太陽の猫と戦いの神

中安子

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対峙

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 王が呆然と見ている間、シュウトも同じようにすぐ近くで王をまじまじと見た。
 冠や鎧はすでに壊れかけており、全身泥や血で汚れていた。ただ、瞳にはまだ力強さがあった。アンリにもどこか似た真っ直ぐな凛々しさを持つ。僅かに皺も刻まれていたが、生気を失ってはいなかった。
 シュウトはどこか納得して手短に言葉を返した。
「アンリとアマネとユウとレイに頼まれた。王を守る」
 知った名前を聞いて王は眉をひそめた。
「なぜ娘達が?」
「この戦は仕組まれている。気付いているだろう」
「大方キヌンだな。この状況では、あいつの方が何枚か上手だったと言える」
 メリアメ王は全て承知しているようだった。
 恨む様子はなくあけっぴろげに笑ってみせた。潔さに心打たれ、シュウトは気遣わしげに彼を見た。
「あなたを救うと約束した」
 ぶっきらぼうながらためらいもせず話すシュウトに、王は感嘆した。
「これは頼もしい」
 王は豪快に笑って剣を握り直した。それを合図にシュウトも倣って剣を構えた。
「死ぬなよ」
 王はそれだけ言うと敵に向かって突っ込んでいった。さすが頂点に立つ者、アンリ達に似て度胸があった。
 シュウトも勇ましさに釣られて闇雲に剣を振るった。王は初めて見る戦っている彼の姿に、驚きを隠せなかった。向かってくる敵と対峙しながらも、シュウトの動きを観察したい好奇心を抑えられなかった。一体何者なのか。何故これほどの超人が、見ず知らずの自分を助けるのか。ただ、彼となら、この大軍を相手にできるかもしれなかった。ひと振りでなぎ倒す敵の数は、王と比べ物にならない。情けないながらに、頼らずにはいられなかった。
 敵の数は相変わらず減る気配を見せなかった。シュウト達の周りにはどんどん人が倒れていき、踏まれていった。王が傷を負わないように注意を払いながら、彼の近くの相手から倒していく。自ら動かなくても、彼らから挑んでくれるため、戦いやすかった。数の割合で言えば、北の軍よりも自国の軍の方が数が多かった。遠くから援軍が次から次へとやってくるのが、うっすらと視界にも入っていた。基本的にシュウトに体力の限界はないはずだったが、ここまでの数を経験した事がないため、自信はなかった。そして更に、王はシュウトほどは持たないはずだった。彼にどれほどの武術と体力があろうとも、人である以上は限界があった。どこかで戦っているユウと合わせて心配だった。
 
 陽はやや真上を通り過ぎていたが、躊躇なく変わらず熱を放っていた。
 さすがのシュウトでも暑さを感じて不快だった。汗が滴るのと、衣がまとわりつくのとで、太陽を恨めしく思い一度だけ睨んだ。ただ、思いが届くわけがなく、僅かに傾いても気温は上がる一方だった。その分、時間が経てば経つほどに、敵の数は減ってきていた。ようやく兆しが見えてきて、戦い続けていた三人にも少し余裕が出来た。 北の軍がついに自らの危険を察して一度退く。彼らは固まり距離を取りながら西側へ移動していく。その先には、見かけた顔があった。まだ遠かったが、三人には十分に判別できた。左右に軍を従えた、馬車に乗ったキヌンだった。そして、隣にはアンリがいた。北の軍の長とキヌンは何やら会話をしているようだった。それを確認した両軍の兵は、揃って彼らの位置まで下がった。急に辺りががらんとしたシュウト達は、現されたお互いの姿を夢幻のように見合った。三人共息を乱しながらも、しっかり二本の足で立っていた。
 王は戦場で初めてユウを見たようで、驚きのため息をこぼした。
「ユウ、お前も来ていたのか」
 ユウはシュウトより離れた所におり、王に名を呼ばれたのに気がつくとすぐに駆け寄った。
「メリアメ王!ご無事で何よりです」
 ユウは走ってきた勢いのまま、王の元までたどり着くと片膝をついて深く頭を下げた。
 王は知った顔に嬉しそうな表情を浮かべた。
「お前はあっちにつかなくてよかったのか」
 微かに皮肉めいた口調だったが、言葉にためらいはなかった。ユウにとってキヌンが恩師である事は王も十分理解していたのだった。ユウは顔を上げ、自信たっぷりに首を振った。
「アンリ様、アマネ様に合わす顔がありません。僕達は日頃から、国を、王を守るために鍛えているのです」
 王は満足げに何回か頷いた。ただ、ユウは表情を険しくして更に続けた。
「少し前まで、姫様方と一緒にここを目指していました。申し訳ありません、危険を承知の上で、姫様方の強い意志に背く事ができませんでした。共に旅してきた六人全員、王の無事を祈ってきたのです。あの方の隣にいるアンリ様が、どんなお気持ちでいるか…」
 ユウの視線の先には、キヌンとアンリがいた。王とシュウトもつられて顔を動かした。距離があるため顔色までは読み取れなかったが、まるで魂の抜かれた人形のようだった。
 彼女の心情が痛いくらいに感じられて居ても立ってもいられなかった。そしてシュウトは、ハルカの無事を確認したくてどうしようもなかった。二人の気持ちを察した王は、意を決したように二人を置いて前進し始めた。
「行くぞ」
 王は振り返らずにそれだけ言った。二人は我に返って彼の後に続いた。さすが王だった。今は少しでも身体を休めて、向こうが動き出すのを待つべきだった。初めて対面したシュウトさえも従いたくなってしまう魅力があった。ちらと隣のユウと目を見交わした。お互い何も言葉は浮かばなかったが、労いと、ここからが本番だと語っていた。二人は揃って前方へ視線を移した。キヌンらはさすがに、急ぐ必要はないとどっしり構えていた。兵は攻撃するための配置に固まって三人を待っていたが、まだ命令はくだっていないようだった。武器だけ構えて静かに立っていた。
 彼らの動きに注意を払いながらも三人はどんどん距離を詰めていき、ついに声が届く距離までくると、王はおもむろに歩みを止めた。シュウトとユウも王の左右に並ぶ。
 誰が第一声を上げるか、互いに探っているところだった。
 王は信頼していたキヌンの言葉を聞きたかったが、彼は無表情のように前を見つめるだけだった。
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