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一章 逸脱者
2.どうしてこうなった
しおりを挟む「どうしてこうなった!」
父が怒鳴り、燭台を薙ぎ払う。
ガチャーン! という音が鳴り、僕も兄姉達もびくりと体を縮こませる。
どうしてこうなった。
それは僕も同じ気持ちだ。
父はとても厳格で、子供の僕では父の気持ちを計り知る事はとても難しかった。
でもこの時、この一瞬だけは偉大な父と心が通じ合った瞬間だった。
もっとも、通じ合うには実に最低最悪な展開だったのだけれど。
「……これは呪いか……? 神からの罰か……?」
怒り顔から一転、父は顔面蒼白となって、ブツブツと何事かを呟き、ゾンビのようなおぼつかない足取りで部屋から出て行ってしまった。
「おい、見たか」
「ええ、お父様ってばもの凄いお顔になっていたわね」
「お父様のあんな顔とあんな態度、初めて見た」
椅子の上で縮こまっていた兄姉達が、恐る恐る口を開いた。
アリエスは僕らに一礼した後、父を追って部屋を出て行った。
「しかし……」
「ほんとに……」
「アースお前……」
そして兄姉達は、憐れみと戸惑いが混ざり合ったような視線を僕に送ってきた。
「僕だって……まさかこんな事になるなんて思わないよ……」
はぁ、と一息吐き、僕はその場に座り込んだ。
■
そこから数日間、父は僕ら子供達の前に姿を現すことは無かった。
僕に適正が現れなかった。
その事実は父とアリエス、そして兄姉達のみが知る事実として隠蔽された。
パーティーは三日後に控えており、僕は定例通り地の適正を持つグランシャリオ家の三男として出席する事になっている。
その予定だった。
「アースよ」
パーティーの二日前のこと。
僕は父の執務室へと呼ばれた。
父の目は虚で、心なしか全体的に痩せ細っているように見えた。
明らかに憔悴しきっていた。
「な……なんでしょうか……? お父様」
重々しい雰囲気の中、生唾を飲み込みつつ父からの返答を待った。
「アースよ、お前には死んでもらう事にした」
「……え……?」
背筋が一瞬にして凍ったような悪寒が走る。
「お前は祝賀パーティーの後、原因不明の熱病により死ぬ。分かったな」
「えと、あの……仰ってる意味が……あの、死ぬとは、その……」
口の中の水分が一気に渇き、喉が張り付く。
父はそんな僕をお構いなしに、淡々と言葉を吐き出していく。
「仕方ない事だ。理解してくれ。お前は……我が一族に置いておく事は出来ない」
「は、はい……」
「お前が死に、地の使徒は空席となるが……そこはこちらでどうとでもする。お前が気に病むことは無い」
「あの……」
「なんだ?」
「……死ぬときは……苦しいでしょうか……」
やっと出せた言葉がそれだった。
むしろそれ以外の言葉が見当たらなかった。
死ぬ。
地の適性が出なかったというのは、それほどまでに重かったのだ。
やばいなぁ、とは思っていたけど、まさか死んでしまうとは。
「何を言っている」
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