捨てられ雑用テイマーですが、森羅万象を統べてもいいですか? 覚醒したので最強ペットと今度こそ楽しく過ごしたい!

登龍乃月

文字の大きさ
53 / 56
別章 影の英雄と呼ばれた男

5.決意

しおりを挟む
 雲一つないよく晴れた日の昼下がり、パコォーーン! と気持ちの良い乾いた音がタルポ村の広場に鳴り響いた。

「勝負あり!」
「っふぅ……ありがとうございました」
「はぁっ、はあっ……ついに負けちまったかー! くそー!」

 肩で大きく息をするバルザックの額には、滴り落ちるほどの大粒の汗が噴き出ていた。
 そしてバルザックの眼下には、大の字になって地面に寝転ぶ元冒険者の姿があった。
 この元冒険者のランクはB級で戦士職を担当していた過去を持ち、タルポ村最強の戦士だったのだが、この度バルザックとの打ち合い稽古で残念ながら打ち負かされてしまった。
 
「本当にお前強くなったなぁ……これでお前がタルポ最強の男だ!」
「皆さんの指導のおかげですよ、本当にありがとうございました」

 ちなみに、稽古の先生を担当していた元冒険者は四人いたのだが、そのうちの三人がバルザックに負けてしまっていた。
 そして今日、最後の一人に見事勝利し、村最強の剣士という肩書を手にした。これはバルザック齢十五歳の秋の事だった。
 
「いやぁー今日は宴だなぁ!」

 負けた元冒険者は上半身を起こし、実に嬉しそうに笑った。

「負けたのに、ですか?」
「ばっきゃろう! お前さんが村最強になった祝いだ!」
「はぁ……」

 元冒険者はガハガハと笑い、バルザックはどうしたものかと困惑を隠せないでいた。
 一応成人とされる十五歳は超えているのでバルザックも酒は飲めるのだが、村で行われる宴の席はあまり好きではなかった。
 何故なら酒の勢いを借りた村の少女達や、貰い手がいない若い娘達からのアピールがもの凄いからである。
 村の男達もその事に初めは良い顔をしていなかったが、バルザックが実力を伸ばしていくにつれ、やいのやいのと囃し立てるようになった。
 実のところ、バルザックが困惑している理由はそれだけではなかった。
 バルザックはそれをいつ言おうか、いつ切り出そうかと眉根を寄せる。
 その夜、村の広場には何故か【バルザック最強祝い】という横断幕が大きく貼られ、大勢の人が集まった。
 入れ替わり立ち替わりバルザックに祝いの言葉をかけ、乾杯をして去っていく。
 タルポ村の住人達は宴会を娯楽の一つとして考えており、ほんの小さな出来事(家畜の牛が子を産んだなど)だとしても盛大に祝い散らかすのが通例となっている。
 賑やかな祝宴の最中、バルザックは人々の笑い声と酒の香りに包まれながらも、心の中で密かに決意を新たにしていた。
 自分にはこの村だけでは収まりきらない夢がある――かねてより抱いていた「王都で名を上げる」という大望だ。
 夜も更け、村の広場の明かりが少しずつまばらになり始めた頃、バルザックは意を決して村長のもとへ歩み寄った。
 村長は年季の入った白髪の老人で、村の誰よりもバルザックの成長を見守ってきた人物だ。
 彼は宴の余韻に浸りながらも、バルザックが近づいてくる気配に気づき、静かに盃を置いた。

「村長、少しお話ししてもよろしいでしょうか」

「……ふむ、なにかね?」

 バルザックの真剣な眼差しに、村長は頷いた。
 バルザックは深呼吸し、自身の胸の内を語り始める。

「俺は……この村だけで終わるつもりはありません。王都へ行って、もっと広い世界を見たい。そして、剣の腕一本で名を上げたいんです」

 村長はしばらく黙っていたが、やがて柔らかな笑みを浮かべた。

「お前がそんな日を迎えると、私は昔から思っていたよ。タルポ村で一番のやんちゃ坊主が今や村一番の英雄だ。だが、外の世界は村とは違うぞ。危険も、多い」

「それでも行きたいんです。王都までの道のりも、全部自分の足で歩いて、いろんな景色を見て、いろんな人に会いたい。きっと、それが強くなるために必要なことだと思うんです」

 村長はしばらく思案するように目を閉じていたが、やがてゆっくりと頷いた。

「分かった。お前の旅立ちを、村のみんなで見送ろう」

 村長の判断を受け、バルザックの胸に熱いものが込み上げた。
 その言葉には、長い年月を共に過ごしてきた信頼と、村長の温かな想いが込められていた。
 旅立ちを許してもらえない、とは全く思っていなかったけれど、こうして顔を合わせて話をしてみるとやはり感慨深いものだ、とバルザックは思った。

「ありがとう村長。必ず、立派になって戻ってきます」

 その後、村長との話を終えたバルザックは広場の端に腰を下ろし、夜空を見上げた。
 無数の星がきらめくその空の下、見知らぬ土地や、まだ見ぬ人々との出会いに思いを馳せる。
 歩いて王都へ向かうことで、道中の景色、風の匂い、人々の暮らし――その一つ一つを自分の目と心で確かめ、己を磨く旅が始まるのだ。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。