太陽の猫と戦いの神

中安子

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予知の行方

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 地を震わすくらいの大勢の叫び声で、アマネは飛び起きた。
 空は既に白んでいて、太陽が遠い東の地平線から顔を出していた。
 シュウトとユウは岩陰から敵を睨んでいた。アマネも慌てて彼らの間に立って倣う。こちらの岸で声がしたかと思えば、対岸でも続いて大声が上がった。数の力に圧倒され三人とも落ち着いてはいられず、緊迫した面持ちでそれらを眺めていた。両軍でざっと千人は越すだろう。ユウがしばらくしてようやく声を掛けた。
「アマネ様、いよいよですよ」
「そうみたいね。お父様は?」
 アマネは心配かけまいと冷静を努めた。
「恐らく、あの対岸の軍隊の先頭にいらっしゃるのがメリアメ王です。金獅子の大きな冠が見えますか」
 アマネも父を確認した。戦車の上に立ち、軍を鼓舞しているようだった。遠すぎて表情一つ分からないが、かわりに陽光を受けてきらりと輝いているように見えた。
 ついに両者の声が重なり、大地がびりびりと揺れた気がした。太陽が合図するかのように一瞬鋭く輝く。声が消えかけるのと同時に、それぞれは進軍し始めた。
「いつ行く?」
 視線はそのまま先に向けて、ユウがシュウトに聞いた。
「とりあえず、動くのは王が孤立してからだ。武術もありそうだ、即死はないだろう」
「なんてことを」
 ユウは思わず焦って声を上げた。ただ、よくよく考えてみれば、シュウトが王を敬うなんて想像が出来なかった。小さな咳払いをして視線を戻した。
 軍のお互いが進んでいたはずだった。しかし、急に時が止まってしまったように、金獅子の冠以外が動かなくなってしまった。砂埃だけが風になびいて舞っていく。
 王は異常に気が付いてゆっくりと振り返っていた。三人は瞬きも惜しまれて、食い入るようにその様子を眺めた。ずっと話に聞いていたレイの予知は、やはり間違いなかったのだ。アマネは思わず寒気が走って身震いをした。
 メリアメ王の後方にいた全員が、誰の合図もなく自国の旗を捨てた。はるか遠くにいるはずなのに、王の顔が浮かんでしまう。彼はきっと王らしく冷静でいながらも、状況をついに理解し覚悟を決めただろう。全ての矛先は王ただ一人に向けられた。彼らは僅かに動揺している王に躊躇する事もなく、再び進軍し始めた。
「まずい」
 両軍の敵は王めがけて駆けた。ユウが反応したよりも早く、シュウトはそれと同時に走り出していた。早々と川に入り細かな水しぶきを振りまいていた。彼もどうやら金の冠を目指しているようだった。
「おい!」
 ユウは置いていかれまいとすぐに追おうとしたが、彼はあっという間に彼方にいた。ユウは一旦大きく息を吐いてアマネと向き合った。
「アマネ様。全てが終わるまで、ここに居てください。必ず迎えに来ますから」
「気をつけてね」
 離れるのを惜しんでいる暇はなかった。ここまで旅してきた意味を、二人は十分に分かっていた。王を救えなければ、何の意味もなくなってしまうのだ。
 ユウもついに駆け出し、全力で走っていった。
 その先では、シュウトは既に戦いを始めていた。王に攻撃を仕掛けようとしている軍兵を、突風のようになぎ倒していた。両軍は急な強豪に陣形を崩し、ざわついているようだった。ただ、シュウトでさえも簡単に始末できる敵の数ではなかった。ユウもアマネも、その無謀さが後方から見てもひしと感じられた。半分はそのままメリアメ王へ向けて進軍し、残りはシュウトを迎え討った。数でかなり有利なため、シュウトをぐるりと囲み前方からも後方からも構わず攻撃をしかける。
 シュウトは戦いづらさに大きな舌打ちをした。思っていたよりも王は遠く、阻まれて近づく事が出来なかった。敵と向かい合いながらも王の闘う姿がちらと目に入る。ずいぶん押されていた。深手を負わない程度ではあったが、息をつく間もなく攻撃されるため、体力にも限界があった。そろそろ助けに行かないとまずい、とシュウトはだいぶ前から感じていた。
 後方の敵が振り返っていた。彼らの視線の先をちらと確認したシュウトは、味方を得たと一つ大きく息を吐いた。ユウが剣を振るっていた。二人はお互いの位置を確認すると、戦いながらも合流を急いだ。敵の隙を見て二人は背中合わせになり、やっと声を掛ける事ができた。
「メリアメ王が心配です。全て倒していては間に合わなくなります。ここは構わず、王の元へ跳んでください」
 膨大な数の敵を目の前にしていながらも、ユウに迷いはなかった。少しの不安も動揺も感じられない。
「大丈夫か」
 シュウトは疑うというよりは確認のために言った。一度深く頷いた彼を一目見ると同時に、思いきり地面を蹴った。一同は驚いてぽかんとした表情で上を見つめる。まるで風に乗って浮かんでいるようだった。シュウトはそんな小さくなった彼らを上空から見下ろした。すぐに王の姿を探し、そちらに向けて着地した。その勢いのまま王の周りの敵をなぎ払う。両軍が混ざり合っていた。
 彼らは同じ意志を持って二人に剣を向けたが、急なシュウトの加勢に少し様子を伺っていた。
 王は荒い息づかいをしながらも、舞い降りてきた見かけない男を上から下まで眺めた。
「きみはいったい…」
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