73 / 298
第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二三四話 先へ
しおりを挟む階段を昇り瓦礫の散乱した市街地をひたすらに駆け抜けていくが、あちこちから鳴る爆発音や耳に届く悲鳴、剣戟の音などがロンシャン連邦国に起きている事態の凄まじさを物語っている。
「いったい何があったんですか!?」
並走するアストラへ何の工夫もないストレートな疑問をぶつけてみるが、アストラの表情は険しく奥歯を噛みしめているようだった。
「わかりません……突如市街地の至る所で戦闘が発生し、モンスター達が市街地外より雪崩れ込んできました。報によると城門は全て開け放たれており、城門に詰めていた兵達は全て何者かに殺されていた模様です」
「人為的にモンスターが招き入れられた、ってことですか?」
「そうなります……市街地での戦闘とモンスターによる挟撃に対応しきれず、対応が後手に回り状況は悪化していく一方でして……お恥ずかしい限り」
「なるほど。王城に来ていたランチアの重鎮たちは?」
「申し訳ございません。私は前線におりましたので……」
「そう、ですか」
「突発的な襲撃により市民の避難もままならず、被害は拡大しております。私どもはそちらの対応で手いっぱいで……しかし王城にも襲撃があったという報は入っております。ですが安否のほどまでは」
そこまで言ったアストラからギシリ、という硬質ななにかを擦り合わせたような音が聞こえ、それが歯ぎしりの音だと理解するまでに数秒はかかった。
彼もまたこの状況において追い込まれている者の一人なのだと、この時初めて気付いた。
「フィガロ様の目的の塔はもうすぐですが、あちらでも戦闘が激化しているとの報があります。油断なされないよう」
「大丈夫です、私たちはこう見えて強いですから。お任せください」
ぐっと力こぶを作り明るく務めると、アストラは少しだけ笑い、また険しい顔に戻ってしまった。
ロンシャン連邦国の持つ軍事力はランチアよりも多く、兵や武装なども充実している。
過去には砂漠に埋まる地下資源を狙った戦争なども度々起きており、争いごとに関しての備えは十全だったはずだった。
それなにこの惨劇を引き起こしてしまったという自責にかられているのかもしれない。
「うぶっ……!」
広大な市街地を抜け王城前の噴水広場を横切り王城の敷地内へと入り込んだのだが、王城周辺にはかなりの死体が転がっており、その惨状を目にした瞬間一気に吐き気がこみ上げてくる。
慌てて手を口に当て、逆流してきた胃の中身を飲み下すが、むせ返るような血の匂いは無遠慮に俺の鼻に侵入してくる。
ロンシャン兵、武装した男たち、中には等級タグを下げた冒険者であろう遺体もあったが、モンスターの遺体は見あたらないので、ここまで侵入してくることはなかったようだ。
なぜ、どうしてこう、次から次へとトラブルが舞い込んでくるのだろうか。
短い間ではあったが森の中での平穏な暮らしが少し恋しくなってしまう。
これが普通の世界なのだろうか? 争いが横行し、無下に命が散っていく、こんな悲しい世界が普通だというのだろうか。
それとも俺自身が不幸を呼び寄せているのか? だとすればやはり俺は欠陥品なのだろうか。
グラグラと視界が揺れ、精神的な負の感情がじわじわと俺の心を苛む。
「見えます! 抜剣を!」
初めて見る戦争の惨状に心が病みかけた時、アストラが放つ芯の通った強い声が聞こえた。
この惨状をものともせず立ち向かう兵士の強さに改めて敬意を抱きながら、アルトラに言われるがまま背負っていた借り物の剣を引き抜いた。
「おう。大丈夫かフィガロ。顔が真っ青だぞ」
「へ、平気です。少し動揺しただけです」
「無理もないねぇ。こんなの見たら誰だって血の気が引くよ。僕が人間だったら卒倒してるね、間違いない」
左右に並走し始めたクライシスとリッチモンドが心配そうに話しかけてくるが、そんなに顔に出ていたのだろうか。
二人の魔導士はそれぞれの武器を翻し、戦闘準備は万全のようだ。
シャルルとドライゼン王を、ランチアの人達を守るのだ。
こんな場面で挫けるようではシャルルを守るという約束が彼方へ遠のく。
「……【ファイトオブドラゴンハート】」
圧倒されそうになる戦場を駆けるべく、弱くなりかけた心を魔法で奮い立たせる。
闘争心を増大させる魔法、【ファイトオブマインド】の最上位版である【ファイトオブドラゴンハート】の効力により、古のドラゴンの如き強い心と挫けぬ心、あくなき闘争心が俺を奮い立たせる。
こんな魔法に頼らずとも揺るぎない心身をいずれは体得したいものだ。
そしてウィスパーリングを起動させ、追走する強化兵達へ抜剣を促す。
各自武器を抜き放ち走る速度を上げ始めた強化兵へ指示を飛ばす。
目標は敵対勢力とみられる謎の武装集団だ、広場の亡骸をみるからにどうやら助成しているであろう冒険者、ロンシャン連邦国兵への攻撃は厳禁とし存分に力を振るえと思念を送る。
強化兵それぞれから返答が返ってきたことを確認し、最強の魔導士二人と共に黒煙たなびく塔が散立する戦場へと向かっていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。