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別章 影の英雄と呼ばれた男
4.邂逅
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「凄いよなぁ。バルザック君は今じゃ村一番の戦士、かくいう俺は……何がしたいんだろうな」
アダムが【テイマー】のジョブに目覚めたのは十二歳と半分の頃だった。それからのアダムは自分の居場所はここじゃない、と感じるようになっていた。
かと言ってタルポ村の生活に不満があるのかと聞かれたら、そうでは無いと答えるだろう曖昧な気持ち。
穏やかで健やかでどこまでも自然的なこの村と、村に生きる人々の事はアダムの中でも大切だと思っている。
だが何かが違う、漠然とした何か、自分でも分からない何かがアダムの中にはあった。
思春期ゆえの悩みか、それともジョブに目覚めたせいなのか、そもそも普段から他人とあまり深く関わろうとしてこなかったアダムだが、ジョブに目覚めてからは、さらに拍車が掛かったように人と関わる事を避けた。
村人からもアダムの事は変わった奴だと認識されているが、それも自分の立ち振る舞いのせいだという自己認識もあった。
決して内向的だったりネガティブな性格ではないアダムは、自己の中にある他者との壁に悩む事も多かった。
浅く広く知り合いはいるが友達と呼べるほど距離の近い者はいない、もっと言えば他人の心に踏み込む事が出来ない、そんな生活がしばらく続いていたのだった。
それに比べて――とアダムは先ほど去っていったバルザックの背中を思い出す。
「あいつはクールでイケメンで社交性もコミュニケーション能力も化け物じみてて、すげーよなぁ」
アダムにとってバルザックは憧れの存在だった。
類稀なる剣の才能と恵まれた体格、そして甘いマスクと常に冷静さを失わない大人っぽさ。
どれを取っても今のアダムには持ち得ないものばかりで、先ほど声をかけられた際もどうしたらいいか分からず、顔も見れなかった。
その時の自分はまるで、声をかけられて狼狽える村の少女達のようだったな、と鼻で笑う。
村の少女達はみなバルザックを好いているし、誰が彼のハートを射止めるかという静かな戦いが行われているのもアダムは知っている。
それに比べて自分は剣の才能なんて無いし、体格だって普通、甘いマスクとは言い難いし冷静かなんて分からない--とアダムは大きく息を吐き出して落胆する。
実に凡庸で実に目立たない普通の少年、嫉妬と羨望が混じり合った憧れは、買いたくても買えない高値の物を外から眺める事しか出来ないもどかしさに似ていた。
「グルル……」
気付けばアダムの側には、鋭く長い牙を生やしたグレイウルフが座り、じっとアダムの横顔を見つめていた。
「やぁグレイか。昨日は彼女と一緒じゃないのか?」
グレイウルフに気付き、その荒くごわついた被毛をそっと撫でた。
「グルル」
グレイウルフの名はグレイ、安直過ぎる。
グレイはアダムが一番最初にテイムしたモンスターで、ウルと名付けたメスのグレイウルフがつがいにいる。
グレイウルフはモンスターとしての脅威度はD級だが、群れを成して狩りをする習性から集団脅威度はCとなる。
モンスターの脅威度は王都にある冒険者ギルドが設定しており、そのランクはSS級からE級まで。
そこから個体脅威度、集団脅威度、特定脅威度など細かく設定され、同ランク内でも強さにより下位中位上位と分類される。
またフィールド上で遭遇するモンスターは、ダンジョン内モンスターと比べて脅威度が低いものが多いとされている。
閑話休題--。
アダムはモンスターの言葉を一語一句全て理解しているわけではないけれど、モンスターの言いたい事や意思がなんとなく分かった。
いや、テイマーに目覚めてから解るようになった、と言った方が正しいだろう。
テイマーに目覚める前は、目に映るモンスター全てが害意と敵意を持っているように感じていたアダムだったが、今では違う。
優しい心を持ったモンスターもいれば、人やモンスター種別関係なく襲いかかる好戦的なモンスターもいると知った。
友達になってくれるモンスターがいるからこそ、アダムは危険と言われる森の中でも一人でフラフラ出来るのだ。
とは言っても、テイマーに目覚めたばかりのアダムがテイム出来るモンスターの種類には限りがある。
今アダムが友達になれるのは、初級冒険者が対等に戦えるといわれる、DかEランクのモンスターだけだった。
それでもアダムにとって大事な友達には変わりないし、森の中で助けになってくれたり、良き道標になってくれるのだ。
「薬草でも探して帰ろうかな。グレイも来るか?」
「ゥオゥ!」
「はは。分かった。一緒に行こう」
アダムは尻尾を振り、荒い息遣いのグレイウルフをお供に、さらに森の奥へと入って行った。
森の奥は村民がほとんど立ち入らない場所なので、当たり前だが手をつけられていない薬草やハーブなど様々な素材が群生していたりする。
そこは少し前に、モンスターを追ってここまで入り込んだアダムがたまたま見つけた場所だ。
そこで採れた薬草やハーブなどを貯め、週一で訪れる行商人に売る。
そうして得たお金は半分は貯金に回して、残りは親に渡していた。
毎日来るわけではないけれども、週の半分は奥地まで足を伸ばす、それがアダムの森林ルーティーンであった。
薬草やハーブ、食べれるキノコや毒キノコなどの知識は家にあった辞典で得たものだ。
初めの頃は辞典を片手に色々と探していたが、今では辞典の中身は全て脳の中に記憶されている。
アダムはいずれこのタルポ村を出て、遠く離れた王都に行って――行った先は特に考えてはいなかったけれど、冒険者になるのもいい、と薄っすら思ってはいた。
これが森羅万象の王となるアダムと、無貌の剣聖と呼ばれるバルザックの初めての邂逅だった。
アダムが【テイマー】のジョブに目覚めたのは十二歳と半分の頃だった。それからのアダムは自分の居場所はここじゃない、と感じるようになっていた。
かと言ってタルポ村の生活に不満があるのかと聞かれたら、そうでは無いと答えるだろう曖昧な気持ち。
穏やかで健やかでどこまでも自然的なこの村と、村に生きる人々の事はアダムの中でも大切だと思っている。
だが何かが違う、漠然とした何か、自分でも分からない何かがアダムの中にはあった。
思春期ゆえの悩みか、それともジョブに目覚めたせいなのか、そもそも普段から他人とあまり深く関わろうとしてこなかったアダムだが、ジョブに目覚めてからは、さらに拍車が掛かったように人と関わる事を避けた。
村人からもアダムの事は変わった奴だと認識されているが、それも自分の立ち振る舞いのせいだという自己認識もあった。
決して内向的だったりネガティブな性格ではないアダムは、自己の中にある他者との壁に悩む事も多かった。
浅く広く知り合いはいるが友達と呼べるほど距離の近い者はいない、もっと言えば他人の心に踏み込む事が出来ない、そんな生活がしばらく続いていたのだった。
それに比べて――とアダムは先ほど去っていったバルザックの背中を思い出す。
「あいつはクールでイケメンで社交性もコミュニケーション能力も化け物じみてて、すげーよなぁ」
アダムにとってバルザックは憧れの存在だった。
類稀なる剣の才能と恵まれた体格、そして甘いマスクと常に冷静さを失わない大人っぽさ。
どれを取っても今のアダムには持ち得ないものばかりで、先ほど声をかけられた際もどうしたらいいか分からず、顔も見れなかった。
その時の自分はまるで、声をかけられて狼狽える村の少女達のようだったな、と鼻で笑う。
村の少女達はみなバルザックを好いているし、誰が彼のハートを射止めるかという静かな戦いが行われているのもアダムは知っている。
それに比べて自分は剣の才能なんて無いし、体格だって普通、甘いマスクとは言い難いし冷静かなんて分からない--とアダムは大きく息を吐き出して落胆する。
実に凡庸で実に目立たない普通の少年、嫉妬と羨望が混じり合った憧れは、買いたくても買えない高値の物を外から眺める事しか出来ないもどかしさに似ていた。
「グルル……」
気付けばアダムの側には、鋭く長い牙を生やしたグレイウルフが座り、じっとアダムの横顔を見つめていた。
「やぁグレイか。昨日は彼女と一緒じゃないのか?」
グレイウルフに気付き、その荒くごわついた被毛をそっと撫でた。
「グルル」
グレイウルフの名はグレイ、安直過ぎる。
グレイはアダムが一番最初にテイムしたモンスターで、ウルと名付けたメスのグレイウルフがつがいにいる。
グレイウルフはモンスターとしての脅威度はD級だが、群れを成して狩りをする習性から集団脅威度はCとなる。
モンスターの脅威度は王都にある冒険者ギルドが設定しており、そのランクはSS級からE級まで。
そこから個体脅威度、集団脅威度、特定脅威度など細かく設定され、同ランク内でも強さにより下位中位上位と分類される。
またフィールド上で遭遇するモンスターは、ダンジョン内モンスターと比べて脅威度が低いものが多いとされている。
閑話休題--。
アダムはモンスターの言葉を一語一句全て理解しているわけではないけれど、モンスターの言いたい事や意思がなんとなく分かった。
いや、テイマーに目覚めてから解るようになった、と言った方が正しいだろう。
テイマーに目覚める前は、目に映るモンスター全てが害意と敵意を持っているように感じていたアダムだったが、今では違う。
優しい心を持ったモンスターもいれば、人やモンスター種別関係なく襲いかかる好戦的なモンスターもいると知った。
友達になってくれるモンスターがいるからこそ、アダムは危険と言われる森の中でも一人でフラフラ出来るのだ。
とは言っても、テイマーに目覚めたばかりのアダムがテイム出来るモンスターの種類には限りがある。
今アダムが友達になれるのは、初級冒険者が対等に戦えるといわれる、DかEランクのモンスターだけだった。
それでもアダムにとって大事な友達には変わりないし、森の中で助けになってくれたり、良き道標になってくれるのだ。
「薬草でも探して帰ろうかな。グレイも来るか?」
「ゥオゥ!」
「はは。分かった。一緒に行こう」
アダムは尻尾を振り、荒い息遣いのグレイウルフをお供に、さらに森の奥へと入って行った。
森の奥は村民がほとんど立ち入らない場所なので、当たり前だが手をつけられていない薬草やハーブなど様々な素材が群生していたりする。
そこは少し前に、モンスターを追ってここまで入り込んだアダムがたまたま見つけた場所だ。
そこで採れた薬草やハーブなどを貯め、週一で訪れる行商人に売る。
そうして得たお金は半分は貯金に回して、残りは親に渡していた。
毎日来るわけではないけれども、週の半分は奥地まで足を伸ばす、それがアダムの森林ルーティーンであった。
薬草やハーブ、食べれるキノコや毒キノコなどの知識は家にあった辞典で得たものだ。
初めの頃は辞典を片手に色々と探していたが、今では辞典の中身は全て脳の中に記憶されている。
アダムはいずれこのタルポ村を出て、遠く離れた王都に行って――行った先は特に考えてはいなかったけれど、冒険者になるのもいい、と薄っすら思ってはいた。
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