太陽の猫と戦いの神

中安子

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決着

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 既に兵士らは皆倒れ、メリアメとユウ、キヌンとアンリが向き合っていた。
 キヌンももう姫を人質にとる事はしなかった。勝つためには、二人を倒さなければならない。キヌンは覚悟を決めて剣を構えた。
 メリアメ王もゆっくりと剣を構える。
「ユウ、俺がやる。手は出すな」
 ユウは「分かりました」と小さく呟いてから、そっと剣を鞘に収めた。
「俺を倒せたら、国はお前にやろう」
「さすがですね、王」
 キヌンは半ば苦笑いを浮かべて溢した。
「手加減はしませんよ」
 そう言うと、彼はすぐに踏み出し、剣のぶつかり合う音が辺りに響いた。ぎりぎりと刃が鳴る。合わさっては弾きの繰り返しだった。二人共剣さばきは鮮やかで、見ていて美しいとさえ思えるくらいだった。夕日を受けて、刃が時たまきらりと輝く。
 決着は思いのほか早かった。太陽が一瞬、地平線に沈む直前に、鋭い光を放ったのだった。キヌンが目をくらました隙をついて、王は剣を大きく振りかぶった。その勢いで、キヌンの剣は手を離れ砂地に刺さった。王はすかさず彼の首に切っ先を向ける。
 悔しがる事もなく、全てを悟ったように、キヌンはゆっくり両手を挙げた。もう今更何をしても無駄だった。味方は皆倒れていた。
「何も言う事はありません。死んで償います」
 割り切った様子の彼を、王は静かに見つめて首を振った。
「生死は神のみが決める。偽りがあったとはいえ、お前の戦の功績はかわらない。王宮へ連れて帰る。罰はその後で考えよう」
 王は感情を込めず淡々と言った。彼からすれば、死んだ方が楽なのかもしれない。ただ、王はそれは許さなかった。
「自分から逃げるな。ユウ、手を縛れ」
 ユウは急に名を呼ばれ、我に返って駆け寄った。腰に付けていたロープで、一切抵抗のないキヌンの両手を縛った。
「一度陣地へ連れて帰る。ユウ、手伝ってくれ」
「分かりました」
 レイがそっと近づいてきて、頭を僅かに下げた。
「西の陣地にセヌス様がおられます。メリアメ王の身を案じてらっしゃいました」
「そうか。ありがとう。そこへ向かおう。君達にもお礼をしたい。ぜひ一度立ち寄ってくれ」
「伺います」
 王は嬉しそうに頷くと、北の長へ向かって声を掛けた。
「もしよろしければ、あなたもお越し下さい。これも何かの縁でしょう」
「ありがとうございます。支度を整えて明日ご訪問致します」
 北の長は丁重に頭を下げ、その場を後にした。
 王はアンリとアマネを馬車に乗せ、自ら手綱を握った。ユウはこの戦場まで乗って来た馬に、キヌンと共に乗って王に続いた。残された三人は彼らの去っていく姿を見送った。お互いに何か言いたげに見合いながらも、口に出す事は叶わなかった。三人は無意識のうちに集まっていた。面と向かって顔を合わすのが久しぶりな気がして、こそばゆさに頬を緩ませた。
 先ずはレイが深く頭を下げた。
「ありがとうございます。王は無事救われました。神の使命は達成されました」
「帰れるんだな、俺達」
 ハルカは嬉しそうに笑った。
「無事でよかった」
 シュウトはまだ傷の癒えていないハルカを、愛おしそうに眺めた。
「お前も帰れるんだろう?」
 ハルカのひょんな問いに、思わず言葉を詰まらせてしまった。助けが欲しくてレイを見るが、彼は切なげな表情で見返してきた。目的を果たした時、終わりが来るとは思っていたが、それが実際何時なのかは知らなかった。レイの様子では、彼は大体の予想がついているはずだった。彼が口にしないという事は、長くはないのだろう。二人の様子を、ハルカは不安げに見つめた。
「俺にも心の準備がいる。予想がついてるなら、はっきり言って欲しい」
「多分、明日の日没後です。神が迎えの船に乗ってやって来るでしょう」
「断れないんだよな?それ」
 ハルカは駄目もとでシュウトに訊ねた。戦が終わったばかりで、自分の終末など考えてもいなかった。早く死にたいとずっと思ってきたはずなのに、すぐに答えが出せなかった。きっと神に二度目はない。ただ、ハルカと過ごす時間にも二度目はなかった。この世界を離れれば、もう会えないはずだ。どうすればいいのか分からなかった。戸惑っているシュウトの様子を見て、ハルカは明るく笑って彼の肩を叩いた。
「そりゃ、俺は寂しくなるけど、シュウトの好きにしろよ。お前の人生だ」
 彼の優しさが嬉しくて胸が熱かった。何も返せなかった。募る思いが多すぎて、自分でも処理しきれない。レイがそっと間を取り持つ。
「とりあえず、王が向かわれた陣地へ行きましょう」
「そうだな」
 ハルカは調子よく返事をしてから、歩き出しながらぼそっと溢した。
「なんだか、立ち位置の差を思い知らされた気がするよ」
 シュウトは気遣わしげに隣の相棒を見た。
「とはいえやっぱり、アンリちゃんが無事でよかった」
「ハルカもですよ」
 レイは目を細くして言った。
 三人は肩を並べて、星明かりで薄く照らされた砂地を静かに歩いた。
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