欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二三四話 先へ

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 階段を昇り瓦礫の散乱した市街地をひたすらに駆け抜けていくが、あちこちから鳴る爆発音や耳に届く悲鳴、剣戟の音などがロンシャン連邦国に起きている事態の凄まじさを物語っている。

「いったい何があったんですか!?」

 並走するアストラへ何の工夫もないストレートな疑問をぶつけてみるが、アストラの表情は険しく奥歯を噛みしめているようだった。

「わかりません……突如市街地の至る所で戦闘が発生し、モンスター達が市街地外より雪崩れ込んできました。報によると城門は全て開け放たれており、城門に詰めていた兵達は全て何者かに殺されていた模様です」

「人為的にモンスターが招き入れられた、ってことですか?」

「そうなります……市街地での戦闘とモンスターによる挟撃に対応しきれず、対応が後手に回り状況は悪化していく一方でして……お恥ずかしい限り」

「なるほど。王城に来ていたランチアの重鎮たちは?」

「申し訳ございません。私は前線におりましたので……」

「そう、ですか」

「突発的な襲撃により市民の避難もままならず、被害は拡大しております。私どもはそちらの対応で手いっぱいで……しかし王城にも襲撃があったという報は入っております。ですが安否のほどまでは」

 そこまで言ったアストラからギシリ、という硬質ななにかを擦り合わせたような音が聞こえ、それが歯ぎしりの音だと理解するまでに数秒はかかった。
 彼もまたこの状況において追い込まれている者の一人なのだと、この時初めて気付いた。
 
「フィガロ様の目的の塔はもうすぐですが、あちらでも戦闘が激化しているとの報があります。油断なされないよう」

「大丈夫です、私たちはこう見えて強いですから。お任せください」

 ぐっと力こぶを作り明るく務めると、アストラは少しだけ笑い、また険しい顔に戻ってしまった。
 ロンシャン連邦国の持つ軍事力はランチアよりも多く、兵や武装なども充実している。
 過去には砂漠に埋まる地下資源を狙った戦争なども度々起きており、争いごとに関しての備えは十全だったはずだった。
 それなにこの惨劇を引き起こしてしまったという自責にかられているのかもしれない。

「うぶっ……!」

 広大な市街地を抜け王城前の噴水広場を横切り王城の敷地内へと入り込んだのだが、王城周辺にはかなりの死体が転がっており、その惨状を目にした瞬間一気に吐き気がこみ上げてくる。
 慌てて手を口に当て、逆流してきた胃の中身を飲み下すが、むせ返るような血の匂いは無遠慮に俺の鼻に侵入してくる。
 ロンシャン兵、武装した男たち、中には等級タグを下げた冒険者であろう遺体もあったが、モンスターの遺体は見あたらないので、ここまで侵入してくることはなかったようだ。
 なぜ、どうしてこう、次から次へとトラブルが舞い込んでくるのだろうか。
 短い間ではあったが森の中での平穏な暮らしが少し恋しくなってしまう。
 これが普通の世界なのだろうか? 争いが横行し、無下に命が散っていく、こんな悲しい世界が普通だというのだろうか。
 それとも俺自身が不幸を呼び寄せているのか? だとすればやはり俺は欠陥品なのだろうか。
 グラグラと視界が揺れ、精神的な負の感情がじわじわと俺の心を苛む。

「見えます! 抜剣を!」

 初めて見る戦争の惨状に心が病みかけた時、アストラが放つ芯の通った強い声が聞こえた。
 この惨状をものともせず立ち向かう兵士の強さに改めて敬意を抱きながら、アルトラに言われるがまま背負っていた借り物の剣を引き抜いた。

「おう。大丈夫かフィガロ。顔が真っ青だぞ」

「へ、平気です。少し動揺しただけです」

「無理もないねぇ。こんなの見たら誰だって血の気が引くよ。僕が人間だったら卒倒してるね、間違いない」

 左右に並走し始めたクライシスとリッチモンドが心配そうに話しかけてくるが、そんなに顔に出ていたのだろうか。
 二人の魔導士はそれぞれの武器を翻し、戦闘準備は万全のようだ。
 シャルルとドライゼン王を、ランチアの人達を守るのだ。
 こんな場面で挫けるようではシャルルを守るという約束が彼方へ遠のく。
 
「……【ファイトオブドラゴンハート】」

 圧倒されそうになる戦場を駆けるべく、弱くなりかけた心を魔法で奮い立たせる。
 闘争心を増大させる魔法、【ファイトオブマインド】の最上位版である【ファイトオブドラゴンハート】の効力により、古のドラゴンの如き強い心と挫けぬ心、あくなき闘争心が俺を奮い立たせる。
 こんな魔法に頼らずとも揺るぎない心身をいずれは体得したいものだ。
 そしてウィスパーリングを起動させ、追走する強化兵達へ抜剣を促す。
 各自武器を抜き放ち走る速度を上げ始めた強化兵へ指示を飛ばす。
 目標は敵対勢力とみられる謎の武装集団だ、広場の亡骸をみるからにどうやら助成しているであろう冒険者、ロンシャン連邦国兵への攻撃は厳禁とし存分に力を振るえと思念を送る。
 強化兵それぞれから返答が返ってきたことを確認し、最強の魔導士二人と共に黒煙たなびく塔が散立する戦場へと向かっていった。
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