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一章 逸脱者
1.嘘みたいな本当の話
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「ふざけるな! そんなわけが無い! もう一度だ!」
石造りの室内に怒号が響き、テーブルを殴る重い音
が続いた。
「し、しかし陛下……もう五回目です……そろそろお辞めになっては……」
「黙れ! こんな事があってたまるか!」
室内にいるのは六人。
怒号を発し、陛下と呼ばれた赤い髪の男、フレアム・グランシャリオ。
世界的宗教団体【四元教】のトップにして、神法国家【エレメンタリオ】の王という超ビッグな人物。
これが僕の父だ。
均等に並べられた丸椅子に座るのは三人の子供。
長男バーニリア・グランシャリオ。
長女アクアリア・グランシャリオ。
次男ウィンドリア・グランシャリオ。
兄上姉上は皆、一様に気不味そうな顔をして僕を見ていた。
そして、部屋の中央に置かれた台座にはこの僕、アース・グランシャリオは大きめの水晶玉を抱えて、ジッと下を向いて立っていた。
そろそろお辞めになっては、と父に諫言していたのは、信頼のおける臣下の一人アリエス。
気難しい父に長年仕え続けている忠義者であるとともに、十二宮廷魔道師団の筆頭魔導師でもある。
「こんな事あってはならん! 四元教を束ねる我がグランシャリオ家が! 数代に渡り教皇を勤め上げてきた我がグランシャリオ家の! 崇高な血脈が乱れるなど! 断じてあってはならんのだ……! くぅ……!」
わなわなと全身を震わせ、鬼もかくやという形相の父。
その表情には怒り、悲しみ、憎しみといったものが色濃く浮かび上がっていた。
グランシャリオ家の出生には、一つの不動な規則性があった。
それは当代頭首の子供は、決まって四つ子、男児三人、女児一人であるという事。
そして必ず四人の子供には、突出した四元素の魔法適性が必ず一つあるという事。
長男は火、長女は水、次男は風、三男は土というように、数代にも及ぶ家系の中でこの規則性は絶対だった。
それを踏まえた上で言うと、この僕アース・グランシャリオは地の適性が出るはずなのだ。
はずなのだけど。
一体全体どうしてこうなったのかわからないけれど。
出るはずの適性が一ミリも一端も一欠片も、雫の一滴ほども出なかったのだった。
僕が台座に立ち、水晶玉に魔力を送る。
そうすると、水晶玉は地の魔法適正を感じ取り、茶色へと色彩が変化する。
だがどうだ、僕の抱える水晶玉は鈍い灰色を浮かべているだけだった。
そりゃあ父さんがあんだけ取り乱すのも致し方ない事だと思う。
今みたいに取り乱す父の姿なんて、産まれてから十年間、一度も見た事が無かった。
僅か十歳の僕ながら、この事態の緊急性と重大性は理解している、つもりだった。
けどまぁ、これがあんな事になる始まりだとは、この時の僕は全く考えていなかった。
グランシャリオ家の子供らは、幼い頃から色々な英才教育を叩き込まれる。
十歳までは座学を中心に、それと合わせて体を作る基礎トレーニングと、徹底した食事管理。
魔法適正が現れる十歳を迎えると、通過儀礼として今僕が立ち尽くしている台座に立たされ、教皇たる父が直接、適正検査を行う。
そして節目を迎えた子供らを中心に、国の貴族や要人を招いた祝賀パーティーが開催される。
歳を重ね、研鑽を重ね、人々との関わりを重ね、四元教の幹部として育てられていくのだ。
やがて四兄弟の中から、次代の教皇が選ばれてエレメンタリオの王となる。
これが僕達グランシャリオ家の、決められた人生のレールだ。
けど僕は、十歳という若さで、意図せずして、このレールを踏み外してしまった。
石造りの室内に怒号が響き、テーブルを殴る重い音
が続いた。
「し、しかし陛下……もう五回目です……そろそろお辞めになっては……」
「黙れ! こんな事があってたまるか!」
室内にいるのは六人。
怒号を発し、陛下と呼ばれた赤い髪の男、フレアム・グランシャリオ。
世界的宗教団体【四元教】のトップにして、神法国家【エレメンタリオ】の王という超ビッグな人物。
これが僕の父だ。
均等に並べられた丸椅子に座るのは三人の子供。
長男バーニリア・グランシャリオ。
長女アクアリア・グランシャリオ。
次男ウィンドリア・グランシャリオ。
兄上姉上は皆、一様に気不味そうな顔をして僕を見ていた。
そして、部屋の中央に置かれた台座にはこの僕、アース・グランシャリオは大きめの水晶玉を抱えて、ジッと下を向いて立っていた。
そろそろお辞めになっては、と父に諫言していたのは、信頼のおける臣下の一人アリエス。
気難しい父に長年仕え続けている忠義者であるとともに、十二宮廷魔道師団の筆頭魔導師でもある。
「こんな事あってはならん! 四元教を束ねる我がグランシャリオ家が! 数代に渡り教皇を勤め上げてきた我がグランシャリオ家の! 崇高な血脈が乱れるなど! 断じてあってはならんのだ……! くぅ……!」
わなわなと全身を震わせ、鬼もかくやという形相の父。
その表情には怒り、悲しみ、憎しみといったものが色濃く浮かび上がっていた。
グランシャリオ家の出生には、一つの不動な規則性があった。
それは当代頭首の子供は、決まって四つ子、男児三人、女児一人であるという事。
そして必ず四人の子供には、突出した四元素の魔法適性が必ず一つあるという事。
長男は火、長女は水、次男は風、三男は土というように、数代にも及ぶ家系の中でこの規則性は絶対だった。
それを踏まえた上で言うと、この僕アース・グランシャリオは地の適性が出るはずなのだ。
はずなのだけど。
一体全体どうしてこうなったのかわからないけれど。
出るはずの適性が一ミリも一端も一欠片も、雫の一滴ほども出なかったのだった。
僕が台座に立ち、水晶玉に魔力を送る。
そうすると、水晶玉は地の魔法適正を感じ取り、茶色へと色彩が変化する。
だがどうだ、僕の抱える水晶玉は鈍い灰色を浮かべているだけだった。
そりゃあ父さんがあんだけ取り乱すのも致し方ない事だと思う。
今みたいに取り乱す父の姿なんて、産まれてから十年間、一度も見た事が無かった。
僅か十歳の僕ながら、この事態の緊急性と重大性は理解している、つもりだった。
けどまぁ、これがあんな事になる始まりだとは、この時の僕は全く考えていなかった。
グランシャリオ家の子供らは、幼い頃から色々な英才教育を叩き込まれる。
十歳までは座学を中心に、それと合わせて体を作る基礎トレーニングと、徹底した食事管理。
魔法適正が現れる十歳を迎えると、通過儀礼として今僕が立ち尽くしている台座に立たされ、教皇たる父が直接、適正検査を行う。
そして節目を迎えた子供らを中心に、国の貴族や要人を招いた祝賀パーティーが開催される。
歳を重ね、研鑽を重ね、人々との関わりを重ね、四元教の幹部として育てられていくのだ。
やがて四兄弟の中から、次代の教皇が選ばれてエレメンタリオの王となる。
これが僕達グランシャリオ家の、決められた人生のレールだ。
けど僕は、十歳という若さで、意図せずして、このレールを踏み外してしまった。
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