捨てられ雑用テイマーですが、森羅万象を統べてもいいですか? 覚醒したので最強ペットと今度こそ楽しく過ごしたい!

登龍乃月

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別章 影の英雄と呼ばれた男

3.テイマーアダム

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 バルザックには、かつて冒険者として活動していた祖父と祖母がいる。
 二人は決して高ランクの冒険者というわけではなかったが、幾多の旅路と数々の困難を共に乗り越えてきた。
 とりわけ祖母は、あるモンスターとの戦いによって深手を負い、生死の淵をさまよったことがある。
 その危機を救ったのが、偶然立ち寄ったこのタルポ村であり村の人々だった。
 村の温かな看護と、祖父の決断が重なり、二人は冒険よりも安らぎを求めてこの地に根を下ろしたという。
 そんな祖父母の血を色濃く受け継いだバルザックは、幼少期から他の子どもたちとは一線を画していた。
 通常であれば十五、六になってから発現するはずの剣士系スキル【乱れ斬り】を、僅か十歳で身につけていた。
 その剣の一振りは、同年代の誰も太刀打ちできず、大人たちすら舌を巻くほどであった。
 体格にも恵まれ、長い手足としなやかな筋肉は、祖父譲りの鍛錬の賜物だ。
 バルザックの強さは、単に肉体だけにとどまらない。
 村に現れる凶暴なモンスターを前にしても決して怯まず、仲間を守るために一歩も退かぬ胆力を持っていた。
 そんな彼に思わず熱を入れて指導するのが、かつて剣を振るった元冒険者たちだった。
 彼らはバルザックの素質を見抜き、時には大人顔負けの厳しい稽古を課した。
 中には「これほどの逸材は久しぶりだ」と感嘆の声を漏らす者もいた。
 厳しい鍛錬の日々は決して楽なものではなかった。
 時には心が折れそうになることもあったが、バルザックは祖父母から受け継いだ不屈の精神で何度も立ち上がった。
 稽古の合間には祖父母から冒険時代の逸話を聞き、村人たちからは温かな応援を受けることで、心も体もますますたくましく成長していった。
 こうしてバルザックは、村の誰もが一目置く存在となり、年長者たちからも将来を嘱望される若者となった。
 彼の成長は止まることを知らず、その後の功績によりやがてタルポ村の伝説として語り継がれていくことになるのだが、それはまだもう少し後の話。

「おいバルザックよ。アダムはまーた森ん中で遊んどるんか?」

 夕方、バルザックは巡回を終えて特にやる事もなく、目的もなく広場へやって来ていた。
 そこへ仲間と晩酌をしていた男が、酒で頬を赤らめながら尋ねてきた。

「はい、さっき巡回の時、森の中でモンスターと遊んでいるのを見ました」
「かー、本当にアイツは恐れを知らんというか、馬鹿というかなんというか、モンスターなぞ危険でしかないわい」

 男は目を丸くした後顰めっ面をし、酒を煽った。

「まぁ、アイツも【テイマー】っていうジョブに目覚めたみたいですよ」
「ていまぁねぇ、聞いた事もないが――そりゃそうか! 俺っちはこの村から出た事ねーべからな! がはは!」
「なんでもモンスターと意思疎通が出来て、条件を満たせばそのモンスターを使役する事が出来る、そんなジョブだそうです」
「へぇー、世の中にゃ変わったモンが、あるもんだのぉ。ほだ、よう知っとるの?」
「ええ、本人から聞きましたから」
「そがそが」

 バルザック十四歳、その甘いマスクと実力にいっそう磨きがかかり、村の少女達は皆彼に夢中になっていた。
 そんな彼が気になっているのがアダムという少年だった。
 アダムは村の外れに住んでおり、麦と牛を育てている両親の手伝いをし、川で釣りをしたり周囲の村人の手伝いをしたりするごく普通の少年でありごく普通の家庭だった。
 その両親もどこからか流れてきた夫婦だが、多くを語らずとも人当たりの良い者達だった。
 しかしある時から、アダムは時間を見つけては森に入り浸るようになり、村の稽古も全く来なくなった。
 バルザックがアダムを見かけたのは、バルザックが森の中で巡回をしている時だった。
 
「お前、そこで何してるんだ?」

 バルザックはそこでつい声をかけてしまった。
 なんせアダムは数頭のモンスター、額に角を生やしたホーンラビットというモンスターの前に座り込み、穏やかな笑みを浮かべていたからだ。
 
「ああ、バルザック君か。この子達とちょっとね」

 アダムはこちらを向きもせずに答え、口角を上げてニコリと笑った。

「そいつはモンスターだぞ。それにホーンラビットは警戒心が強くて人前には滅多に出てこない種類のやつだ。それがどうしてそんなに――」
「あまり大きな声を出さないでくれるかい? この子達が驚いて逃げてしまうから」
「――すまない」

 バルザックはアダムの言葉に素直に謝罪し、その場に立ち尽くした。
 アダムは笑ったままホーンラビットの頬を撫で、角のてっぺんを指先でちょんと優しく突いた。
 ホーンラビットはくすぐったそうに目を細め、後ろ脚で地面をリズミカルにトントンと叩き始めた。
 バルザックはその光景から目を離す事が出来ず、ただただ見つめていた。

「俺と友達になってくれるかい?」
「キュッ」
「ありがとう」

 まるでモンスターと意思の疎通が出来ているかのようなやり取りのあと、アダムの指先が薄っすらと光りその光がホーンラビット達に伝わっていく。

「……何をしたんだ?」
「友達になってもらったのさ。俺は友達があまりいないから」
「友達……」

 ホーンラビット達はアダムの手に体を擦り付けると、数回その場で跳ね上がり、草むらの中に消えて行った。
 アダムは友達があまりいないと言っていたが、確かにそうかもしれないとバルザックは思った。
 人当たりも良く、コミュニケーション能力が悪いわけでもないが、彼は村の人々と距離を置いているような感じがしていたのをバルザックは思い出した。

「あまり無茶はするなよ」
「分かってるよ」

 バルザック自身、アダムとそこまで親しくはなく、タイプが違うために近付くつもりも無かった。
 
「ではな」
「うん、じゃあね」

 バルザックはその場を去り、残ったアダムは去っていくバルザックの背中を見つめていた。
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