を上げた。二人ははっとなってシュウトを見たあと、彼が見ている前方を同じように眺めた。地の先は闇に溶け込んで、地平線すら定かではない。
「馬の足音は響く。ここまで来れば歩いた方がいいだろう」
 ユウとアマネには敵の姿一つ見えなかった。ただ、シュウトの口ぶりには確かなものがあった。ユウは信じない訳にもいかず、馬をたしなめて止まらせた。馬上から降りて、姫を乗せたまま手綱をとる。
「何が見える?」
 隣りを歩くシュウトにそっと訊ねた。
「川を挟んでどちらの軍も集まってきている。まだお互い探っているところだろうが」
 進んでいくほど川は幅を増し、弓矢も届かないほどだった。それほど深さはないため、いざ戦いが始まるとなると、川を進んで交える事になるだろう。
「メリアメ王のお姿は?」
 シュウトは王の顔を知らないはずだったが、聞かずにはいられなかった。彼は見極めようと目を凝らしたが、首を傾げた。
「王らしい人はいない。今はまだ下の部隊だけだろう」
「見つからないぎりぎりの所まで進んで、そこで様子を伺うしかないか」
「そうだな」
 アマネは馬の背にまたがりながら、当たり障りなく言葉を交わす二人を嬉しそうに眺めた。
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