太陽の猫と戦いの神

中安子

文字の大きさ
60 / 62

理想

しおりを挟む
 六人が顔を合わせたのは、翌日の昼だった。
 王は夜明け前に陣地に辿りついたレイ達三人を部屋で休ませ、起床した頃に合わせて食事の席を設けたのだった。久しぶりに綺麗な寝床でぐっすりできたため、皆すっきりとした顔をしていた。召使いが席に座らせ、配膳をしてくれる。真ん中には王が、左右に六人が並んだ。姫以外は丁重な接待に慣れていないため、緊張した面持ちで身構えていた。
 王は綺麗さっぱり身なりを改め、清々しい表情でグラスを掲げた。
「この戦で大事なのは、勝ち負けではなかった。危険な道を歩んででも、私を助けようとしてくれた皆に、感謝の念でいっぱいだ。それだけの娘達、部下がいる事を、誇りに思えた戦だった。国は一度力を弱めたが、ここからまた、気持ちを新たにつくっていこうと思う。本当にありがとう」
 王はそう言って一人一人とグラスを交わした。
 心に響く、熱い言葉だった。王になるべくしてなった人なのだと誰もが思える器を持っていた。彼は社交的で、六人から色々な事を聞き出していったが、どうも皆思うように話せなかった。その原因は、いつも空気を明るくしていたハルカが大人しかったからだった。普段の彼なら、王の身分など気にもせず、言いたい事を言うだろう。こんな機会は滅多にないと、むしろ楽しむ性分のはずだ。同じ調子のシュウト、どこか静かなレイを見れば、言葉にせずともアンリ達にも察しがついた。別れがもうじき来るのだと。
 食事が落ち着いた頃、伝令がそっと近づいてきて王に耳打ちをした。王は隠すつもりは一切ないらしく、伝令が去るとすぐに口を開いた。
「北の長一行が訪ねて来てくれたそうだ。一緒に行かんか」
 六人は促されるままに、王の後に続いた。広場に出ると、明るい日差しの中穏やかな表情を浮かべた北の軍がいた。敵意は一切なく、恭しく立っている。昨日と同じ軍兵だとは思えなかった。北の長とメリアメ王が中央へ進み出て、何か言葉を交わしていた。
 国と国とが結ばれるのは、よくある事ではあった。実際にその場面を見るのは、ユウ以外は初めてだったが。北へ進む足がかりになる。これはお互いに利益のある同盟だった。ただ、今本当に大事なのは何かと聞かれれば、それが答えにはならなかった。シュウトだけは、糸が一つずつ解けていくような、重荷が消えていくような、そんな不思議さを感じていた。全ては、この時のために用意されたのだ。
 北の長は、後ろに控えていた娘の名を呼んで近くへよこした。娘は頭から被っていたヴェールをおろし、王の元で膝をついた。
「同盟の証です。私の八番目の娘です。ぜひ、王宮へ置いてやってください」
「ありがとう。大切にしよう」
 そう言って二人の王は固い握手を交わした。北の長は最後にと、王と六人に向かって言った。
「我々は今まで、別々の地で、遠い先祖から受け継がれた血を大切にしてきました。けれど、今になってみれば、それはそれほど重要な事ではありませんでした。多少の見た目の違いはあれど、我々は、心を通わす事ができるのです。きっと私達は、死ねば同じ世界へ行く事でしょう。身分も身なりも関係なく結ばれた六人方は、この世の理想です。どうせあちらで共に過ごすのに、ここで争うのは無意味でしょう」
 北の長はにこやかに微笑み、礼を述べて静かにその場を後にした。彼の言葉はそれぞれに深く染み込んでいた。まるで全てを知っているかの様だったが、そんな事も気にしていられないくらい、何かが急かしていた。
 王は一つ深呼吸すると、六人と北の娘に声を掛けた。
「まだ一日は長い。ゆっくり酒でも飲もう」
 普段ならば、流れですぐに頷いているところだった。どう返していいか分からず、時が止まったかのように黙って佇んでいた。何と言えば王が納得してくれるか、皆が思案している中、シュウトがおもむろに進み出た。
「王、ありがとうございました。迎えが来ます。私は行かなければなりません」
 王は眉をひそめてシュウトを見た。何も包み隠さない、ありのままのシュウトの言葉だった。何も知らないながらに、嘘偽りを口にしているとは思えなかった。彼の常人離れした雰囲気は、王も戦の時から重々理解していた。
「もっと色々と話を聞きたかった、残念だ。皆で見送ってあげなさい」


 シュウトは何処へ行けばいいか既に知っているようだった。無意識の内に足が動いている。
 王は北の娘と残るようだった。護衛に馬の手配だけ指示して、姫らを乗せるようユウとレイに目配せした。
 五人は急に歩き出したシュウトに驚き、ばたばたと慌てて後を追った。
 地平線に帰ろうとしている太陽へ向かって、真っ直ぐに進んでいた。シュウトは眩しそうにする素振りも全くなく、誰かに操られているかのように一心に歩いていた。誰も声を掛けられなかった。もし返ってこなかったら、平静でいる事ができない。今はただ、早足で歩くシュウトについて行く事で精一杯だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...